玄倉川の岸辺

悪行に報いがあるとは限りませんが、愚行の報いから逃れるのは難しいようです

第二次世界大戦はいつ始まったか

2008年12月11日 | 日々思うことなど
「1941年12月に第2次世界大戦が真珠湾攻撃で始まった」という見方は別に間違っていない。
麻生総理を無知だと批判している人たちのほうが歴史を知らない。

漢字に続き…麻生、今度は「歴史も知らない」疑惑:ZAKZAK
第2次大戦が真珠湾攻撃で!?

 「未曾有(みぞう)」を『みぞゆう』、「怪我(けが)」を『かいが』といった漢字の読み間違いで国民の失笑を買っている麻生太郎首相に、今度は「歴史も知らない」疑惑が浮上した。これで自民党文教族の幹部というのだから…。

 先に配信された首相の動画マガジン「太郎ちゃんねる」の第10回で、首相は「1941年12月に第2次世界大戦が真珠湾攻撃で始まるんですけど、10年後に日米安全保障条約なんて想像した人は、たぶんあのとき1人もいない」と発言した。

 しかし、教科書出版大手の山川出版社の用語集では世界史、日本史ともに「第2次世界大戦」は、1939年9月1日にナチスドイツがポーランドを侵攻したことに始まったとされている。別の小中学生向けの参考書でも同様で、首相の話は、大戦の一局面である「太平洋戦争」の解説になっている。

 首相の祖父、吉田茂元首相は戦後日本の復興を軌道に乗せた大人物だが、首相は国語に続いて社会科でもボロを出してしまった。自民党内からは「揚げ足取りにも聞こえるが、簡略化しすぎて正確でないことは確かだ。官邸内にチェックするスタッフはいないのか」(中堅議員)とため息も聞こえてくる。

「教科書に書かれているのはこうだ」というレベルで批判するなら「第二次世界大戦の始まりは1939年9月ドイツのポーランド侵攻」「だから麻生総理は間違っている」と言うのは正しい。だが、少し物事を考えるとそれほど単純でないことがわかる。

第二次世界大戦 - Wikipedia

1939年9月にドイツがポーランドを侵略し、ポーランドと同盟を結んでいたイギリスとフランスが対独宣戦布告した。この時点で考えれば、始まった戦争はあくまでも「欧州大戦」であって「世界大戦」と呼ばれるほどの広がりはない。ポーランド侵攻が「第二次世界大戦の始まり」とされるのは後世からみた後知恵である。
欧州大戦の戦域はほぼヨーロッパ大陸に限定されている。大西洋と地中海、北アフリカでも戦闘が行われたが、あくまでもヨーロッパの周縁部だ。40年6月に独ソ戦が始まり戦域は大幅に拡大したが、ウラル山脈を越えることはなかったのでやはりヨーロッパの内である(「ヨーロッパ (蘭:Europa, 英:Europe) は、ユーラシア大陸のウラル山脈より西側(ヨーロッパ大陸)およびその周辺の島嶼・海域を含む地域の総称で、六大州の一つ。」ヨーロッパ - Wikipedia)。

それなら欧州大戦が本当の意味で「世界大戦」となったのはいつかというと、麻生総理のいうとおり41年12月8日の日本軍による真珠湾攻撃といってよい。より正確に言うとアメリカの対日宣戦布告(真珠湾攻撃の翌日)と、それを受けてドイツとイタリアが対米宣戦布告をした日(12月11日)なのだが、真珠湾攻撃とひとつながりなので「真珠湾攻撃によって第二次世界大戦が始まった、欧州大戦が本当の意味で世界大戦となった」と言ってもまちがいではない。

もちろん真珠湾攻撃以前に日本は中国で戦争をしていた。
だが、日中戦争は「欧州大戦」とは直接の関係を持たない別々の戦いである。日本の同盟国であるドイツとイタリアも日中戦争を支援することはなかった。というのも、当時の日本と中華民国は不戦条約(ケロッグ・ブリアン条約)違反とされることを嫌って宣戦布告せず、日本では支那事変と呼称し「戦争ではない」というタテマエだったからである。また、そもそも日独伊三国同盟はアメリカの参戦を牽制するのが目的であり、日本が欧州大戦に関わる義務がなかったように、独伊にも日中戦争を支援する義務はなかった。欧州大戦と真珠湾以前の日中戦争はそれぞれ個別の戦いであり、いっしょくたにして世界大戦と呼ぶのは本当は正しくない。
太平洋戦争が始まった後で蒋介石は対日宣戦布告し、中華民国は連合国の一員となった。そのときはじめて日中戦争が第二次大戦の一部となったのである。

ついでに第一次世界大戦のことも言っておこう。
仮にあの戦争がヨーロッパだけで行われていたらそれは欧州大戦であり世界大戦とは呼ばれなかっただろう。実際に欧州大戦という言葉が別称として使われている(「第二次世界大戦が勃発する以前は大戦争(The Great War)、諸国民の戦争(War of the Nations)、欧州大戦(War in Europe)とも呼ばれる。」第一次世界大戦 - Wikipedia)
ドイツの植民地(アフリカ・アジア)や中東で戦闘が行われたからこそ「世界大戦」なのだ。日本も連合国の一員として参戦し、ドイツが租借していた青島(山東省)を攻撃したり南洋諸島を攻略したりしている。日本が山東省のドイツ権益を引き継いだことで中華民国に恨まれ、やがて日中戦争の泥沼につながっていく。

欧州戦争を第二次「世界大戦」にした立役者はなんといっても日本とアメリカである。
一口に太平洋戦争と呼ばれるが、その戦域はまさに地球規模で広がっている。北はアリューシャンから南はガダルカナル(ニューギニアの先)、東はハワイから(日本の潜水艦が西海岸を攻撃したこともある)西はインド洋まで。太平洋戦争ほど広い範囲で行われた戦いはそれまでなかったし、これからもないだろう(と願う)。
欧州大戦と太平洋戦争が合わさってはじめて世界大戦と呼ぶにふさわしい規模となる。麻生総理が「1941年12月に第2次世界大戦が真珠湾攻撃で始まる」と言ったのは間違っていない。教科書レベルの批判をして勝ち誇るほうが無知なのだ。


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3 コメント

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トラックバック頂きました。 (作務)
2008-12-12 09:46:11
こんにちは。
私は、軍隊は「産軍複合体」所謂「戦争屋」の、金儲け蓄財装置にしか過ぎないと思っています。自衛隊の解散と国際救助隊や沿岸警備隊への移行は、日本が世界に先駆けて実践すべき課題だと思っています。
軍人 を「神聖視」する事は、言い換えれば悪魔崇拝に等しい事を、より多くの人に気が付いて貰いたく思いますね。
愚かな行為は、反省して二度と繰り返さぬ努力をするべきです。悪事を為せば、必ず相応の報いがあるものです。
Unknown (ラッパ)
2008-12-13 22:54:54
>欧州戦争を第二次「世界大戦」にした立役者はなんといっても日本とアメリカである。

ヒトラーでしょう。
三国同盟は防衛協定で、日本が攻撃を仕掛けた以上、ドイツに参戦義務は生じないにもかかわらず、彼がアメリカに宣戦布告したから世界大戦となった。

>「1941年12月に第2次世界大戦が真珠湾攻撃で始まる」と言ったのは間違っていない。

これは同意。眼が覚めるような見解です。
辞書がそんなにえらいのか (安部奈亮)
2008-12-14 11:31:21
十年くらい前からテレビで何かというと辞書を引き合いに出すシーンが増えましたけれども、辞書というのは必ずしも絶対的に正しいわけではないんですよね。

私が大学で土井鬱後を教わった先生は独和辞典編纂に関わったのですが「辞書なんていい加減なものだ」と言っていました。

マスコミには、辞書のような死んだ情報ではなくて、自分の足で集めてきたい北条法を展開する役割が求められています。

辞書を持ち出して事足れりとする姿勢は、自らの役割の伯耆に他ならないと私は思うのです。