玄倉川の岸辺

悪行に報いがあるとは限りませんが、愚行の報いから逃れるのは難しいようです

水を飲めば血中アルコール濃度を下げられるのか

2008年01月09日 | 日々思うことなど
注目を集める裁判の判決が出た。

asahi.com:3児死亡事故、被告に懲役7年6カ月 危険運転適用せず - 社会
 福岡市東区で06年8月、幼児3人が死亡した飲酒運転事故で、危険運転致死傷罪と道路交通法違反(ひき逃げ)の罪に問われ、懲役25年を求刑されていた元同市職員・今林大(ふとし)被告(23)の判決公判が8日、福岡地裁であった。川口宰護(しょうご)裁判長は危険運転致死傷罪の成立を否定したうえで、予備的訴因として追加された業務上過失致死傷罪などを適用。業務上過失致死傷と道交法違反の組み合わせでは最高刑に当たる懲役7年6カ月を言い渡した。

「甘すぎる判決だ」と悲憤慷慨する人たちが多い。マスコミでも2ちゃんねるでもブログ界でも大部分が怒りと批判だ。
気持はわかるが、私は今のところやむをえない・適切な判決なのだろうと思っている。
福岡地裁の判断については以下の記事などが参考になる。

 2008-01-08 - 弁護士 落合洋司 (東京弁護士会) の 「日々是好日」
 やっぱりハードルの高い危険運転罪ですが・・・ - 碁法の谷の庵にて
 法 治 国 家 つ ま み ぐ い: 福岡3児死亡 飲酒ひき逃げ事故 判決公判
 <福岡3児死亡事故>について

事故の結果は悲惨で重大だが、被告人の行動は「危険運転致死罪」の適用を認められるほど悪質とはいえない、ということらしい。罪状と量刑が本当に適切だったかどうか判断するのは法律の専門家(興奮したマスコミや一般人ではなく)の意見を待つとして、私が気になったのは被告人が事故後にとった行動である。

 デイリースポーツonline/危険運転認められず…懲役7年6月/芸能・社会
 調べでは今林被告は、自宅と飲食店2店でビールや焼酎などを飲み、福岡市の「海の中道大橋」を時速約100キロで走行中、大上さんのRVに追突した。事故後には身代わりを頼み、飲酒検知の数値を下げようと水を飲む“工作”をしていた。

「飲酒検知の数値を下げようと水を飲む“工作”をしていた。」と書かれているが、果たしてそれで血中アルコール濃度を下げることができるのだろうか。記事では「“工作”」と書くことで効果についてあいまいな表現をしているのでよくわからない。
私は効果を疑っている。
実際に有効であれば「酒を飲んだあと運転するときはたくさん水を飲めばいい」という通説がありそうなものだ。だが私が聞いたことがあるのはその逆の「水を飲んでもコーヒーを飲んでもサウナに行っても無駄、ひたすら酒気が抜けるのを待つしかない」という話である。「水をガブ飲みする」方法はどうも当てにならない。
はたして効果があるのかどうか、検索してみたけれどはっきりした結果は得られなかった。

「効果あり」
 ■急性アルコール中毒の対処法(だれにでもあるはず!)
お酒を飲みすぎている人を見かけたら、ポカリ、アクエリアスなどの電解質が入った飲料を飲ませましょう。
水分としてすぐに吸収されるので、血中アルコール濃度を下げることができます。
逆に言うと、この血中アルコール濃度をさげてあげればいいのです。水をがぶがぶ飲んで、どんどんトイレに行く!

「中間的意見」
 2006-09-06 - 生活が、一番面白い【Sampoのコラム】
酒酔いを覚ますというのは、血中アルコール濃度を下げるってことです。アルコールを直接血中から取り除けない以上、水増しして物理的に薄めるしかありません。

じゃあ水だけでいいんじゃないか? そうはいかないんです。血液のイオン濃度、おもにナトリウム・カリウムは厳密に一定濃度に保たれています。保たれていないと体細胞が働かなくなります(水中毒)。

だから、イオン濃度が下がるほどの水は飲んでもあまり吸収されないし、腎臓からすぐ捨てられてしまいます。イオンも一緒に吸収することで体液量を増やして、そのぶんアルコール濃度を下げることができるんです。

「効果なし」
 下北地域県民局地域健康福祉部>保健総室 ◆ お酒にまつわるQ&A
たくさん水を飲めばアルコールは薄まるのか?

 口から飲んだ水では、血中アルコール濃度は大きく変わりません。酒を飲んだ後で、外からの力でアルコール濃度を下げることはほとんどできません。

 AOL Q&A広場 水を飲むと酔いがさめる
 もちろん、水を大量に飲んでも理論上は酔いは醒めません。
 なぜなら水はそのとき必要な量しか身体に吸収されないため、大量に飲むこと自体が(いかような心身状態であれ)意味がないからです。


水を大量に飲んで体に吸収されれば物理的に血中アルコール濃度は下がるはずである。
だがまさにその「吸収されれば」が問題だ。
アルコール飲料には通常多くの水が含まれている。飲み続けて酔った人の体には充分な水分が存在する。経口摂取ではたとえスポーツドリンクでも速やかに吸収されないだろう。だから急性アルコール中毒の治療では水を飲ませるのではなく点滴するのだ。

今のところの結論

 ・ 酒酔い運転をごまかすために大量に水を飲んでも効果は期待できない
 ・ 無理やり血中アルコール濃度を下げたければ点滴する(非推奨)


2ちゃんねるで見かけた意見
714 名前:名無しさん@八周年[] 投稿日:2008/01/09(水) 16:20:17 ID:hk9S8ovg0

なるほど、飲酒で事故ったらひとまず逃げて
水をガブ飲みすればいいのか
いいこと教えてもらったわ

血中アルコール濃度を下げる効果は期待できず、逆に検査をごまかそうとする意図は明らかなのでやってはいけない。
「反省の色なし」とされて罪が重くなるだけだ。


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8 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (たか)
2008-01-09 21:07:26
血中ではなく、呼気中濃度です

このようなケースでは、血液検査を速やかに行うべきなのでしょうね
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Unknown (Unknown)
2008-01-09 23:32:13
>「反省の色なし」とされて罪が重くなるだけだ。

でも、逃げて時間を稼げば、計測の精度が落ちると思う。

証拠不十分で処罰されない可能性は増えるのではないでしょうか。

これを防ぐためには「ひき逃げ」を重く処罰するしかないのではないでしょうか。

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Unknown (Elle)
2008-01-10 01:42:29
利尿の効果が観点から抜けてますよ。
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Unknown (無銘人)
2008-01-10 02:19:55
水を飲んでも血中アルコール濃度は下がりませんが、呼気検査の数値を下げることは可能かもしれません。

ちょっと、というか、かなり怪しい機関による実験ですが、次のようなものがあります。

http://www.soseiworld.co.jp/know/alco1.html

上のページでは創生水というものを用いていますが(この創生水は別の意味で興味深いのですが)、とりあえず単なる水ですから、少なくとも水を飲んだ直後であれば呼気検査の数値は下がるものと考えられます。ただ、今回の事件と状況が異なるので、直接の証明にはなりませんが。

ついでに、肺の奥深くまで空気が到達しないように呼吸を浅くし、複数回に分けて袋を膨らませることで、数値を低く抑えることが可能です。

恥ずかしながら大昔にミニバイクに乗っていたときに、これを実行して無事に検問をすり抜けたことがあります。そのときの飲酒量はビール中ジョッキ5~6杯すので、通常ですと確実に検査に引っかかるはずでした。

そのとき以来飲酒運転はしていません。それを機会に飲酒運転の危険を勉強したのと、自分がそういう姑息なことをしたという事実が非常に情けなかったものですから。
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昔自分がやっていたこと (fix)
2008-01-10 09:46:27
 参考になれば。二日酔いの日は朝から点滴をしていました。水やお茶やスポーツ飲料の摂取では時間の経過とともに酔いが醒めますが、点滴をすると物理的に解消します。まあ、医療関係者です。
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Unknown (Sampo)
2008-01-10 12:43:56
http://d.hatena.ne.jp/Sampo/20060906の記述は、「効果なし」と書いたつもりです。
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Unknown (その他)
2008-01-11 12:48:20
20年ぐらい前に、知人の大学病院の内科医から聞いた急性アルコール中毒の対処法は、
・酩酊しているが意識のある場合
 A.問いかけても返事が怪しい場合、救急車を呼ぶ。
 B.その場で対処するよりない場合、
  1.簡易胃洗浄:大量の水を飲ませた後、口に指を入れ胃の内容物を吐かせる。何回か行う。
  2.大量の水を飲ませて尿を出させる。
    (スポーツ飲料より真水の方が良い。浸透圧の問題で真水の方が吸収が早い為。)
  3.何回か尿を出したら、スポーツ飲料などに切り替える。(尿で排出されたミネラル分補給の為。)
・意識が無い場合
 すぐに救急車を呼ぶ。
でした。
病院での対処方法も点滴と尿道カテーテル、胃洗浄だそうです。

血中アルコール濃度を下げるポイントは十分に排尿をさせる事です。水を飲ませるのは排尿を促す事と失われた水分の補給の為です。

急性アルコール中毒で点滴するのは、
・血中アルコール濃度を下げる為にわざわざ経口~消化器系を経由する必要は無い。
・そもそも意識が無く口から水が飲めない。
・アルコールにより消化器系がダメージを受けていて水を吸収しづらい。
等の為で、スポーツドリンクうんぬんは関係ないでしょう。
体重60Kgの人の血液量は15kg程度ありますので、血中アルコール濃度を半分にするには単純計算で15lの水を飲む必要があります。真水かスポーツ飲料かに関わらず、短時間では無理ですね。

酒酔い運転をごまかす為に水を飲むは無意味との結論は間違ってはいないと思いますが。
気になったので。
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コメントありがとうございます (玄倉川)
2008-01-12 15:47:49
みなさんコメントありがとうございます

>たかさん
酩酊の基準として本当に知りたいのは血中アルコール濃度ですが、警官が採血すると医師法違反になるから呼気検査をしているのだという話を聞いたことがあります。記事中では呼気と血中アルコール濃度は比例するものとして特に区別しませんでしたが大雑把すぎましたね。ご指摘ありがとうございます。

>Unknown 01-09 23:32:13 さん
最近の飲酒運転(だけじゃないけど)厳罰化の世論によって新しい法律ができたり刑期の上限が上がりました。その一方で、世間やマスコミが注目する部分ばかり厳しくなって他のところは放置、といったことがあるようです。刑法全体でバランスが取れてないと社会に不公平感が生まれ、法の穴をかいくぐる行為が横行し、裁判所も運用に困り、全体として逆効果になってしまいます。マスコミや評論家はひとつの事件に興奮するばかりでなく全体的長期的な視点で判断してほしいものです。残念ながら各新聞の社説やテレビのコメンテーターなどは軒並み期待を裏切ってくれましたが。

>Elleさん
利尿効果をあげるにはまず体に吸収しなければなりませんが、ビールとか水割りとかガバガバ飲んだあとで水分を体に入れても速やかに吸収されないように思います。

>無銘人さん
呼気と血中アルコール濃度は必ずしも比例しないのでしょうか。
私には知識がないのでわかりませんが、簡単な方法で検査をごまかせるようでは困りますね。
「創生水」というのは明らかにトンデモ系水商売ですね。「実験結果」を真に受けて検査をごまかせると思う人がいないように釘を刺しておきます。

>fixさん
知人のお医者さんも「確実に効くのは点滴だけ」と言ってました。

>Sampoさん
記事中で引用・リンクさせていただきました。ありがとうございます。
Sampoさんの意図はわかりましたが、どうも私には「スポーツドリンクなら効果あり」という風に読めてしまいます。「わずかに効果あり」と「ほとんど効果なし」という程度のニュアンスの違いですが。
ご本人の意図を尊重して「中間的意見」という分類にいたしました。もしこれでもご不満なら引用・リンクを外しますのでどうぞおっしゃってください。

>その他さん
情報提供ありがとうございます。
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