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salt&pepper days 

ともすれば、子どもとの時間に埋もれそうな日々。でもやりたいことは他にもいっぱい。刺激を求めて悪あがき中。

食卓に物語

2009-06-05 13:55:41 | 本・雑誌
『1Q84』を買いに行ったら、1巻売り切れ。
出遅れました。

隣の棚に、石田千さんの新刊を見つけ
胸ときめかせ、帰る。

『きんぴら ふねふね』(平凡社)

ひとりごはん、気のおけない人との食事、旅先での食事、
子どもの頃食べたものの記憶、駄菓子…。
食にまつわるエッセイ。

千さんの本を読むと、そのていねいな目線にはっとする。
同じものを食べ、同じものを見ても
人それぞれ、思うことや感じることが違うのは当然だけど
ていねいになぞるか、急ぎ足で通り過ぎるかで
日々はずいぶん変わってくるんだろうな、と思う。

茄子ひとつとっても、その観察眼に驚く。
私も茄子好きだけど、こんないとおしく見つめたことはなかった。

この人は、ただの食いしん坊ではない。
味覚として味わうだけでなく、その食材や献立にまつわる
物語も持ち、味わうことができる、心豊かな人なんだなあ。
読みながら一緒に味わう。

凝った料理でなくても、相手の嗜好を読んだ献立でもてなす。
その相手との距離感をうらやましく思う。

意外や、アイスクリームショップでのバイトの思い出と
甘くはない恋ばなに、新たな一面を発見。

胸が苦しくなる、しょっぱい記憶とともに
かみしめるもの。

何気なく食べているものに、物語があり
物語が作られてゆくことを思うと
食べることだけでなく、作ることにも対しても
気持ちが変わる。
自分だけでなく、家族が食べるもの。
誰かと一緒に食べるもの。
記憶に残ってゆくもの。

実はこの本、まだ読み終わってません。
ゆっくりじっくり、味わいたいから
一篇一篇、大切に読んでいます。
読み終わるのが、もったいないなあ。

本に影響され、うどんをゆで、しそとみょうがを刻む。
やまいもをおろす。
普段は面倒に思うひと手間も
千さんに励まされ、苦にならない。

入梅前の肌寒い昼さがり、ぶっかけうどんを食べた。


本の感想・眠れぬ夜に

2009-03-30 00:52:11 | 本・雑誌
いまさら言うまでもなく
小説を読む楽しみのひとつは
自分が知らない世界や、経験したことない世界に触れ
「ああ、こういうこともあるのかぁ」と
衝撃を受けたり、混乱したり、うらやんだり、憧れたりすること。

思い込みを覆されたり、良くも悪くもぶち壊されたり。
あるいは、現実逃避。


昨日読み終えた本も、緩やかに混乱させてくれました。

『オテル モル』(栗田有起・著 集英社)


オテルとは、ホテルのこと。

このホテル、立地や施設の設定からして
現実にはあり得ない。

けど読み進めるうちに
そう考えてしまう自分が、つまんなく思えてくる。

まあ、こういうホテルもあるかもしれない…。

うん、あるよ。

それは、ある特定の人しか泊まることのできないホテル。
あんまりバラしてしまうと、読む楽しみを奪いますので
ちょこっとだけ。
「睡眠」と関係があります。

最近はあまりないけど
嫌なことや緊張すること、気になることがあると
全然寝つけなくて、眠れないまま明け方になってしまうことが
わりとありました。

少しでも眠らなくちゃ、と思っても
全然眠れないあのつらさ、あせり、悔しさ…。

そんな苦しみを持つ人のためのホテル。

ああ、バラしてしまった。

そこで働くことになった女の子と、その家族のこと。

たぶんこの子、知らずに出会ったら
一見、どこにでもいる普通の子だと思う。
でも、彼女なりに抱えているものがあって。

もしかしたら、誰かのせいにして
ひねくれることもできるような状況。
でも決してそうならず、真面目に働くことを選んだ。

まるでホテルに呼ばれた、選ばれた人のように。

悩める人を幸せにして、自分も救われる。

眠りと夢の守衛さんみたい。

きっと、こういうのを天職というのでしょう。

映像化したらキレイだろうな。
そんな想像も楽しく、音楽までも聞こえてくるような。

本の装画もよいですよ。

眠れぬ夜の枕元にどうぞ。


本の感想・リアル☆アラフォー

2009-03-09 00:09:56 | 本・雑誌
最近読んだ本の中から、一冊。

『薄闇シルエット』(角田光代・著 角川書店)

主人公は、いわゆる「アラフォー」。

それも、青臭くて、未来は明るいと信じていた、
浮かれポンチなハタチ前後に、バブルを経験したと思われる世代。

どっかそれを引きずり、好きなこと(ここでは仕事)に夢中で
恋愛でゴタゴタしてる、10代の青春真っ只中みたいな女の子。

そう、女の子。みたいなのです。

女の人でも女性でも女でも女子でもない、
ましてやおばさんでもなく、女の子。

世のオジサンたちが言う「オンナノコ」ではない
正義感や理想を忘れていない、女の子。
でもどこか危なっかしくて。

野心、野望、理想、馬力、から元気、自負、
そしてときに見せる卑屈ささえも、
どれも女の子たちが持つものばかり。
それを持っていさえすれば、永遠に女の子のような。
それを手放したとき、女の子とは呼ばれなくなるのかも。
ある意味、落ち着き、ある種のあきらめ。

結婚するしないで迷走し、失い、平凡さを嫌ったり、
自分の理解を超えたものに対し悪態ついたり、
意地とプライドで、日々を複雑にしていったり。

そんな人たちが登場します。


しんとした闇に取り残されたとき、見えるもの。

つるんでいた仲間がひとりふたりと抜け
祭りの後みたいにものさみしく
気づけば夢は消え、明け方の空を見上げて途方に暮れる気持ち。

それはきっと、あなたにも私にもあの人にもある気持ち。
未婚でも既婚でもフリーでも恋人ありでも
働きマンでも主婦でも、この年代だから感じること。

何も失ったことのない人なんて、いない。

がんばろう、女の子!



パンプルムースってなーんだ

2009-02-16 00:00:18 | 本・雑誌
図書館の本、2週間遅れで返却・・・。

ごめんなさい!


『パンプルムース!』(江国香織・著 講談社)

江国さんの詩集、読みました。
いわさきちひろさんの絵に、詩をつけたそうです。

パンプルムースってなんでしょう。
読んでのお楽しみ。

おしゃまな子どもが
ふん、って強がりながらつぶやく、あるいは
小さなお友達におねえさんぶって言うような言葉たち。

おとなになると、わざわざ口にしないこと、
思ったそばから消えてしまうささいなこと、
子どもは容赦なく、言葉にする。

それは常識的ではないとか
口にしたらヘンだと思われる、なんて考えない。

ちひろさんの絵は、やさしいタッチだけど強い。
描かれている子どもにじっとみつめられ
ふんって言われそうでドキッとする。
みつめているのは昔の自分?
いやいや、そんな研ぎすまされた子ではなかったけど。

「あめのひ」という詩に書かれている気持ちが
ものすごくわかる。
そう! まさにそれが心を苦しくするの。
わざわざ口にしたこと、なかったけど。

言ってみたい。
誰かに。





本の感想・尖って強がって見えるもの

2009-01-07 14:57:03 | 本・雑誌
年末に読んだ本、忘れないために感想を。

『ラジ&ピース』(糸山秋子・著 講談社)


自分が傷ついていることに気づいて
さらに傷つくことがある。

だから、傷ついていないふりをしたり
傷ついていることに気づかないふりをしたり。

それはある種の「防衛」。

大人のやり方?

そうやって折り合いをつけて生きていくこと。

それができてラクになるときも、あるにはある。

そうやっているうちに、心ってかたくなるわけで。

泣けなくなったり。

必要以上に尖ってみたり。

満ち足りてしまうことを恐れるように、孤立したり。


でも思い出したように涙が出たとき
思いがけず、その温かさを知る。
その温度が生きる力になったりもして。

そうやって生きている人たちが
たくさんいるなあ、と。
この小説から、そんなことを思いました。

自分の居場所があるって、幸せなこと。
そこから見えるものを、目をこらして見つめないと。

さみしくて弱くて強い、女性DJの物語。

本の装丁もステキです。


本の感想・人生はあなたが思うほど…

2008-10-06 00:52:07 | 本・雑誌
自分があれこれ書いている時期に入ると
本を読む時間がとれなくて
手帳にメモする
「読みたい本リスト」ばかりが増えていく。

やっと一冊読みました。
全然、新刊ではないですけど。

『ブラフマンの埋葬』(小川洋子・著 講談社)

小川さんの作品には、いつも音楽が鳴っている。
実際に音楽の話が出てくるとかではなく
読んでいると後ろで旋律が聴こえてくる。
これもそんな小説。
バイオリンの音が、風に乗って届いてくる感じ。
それを弾く子どもの姿が浮かぶ。

この話は、生と死、来るものと去ってゆくもの
それを静かに見つめ、彼自身は留まり続ける
「僕」の、ひと夏の物語。

今、腕の中にあるものの温もりを確かめつつ
今はなき人、ものたちの息づかいをも感じる「僕」。
失われることを恐れるわけでもないその姿は
諦観を抱きしめているように見える。

現実の世知辛さゆえ、小説に「救い」を求めるとしたら
この話の静かな喪失は、救いがないかもしれない。
けれど、あるがままを淡々と受け入れる「僕」の姿
そして、最後まで正体が謎の動物「ブラフマン」を通し
「そう悪くないのかも」と思ったり。

で、ストーリーや話の“カラー”と
まったく関係ないけれど
最近CMで流れている『元気を出して』の
「人生はあなたが思うほど悪くない」という
フレーズが、駆け巡ってしまったわけです。



本の感想・まとめて2冊

2008-05-27 14:22:42 | 本・雑誌
出産前に、図書館から借りた本を返さねば!

と、あわてて読んだ2冊。


『間宮兄弟』(江国香織・著 小学館)

江国さんが男性を主人公にするなんて。
けれどそこは、いかにも江国さんらしい
ちょっと変わった兄弟。
身近にいたら、たぶん距離を置いてしまうだろう2人。

2人は子どもの頃からの記憶を共有し
大人になった今、お互いのことを冷静に見つめながら
それでいて、子どもの頃からの距離を律儀に守っている。
きゅうくつそうに見えるけど、打ち破ろうとしない。
殻に閉じこもっているようにも見える。

不器用で、生きづらそうにも見えるけれど
ちゃんと戻る場所がある2人は、やはり幸せなんだろう。
他人にどうこう言わせない、揺るぎなさ。

答えを出そうとしていないのに、ちゃんと答えが出ている
そんな気づきがある話。


もう一冊は、重いです。

『疾走』(重松清・著 角川書店)

謎の語り部による、少年の話。
(語り部は、最後にわかりますが)
語り部の温かなまなざしを感じながら進むストーリーは
常に救いのない、緊迫した展開。

何かを得るために、手放すもの、見放すもの、
裏切り、裏切られ、だからといって
そうまでして求めても
その先に幸せが待っているとは限らない。
そんなもの、人たちが、たくさん出てくる。

人生ってそういうものかもしれない。
そう言ってしまうと、イヤになるほど
本当に救いがないけれど
それでも「生きて」という強い思いが
誰かを突き動かす。
それもまた事実。

重松さんの小説は、どれも温かで
だけど、こういうギリギリの切迫感を感じたのは初めて。
初版はもう5年くらい前に出ていたんですね。
うかつだった。
未だに『ビタミンF』や『舞姫通信』や『きよしこ』や
『その日のまえに』などの世界ばかりにとらわれていた。

ド衝撃でした。
泣きたくなるような話だけど
「泣く資格もない」と思わされる
陳腐な涙や同情なんて寄せ付けない
力の限り、走り続ける少年の人生が語られてます。


本の感想・宝物の記憶

2008-05-08 15:08:10 | 本・雑誌
日々、娘の成長を見ていると
今は「女の子」という自覚もたいしてないし
おしゃれにもまだ目覚めてないけれど
それでも「かわいいもの」とか「きれいなもの」に
子どもなりに惹かれているのがわかる。

さて、これからどんなことに憧れたり
どんな夢を見たりするんだろう。

今回読んだ本は、少女たちが主人公。


『ミーナの行進』(小川洋子・著 中央公論新社)


家の事情で、いとこのミーナの家で暮らすことになった朋子。

お金持ちのいとこが住む家では、それまで朋子が見たこともない
想像すらしたことがなかったような暮らしが待っていた。

女の子なら瞳を輝かせてしまいそうな、
楽しげでかわいいものたちがあふれる日々、
ハンサムな伯父さん、謎めいた伯母さん、やさしい人たち、
そして、病弱だけど賢くてかけがえのない友人となるミーナ。

女の子の夢がいっぱい詰まった、宝箱のようなお話。

少女たちの初恋や、大人たちのちょっとした秘密、
物語の中に、さらに物語が展開する。
大切に大切に、何重にもくるまれた記憶をひもとくような
懐かしさやあまやかさ、息苦しさ。

こんな記憶を持って大人になるのは
とても豊かなことだな、と思えます。

女の子、男の子、という区別は違和感あるかもしれないけど
やはりこの話は「女の子の特権」的、
少女時代の「宝物」といえるんじゃないかな。


本の感想・それでも好きだな

2008-04-21 14:40:23 | 本・雑誌
去年買ったにも関わらず
もったいなくて、読まないでおいた本。

もったいなくて、というのもヘンな話だけど
じっくり、ちゃんと読みたかったんだ。
そういう時間がとれるときに、読もうと思っていた。


『部屋にて』(石田千・角川書店)

石田さんのエッセイは、これまでも何冊か紹介済み。
この本は、これまでの中で一番尖っていて
正直で、不機嫌で、痛々しい。

決して、読みやすい文章ではないと思う。
個人的には、わかりやすいことは大切なことだと思うけれど
「わかりやすい」と「読みやすい」は違うんだとも思う。

書き手の気持ちの揺れ幅によって
文章もどこかに迷いこんでいく感覚を覚える。

でもたぶんそれは「書きあぐね」ているわけではなく
気持ちのたどりつく先を、淡々と追いかけているがゆえ。
さらに読み手が、その目線を追いかける。

転んでつくった傷のかさぶたを
わざとはがすような。

言えばいいとわかっている言葉を
わざと言わないような。
またはその逆も。

泣きたいのに泣けないときの
ふてくされた表情まで、垣間見えてくる。

素朴で、きままで、生活感のある暮らしぶりは
これまで読んだエッセイにもあらわれているけれど
今回はもう、鍵まであけっぱなして
部屋を見せてもらいました、みたいな感じもする。
幻滅? 
いえいえ、ますます大好きになりました。

石田さんの最新作(たぶん)の『しろい虹』も
すでに購入済み。
これもまた、じっくり読めるときに読もうと思っています。


本の感想・タイトルに惹かれ

2008-04-08 22:30:19 | 本・雑誌
ずっと読みたい本として積んであって
気になってたんだけど
なぜか後回しにしていた本に手をのばした。

『さくら』(西加奈子・著 小学館)

タイトルが今の季節に合ってる。
ま、そう思ったとこから、そもそも勘違いでした。
桜の話ではありません。

「守られている幸せ」を疑うことなく
幼少時代を過ごせるのは
もしかしたら、その後の人生を決めてしまうくらい
すごいことかもしれないと、漠然と思っていた。

その思いをはっきりと刻み込んでくれる、家族の物語。

最初に現在の話があって
そのあとに続く、この本の大半を占めるのは
ある家族の歴史。

正直、途中までは個人的な思い出を
ノスタルジー全開で描いている気がしないでもなかったけれど
現在の家族の形にたどりつくまでに
そして、これからこの家族を再生させていくために
流れた時間を確認することは
書き手にとっても必要な作業だったのだと思った。
ここまでひとつの家族を書き込むのは
案外しんどいことだろう、とも。

ひとりの人間が享受できる幸せの量が
決まっているとは思わないけれど
頑張ればいつも報われるわけではない。

思うようにはいかないこと
どうしようもなく報われないこと
そんなあれこれを受け入れる強さは
愛することと愛されること
守ることと守られること
傷つくことと傷つけられることで
身につけていくしかないのだと

そして「家族」という関係は
それらすべてを実現しうる
ありがたくも、やっかいな存在なのだと
そんなことを感じた。