玄倉川の岸辺

悪行に報いがあるとは限りませんが、愚行の報いから逃れるのは難しいようです

一世一代の名演技を見た

2005年08月07日 | 政治・外交
経験を積んだベテランならではの名演技を見せてもらった。
いや、「演技」と言い切ってしまっていいものかどうか迷う。
彼自身の心情とさまざまな計算が渾然一体となり実に玄妙。
カフェオレはコーヒーなのかミルクなのか、どちらかに決めることに意味がないように、彼のパフォーマンスを演技、あるいは本心の吐露のみと言い切る必要はない。私の最近お気に入りのドラマ“はるか17”の古田新太や“ドラゴン桜”の阿部寛のように、ちょっと胡散臭くそれでいて妙に心情を感じさせ説得力のある演技。さすがだ。

あ、書き忘れていたけれど「彼」とはこの人のことである↓

■Yahoo!ニュース - TBS系 - 森前首相も説得断念「さじ投げた」
「はっきり言って、さじ投げたな、おれも。(小泉首相は)『絶対に通してくれ、可決のために努力してくれ、別に解散を好んでいるわけじゃない』と。もういっぺんよく考えてみてくれないかと言ったが(小泉首相は)『かわらない』と。こうなると変人以上だな。それ以上は言わないけど。小泉さんにいつまでもこだわっててもいかんなという気持ちにも、まぁ、なりかねないわな」


■asahi.com: 解散翻意迫る森氏、首相は耳貸さず 「おれの信念だ」
森氏は4日、福田康夫前官房長官らを首相官邸に差し向け、継続審議を打診させた。賛否両陣営を問わず党内に解散回避論が高まったのを受け、何とか首相を翻意させようとしたのだ。だが、自ら出向いてのこの日の説得の失敗で、党内では一気に「打つ手なし」の空気が広がりかねない。

 「おれに対して、こんな対応ですよ。まあ、さじ投げたな。私に何をしろって言うの。解散阻止なんかできないでしょ」。会談終了後、森氏は記者団に出されたチーズのかけらやビールの缶を見せながら、「かむんだけど、固くてかめないんだよ」。記者団に怒りをぶちまけた。


私は特に以前から森氏に関心を持っていたわけではなく、彼の性格や考え方をよく知っているわけではない。だから、以下に書くことはほとんど空想・妄想に近い「勝手読み」である。まさか私を「政界事情通」と勘違いする読者はおられないだろうが念のために申し上げておく。

…てなわけで、映画でも見ているつもりで「シナリオの意図」を読めば、これは反対派への脅しと忠告以外の何物でもない。




「おれに対して、こんな対応ですよ」
党内での保護者である兄貴分の諫言に非礼で答える小泉。
「常識」や「良識」を期待できる相手ではない。

「まあ、さじ投げたな。私に何をしろって言うの。解散阻止なんかできないでしょ」
もう誰にも止められない。法案否決なら解散必至。
「かむんだけど、固くてかめないんだよ」
小泉の決心は崩せない。
「こうなると変人以上だな」
小泉は狂人。甘言では動かせないし、責任を問うこともできない。狂人にまともに立ち向かうのは無意味。
「小泉さんにいつまでもこだわっててもいかんなという気持ちにも、まぁ、なりかねないわな」
反対派は怨恨を捨てて党と自分自身のことを考えろ。
どうせ小泉は一年先には任期切れなのだから。





白字部分(実際の発言)は「心情」
黄字部分(私の勝手読み)は「計算」
心情と計算、表と裏が調和して実にうまく書かれた台詞だ。シナリオライターはいい仕事をしたものだ。

この森氏の名演技を見せられて、私が反対派(「王道会」)衆院議員ならこう思うだろう。

反対派の勝利条件は、「採決を断念させる」あるいは「大差で否決して」小泉を退陣あるいはレームダック化に追い込むことだけである。
可決されれば負けだし、もしも解散されれば自民党の公認はもらえず「王道会」勢力激減は必至、自分の当落も心配だ。「小泉に乗っ取られた」大切な我が家=自民党も政権を失う可能性が高い。どうしても総辞職に追い込みたい。
しかし、小泉は何しろ郵政パラノイアなので「可決か解散か」の二択しか頭にない。誰にも説得は不可能。総理の解散権を奪うこともできず、勝利条件を満たすのは無理。
…となると、せめて損失の少ない負け方を選ぶほうがマシだ。
恥を忍んで反対派参院議員を説得し、賛成、それが無理でも反対ではなく欠席させれば法案は可決される。
議員を首にされることもなく、片腹痛いが執行部に恭順の意を示せば与党の一員に留まれるだろう。どうせ郵政法案後の小泉政権は求心力を失う。そのときこそ大いに反小泉機運を盛り上げ、恨みを倍にして叩きつけてやろう。今は耐える時だ。


私なりに無い頭を使って精一杯合理的に考えると、日清戦争後の三国干渉のように臥薪嘗胆して機会をうかがい、小泉が落ち目になったところで思い切り足をすくい泥を塗りたくり石を投げつけて地獄に追いやる、これが最善の選択となる。郵政民営化の問題点は、小泉を追い落とした後で都合よく手直しすればよい。

とはいえ、私の考えが最善の選択だと決まっているわけではないし、賢い国会議員の先生方が常に最善の選択を選ぶものでもない。「敵」の小泉総理にしても、短兵急に郵政法案を採決にもっていくやり方には無理があり必要以上の反発を受けている。反対派との取引をかたくなに拒む姿勢も政治家として未熟といわざるを得ない(彼には彼なりの理由はあるのだろうが)。

以前のエントリで「反対派議員に大局を理解して合理的な行動をとる能力があれば『可決』で間違いない」と書いたが、その考えは今も変わっていない。マスコミは反対派議員が「どんどん増えている」「合計すると否決は確実」と伝えているが、瞬間最大風速としか思えない。頭を冷やして己の利害、党の未来を考えればぎりぎりで可決させる方向に進むはず。

…しかし、テレビで気勢をあげる反対派議員たちの姿を見ると、彼らが果たして怨恨を横に置いて合理的な判断をするかどうか不安が増してくる。昭和16年なかごろまで知識のある国民の多くは「まさかアメリカと戦争することはないだろう」と考えていたそうだ。しかし不幸な成り行きや誤判断が重なって12月8日に戦端が開かれてしまった。
国民に選ばれた選良である自民党国会議員の皆さんが賢い選択をしてくれることを期待する。
なんといっても真夏の選挙は暑くて熱くてつらいぞ。選挙スピーカーとセミの声が重なって騒音地獄。どうしても選挙をするなら涼しい秋風が吹き始めた頃がよろしかろう。

参考にさせていただいたブログ
■ ノムさんの時事短評
■ Irregular Expression「最後に鍵を握るのはネットの嫌われ者」

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1 コメント

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やっぱり可決? (やすゆき)
2005-08-07 22:06:25
私は未だに「僅差で可決するんじゃないの」と思ってるんですが。玄倉川さんと近い線でしょうか。亀井派からも造反が出る、に一票。仮に選挙となっても、亀井さんたちには辛いはずです。

森さんのボヤキ、テレビでは見てないのですが、演技だとしたらたいしたものです。いや、小泉さんに自然と演技させられたのかも。政治は玄妙ですね。
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