Charlie Parker / Big Band ( 米 Clef Records MG C-609 )
チャーリー・マリアーノやドン・セベスキーらが先のアルバムを制作した際、当然ながらこのアルバムのことが年頭にあっただろうと思う。
パーカーが残したアルバムの中でも屈指の1枚としてその頂は音楽家の前に聳え立つ。それでも録音しようとしたのだから、マリアーノも
大したものだと思うが、さすがにこれと比べるのは酷というものだ。
ノーマン・グランツは興行師だったのでアルバム制作にも優れた企画力を発揮して、その結果、他のレーベルでは聴けないようなタイプの
アルバムが残っている。ストリングスやビッグバンドをバックにソリストに吹かせるというのもステージジャズの発想だけど、こういうのは
3大レーベルでは考えられない。結局ヴァーヴのこれらの形が雛型として後々真似されていくが、その原型がパーカーだったというのが
凄かったというわけだ。
このアルバムでは管楽器と弦楽器がミックスされたオーケストラ形式のバックが付くが、その背景の圧力にドライヴされて吹くパーカーが圧巻。
スピード、フレーズの美しさ、楽器の音圧のどれをとっても最高の出来で、ヴァーヴの録音ではこれが演奏力では最も素晴らしい。
音の中に怪物が潜んでいて、空間に解き放たれた途端に姿を現して暴れ出すのを目撃するような衝撃がある。
でも、そういうグロテスクイメージだけで終わることがないのがこの人の凄さで、その音はこの上なく優雅で上質な音色でコーティングされて、
なぜこんなにもと思うくらい美しいメローディーで歌われて最上の音楽へと昇華されている。そこが他のアーティストたちとは決定的に違った。
アルトサックスというあの小さな楽器でこれほどまでに大きな音を出し、大勢のバックミュージシャンたちをも制圧してしまう様子がここには
記録されていて、聴くたびに言葉を失ってしまう。