ヒナフキンのスサノオ・大国主ノート

「神話探偵団~スサノオ・大国主を捜そう!」を、「ヒナフキンのスサノオ・大国主ノート」に変更します。雛元昌弘

神話探偵団77 イタテ(射楯)とイタケル(イソタケル:五十猛)

2009-12-04 22:06:07 | 歴史小説
広峰展望台から播磨平野、播磨灘を見る(神戸壁紙写真集より)
(http://kobe-mari.maxs.jp/himeji/hirominesan.htm)

「またまた横道にそれてきたけど、射楯(イタテ)とスサノオの子の五十猛(イタケル、イソタケル)が同一人物という証拠はあるの?」
このマル姉の問いかけは、いつものように高木の出番を促す合図である。
「ずっと前に検討しましたが、日本書紀の一書第4には、五十猛は父のスサノオと木種を新羅から持ち帰り、筑紫を始め、各地に植え、紀伊国の大神となった、と書かれています。そして、紀伊国一宮の伊太祁曽(いたきそ)神社に祀られています。イタケルとイタキソ、どことなく似ています。
また、古事記では紀国の大屋毘古が大国主を助ける話が出てきます。
一方、射楯大神は、播磨国風土記では『因達(イダテ)神、伊太代(イダテ)神』として登場しますが、記紀には登場しません。しかし、イタテ+タケルが、イタケルに変わった可能性はありますね」
「オオヤビコは、大矢彦の可能性もあるから、射たて、射猛と同じように、弓矢の得意な勇士、という同じ意味の名前になるわね」
さすが、小説家らしいヒメの発想である。
「しかし、これから登る広峯神社には、スサノオと五十猛が祀られていますが、伊太代(イダテ)神は少し離れた因達里に祀られていますよね。すぐ近くに別々の名前で祀られているということは、別人の可能性はありません?」
ヒナちゃんが、積極的に通説外しの発言をしだしたので、高木はびっくりした。ヒメの影響を受けてきたのかなあ。
「そうなんだよね。延喜式神名帳には、出雲に韓国伊太氐(いだて)神社が6社でてくるが、イダテ=五十猛説にははっきりとした根拠はないんだな。これとは別に、熊野大社を始め、出雲にはスサノオと五十猛を祭神とする神社も多い。イタテと五十猛は別人の可能性もある」
慎重な長老らしからぬ援護射撃である。
「古事記では、大屋毘古はイヤナギ・イヤナミの生んだ子どもとして最初に現れ、次に大国主を助ける話がでてきます。これを信用すると、大屋毘古はスサノオの兄弟神の可能性があります」
確かにそうだった。高木も気になってアンダーラインを引いてはいたが、突き詰めては考えていなかった。しかし、そう簡単には認めるわけにはいかない。
「そうすると、紀伊国には、五十猛とオオヤビコの二人がいることになりません?」
高木は、とりあえず反論しておくことにした。
「紀伊国の熊野本宮大社の主祭神の家都美御子大神(けつみみこのおおかみ)はスサノオとも言われていますが、はっきりしていません。紀伊国一宮の伊太祁曽神社が五十猛を祀り、大屋毘古は熊野本宮大社に祀られた可能性もあります」
「なるほど。大屋と、家(け)、どちらも家の神様の可能性があるよね」
ヒメの発想はどこまでも柔軟である。
「スサノオの兄弟や子ども達がそれぞれの進出地で定着し、始祖王の祖先霊を祀っているとしたら、播磨にはイタテ、ヤマトには大年、紀伊にはオオヤビコを頼ってイタケルが進出した可能性はあるかもしれんな」
またまたカントクがヒナちゃんに助け船である。長老、カントクともに甘い、甘い。
「イタケル・オオヤビコ・イタテ同一人物説、イタケル・オオヤビコ・イタテ別人物説、オオヤビコ・イタテ同一人物説など、諸説が入り乱れてきたけど、決め手はないんじゃない?」
マルちゃんがまとめに入ってきた。
「播磨国総社のイタテ大神は、スサノオの子のイタケルの可能性が高いが、別人の可能性もある、ということにしておきましょう」
ヒメが突っ張らないで認めたところをみると、どうやら他に関心が移ったようである。
「しかし、出雲に韓国伊太氐(いだて)神社がある、というのは気になるなあ。この韓国とヒメの出身地の白国との関係はないのかな?」
カントクとヒメは、同じことを考えていたに違いない。高木も考えていたところであったが、スローなので、いつも発言は先を越されてしまう。
「ちょうど、白国に入ってきたわよ。播磨国風土記では新羅訓(しらくに)と書かれているので、新羅ゆかりの地であることは間違いないと思うわ。その議論は、夕方、白国神社に詣った時にやりましょう」
広峰山は姫路市の北に屏風のように連なっている。車はきついカーブを登っていった。眼下には、姫路の市街地が広がっている。合併を繰り返し、人口54万人になった中核市である。
その中央には、姫路のシンボルである姫路城が聳えている。臨海コンビナートの彼方には、瀬戸内海がキラキラと輝いており、家島諸島や小豆島、四国が見える。

(日南虎男:ネタモトは日向勤氏の『スサノオ・大国主の日国―霊の国の古代史』梓書院刊です)

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