黒古一夫BLOG

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武漢便り(26)――武漢生活三ヶ月(まとめ)

2012-11-30 10:29:30 | 仕事
 明12月1日(土)、一時帰国する。
 また、来年三月武漢に戻ってくる予定だが、次に来るときのため、とりあえず「3ヶ月間」の武漢生活の総括をしてこの「便り」を終わりにしたい。恐らく、何年も中国で大学教師をしていた人から見れば、僕の「総括」など表面的なものと写るのではないかと思うが、とは言え「三ヶ月」という短い滞在だから見えてきた、ということもあるのではないかという思いもあり、一応いくつかの「項目」別に書いておく(偉そうに聞こえたら、ごめんなさい)。
 <学生(院生)>まず、第一印象は「まじめ」そのもの、というものであったが、三ヶ月経った今でもその「まじめさ」は変わっていないという印象を持っている。こちらの意図(考え方)を理解できず、頓珍漢な応対をする学生もいるが、与えた課題に対してはきちんと期日に提出する。欠席もほとんどなく、体調が悪く欠席する場合は必ず事前に電話で連絡してくる(中には、体調が悪いというのは「うそ」という場合もあるようだが、それは例外とだろうと思っている)。別なところ(図書新聞・海外短信欄)に詳しく書いたので、簡単に記すが、僕が働いている華中師範大学に入ってくる学生は、超一流とまではいかないが、地区では5本の指に入る難関校に入ってきた「エリート」で、そのこともあるのか、日本語科の大学院生たちは、まずは他の大学の日本語教師になりたい、という明確な目標を持って入学し学んでいるので、どんなことでも「日本人研究者」である僕から学びたい、という欲求をもって授業に臨んでいるのだろうと思っている。特に修士論文の執筆に取り組んでいる3年生は、少しでも「いい論文」を書こうと必死で、授業以外の時間に(きちんとアポをとって)質問にやってくる。このような姿は、日本の大学では久しく見られなくなった光景なのではないか。
 〈教師たち>2,3を除いて余り交流がなかったので、本当の姿がどんなものであるか、即断は危険だと思うが、「教育者(日本語の)」はいても、「研究者」は余りいないのではないか、という印象を持っている。日本(新潟大学)において中島敦で博士号を取得した主任(外国語学院副院長)の李俄憲教授だけが、「最近5年間の業績一覧」を垣間見たのだが、数多くの研究論文を発表し、学会報告をしていたが、そのほかの先生については、その「研究実績」に触れることはなかった。中国において、巷間ささやかれている、日本文学の翻訳者(多くが日本語科の教師)はごまんといるが、研究者は数えるほどだ、ということの現実を目の当たりにした、というのが実感である。ただ、先生たちも授業は熱心で、学生たちには厳しいようである。
 〈食事・料理>僕は、これまでにもアメリカやスロベニアでの生活、あるいは旅行に行ったヨーロッパ、アジア(インド・ネパール・タイ・ベトナム、など)でも、「食事・料理」に困ると言うことはなかったのだが、ここ武漢での食事に関して正直に言えば、その「辛さ」には閉口した。改めて僕が「辛さ」に弱いということを認識したのだが、宿舎で行う料理の食材にしても、野菜炒めをしようと買ってきたピーマンが激辛で料理全体が食べられなかった、ということもあった。最近は、「辛くない」野菜を選んで購入しているので、辛くて困ると言うことはないのだが、どうも中国の香辛料が僕に合わないようで、学食での食事にしても、なるべく「辛さ」と「匂い」の少ないものを選んでいる。そうすると、チャーハンにしても、うどん、ラーメンもおいしく食べられるのでいいのだが、料理の幅が少なく、いつも回転寿司でもいいからお寿司が食べたい、という思いがこの3ヶ月間消えなかった。
 <街>ともかく人が多く、大学近くの大通りが今年末に開通すると言う地下鉄に向けて突貫工事をしているので、歩道が狭くなっていて、そこに交通ルール(というのがあるのか疑問に思われるような乱暴な運転・逆走、歩行者の横断道路などを無視した大通りの横断、等々)を無視した車が割り込み、大変混雑している。また、街のいたるところで古い建物を壊して新しいマンションなどが建てられていて、「猥雑」という言葉がぴったりな感じである。ただし、街を歩く人々は、日中関係が「緊張」している今日にあっても、それは「政治=外交」の問題で、私たちは関係ない、とばかりに、日本語をしゃべっている僕の存在など全く無視しており、その点で「さわやか」である。キャンパスの中の学生も、しかりである。もちろん、これはあくまでも「表層」のことで、彼らの「本音」については分からない。
 というようなことを思いながら、三ヶ月ここ武漢で過してきたのだが、今は来年3月に再訪するのを楽しみにしている僕がいることを、この記事を書きながら感じている。
 長い間、「武漢便り」を呼んでくださって、ありがとう。
 また、会いましょう。
 再見。
 

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