玄倉川の岸辺

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田母神「論文」と自衛隊幹部教育

2008年12月10日 | 日々思うことなど
昨夜のNHK「クローズアップ現代」で、田母神「論文」問題と自衛隊の幹部教育が取り上げられた。
なかなかいい番組だったが、正直いって自衛隊のありかたに少し不安を感じた。

クローズアップ現代 空幕長論文はこうして発表された

先の大戦をめぐり政府見解と異なる内容の論文を公表して、前航空幕僚長が更迭された問題。 前空幕長が論文を公表するきっかけとなった民間企業の「懸賞論文」には、航空幕僚監部が全国の隊員に組織的に論文応募を促していた事実が確認されている。また前空幕長によって、自衛隊の高級幹部を育成する「統幕学校」に「歴史観・国家観」というそれまでになかった新たな講座が設けられていたこともわかってきた。 前空幕長によって、組織はどう動いたのか。そして、前空幕長はなぜ論文を発表したのか。証言や入手した資料をもとに検証する。 その一方で、将来の幹部自衛官を育成する防衛大学校を取材。 教育現場では何が教えられているのか、兵器を持った実力部隊の幹部に求められる資質とは何かを考える。

タイトルに「空幕長論文」が入っているのに田母神氏の出演がたった5秒ほどで笑った。30分という短い放送時間の中でトンデモ歴史論・国防論を言わせるのはあれくらいで充分だ。田母神氏の持論を視聴者に聞かせたら自衛隊の印象が悪くなる、というNHKの惻隠の情かもしれない。
相変わらず田母神氏は「日本が悪い国だったということだと士気が下がる、『正しい歴史認識』がなければ国が守れない」などと甘ったれた寝言を並べていた。どうやらこの人は本気でそう思っているらしい。どれだけセンチメンタルなのか、情緒に溺れているのかと呆れる。職業「軍人」なら鉄腸豪胆を養うべきであり、「歴史認識」などに心を乱し義務をおろそかにするのはほとんど反逆に等しい。部下に範を示すべき空自トップが心得違いの見本を見せているのだから、まったく何をかいわんや、である。
もしかしたら田母神氏は、決してナチを肯定できないドイツ空軍のパイロットと「正しい歴史認識」を誇る自衛隊パイロットが同じ戦闘機で戦えば必ず自衛隊パイロットが勝つ、とでも思っているのだろうか。だとしたら「水からの伝言」なみのトンデモであり、ドイツ軍の士気を馬鹿にするにもほどがある。

そんな田母神氏の心得違いがずっと見すごされてきた自衛隊のあり方には、やはり問題があるといわざるを得ない。
たぶん、自衛隊の高級幹部は一般的に「歴史認識問題」にそれほど関心がなく、だから田母神氏の暴走が問題視されなかったのだろうと思われる。引退した元高級幹部が何人か出ていたが、なんだか呑気そうな顔をしていた。自衛隊が歴史認識論争にかかわるべきではない、幹部はノンポリでいい、というのは正しいのだけれど、かといってトンデモ歴史観や心得違いの幹部が野放しでは困る。

番組後半は防衛大学校の教育を取り上げていた。これはなかなかよかった。
校長の五百旗部(いおきべ)氏が田母神氏とは対照的に落ち着いていて、信頼できる人柄をうかがわせた。
五百旗部の風貌と雰囲気は、不敬をおそれずに言うとご今上(天皇陛下)に似ている。いかにも柔和で考え深そうだ。立派な先生に教えられる防衛大学校の生徒がうらやましくなった。
その生徒はというと、素直で真面目そうだがいかにも幼い感じがする。威勢のいいイデオロギーや「正しい歴史認識」に対して免疫がなさそうだ。タイの士官学校に留学した生徒が「政府より国王に忠誠を誓う姿に感動した」と言って五百旗部校長に「戦前の日本もそうでしたね」とたしなめられていた。どうも危なっかしい。五百旗部校長が「広い視野」を教育方針にしたのはまったく正しい。生徒たちはどうか五百旗部校長の意を汲んでしっかり学んでほしい。

初代防衛大学校長の槇智雄は生徒に「服従の誇り」を教えたそうだ。これも民主主義国の「軍人」に必要な覚悟である。とはいえ、プライドの高い若者に「服従を誇りに思え」と言ったら反発されるかもしれない。「ヨーロッパの騎士が貴婦人に仕えるように国を守れ」といえば素直にわかってもらえるだろうか。あくまでもジェントルに優しく貴婦人をエスコートするのが若き騎士の神聖なる義務である。

騎士道 - Wikipedia
騎士が身分として成立し、次第に宮廷文化の影響を受けて洗練された行動規範を持つようになった。騎士として、武勲を立てることや、忠節を尽くすことは当然であるが、弱者を保護すること、信仰を守ること、貴婦人への献身などが徳目とされた。

特に貴婦人への献身は多くの騎士道物語にも取上げられた。宮廷的愛(courtly love)とは騎士が貴婦人を崇拝し、奉仕を行うことであった。相手の貴婦人は主君の妻など既婚者の場合もあり、肉体的な愛ではなく、精神的な結びつきが重要とされた。かくて騎士側の非姦通的崇拝は騎士道的愛だが、一方、貴婦人側からの導きを求めつつ崇拝するのが宮廷的至純愛。

自衛隊員はサムライを気取るより騎士道を学んだほうがいい。

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1 コメント

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Unknown (haineko2003)
2008-12-18 09:35:04
こんにちわ。
内田樹の研究室のブックマークからやってきました。
「日本語が亡びるとき」について、同感です。
著者の植民地作家への蔑視や生理的嫌悪感の表出がとても気になります。
元幕僚長の論文を読んでいると、国民を守るといいながら、きっと戦車の銃口は一番にこいつらに反対する国民に向けるんだろうという感じがするけど、それと同じ匂いがします。
アメリカに留学した作家が日本に帰ってから国粋主義者になって扇動するのと同じように、帰国子女コンプレックスってのがあるのかもしれません。
ウチダせんせの学会については亡びたほうが日本のためになると思います。というか、もう末期。

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