黒古一夫BLOG

文学と徒然なる日常を綴ったBLOG

TPPと食糧自給率

2011-11-10 08:38:54 | 近況
 朝日新聞を始め多くのマスコミが「まず参加を!」と言っているTPP(環太平洋経済連携協定)について、その全てについて僕が理解しているということではないが、連日テレビや新聞で「TPP」「TPP]と大騒ぎをしているのを見ると、何年か前の「小泉改革」の目玉であった「郵政改革」(実際は「改悪」だったと僕は思っている)を思い出す。今回の「TPP」問題も先の「郵政改革」も、「アメリカの圧力」によって引き起こされた問題だと思うからに他ならない。
 アメリカという国は、かつての「モンロー主義」を持ち出すまでもなく、自国に有利の時は他国に無理強いをし、自国に不利な場合「黙りを決め込む」という習性がある。今回の「TPP」だって、来年に控えた大統領選挙で前回鳴り物入りで大統領に当選したオバマの再選が危ういという状況下で、「内憂」を「外の問題」で何とか解消しようとした結果、と思えるからである。現に、オバマ大統領も、またTPP担当の外交官も「アメリカ流」の外交、つまり強大国として弱小国に「無理難題」を押しつけるやり方で、沖縄の基地問題に象徴されるように、「属国」的な扱いをしてきた国=日本にどうしても「TPP」への参加を強要していることを隠さない言動を見ていると、どうしても「TPP」参加には胡散臭さが付きまとって仕方がない。
 「TPP」には、医療や保険、知的財産権(著作権)など24項目の交渉項目があるようだが、やはり一番の問題は、JA(農協)やその他の農協団体が騒いでいるように、「農業」問題、とりわけ食糧自給率の問題だろうと思う。先日テレビで、日本の米の標準価格とカリフォルニア米の価格とを比較すると、日本の米はアメリカの米の10倍の価格だと言うことを報道していて、日本の米はカリフォルニア米より「うまい」から価格競争に負けても、販売競争には負けない、というようなことをコメンテーター及び大規模米農家の人が言っていたが、本当に日本の米は「うまい」から国際競争に勝ち抜けるのか、と言えば、僕の経験から言って「負ける・ダメだ」と思う。
 まず、日本の米が他国の米より「うまい」というのは、経験的な言い方をすれば、「幻想」「世迷い言」に過ぎないということがある。例えば、僕はかつて亜m、絵里香に半年ほど暮らしていたとき、もっぱら(最高級のうまい)カリフォルニア米を食べていたが、その時の値段は日本の価格の10分の1以下であった。もっと安い(まずい)米も売っており、それは15分の1以下であったと記憶している(一度買ったが、まずかったので、チャーハンやおじやにして食べてしまった)。聞くところによると、日本のコシヒカリなどの「うまい米」の籾を日本から持って行って育てたものだから、「うまい」のは当たり前だということであった。
 また、「まずい米」の代名詞のように言われてきた東南アジア産の米についても、僕はタイ、ベトナム、フィリピン、台湾、インドネシアの米を現地で食べてきたが、そのいずれの土地の米も決して「まずく」はなかった。不思議に思い、何故日本で食べるタイ米やベトナム米は「まずく」て、現地で食べる米は「おいしい」のか、聞いてみたところ、日本に輸出するのは「下級米」で、現地の旅行者用のレストランで使う米は「高級品」だから、と言う答えが返ってきた。そして、もし「自由競争」させれば、絶対「日本の米」に「味」でも「価格」でも(価格の場合は、初めから競争にならない)負けない、とも言っていた。
 「TPP」に参加し、条約を結べば、それらの「うまくて」「安い」米がどっと日本に入ってくる、日本の米農家で生き残れるのは何軒か。現にある人々は、「貧乏人は安い外国米を食べ、金持ちは国産米を食べればいい」とまで言っている。「1パーセントの大金持ちと99パーセントの貧乏人」というアメリカ型の社会に、日本もなっていくのだろうか。
 米だけではない、果物や野菜などもTPPにさんかし条約を結べば、易々と日本に入ってくる。もちろん、一部の野菜や果物は国内産が生き残るだろう。しかし、大多数のものは「輸入」せざるを得ないのではないか。そうすれば、必然的に食糧自給率は、下がる。現在、食糧自給率は40パーセント前後だが、その数は必ず下がる。米や野菜を作らなくなったら、田畑はどうなるのだろうか。かつての高度経済成長時代やバブル期には、そこが工業団地や住宅団地に変わったが、現在はタイの大洪水で分かったように、日本の企業の多くがタイなどの開発途上国に進出(逃亡)していることを考えれば、米や野菜を作っていた田畑は、草ぼうぼうの「荒れ地」になってしまうのではないか。
 農業(食糧自給率)問題だけでもこれだけの問題点があることを考えれば、他の保険や医療などについては、推して知るべしである。
 フクシマが収束しない今、日本は大きな岐路に立たされている、と言っても過言ではないのではないか。
 この国を指導する「ドジョウ」、困ったものだが、案外したたかなのかも知れない。