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salt&pepper days 

ともすれば、子どもとの時間に埋もれそうな日々。でもやりたいことは他にもいっぱい。刺激を求めて悪あがき中。

本の感想・そこに芽吹きはあるか

2008-04-02 00:37:56 | 本・雑誌
一度、読むのを挫折した本がけっこうある。

いわゆる「文豪」による作品や
「売れてる作家だから読んどくか」と思ったものの
なんか合わない、というのと。

糸山秋子さんは好きな作家のひとりですが
(糸山さんの「糸」は、糸がふたつ並ぶ字)
この本は、一度読み始め、数ページで挫折した。
だっていきなり「ファンタジー」とかいう
想像上の生き物だか、神だか、妄想だかわからない存在と
海岸で出会うという始まりが、受け付けなかった。
かつては。

『海の仙人』(新潮社刊)

なんで挫折したんだろう、あたし。

「僕」などの人称が用いられず
登場人物ひとりひとりを距離をもって描いているせいか
淡々とし、余計な感情が行間にあふれすぎない。
だからこそ、波の様子や風の感じが伝わってくる。

前半は、一風変わった登場人物たちが
出会ったり、再会したりしながら
わいわいがやがやと話が進んでいく。

後半、あれ? と思い始めたとたんに
話がどんどん思わぬ方向へ。
え? こんな展開? ファンタジー、どこ行った?
おいおい、なんとかしろよ~と。

それぞれが胸に秘めた思いを
語ったり語らなかったり
結局みんな、一言足りない人たちの
強さだか弱さだかわからないけれど
生き方を貫く姿にひきつけられる。

祭りの後、というか、つわものたちが夢のあと、というか
なんともいえないものが残される読後感。
でもそこには、新たな芽吹きはある、と
信じたくなるような。



本の感想・男のロマン?

2008-02-26 00:07:29 | 本・雑誌
ちょっと間があきましたね。

緑茶がぶ飲みをさぼっていたら
ビタミン不足で風邪ひいて、ダウンしてました。

熱出して寝込みながらも
これで堂々と本を読む時間ができたと
心のどこかでほくそ笑む私。

読んだ本は
『アフリカの絵本・(上)(下)』(伊集院静・著 講談社)

ちょっと乱暴な説明ですが
破天荒な男性編集者が、仕事でアフリカへ行き
“自分探し”に、本格的に目覚めていく話。

実際の30代半ば男性っていうと
どこかで「こんなはずじゃなかった」とか
「俺の人生、これでいいのか」と思いながらも
現実に押し流されている人が多いような。
仕事や家庭がらみで「こうなりたい」という
ビジョンは描けても
それらと関係ないところで、どれだけ夢を語れるか。

だからこの主人公のように
自分探しや夢を語ってしまう人に対し
違和感のようなものを覚えなくもなかった。
しかも、その夢が壮大だし。
ユメミルユメオ、あるいはモラトリアムといってしまえば
それまでだけど
ありかなしかといえば、ありだな、とも思う。

語れるなら、語ればいい。
それができる人生は、素晴らしい。

主人公は、いろんな人の夢や人生を巻き込みながら
ひとつの「絵」を織り成していく。
もはや彼自身の自己実現なんてレベルではなく
そこには苦しみも生まれるけれど
そういう生き方しかできない人は、確かにいる。

男女差で言いたくはないけれど
これだけ大きなスケールで夢を語り、動けるのは
やはり男の人なのかなあ。
男のほうが夢見がちで
女のほうが計算づくで、現実的なのか。
いや、そうともいえない…と思いつつ
やはりこの手の話の主人公は
男の人のほうがおさまりがいいな、と思ってしまいました。

夢を見たい人、ロマンを感じたい人には
おすすめできる本だと思います。

本の感想・「物語」を持つこと

2008-02-10 01:42:18 | 本・雑誌
読みかけで、なかなか進めなかった本を
やっと読み終えた。

『犬のしっぽを撫でながら』(小川洋子・著 集英社)

前回に続いて、小川洋子さんの本です。
今回は、エッセイ。

映画にもなった『博士の愛した数式』を書くにあたり
小川さん自身が、どんなふうに「数字」に魅せられていったか、
(小川さんて、てっきり理系の方だと思っていたら
バリバリ文系だったんですねー)
小説を書くことに対する思いや、アンネ・フランクをめぐる旅、
子どもの頃の家族や友達の記憶、
愛する阪神タイガースへの思いなどを、たっぷり読める。

対象への「熱い思い」が、決して暑苦しくない。
感情的にならず穏やかだけど、強い愛情を感じる。

この人は、常に「物語」を感じて生きているのだなあと思う。
自分の中にある物語、そして、日々の其処此処にある物語を。
それを感じることは、すごく心豊かなこと。
特別な出来事がだけが「物語」になるのではなく
人やもの、すべてに物語は存在すると、改めて思う。

喜びや痛みややるせなさ、そういったものたちを
心に連れてくるものすべてが、
ひとつひとつは小さくても、物語になり得る。
それらに向き合うことで、小川さんの小説が生まれるんだな、とも思う。

向き合うことは苦しいときもあるけれど
心を研ぎ澄まし、日々を丁寧に見つめることで
いろんな物語をたくさん感じて
自分自身もまた、物語を紡いでいけるんだなあ、と思うと
ありふれた毎日も、ままならないあれやこれやも、
とても大切に思えてくる、そんな本です。

本の感想・寝る前のひとときに

2008-01-30 00:42:39 | 本・雑誌
小説を読む楽しみのひとつは
知らない世界、違う価値観に触れられること。
そして、自分の中にはない言葉や表現に触れて
圧倒されたり、憧れたり、妬ましく思ったりすること。

小川洋子さんの作品は、この楽しみを
じっくりじんわりと味わえる。

今回読んだのは、『海』(新潮社)。
表題作のほか、全7編の短編(掌編)小説からなる。

シンプルな言葉、フレーズで構成された物語の
行間にたゆたう空気に絡めとられ
気づいたら違う空間に連れて行かれていた、
そんな感覚に陥る作品ばかり。

どの作品にも、ひとクセある人物が登場。
実際にいたら周囲を苛立たせたり、困惑させそうな人が
とても穏やかな風情で存在する。
その人に対し、周囲も優しい。

小説家というのは、作品によって
季節だとか時代だとか景色なんかを感じさせてくれる。
小川さんの作品は、手触りというか、匂いというか
湿っぽさとか埃っぽさとか乾いた質感とか
風の色や気配も伝える。

ハラハラするような事件は起きない
どちらかといえば、心が静まる物語。
寝る前に1編ずつ読む、というのもいいかも。


本の感想・憧れと現実

2008-01-24 00:35:13 | 本・雑誌
登場人物の多い本は、苦手。
まあメインキャスト3人以内、脇がせいぜい3,4人。
それくらいが良いんだけど。

だから今回の小説で最初にズラリと
「登場人物の紹介」があったのを目にして
図書館の棚に本を戻しそうになった。

けど、読んでみた。
大家族とか下町風人情ドラマに
もしかしたら憧れがあるのかもしれない。

『東京バンドワゴン』(小路幸也・著 集英社)

3代続いている古本屋を舞台に
4世代同居の家族、その周辺の人々が繰り広げる話。
語り部があの世の人、というのが意表をつくけど
少しも不自然じゃなく、そのあったかい視線が
この小説を引っ張っている。

ミュージシャンあり、シングルマザーあり、
異母兄弟あり、押しかけ婚約者あり、の
多彩な顔ぶれでありながら、ちっとも特異な感じがしない。
ものすごく自然に、それぞれがいるべきところに
当たり前に集まって暮らしている。

この大家族や近所にいたら、秘密も何もない。
あけすけで、誰かが必ず顔を突っ込み、口を出してくる。
なんでそうなるかな、勘弁してよ、と
思うところもあるある。

これが現実なら、すごい疲れますね。
それが普通だった時代や暮らしが
あった(今もある)んだろうな、と思う。

心のどこかで、誰かにおせっかい焼かれることを
期待している部分も、人間はあるとも思う。

ドラマ化、舞台化してもおもしろいなあ
なんて思いながら読んだ。
この手のホームドラマは、流行らないのかな。


本の感想・母子関係の複雑

2008-01-21 01:41:21 | 本・雑誌
「母には何でも話せます」って言う誰かの言葉を聞くと
単純に、すごいなーと思ってしまう。
うらやましい・・・、とは違う
「えっ、マジで!?」に近い。

実際、姉妹のように、あるいは友達ののように
仲がいい親子っていますよね。

母と娘の関係、私にとっては長年の課題。

リリー・フランキー氏の『東京タワー』を読んだとき
描かれている、お互いの底抜けの愛情みたいなのは
母と息子だからじゃないかなーと思った。
たぶん、母と娘では、あの甘さはない。

今回読んだのは
『身がわり 母・有吉佐和子との日日』(新潮社)
作家・有吉佐和子さんの娘、有吉玉青さんの本。

作家である母をもつ娘が感じ続ける
母への愛情、嫉妬、苛立ち、劣等感、反発。
子どもの頃から「あの有吉佐和子の娘」と
誰もが自分を通して、母を見ていること。
母から注がれる、過剰なほどの愛情に対する息苦しさ。

やがて、嫉妬や劣等感は、母が自分に与えたのではなく
自分で勝手に感じ、縛られてきたと気づいたときの悲しさ。

母親が有名な作家という環境だから
普通なら感じないようなことも、味わってきたのだろうけど。

でも、一般的な家庭の母子でも、あると思う。
母は娘だからこそ、こまかなことが心配で
あれこれ口を出したり、知りたがったり、離れられない。
同性だから、自分と重ね合わせて考える。
ときには、自分の思いを託す。

娘はそんな母親に対して、同性だからこそ
母の優れたところも、イヤなところも目につく。
「私はお母さんとは違う」
「お母さんみたいにはなりたくない」
ときにはそこまで思う。

肉親だからこそ、反発も大きくなる。
無関係な人なら、関わらなくて済む。
無関係ではいられないから、恐ろしくて苦しい。

玉青さんの場合、ある日突然、その母子関係が断ち切られる。
取り返しのつかないような形で。
そしてそこから、自分と母の関係だけでなく
母と祖母との母子関係も見えてくる。
2組の母と子の、それぞれの形。
どちらもわかるから、やりきれない。

この本は、10年以上前に書かれたものなので
現在はまた、玉青さんのお母さんへの気持ちも
変わっていると思われる。
だけど、本に描かれた母と子の関係は
身につまされ、胸に重く残る。

感想まで重くなってしまったけど
決して暗い話じゃありません。
母親の、憎めないかわいらしさも
愛情をもって描かれていますので
世の中の、すべての娘さんにおすすめできる本です。


本の感想・甘党の幸せ

2007-12-16 17:41:43 | 本・雑誌
私は甘党です。
「お酒飲めないから、余計に甘いものに向かうのでは?」
という意見があるけど、そうなんでしょうか??

今回読んだ本は、酒井順子さんのエッセイ。
『ひとくちの甘能』(角川書店)。

酒井さんが子供の頃から親しんでいた和菓子や洋菓子、
大人になってから知った甘味について
そのエピソードを、ユニークかつ独断的に綴る。
取り上げているのは、いまどきのお店というより
正統派の和菓子や水菓子、老舗のものが多い。

あとがきを読んで知ったのですが
「甘」という字は象形文字で、もともと
「手錠」とか「首かせ」という意味があったそうです。

意外な感じがしたけれど、酒井さんも書いているように
甘いものには、食べたときに酩酊感がある。
その中毒的な症状、とりこになってしまう様は
まさに「かせ」だと思うと、すごく納得。

酒井さんもお酒が飲めないそうで
人から「人生の楽しみの半分を知らない」と
言われたりするそう。
私も言われたこと、あるある。
そうだなー、と思った時期もあるけれど
今はあんまり思わない。
だってよくよく考えたら、飲みたくないもん。
それに、「甘いもの」のくれる幸せを十分に知っている。

甘党の人って、どこどこの人気店の
ガトーなんたらかんたら、という覚えにくい
ひとつ500円するケーキに限らず
疲れたなー、甘いもの食べたいなーと立ち寄る
コンビニの一個120円くらいのシュークリームで
幸せになれる。

流行りのスイーツも気になるけど
本当に幸せをくれるのは、切実に食べたいときに
口に入れるチョコレートだったりする。

そんなことを思った本でした。

店員さんに言うのが恥ずかしい。

2007-12-01 11:31:05 | 本・雑誌
夕べ更新した記事ですが
布団に入ってから思い返して、気になったことが。

この本、書店で注文するの、恥ずかしい(笑)。


「あの、探している本があるんですけど」
店員
「はい。なんでしょう」

「雨の日にカサもささずにトレンチコートの
えりを立ててバラの花を抱えて
青春の影を歌いながら
悪かった。やっぱり俺…。
って言ってむかえに来てほしい…」
店員
「…はい?」

「っていう本なんですけど…」
店員
「はあ…」

ってなことを想像したら
可笑しくて、眠れなくなった
って話です(笑)。

下手したら告白ですよ、これじゃ。
寿限無寿限無…みたいだし。

そこでおススメするのは
書店の検索機で検索したものを
プリントアウトしたものをレジに持っていくか
タイトルをメモ書きして渡すか
はたまたネットで買うか…

余計なお世話ですけどね。

どうしてもそれだけ言いたくて
珍しくスピード更新です。

本の感想・イヤ~、参っちゃったな、このタイトル

2007-12-01 01:45:29 | 本・雑誌
今日紹介したい本、
私はまず、タイトルにやられちゃった感じです。

本の内容は、なんというか、キャッチコピーがいっぱい並んだ本、
というんでしょうか。
著者は、イチハラヒロコさんという方。
肩書きは、ええと、デザイナー? 

Wikipediaによりますと、現代美術アーティスト、だそうです。

誰もが自分や他人に対して
心の中でつっこんでいそうな言葉、つぶやきを
写植文字で表現した、作品集です…。
わかりにくい説明ですね。

とにかく読んで、いや、見てほしい!

ひとつひとつの作品(コピー)が
鋭くて毒もあって情けもあって
大口開けて「ガハハ!」と笑ったあとに
思わず涙ぐんじゃいそうなつぶやきだらけ。

あ、そうそう、ここで肝心なタイトル発表!

『雨の夜に
カサもささずに
トレンチコートの
えりを立てて
バラの花を抱えて
青春の影を
歌いながら
「悪かった。
やっぱり俺…。」
って言って
むかえに来てほしい。』

っていうタイトルの本です。

(発行・アリアドネ企画 発売・三修社)

どうよどうよ、このセンス!!
圧倒されたよ、私は。
簡潔に、わかりやすくなんて発想は
どっか行っちまえ、って感じ。
好きですね、こういうの。

1ページに1作品、ページをくくる指が止まらない。
笑ってキュンとして、なんだか元気になれます。
忙しくて小説とか読めないとき、
ストレスたまっているとき、
うってつけの本です。

タイトルとは反対に、作品の言葉は短く
だからこそ、そのウラにあるものだとか
自分の中にある漠然としたものなんかが
引っ張り出される感じもして、おもしろい。
刺激的でもある。

巻末の、イチハラさんがファンだという
吉川晃司さんとの対談では
(司会はカメラマンのハービー山口さん)
イチハラさんの素朴な人柄も感じました。

だからこそ出てくる言葉、なんだろうなあ。

イチハラさんのことは、春頃に行った
「活版再生展」で知って、本を探してたんだけど
書店で探すの苦労しました。
たいていの書店では、「取り寄せ」です。

それでも1冊、手元に置きたい本です。

本の感想・文学賞の力

2007-11-10 23:35:11 | 本・雑誌
ドタバタしている合間に、久々読書。
本はいいね。
現実逃避のつもりで読んでも
発見があったり、自分を見つめなおすことができる。

今回読んだ本は

『八月の路上に捨てる』(伊藤たかみ・著 文藝春秋)

少し前の、芥川賞受賞作ですね。

自分が読んだことのない作家で
「芥川賞」とか「直木賞」なんかを受賞すると
それをきっかけに読んだりする。
ノセられてるような、遅れをとったようなで悔しいけど。
賞の威力ですね。
書評家じゃないから、別にいいんだけどさ。

この人もそうでした。
受賞直後に『ドライブイン蒲生』を読み
へー、おもしろいな、と思ったわりに
受賞作を今頃やっと読みました。

職場の女性の先輩との会話を通して
30歳目前男の、離婚劇が展開。

まとわりつくような、温んだ空気が流れる。
いびつな人間たちの、でも実はちっとも特殊ではない
誰の中にもあって、ふとしたことで表面化するような
でこぼこした気持ち。

すべては「終わり」に向かっているのに
「始まり」を感じる。
そっか、終わりは始まりでもあるんだ。
温んだ空気も、イヤではなくなる。

「せつない」という言葉は便利で
安易には使いたくないんだけど
やるせないような、泣き笑いのようなせつなさ。

不思議なタイトルだなあ、と思っていたけれど
これ以上ないタイトル、と納得。

表題作のあとに、もうひとつ短編。
こちらも、自分のなかにあるけれど
漠然としていて、めんどくさいから
気にかけないようにしている気持ちを
手にとって眺めているような話。

どちらもサクっと読めるけれど
後味がなかなか深いです。