日本史学習拾遺

日本史よもやま話、授業の補足、学習方法

ぐるっとパスで「色の博物誌」「武士と印刷」

2016-11-28 00:54:10 | 博物館学芸員関係
ややごぶさたしています。その間に、14日のことですが、博物館学芸員資格課程のレポート「博物館資料保存論」が返ってきて、「合格」でした。これも全く手探りで自信がありませんでしたが、結構評価はよかったので、甘いのかな??

秋は例年ですが学校行事等で忙しく、レポート提出の予定もだいぶ遅れています。次に今レポートを書いているのが「博物館資料論」です。

あと1年で学芸員資格課程を終わらせるつもりでいましたが、「展示論」や「経営論」は手強く、また、多くの博物館を見てからにしようかなと思うようになりました。というわけで、来年度実習を受けるために必要なレポートも今年度中に提出・合格できる見込みが薄くなり、あと1年での学芸員資格課程の修了は無理っぽいです。
今年度は、代わりに、「生涯学習概論」他、簡単そうなレポートの数を稼ぐことにします。

実は、5日前に、奈良・吉野や長谷寺に、紅葉を見に行く旅をしてきたのですが、その話題は先延ばしにして・・・紅葉はきれいでしたよ。代わりに、今日は、東京の博物館のチケットブック「ぐるっとパス」を使って、博物館を見てきたので、ここに整理しておきたいと思います。
今月は、四つの博物館・美術館に行きました。前回、「禅」と「月」の展覧会について書きました。今日は、13日に見た「色の博物誌―江戸の色材を視る・読む」(目黒区美術館)と、今日見てきた「武士と印刷」(印刷博物館)について書きます。

まず、目黒区博物館の「色の博物誌―江戸の色材を視る・読む」です。
https://mmat.jp/exhibition/archives/ex161022
江戸時代に絵を描く時に使われた色材について紹介する展示でした。印象に残った点を以下、書きます。
まず、いわゆるツユクサ、も色材だったのだということです。実際には、ツユクサを改良して「青草」というものにして、青い色をとっていたらしいです。ツユクサは確かに花びらをつぶしたりすると青い色が手などにつきます。
他にも、ベニバナや鉱物などからとった色のサンプルや、実際に絵画に使われている例が展示されていました。

照明は、やや暗く、色も白色ではなかったので、本当の色がややわかりにくかったです。

多くの江戸時代の本も展示されていたのですが、開いているページ以外を見るために、タブレット型パソコンが置いてあって、画面をタップしてぺらぺらページをめくったり、拡大したりということができました。タブレットPCを使っているのを見たのは初めてかもしれません。パネル型の触れることのできる画面はよく博物館等にありますが。

現在の岡山県:備前国の国絵図が展示されている部屋がありました。江戸時代に各国が作らされた国絵図ですが、こんなに大きいのか?と思うほど、部屋一面に地図が広げられていました。
「色」の展示になぜ国絵図かというと、その絵の中で、海は紺色とか、金色の線(金泥)とか、赤い境界線とか、たくさんの種類の色を使って表現されているので、その説明がされているのです。

奈良大の「歴史地理学」スクーリングでも、絵図を使って、現在の土地の状況と比較したりということをしました。その中で先生が、こういう絵図を、いつまでもずっと観察している変な人になってください、という趣旨のことを言いました。確かに見ているといろいろな情報が詰まっていて、面白いのですが、私は粘りがなく淡泊なので、長時間は見る気にはならないな・・・と思いながらその場を後にしました。そこにも、タブレットPCが置いてあって、国絵図を拡大したりして見ることができました。興味のある人は存分に見られると思います。

色の使い方が違う2枚の版画が並べられていたりして、いろいろな表現があるのだなということがわかりました。

全体として、色材の実物をふんだんに見ることができたりして興味深かったのですが、私はコンタクトをしても視力がよくないことなどもあってか、照明が暗めで解説が見にくかったり、色を見るのにこの照明が適切なのだろうかと思ったり、しました。つい、学芸員資格課程で勉強していると、欠点を探そうとしてしまいますけれども・・・
タブレットPCを活用していたのはなかなかよかったと思います。今後も使う博物館等が増えていくかもしれません。

次に、今日見てきた印刷博物館の「武士と印刷」です。こちらも、「ぐるっとパス」があれば無料で入れるし、都心にあって近いので気軽に行って来ました。凸版印刷がやっている博物館です。
http://www.printing-museum.org/exhibition/temporary/161022/index.html

中に入ると、案内の方に、これから安土城のVR(ヴァーチャル・リアリティ)が上映されるのでいかがですか?20分くらいです、と言われ、スルーしようかとも思ったのですが、博物館学芸員資格課程の身として、さまざまな形態の展示の工夫・経営努力などを学ぶためにも、見ておくか、ということで見ることにしました。
VRシアターへのかどかどに、案内の女性が一人ずつ、計3名くらいついていて、手厚いなあと思いました。お客さんはそんなに多くないんですけどね。今チラシを確認したら、このVRシアターは土日などの休日でないと開いていないようです。

曲面の巨大なスクリーンに、安土城のVRが映し出されました。なかなかよくできています。水面から見たり、上空から見たり、内部に入ったり・・・これは、滋賀県の近江八幡市にある「信長の館」でも上映されているもののようでした。風邪をひいていたりして体調があまりよくないのと、このVRを目当てに来たわけではなく、たまたま誘導されて見に来たのと、会場が心地よいのとで、終わりの方でうとうとしてしまいました。
「信長の館」のチラシも置いてあって、それを見ると、そこのレストランの食事の写真も載っていて、「信長ハンバーグ定食」とか、「戦国焼き定食」とか、「近江牛牛丼」とか、お手頃な値段でおいしそうなんですよ。
滋賀県もそういえば宿泊したことがないので、いつか行ってみたいです。

さて、印刷博物館の展示ですが、1階が無料で入れる展示、地下が有料です。
企画展示中心に紹介しますと、今回の「武士と印刷」は、
第一部「武者絵に見る武士たちの系譜」
第二部「武士による印刷物」
に大きく分かれています。

第一部の武者絵は、そういえば時代順に展示されていました。最初が平安時代で、鬼退治をした渡辺の綱らの絵がトップでした。渡辺家は鬼退治をしたから節分に豆まきをしなくていいんだ、と父親が言うので子どもの頃はあまり家で豆まきをしませんでした。そういう渡辺綱が出てくる絵の隣が、私の好きな源為朝の絵でした。最初の方から私にとって興味深い絵が出てきたので楽しくなりました。しかし何しろ、解説のプレートの文字が小さいので、一つ一つ、目がいまいちよくない私は腰を折るようにして読みとらなければならず、全部の絵を丁寧には見ませんでした。展示室も広くて、おなかいっぱい、という感じになりました。

第二部は、約70人の武士が刷らせた約160点の印刷資料が展示されています。大きな日本地図に該当する各藩の名称が表示され、そこに対応する武士(大名)名と印刷物名が表になっていました。

全部を丁寧にみると膨大な時間がかかってしまいますし、基本的に江戸時代の版本が、あるページを開いて展示してあるだけなので、私も興味がある武士の名前が見えるものだけをややじっくり見る程度で、駆け足で見ました。

伏見版とか駿河版という言葉は、奈良大通信の書誌学で勉強しました。駿河版の活字なども展示されていて、家康が作らせたとのことですが、大したものだなと感心しながら眺めました。

高校日本史的には、徳川光圀の『大日本史』など、教科書にも出てくる本が、大きいスペースにダーッと並べられていました。

他には、豊臣秀頼、柳沢吉保なども、出版をさせているんだなあと目にとまったり、あとは何といっても私の実家・白河の殿様だった松平定信の『集古十種』をはじめとする出版物群は、初めて見たのですがややじっくり見ました。『集古十種』は、かなりの大判でした。松平定信はやはりさすがです。文化人であるなと改めて思いました。小さな自分の歌集もありました。また、谷文晁が描き、定信が「賛」を入れたという『異国船図』という掛軸があって、これによって定信は、国防の必要性を喚起しようとした、という説明書きがありました。
本当にたくさんの武士(大名)の印刷物が出ているので、お目当ての武士のものだけでもよいので見るのもよいと思います。

以上が企画展示で、常設展の方も続けて見ることができましたが、こちらも広いスペースでかなり充実していました。グーテンベルクの印刷機の復元したものなどもありましたし、浮世絵の刷り方を分解して説明してあったり、ゆっくり見ようと思えばいくらでも見るべき所はありました。

企業が運営している博物館でも、こんなにゆったりとして、充実した博物館もあるのだなと感心しました。企画展は来年1月15日までです。


印刷博物館の入り口です。左側から入ります。

「禅」と「月」

2016-11-13 13:45:27 | 自己啓発
昨日は、8週間ぶりくらいに自由な土曜日を過ごしました。
それで、私の好きな佐倉の宗吾霊堂にごあいさつに行き、帰りに上野の東京国立博物館平成館で「禅 心をかたちに」の展示を見てきました。
いろいろ書きたい記事はたまっていますが、とりあえず、昨日の小旅行の話題を。

宗吾霊堂は、このブログの過去の訪問記事をたまたま見て思い出し、秋の風情を味わいに行ってこようかなということで参りました。

駅からの道中、民家の庭に、柿をはじめ、秋の実りを見ることができ、景色とともに静寂も味わうことができました。




地元では「宗吾様」とも言われているようですが、すでに私にとっても「宗吾様」と呼べるくらい、親しみを感じます。江戸時代の義民、佐倉宗吾(惣五郎)さん、私には同じような自己犠牲ができるかといったらとてもできそうもありませんが、時々心に銘記しなおすということをしたいと思っています。
境内では、何かのイベントだったのか、小規模ですが、いくつかの出店が出ていました。

短時間で駅に戻り、残りの時間で、上野の東京国立博物館の展示を見ることにしていました。
博物館学芸員資格課程の勉強のためにも、たくさん博物館を見よう、と心に決めたため、今日はそれを実践しました。

11月3日に渋谷区立松涛美術館の展示「月―夜を彩る清けき光」も見てきました。
こちらが11月20日で終わってしまいますし、「禅」もその1週間後に終わってしまうので、早めにこちらで紹介しておこうと思った次第です。

東京では「ぐるっとパス」というチケットブックが一冊2,000円で販売されていて、私もだいぶ以前に一度購入して博物館等をいくつか見たことがあります。これは、都内79の美術館・博物館等の入場券・割引券が綴られたもので、購入した日から2ヶ月間利用可能です。対象施設のチケット販売窓口で購入できます。

https://www.rekibun.or.jp/grutto/

本当は、松濤美術館に行った時にぐるっとパスを購入するつもりでいたのですが、すっかり失念していて、入場料1000円を支払ってチケットを買った後で、しまった、と気が付きました。松濤美術館ならばぐるっとパスで企画展も見られるので、1000円を支払う必要はありません。
そのように入場料が実質タダになる施設と、今日行った東京国立博物館の特別展のように、100円割引になるだけの場合などがあります。例えば上野動物園もぐるっとパスだけでOKです。

さて、東京国立博物館平成館の「禅 心をかたちに」です。

私は弓道をやるのですが、弓道も「立禅」といわれるくらい、呼吸法や心の持ち方などが禅に通じるところがあります。そうしたことから、禅にも興味があり、もしかしてこの展示の中に、弓道にまつわるものが何かないかな、と期待もして行きました。

チケット売り場では、同時に開催している「平安の秘仏―滋賀・櫟野寺の大観音とみほとけたち」のブースの数は多いのに並ぶ人はまばらで、一つしかない「禅」のブースに列ができていて、「禅」の方が人気があるんだなあと感じました。私も、平安の秘仏の方はいまひとつ、食指が動かないのですよね。せっかく大きな仏像が来てくれているようなのですが。

お客さんの数は夕方でも結構多かったです。若い人も多くて、禅というものに、若い人も興味を持っているのかなと感じました。

展示室の一番最初のスペースに、「禅とは何か」という解説があります。
端的に言うと、禅とは、自分の心の中に仏を見つけることであるようです。

臨済宗・黄檗宗の源流に位置する高僧、臨済義玄禅師の1150年遠諱と、日本臨済宗中興の祖、白隠慧鶴(はくいんえかく)禅師の250年遠諱を記念する展覧会とのことです。
一番最初に展示されてお客を出迎えるのは、達磨像(白隠慧鶴筆)で、この達磨さんは、とてもデフォルメされたぎょろ目で、ある種現代のマンガのような雰囲気です。この絵がこの展覧会のシンボルのようになっています。

私の母方の実家(白河市)の方のお墓は、黄檗宗のお寺にあります。昔からそこが菩提寺だったわけではなく、別のお寺から実家の近くのお寺ということで移したのですが、福島県にも黄檗宗というのは珍しいと昔から思っていました(後で調べたら福島県では唯一だそうです)。白河も城下町なので、かなりいろいろな種類の宗派のお寺があるということはなんとなく知っています。

黄檗宗によるお葬式にも参列したことがありますが、鮮やかな色の袈裟を着て、特徴的な楽器をチリーンと鳴らしながら行われる、結構派手な雰囲気のお葬式だなという印象を持っています。
黄檗宗は、江戸時代になってから伝わった禅宗宗派ということで、日本史の教科書にも出てきます。このブログでも以前記事にしました

そうした、黄檗宗関係の展示も多いようなのでその点も興味を持って見て来ました。

全体的に、掛軸と、絵画が多く、彫刻も少なめですが出ていました。禅宗ですので、弟子に与える禅僧の画像=頂相(ちんぞう)が多かったです。「頂相」の用語は日本史教科書にも出て来ますね。展示では、「自讃」と表示されていました。結構、写実的なんですね。

簡単に、印象に残った作品を挙げますと、雪舟の「絵慧可断臂図」(えかだんぴず)・・・
坐禅をする達磨に向かい、神光(のちの慧可)という僧が弟子となるべく己の左腕を切り落とす場面を描いたもの、が、かなり大きな絵で、雪舟は人物も描くんだな、とか、色を使ってるんだな、とか、考えさせられました。
日本史の教科書か図説にも載っているような人物像もいくつかありました。
北条時頼の木像、豊臣秀吉の画像、織田信長の正装した画像などもじかに見ることができてラッキーな気分でした。
一休宗純の愛用品の他、一休の肖像もありましたが、斜に構えてこちらを見ている構図は珍しいという解説もあり、頭を坊主にしていないとか、画像を見ただけでも、一休は型破りな印象を与えられます。
日本史の教科書にも出てくる如拙の「瓢鮎図」もナマで見られてよかったです。ひょうたんでナマズを捕まえるにはどうしたらいいか、という禅問答=公案の絵で、教科書では絵の部分しか載っていませんが、絵の上の方に、その問いに対するお坊さんたちの答えが、たくさん書かれているのを今回初めて実物を見て知りました。ナマズをどうやって捕まえるかについては、私も授業で生徒に聞きますが、答えは出て来ません。私は、たまたま答えらしいものをある所で聞きましたが、皆さんは答えを知っていますか?
絵そのものは、とても見事で、ナマズも小さく書かれていますが、とても線が美しくていきいきして見えます。

何が出展されていて何が目玉なのかよく知らずに行ったのですが、とても見どころの多い、お得な展覧会でした。
ただ、禅とも関係のある弓道に関するものは、出ていませんでした。まあ、難しいですかね。

学芸員の学内実習で、掛軸の扱い方なども学んだのですが、その過程で知ったことに、掛軸の上の方から、二本の帯のようなものが下がっているということがあります。これを風帯といいます。そういえば、そんなものが下がっているんだな、と初めて認識しました。そういうことを知ったものですから、博物館の展示でも、風帯がついているかどうかも見てしまうのですが、ほとんどついていました。ついていないものも一つ二つありましたが。

私の実家に、曾祖父が集めていたという掛軸のうちの1本がかかっていて、それは、江戸時代の谷文晁の弟子が描いたもののようなのですが、実家に帰った時に確認したところ、風帯がないんですよね・・・ニセモノなのかな??と思ったりもして。
ただし、展覧会に出ている掛軸の風帯は、全体的に、妙に、新しい感じがするんですね。後からとってつけたんではないかというような・・・古いものもありましたけれども。妙に、ぴんと張っている、古びていないものが多いのです。
風帯について、よく知らないので、実態はどうなのか、教えていただける方がいらっしゃったらお願いします。

続けて、松濤美術館の「月」の展覧会について簡単に紹介します。

私は天文が好きなので、月についても日常的に興味があります。その月を特集した展示を、しかも、気候のいい秋にやる、ということで、見に行こう、となったわけです。松濤美術館も雰囲気がいいですしね。

ちなみに、明日はスーパームーンですね。その大きさは68年ぶりとか?

展示で印象に残ったのは、昔の絵では、必ずしも月が空の上に描かれているのではないということです。源氏物語の絵などでは、空にはなくて、下の方に描いてありました。水面に映っているのを描いているのでしょうか。また、武蔵野には月が昇る(沈む)ための山もない、という歌から、月が草の中に沈んでいる?面白い絵もありました。
絵画だけではなく、刀のつばとか、さまざまな工芸品の意匠となっている月も見ることができました。いやーよく集めましたね。堪能しました。
お客さんも結構来ていました。

・・・話は昨日の東京国立博物館に戻りまして、16時前に入館し、出てきた時には、外は薄暗くなっていました。月曜日にスーパームーンとなる月は、すでにかなり大きく見えていました。博物館からは、スカイツリーと月という構図でも撮れました。写真を撮っている人が結構いました。


暗くなってライトアップされた博物館もすてきですね。

それぞれ月が写っていますが、見えますか?

以上、駆け足ですが終了間近な展覧会について紹介させていただきました。
これからぐるっとパスを持って一つ展覧会に行って来ようかな。