まろの公園ライフ

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『東京物語』

2016年10月18日 | 日記

久しぶりに小津安二郎が観たくなった。
ご存じ『東京物語』である。
数ある小津作品の中でも一番好きかも知れない。

1953年の封切りだから私が生まれた年である。
主演は笠智衆と東山千栄子、そして原節子。
当然、モノクロ映画なのだが
その落ち着いた質感と小津ならではのローアングル演出が
実に効果的で味わい深い映画に仕上がっている。
映画はやっぱり白黒がいいなあ・・・



尾道で暮らす周吉と妻のとみが
東京で暮らす子供たちの家を久しぶりに訪ねることになる。
しかし、長男も長女も日々の暮らしに忙しく
どこか迷惑に思う気持ちあって
その場しのぎのスケジュールで両親を迎える。

有名な熱海のシーンである。
兄妹で金を出し合って年老いた両親に温泉旅行をプレゼント。
という美談ではなく、体のいい厄介払いである。
観光地の熱海は人も多くて騒がしく
一晩中ろくに眠ることも出来なかった二人は
早朝、近くの海岸へ散歩に出かける。
東京で忙しく働く子供たちをうれしく思いながらも
やはり寂しさは隠せない。
子供たちに迷惑をかけているせいで
そろそろ帰ろうか・・・などと言ったりする。



そんな中・・・
両親を心からもてなしたのが
戦死した次男の嫁である紀子(原節子)だった。
わざわざ仕事を休んで二人を東京見物に連れて行ったり
自宅アパートに招いて夕食をふるまったり
心のこもった接待に二人は感激する。
紀子がお隣からこっそり借りてきたお酒を
うれしそうに味わう周吉の横顔がなんとも印象的であった。
味噌や醤油など何でも気軽に貸し合った
当時の庶民の暮しぶりが窺い知れるいいシーンだった。



そんな紀子の愛情にふれ
満足な気持ちで尾道に帰った二人だったが
数日後に妻のとみが急死。
突然の訃報に長男や長女、紀子も慌ただしく帰郷するが
葬儀が終わるとそそくさと東京に戻ってしまい
後に残って最後まで周吉の世話を焼いたのはやはり紀子だった。
周吉はそんな紀子にとみの形見時計を渡しながら・・

 「結局、実の子供たちより
  他人のあなたに一番お世話になってしまったね」

そのやさしい言葉に号泣する紀子。
まあ、よくある話と言えばそうなのだが・・・

親子とは、夫婦とは
家族とは何かをしみじみと考えさせる映画だった。
一つ一つのシーンが実に丁寧に撮られていて
何気ないセリフも吟味し尽くされいる。
この映画は何度も観たが
そのたびに新しい発見がある映画だと思う。

東京物語のオマージュとして制作されたのが
三年前に公開された山田洋次監督の「東京家族」である。
山田洋次監督50周年のこの記念作も
なかなか味わい深く日本アカデミー賞の作品賞にも輝いた。
山田監督らしい喜劇の味つけを施しながらも
出来る限り「東京物語」に忠実に描かれたこの作品は
小津安二郎への尊敬の念に貫かれている。

親子とは、夫婦とは、そして、家族とは何か?
それは今や映画だけでなくあらゆるジャンルを超えた
最大のテーマである。