☕コーヒーブレイク

時が過ぎていく。
ときには、その日の風まかせ。
ほっとひと息しませんか。

日本語大賞 『感謝の気持ちを言葉に』

2023-02-28 09:34:33 | 日記
第14回日本語大賞『感謝の気持ちを言葉に』 一般の部 豊 恵子さん
 一部抜粋し記載。

五年前、私はガンになった。長期入院や抗ガン剤治療を経て、命はつながり今に至る。
夫婦二人暮らし。夫はもともと優しい人だったが、退院後は私の体調を心配して、
より優しく接してくれた。ガン再発の可能性を考え自分の命の心配もあったが、
優しい夫との生活は幸せだった。

わが家の朝は、キッチンで夫と二人並んで調理するのがいつもの光景だった。
専業主婦に限らず主婦が家族みんなの朝食準備を行うのが一般的だが、
私たち夫婦は互いの朝食を準備した。夫は私のために、私は夫のために調理した。
夫はガンに効果があるらしい自家製野菜ジュースを毎朝かかさず私のために作ってくれた。
人参をはじめとした複数の野菜や果物を切ってジューサーにセットする。
野菜ジュースを絞ったあとの搾りかすや洗い物や片付けも全部きちんと最後までやってくれた。
その間に私は珈琲を淹れながら、夫のための朝食作り。それに加え夫が会社へ持っていくお弁当を作る。
大柄な夫とせせこましく広くもないキッチンで二人まな板を並べる朝は慌ただしくも愉しい日常だった。

ほかにも夫婦で何年も続けてきたことがある。私にガンが見つかる前から、朝晩に握手とハグを。
それがある日突然、いつもの日常がなくなってしまった。
新型コロナウイルス感染症で夫は帰らぬ人となってしまった。夫が亡くなってもうすぐ一年が経とうとしている。
日常の些細なことでも「ありがとう」の声掛けが常に、わが家にはあった。
当たり前のようにするべき家事一般のあれこれや当然の役割も自然に「ありがとうね」と言ってくれていた。

夫がコロナ感染症で入院したとき、病院へ見舞いには行けないが毎日リモート面会させてもらった。
人工呼吸器が付けられている夫は口頭で話すことができないため、筆談になった。
最期は読めるかどうかの筆圧の弱い薄い文字。残っている力を振り絞って命がけで震える手で文字を残してくれた。
「もう戻れる気がしないので......たぶん今夜でおわりと思うので......もう無理だと思う。もう書く力もないです。
げんかいです。ありがとうございました。とても幸せな日々でした」
持てる力を出し切って最後に感謝の言葉を綴ってくれた。発病から一か月のことだった。

夫と夫婦でいられたことが本当に幸せだった。心から夫へ感謝の思いでいる。
「こちらこそ、ありがとうございました」夫とともに過ごした時間、思い出すべてに深く感謝する。
「ありがとう」をありがとう

コーヒーブレイク

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