廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

音の中に潜む何か

2024年02月03日 | Jazz LP (Verve)

Charlie Parker / Big Band  ( 米 Clef Records MG C-609 )


チャーリー・マリアーノやドン・セベスキーらが先のアルバムを制作した際、当然ながらこのアルバムのことが年頭にあっただろうと思う。
パーカーが残したアルバムの中でも屈指の1枚としてその頂は音楽家の前に聳え立つ。それでも録音しようとしたのだから、マリアーノも
大したものだと思うが、さすがにこれと比べるのは酷というものだ。

ノーマン・グランツは興行師だったのでアルバム制作にも優れた企画力を発揮して、その結果、他のレーベルでは聴けないようなタイプの
アルバムが残っている。ストリングスやビッグバンドをバックにソリストに吹かせるというのもステージジャズの発想だけど、こういうのは
3大レーベルでは考えられない。結局ヴァーヴのこれらの形が雛型として後々真似されていくが、その原型がパーカーだったというのが
凄かったというわけだ。

このアルバムでは管楽器と弦楽器がミックスされたオーケストラ形式のバックが付くが、その背景の圧力にドライヴされて吹くパーカーが圧巻。
スピード、フレーズの美しさ、楽器の音圧のどれをとっても最高の出来で、ヴァーヴの録音ではこれが演奏力では最も素晴らしい。
音の中に怪物が潜んでいて、空間に解き放たれた途端に姿を現して暴れ出すのを目撃するような衝撃がある。

でも、そういうグロテスクイメージだけで終わることがないのがこの人の凄さで、その音はこの上なく優雅で上質な音色でコーティングされて、
なぜこんなにもと思うくらい美しいメローディーで歌われて最上の音楽へと昇華されている。そこが他のアーティストたちとは決定的に違った。

アルトサックスというあの小さな楽器でこれほどまでに大きな音を出し、大勢のバックミュージシャンたちをも制圧してしまう様子がここには
記録されていて、聴くたびに言葉を失ってしまう。



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マリアーノの肖像に相応しい

2024年01月27日 | Jazz LP

Charlie Mariano / A Portrait Of Charlie Mariano  ( 米 Regina Records LPRS-286 )


ラージ・アンサンブルやストリングスをバックに朗々と吹く、というのはアルト奏者にとっては1つのステータス若しくは憧れだったのかもしれない。
パーカーが確立したこのスタイルを踏襲した人は多く、アート・ペッパー、ポール・デスモンドやフィル・ウッズもやったが、このマリアーノも例外
ではなかった。レコーディングには金がかかるので誰でもやらせてもらえる訳ではなく、エスタブリッシュメントにしか叶わないアルバムだが、
その割には一般的に人気がない。

マリアーノは最高のトーンで自由自在に歌っていて、素晴らしい。単なるスタンダード集ではなく自作も持ち込み、音楽的な深みを出している。
ドン・セベスキーのスコアも甘さは排除されていて引き締まっており、アルトを邪魔しない。ジャケットの印象からくる抽象性のようなものもなく、
音楽全体が親しみやすく、最後まで飽きずに聴くことができる。

マリアーノの良さはアルトの見本のような適度の甘さとよく抜けるビッグ・トーンで優し気でなめらかなフレーズを紡いていくところだと思うけど、
このアルバムではその美点がそのまま反映されていて、素晴らしい出来だ。ワンホーン・カルテットなんかだと気を抜くと単調になりがちだが、
この作品は構成要素がそれなりに多く複雑でもあるので、そういう背景の中では彼の美質はより際立ってくる。タイトルの「チャーリー・マリ
アーノの肖像」というのはこのアルバムの内容を上手く表していると思う。

モノラルプレスも同時リリースされているが、このアルバムはステレオプレスが圧倒する。楽器の艶やかさや音場感の拡がりがひと味違う。



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サル・サルヴァドールの最高傑作はこれか

2024年01月13日 | Jazz LP

Sal Salvador / Starfingers  ( 米 Bee Hive Records BH 7002 )


サル・サルヴァドールと言えばキャピトルやベツレヘムにレコードが残っていてエサ箱ではお馴染みの人だが、これがどれを聴いてもつまらない。
フィンガリングはなめらかでソツなく上手いギターだが、自身の音楽として確立されているものがなく、聴き処がない。結局持っていてもまったく
聴くことはなく棚の肥やしになるだけなので、レコードが我が家の棚に残ることはなかった。ところがこの「その筋の人的ジャケット」の
レコードを聴いてぶっ飛んだ。これがサイコーにいい。

サルヴァドールが目当てでではなく、私の好きなエディ・バートが参加していること、"Nica's Dream" や "Sometime Ago" など好きな曲が入っている
ことなどから聴いてみたのだが、これが抜群にいい。よく見るとメル・ルイスがドラムを叩いており、このドラミングが凄いことになっている。
デレク・スミスのピアノがこんなにみずみずしいなんて知らなかったし、ペッパー・アダムス直系のブリグノラのバリトンも硬質で音楽をキリっと
引き締める。サム・ジョーンズのベースもブンブンと唸るし、参加メンバー全員が見事な演奏をしながら音楽が1つにまとまっていく。

サルヴァドールの音色が如何にも70年代風のイカしたサウンドで、これが完全に病みつきになる。アップな曲でのカッコよさはもちろんだが、
バラードでもメロウで艶めかしい。ベツレヘム時代の型にはまった退屈さからは抜け出していて、生き生きとした音楽に様変わりしている。
ジャズがアメリカの主流の音楽ではなくなったこの時代に、50年代に活躍していたミュージシャンたちが一皮むけた音楽を展開できるように
なったというのは何とも皮肉なことだ。

レコードとしての風格に欠けることから相手にされない時代の作品だが、中身は超一流。見直されるといいのにと思う。



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もし、ロリンズがバンドメンバーだったら

2024年01月01日 | Jazz LP (Prestige)

Miles Davis / Collector's Items  ( 米 Prestige Records PRLP7044 )


新年の縁起物、マイルス・デイヴィスである。この人の場合、何かそれくらいの理由を付けなければなかなかブログに書こうという気にならない。
特に、このアルバムのような誰からも顧みられないものになると尚更である。

A面は53年、B面は56年の録音でどちらもロリンズとの演奏だが、53年の方はパーカーがテナーを吹いて参加していることで知られている。
契約関係がなかったから、覆面ミュージシャンとしての参加になっている。テナーの音色はあまりパッとしない感じだが、吹いているフレーズが
如何にもパーカーらしいもので、サックス奏者には各々固有の言語があるのだということがよくわかる。

ただこの53年の方は音楽的に聴くべきところはないし、演奏も拙いレベルでわざわざレコードとして切るようなものではない。それがアルバム
タイトルの "Collector's Items" の意味なのだろう。これはマイルスがまだひよっこだった頃の姿の一コマだ。まるで、何かの拍子に物置の中から
出てきた、セピア色に退色した古い写真のようなもの。そういう一般的には商品価値のない、個人史のようなものまでが56年という時期に
こうして正規のアルバムとしてリリースされているところがマイルスのマイルスたる所以である。既にその時点で別格だったということだ。

一方で56年の演奏になると音楽の成熟度はグッと増す。マイルスらしい影が射すようになり、独特の陰影が刻み込まれる。ロリンズは完成の1歩
手前の段階だが、それでもロリンズでしかありえないフレーズを吹くようになっている。マイルスはミュートで演奏し、"In Your Own Sweet Way"
ではバラードのスタイルを確立しようとしている。

マイルスは自己のグループを結成するにあたり、ロリンズをテナーに迎えたかった。でも、ロリンズは固定のバンドに参加するのを好まず、
それは叶わなかった。もしマイルスの第一期クインテットがコルトレーンではなくロリンズだったら、ジャズ史はどうなっていただろう。
この演奏を聴いていると、そう考えずにはいられない。ロリンズがいるとさすがに音楽の安定感は揺るぎがなく、この布陣でバンドの音楽が
発展していたら・・・と考えるのは楽しい。そういう夢想をさせるところが、このレコードの一番の価値かもしれない。



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懸案盤の緩やかな解決

2023年12月31日 | jazz LP (Atlantic)

Ornette Coleman / The Shape Of Jazz To Come  ( 米 Atlantic Records SD 1317 )


今年のレコード漁りで個人的なトピックスの1つは、このステレオ盤を拾えたことだった。

このアルバムのモノラル盤の音の悪さに気が付いたのはCDを聴いた時で、これはどうしてもステレオ盤を探さねばと長年探していたのだけれど、
これがまったく見つからない。並みいる有名な稀少盤もこのステレオ盤の足元にも及ばないなあ、とここ数年はもう探すことすら諦めていた。
そういう個人的な懸案の1枚が今年ようやく解決した。

楽器の音色の輝きが増し、音楽の高級感がアップして聴こえる。無理やり中央に音像を寄せ集めた感じからは解放されて、音楽が自然な様子で
空間の中を舞っているように変わった。これでようやくモノラルとはおさらばできる、と早々に処分した。

レコードを買っている人であれば誰にも「個人的な懸案盤」があるだろう。これだけはどうしても欲しいとか、持っているけど傷があるから
買い換えたいとか、その動機は人それぞれだが、おそらくそこに共通しているのは自分の中だけのどうしても譲れないこだわりではないだろうか。
そしてそのこだわりはあまり他人には理解できない(言い換えると、他人からみるとかなりどうでもいい)類のものだろう。でも、この自分にしか
わからない自分にとっての大事なこだわりこそがこの趣味の根底を支えていて、これが枯れた時にこの趣味は終わりを迎えるのだろう。

コロナ禍がひと段落して中古市場の状況は大きく様変わりしたが、それでも2020~21年頃の中古の流通が鳴りを潜めたあの耐え難いストレスから
解放される程度までには中古市場は復活しつつある。願わくは来年は更に流通量とスピードが増して、価格がコロナ前のレベルまでは下がって
欲しい。中古レコードの流通は人々の営みそのものを映し出しているのだから。



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ラジオデイズレコード 初訪問

2023年12月25日 | 廃盤レコード店



親戚の法要で12/23(土)~24(日)は名古屋に行っていたが、その隙間を縫ってラジオデイズレコードへ行ってきた。以前から1度行ってみたいと
思っていたレコード屋さんだった。オールジャンルを取り扱っているが、ご店主はジャズのコレクターなので、きっとジャズの中古が充実して
いるのだろう、と思っていたからだ。

店頭に出ている商品数自体は多くはないが、お店の規模感や他ジャンルとのバランスからすればこのくらいが妥当というところなのだろう。
私好みのタイトルの在庫が複数あって、それ以外に買い換え目的の物も含めて、何枚か手にすることが出来た。初めて訪れたお店でこういう
経験ができるのはうれしいものである。これからは時々名古屋に来ることになるので、またお邪魔したいと思う。

帰りの新幹線の中でつらつらと考えてみると、特に目当てのものもなくお店に行って、レコードをパタパタとめくっていたら探していたものに
思わず出会って、ホクホクした気分で帰るというようなことは今年はまったくなかったことに気付いた。東京のお店は概ね週末のセールまで
レコードは抱え込まれていて、Web上の写真とリストで購買欲を煽りながら競争して買わせるというスタイルが定着しているが、そういうのが
嫌いな私などは、ユニオンでめぼしいレコードを買う機会がすっかり無くなってしまった。

たくさんの買い取りが持ち込まれるユニオンのようなところはそうでもしないと商品の回転が悪くなり、キャッシュフローが悪化してしまうので
止む無くやっているのだろうし、買う側もどの店舗に欲しいレコードが出るかが効率良くわかるので、マス的な需要と供給のバランスは取れている
のかもしれない。ただ、私のようにこの趣味に効率などまったく求めていない人間からしたら、こういうやり方は迷惑以外の何物でもない。
中古レコードは1人でコツコツと探すのが楽しいのであって、他人と奪い合いながら買うなんてことはあり得ないことだ。

だから、私のような人間にとっては、ラジオデイズレコードのようなお店があるのは有難いことだ。ご主人と少しお話させていただいたが、
名古屋はジャズのコレクターの数が少ないのだそうだ。そのおかげでエサ箱が荒れていないのだろう。いくらお店側が努力されているとはいえ、
これが東京だったらエサ箱は引っ掻き回されて、魅力のある在庫を常に維持するというようなことは叶わないのではないかと思う。

規模の論理でレコードを流通させる領域とは別に、マニアの気持ちに寄り添ったお店が存在するというのは我々には心強いことなので、
頻繁に行くことはできなくても、これからも頑張ってお店を続けてもらいたいと思う年の瀬だった。



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トニー・ベネットを偲んで

2023年12月23日 | Jazz LP (Vocal)

Tony Bennett / Snowfall  ( 日本 CBS・ソニーレコード SONX 60088 )


先日亡くなったトニー・ベネットの最初のクリスマス・アルバム。と言っても1968年発売で、他のビッグネームと比べると遅いリリースだ。
経緯はよくわからないが、クロスビーやシナトラ、ナット・キング・コールらの有名アルバムがある中では制作に慎重だったのかもしれない。
メル・トーメやサラ・ヴォーンもこの時期にはアルバムを作っていない。おそらく、アメリカではポピュラー歌手たちが数えきれないほどの
クリスマス・アルバムを作っていただろうから、そういう有象無象とは一線を引いたものにしなければという自負があったのかもしれない。

私が子供だった頃に比べると、最近のクリスマスはその有難みのようなものは随分と希薄になってしまったような気がする。昔は12月になると
デパートに行くのが楽しみで仕方がなかった。飾り付けはクリスマス一色となり、ジングルベルのメロディーがずっと流れていて、そこはまるで
別世界だった。今よりも冬はもっと寒かったが、そこだけは暖かく、甘い匂いが漂い、人々は幸せそうな顔をしていたような気がする。
私がクリスマス・アルバムが好きなのは、自分の中でクリスマスがそういう記憶と結びついているからだろう。

ゴージャスなオーケーストラをバックに、トニー・ベネットの歌声が響き渡る。いつものことだが、オーケストラのサウンドに負けることのない、
素晴らしい声だ。亡くなったことが今更ながらだが悔やまれる。

クリスマス・アルバムはそれ自体が幸せだ。トニー・ベネットがクリスマス・アルバムを残してくれたことを噛みしめて聴いていたい。



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2nd ジャケット愛好会

2023年12月10日 | Jazz雑記
私の経験上、オリジナルだ、初版だ、と騒いでいるうちは白帯。再発盤もオリジナルと同じように愛でることができるようになって、
初めて「レコード愛好家」を名乗って黒帯を締めていい。特にセカンドプレスあたりは製造時期がさほど離れているわけではないので、
オリジナルとはまた別の風格というか独自の質感あって、愛すべきレコードたちである。そこに気付くことができるかどうかはこの趣味に
気持ちの余裕をもって接しているか次第。オリジナルを追求するのはもちろん楽しいが、度が過ぎて視野狭窄に陥ってしまうと
この趣味の愉しさは半減する。

セカンドプレスがいいのはそういう風格の良さだけではなく、値段が安いこと。オリジナルではない、ということだけで値段は大幅に下がる。
ここに載せたものは、すべて5千円未満だった。




ジャケットデザインは私はこちらの方が好きだ。若い頃に何かの本でこのアルバムが取り上げられているのを読んだ時にはこのジャケットが
紙面に載っていて、そのせいでこちらのデザインがオリジナルだと長年思い込んでいた。つまり、このジャケットにチープさを感じなかった
ということだろう。音質も初版と特に変わらない。






国内盤が出た時はこのデザインが採用された。初版のデヴィッド・S・マーチンの絵は正直イマイチで、こちらのジャケットの方が愛着が湧く。





如何にもサヴォイ、というデザインで、これはこれで良いと思う。"featuring Canonball" って、Adderleyまで入れてやればいいのに、と
思うけど、そういう雑で投げやりなところもサヴォイらしくて美味しい。チェンバースもバードも若いなあ。





版権がサヴォイに移ってから再リリースされたもので、盤はサヴォイとしてのセカンドプレスになり、RVG刻印がない。
でも、この方がなぜか音質がヴィヴィッド。特に、シンバルの音の良さが全然違う。だから、普段はこちらを聴く機会の方が多い。

とまあ、こんな感じでセカンドプレスもそれ自体で立派なジャンルの1つなのである。


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ジャケット・デザインに惚れて聴く

2023年12月03日 | Jazz LP (Contemporary)

Hampton Hawes / Vol.2, The Trio  ( 米 Contemporary C 3515 )


ジャズ界屈指のジャケット・デザイン。最も好きなジャケットの1つだ。麻薬中毒者らしく痩せぎすで退廃的な姿がモノクロの風景の中に
浮かび上がる。モノトーンのレタリングが背景にうまく溶け込み決まっている。

1955~56年にかけて録音された複数の演奏が3分冊にまとめられたよく知られた内容だが、選曲的にもこの第2集が一番いい。
"あなたと夜と音楽と" で始まるというのが何ともいい。この人は自身のピアニズムで聴かせる人ではないので、選曲が重要になる。
自分の好きな楽曲が入っているアルバムを選ぶといいのだろう。

ロイ・デュナンの録音だが平均的なモノラルサウンドで際立った特徴は見られないが、レッド・ミッチェルのベース音がよく効いていて
トリオとしての纏まりや躍動感が優れている。よく出来たピアノ・トリオの作品になっている。

60年代以降になると独特の深みを見せるようになるけれど、この時期はまだ若さが勝った演奏でこれはこれで悪くない。
ピアノの腕1本で勝負するんだという気概が強く伝わってきて、その潔さが気持ちいいアルバムである。


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ビ・バップの後継者としての正当性

2023年11月19日 | Jazz LP (Prestige)

George Wallington Quintet with Phil Woods, Donald Byrd / Jazz For The Carriage Trade  ( 米 Prestige Records PRLP 7032 )


当時の新進気鋭だった若い管楽器奏者を迎えて自己名義のグループとして録音したこの演奏は、メンバーが白人優勢だったこともあり、
とてもすっきりとした清潔感のあるハードバップに仕上がっている。非常に素直で気持ちのいい演奏で、若者の純粋さを強く感じる。
この時のバンドのレギュラードラマーは白人のジュニア・ブラッドレイだったが、レコーディング時は不在だったため代わりにアート・
テイラーが参加したが、この代打起用は功を奏していて、ドラムの演奏が非常にしっかりとしているおかげで演奏全体が堅牢だ。

ウォーリントンのピアノが真水のようにクセがないおかげで、ウッズのアルトとバードのトランペットが前面に大きく出ていて、
管楽器ジャズの愉楽をたっぷりと味わうことができる。ドナルド・バードは既に自分のスタイルを確立しており、如何にも彼らしい
なめらかなフレーズで全体を覆うし、フィル・ウッズは "Woodlore" を思わせる快演を聴かせる。"What's New" での深い情感には
身震いさせられる。

ウォーリントンは良くも悪くもバップ・ピアニストの域を超えることはできなかったが、逆に言うとバップという音楽のメインストリームを
貫いていて、この演奏を聴くとハード・バップはビ・バップの発展形だったことが素直にうなずけるだろう。おそらく彼はパーカー&ガレスピーの
バンドのウォーリントン版を作りたかったのだろうと思う。フィル・ウッズのアルトがパーカーの面影を濃厚に映し出しているせいもあって、
このバンドの演奏にはパーカーのバンドの有り様が透けて見える。このアルバムはそこがいい。


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騎士の音楽とは何か

2023年11月12日 | jazz LP (Atlantic)

George Wallington / Knight Music  ( 米 Atrantic Records SD 1275 )


マーク・マーフィーが歌った " Godchild " って、ジョージ・ウォーリントンが作った曲だったんだなあ、と改めて感じ入りながら聴く。
この人のピアノは音楽的表現力が乏しく、この演奏を聴いて歌いたくなるような感じはないけど、それを歌ってしまうところに
彼の才能があったのだろう。

ウォーリントンのピアノはまんまバド・パウエルだ。昔はクロード・ウィリアムソンが白いパウエルとよく言われて、私はいつも「どこが?」
と思っていたが、このウォーリントンは指がまったく回らなくなったバド・パウエルそのもの。縦揺れして、ぶっきらぼう。フレーズの処理も
バップ・ピアノの典型で、時代の変化についていけず早々と引退を余儀なくされたのはしかたがない。

自身のオリジナル曲とスタンダードが配置されているが、あまり違いを感じない。メロディーよりも演奏形式が前面に出てくるのがビ・バップの
特徴で、だからこそジャズは新しい音楽として一世を風靡することになったのだけど、その残滓が滴り落ちてくる演奏だ。ピアニストが自身の
ピアニズムをあられもなく露出して情感を吐露し始める前の、形式の美しさで勝負していた時代の音楽である。そこには完成された形式への
揺るぎない信頼とその杯を受け継ぐ者だけに許される気高い自信が溢れているように思える。このジャケットの絵と「騎士の音楽」という
タイトルが冠せられたのは単なる偶然ではないのだろう。

このアルバムはステレオプレスの音が極めてよく、トリオの音楽の深みがよくわかる。私はこのステレオプレスを聴いてモノラル盤は聴く気に
ならなくなり、さっさと処分した。そのくらい音質には雲泥の差がある。



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後にも先にも例を見ない作品

2023年11月05日 | Jazz LP (Verve)

Ella Fitzgerald / Sings The George And Ira Gershwin Song Books  ( 米 Verve Recods MG V-4029-5 )


昔、車のCMで使われたエラの歌う "Someone To Watch Over Me" が画面の優雅な映像とマッチしていて素晴らしく、聴き惚れた。
しっとりと濡れて情感がこもった歌が本当に素晴らしくて、短い時間の歌声だったにもかかわらず釘付けになった。
その歌声がここに収録されている。

5枚組の豪華なボックス仕様で、EPが1枚、ハードカヴァーの解説書、ベルナール・ブュフェの絵画シートが5枚入った、狂気すら感じる装丁。
ピカソのコレクターとしても知られるノーマン・グランツの究極の仕事である。そして、その激しい情熱を彼から引き出したのがエラの歌唱。
1人の歌手のアルバムで5枚組というのは後にも先にも例がない。それはこの2人だからこそできたことだし、5枚を途中で飽きることなく
聴き続けることができることは奇跡に近いことである。

この録音は正に彼女の最高峰。エラはこれ以上ない繊細さで全てを抑制していて、一分の隙も見せない。声には透明感と艶があり、真っ直ぐに
伸びて何キロも先へと届きそう。それでいてコロラトゥーラのようでもあり、子守歌のようでもあり、ガーシュインの世界観を超えた彼女の
世界が拡がっていく様は圧巻以外のなにものでもない。単なるジャズ・ヴォーカルというような言葉では到底語れない作品なのである。

全部を聴いてもいいし、この中から自分のお気に入りの曲、例えば "Oh, Lady Be Good" なんかをセレクトとして街中に連れ出せば、世の中の
景色は違って見える。作品としての凄さを享受しながらも、もっと身近な存在として彼女の歌声は聴き手を慰撫してくれる。










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慎ましいベース

2023年10月29日 | Jazz LP(Vee Jay)

Leroy Vinnegar / Jazz's Great "Walker"  ( 米 Vee Jay Records VJLPS 2502 )


「ベースの音が凄い」と騒がれたり、「ベースのプレイが凄い」と言われるレコードはよくあるが、このアルバムが取り上げられることはない。
"サキ・コロ" での演奏が褒められたり、コンテンポラリーのリーダー作が有難がられはするけれど、このアルバムが褒められることはない。
これはリロイ・ヴィネガーのそういう気の毒なアルバム。

オーソドックスなピアノ・トリオだが、ピアノはマイク・メルヴォイン、ドラムはビル・グッドウィンという無名な面々というのがおそらくは
その原因ではないかと思われる。演奏のありのままを何の先入観もなく享受するというのはなかなか難しいことだから、仕方ないのかもしれない。

無名のピアニストとドラムながらも演奏は非常にしっかりとしていて、ピアノ・トリオの音楽として上質な出来で、これが意外な拾い物だ。
曲想を生かした演奏が素晴らしく、メロディアスな楽曲はしっとりと聴かせるし、"You'd Be" なんかは名演と言っていい。単なる添え物としての
ピアノではなく、ピアノ・トリオの一級品としての顔を持っている。

当然ながらヴィネガーのリーダー作だから彼のベースがよくわかるような建付けになっているが、不自然にベースの音を強調させるような
作為はされておらず、あくまでも自然に彼のベース・ラインが浮き彫りになるような演奏とサウンドで仕上げられているところがよい。
ヴィネガーと言えば "ウォーキング・ベース" の第一人者というのが一般的な定説だが、それはここでも聴かれるようなイン・テンポで音楽を
グイッと前へと駆動する力があるからだろう。これ見よがしなソロをとって音楽の自然な流れを損なうようなことは好まなかった。
そういうところが素敵な人だったと思う。


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パシフィック・ジャズとピアノ・トリオ

2023年10月22日 | Jazz LP (Pacific Jazz / World Pacific)

V.A / Jazz Pianists Galore  ( 米 Pacific Jazz Records JWC-506 )


よくよく考えると、パシフィック・ジャズというレーベルはピアノ・トリオのアルバムをあまり作らなかった。ラス・フリーマンやドン・ランディなど
少しは残っているけど、こういうのはジャズ専門レーベルとしては珍しい。大抵の場合、どのレーベルにも名盤100選に顔を出すような作品が
1枚や2枚はあるものだが、このレーベルにはそういうアルバムは1枚もなくて、おそらくはリチャード・ボックの趣味ではなかったのだろう。

それでもアルバムに収録しきれなかったものや、管楽器のセッションの合間に録られたピアノ・トリオの端切れが集められたのがこのアルバム。
このレーベルにはこういうオムニバス形式のアルバムがたくさん残っているけど、そういうのもレーベル・オーナーの意向が反映されている。

一般的にオムニバスはアルバムとしての価値は認められなくて相手にされないものだけど、私は好きで安くてきれいなものがあれば喜んで聴く。
個性がバラバラな不統一さがもう1つ別の新しい価値を示しているようなところがあるし、通常のアルバムでよくある通して聴くと途中で飽きて
しまうということがなく、1曲ごとに新しい印象を覚えながら聴くことができるというのは意外にいいものだからだ。

ジョン・ルイス、ラス・フリーマン、ハンプトン・ホーズ、ピート・ジョリー、ジミー・ロウルズ、アル・ヘイグ、カール・パーキンス、リチャード・
ツワージク、ボビー・ティモンズという面々が収録されていて、皆、各々の個性がくっきりと残った演奏をしていて、続けて聴くと面白い。
ツワージクの "Bess, You Is My Woman" の解釈は秀逸だし、アル・ヘイグは1人バップ・ピアノ丸出しだし、ピート・ジョリーは予想外に雄大な
ピアニズムを聴かせるし、と聴き処は満載。誰もが一流のプロらしく、個性が確立されたピアノを弾いてる。ある種のピアノ・コンテストのような
側面があり、演者の側からすると怖い企画でもあるが、これを聴くと歴史にその名を残した理由がよくわかるのである。



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マーク・マーフィーとクラブ・ミュージック

2023年10月15日 | Jazz LP (Vocal)

Mark Murphy / Sugar Of 97 EP  ( オーストリア Uptight Uptight 19.12 )


12インチEPという形でクラブDJ Remix された音源として97年にリリースされたようだが、この辺りの事情には暗くてよくわからない。
ググってみてもこのレコードに言及している記事は見当たらないし、ChatGPTに訊いてみても「私の知識にはありません」との回答で
このビッグデータの時代に何たることだ、と驚いてしまう。

スティーリー・ダンの "Do It Again" で始まるうれしい内容だが、収録された3曲は打ち込みがミックスされたクラブで踊るための音楽に
なっている。私はこの手の音楽が結構好きなので、非常に楽しく聴ける。ジャズが欧州のクラブミュージックと融合して再評価された
ことはジャズにとってもよかったんじゃないかと思っているが、こうしてとても自然な形でそれが聴けて、且つそれが私が愛好している
マーク・マーフィーということだから、とてもうれしい。

彼は90年代以降もコンスタントにアルバムをリリースしていて、海外ではそれなりにきちんと評価されていたわけだが、日本ではさっぱりで、
こういうところにジャズに関する日本と海外の超えられない音楽格差を強く感じる。

しかし、こうして聴いていると、この打ち込みのビートに乗って歌う彼はデッカでデビューした頃と何も変わっていないことがよくわかる。
デビューした時点で歌の天才的な上手さは既に完成していたが、年齢的な衰えは隠せないながらもその歌の良さは不変である。
彼のことは、いずれはここできちんと書いておきたいと思っている。



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