ヒナフキンのスサノオ・大国主ノート

「神話探偵団~スサノオ・大国主を捜そう!」を、「ヒナフキンのスサノオ・大国主ノート」に変更します。雛元昌弘

神話探偵団93 阿讃播(あさんばん)連合

2010-07-19 12:01:33 | 歴史小説
竜山石製石棺:高槻市インターネット博物館(http://www.city.takatsuki.osaka.jp/rekishi/takumi-kansei.htmlより) 今城塚古墳(継体天皇陵の可能性大)で見つかった、竜山石・二上山白石・阿蘇ピンク石の家型石棺を市民の手によって同じ石材で3年ががかりで復元した。素晴らしい。


「そもそも、播磨と讃岐というのは、関係があったの?」
子どもの時から質問魔で教師を困らせていたヒメの質問は止まらない。
「現在はたつの市に合併されたが、たつの市御津町の綾部山古墳は、『日本最古級の古墳』とされる三世紀中頃の円墳がある。この古墳は『石囲い三重構造』の石槨で、同じ形式の古墳が香川県丸亀市綾歌町と讃岐の鳴門市から見つかっている。弥生末期から古墳時代への移行期に、播磨灘の海上交通を支配した阿讃播(あさんばん)連合があった可能性があるんだ」
さすがに長老は詳しい。
「讃岐の羽若石の産地と、『石囲い三重構造』の古墳は同じ地域なの?」
「讃岐の羽若の比定地は、香川県の綾歌郡の国分寺町、綾南町などで、『石囲い三重構造』の石槨が見つかった綾歌町も昔は同じ綾歌郡なんだ。3世紀中頃から播磨と讃岐、讃岐の王が婚姻関係にあったとしたら、5世紀初頭に息長帯日女が仲哀天皇の石棺の石材を求めて、羽若石をこの竜山に運んで加工した、という繋がりがあったとしても不思議ではないね」
慎重な長老も今日は思いきった発言をしている。
「阿讃播連合って面白いわね。学者はなかなか、思い切れないだろうけど、大国主一族が阿讃播を支配し、その子孫達が婚姻関係を維持した、という古代史推理小説なら書けるわね」
ヒメはまたまた、新しい小説のストーリーを考えついたようだ。
「最近、畿内説の人達は、3世紀の中頃、卑弥呼の時代に纒向を中心に九州から東海地方まで支配した古代国家があった、と言い始めていますよね。こそうすると、阿讃播連合は畿内にあった邪馬台国の下で、豪族達が連携を取り合っていたことを示している、ということになりません?」
畿内説派の高木としては、そう簡単には認めるわけにはいかなかった。
「ついに邪馬台国論争に発展してきたか。俄然、面白くなってきたな、今晩は寝られなくなるかな」
カントクの目は、好奇心に満ちた子どもの目になってしまっていた。
「それは次の機会にしたいな。今日は、3世紀中頃に阿讃播連合があった、息長帯日女の時代にも、この播磨と讃岐は密接な関係があった、ということにしておいたらどうかな」
邪馬台国論争大好きな長老が、なぜだろう。どうやら、今日は別のところに関心があるようだ。
「それより、ヒナちゃんの問題提起だけど、大和の二上山に同じような凝灰岩があるのに、なぜ、本家本元の聖なる山の墓石を使わないで、わざわざ遠い竜山石や羽若石を天皇の石棺に使ったのか、気になるのよね。邪馬台国畿内説だと、説明できるの?」
ヒメのこのような逆襲を高木は予想もしていなかった。考えるのに時間がかかる高木としては、大ピンチであった。
「その前に疑問があるんだけど、卑弥呼が纒向にいたとしたら、卑弥呼の鬼道は、いったい誰を鬼=祖先霊として祀ったことになるのかしら?」
マルちゃんが追い打ちをかけてきた。
「そりゃあ、三輪山に祀られた大物主、我々が明らかにしてきたように、スサノオの子の大歳になるね」
九州説のカントクの意見にうかうかと乗るわけにはいかないが、高木には考える時間ができたのでありがたかった。
「そうすると、卑弥呼は大物主の直系の子孫、ということになるわよね。しかし、纒向の箸墓に葬られているヤマトトトヒモモソ姫が、記紀では大物主の妻ということになっているのは、どう考えればいいのかなあ」
マルちゃんは、畿内説・九州説では中立だと言っていたのに、畿内説の痛いところを突いてくる。
「それより、三輪山のちょうど真西にある二上山も神那霊山だよなあ。大和の王にとって、祖先霊が降り立ってくる大事な神那霊山の二上山の石で棺(ひつぎ)を作ることこそ、霊継(ひつ)ぎには欠かせないんじゃないかな?」
九州説のカントクは容赦ない。
「初歩的な質問だけど、天皇家の神那霊山はどこになるのかしら? 畿内説だと、卑弥呼の神那霊山は三輪山にならざるをえないけど、天皇家の神那霊山も三輪山になるのかしら?」
ヒメがまたまた、爆弾質問を投げてきた。高木の脳内処理スピードを遥かに越えており、考えをまとめるどころではなかった。
「それは考えてもみなかったなあ。天皇家の祖先霊が降り立ってくる神那霊山が奈良盆地にないということは、天皇家は奈良盆地をルーツとする一族ではない、ということになる」
九州説のカントクががぜん優位である。
「天皇家に神那霊山がないということは、鬼道で30の国をまとめた卑弥呼の後継者ではない、ということにもなりますね」
ヒナちゃんは、畿内説で有名な石山研究室の大学院生なので、高木はヒナちゃんが畿内説派だとばかり思いこんでいたのに、これはやばい。
「次々と問題を出さずに、1つずつ検討しましょうよ。なぜ二上山の凝灰岩を使わずに、羽若石や竜山石を仲哀天皇や仁徳天皇の石棺に使ったのかですが、それは、息長帯日女の時に、三輪王朝=崇神王朝から河内王朝=応神王朝への政権交代があった、という水野祐氏の3王朝交代説で説明できると思います」
とりあえず、高木は最初の反論を行った。
「息長帯日女の河内王朝は三輪王朝を打倒した王朝だから、三輪山や二上山を神那霊山としていない、ということは、よくわかる」
高木はマルちゃんは九州説に移行したのか、と心配したが、そうではなさそうだ。
「邪馬台国=三輪王朝で、卑弥呼や三輪王朝の天皇は三輪山を神那霊山としていた、ということになります」
高木はとりあえずピンチを脱出した、とほっとした。
「そうすると、卑弥呼や崇神天皇などは、三輪山の大物主の子孫ということになるが、記紀で、大物主=大国主のような書き方をしているのはなぜかな?」
カントクは次の手を考えていたようだ。
「崇神天皇が宮中に大物主とアマテラスの霊を祀り、民の半数が死ぬという恐ろしい祟りを受け、大物主とアマテラスの霊を宮中から出しています。ということは、崇神天皇は大物主やアマテラスの子孫ではないのに、祖先の祀りを行ったので祟られた、ということにはなりません?」
ヒナちゃんが畿内説派ではない可能性が高まってきたので、高木はがっかりした。
「崇神天皇の三輪王朝は、三輪山を神那霊山としていた邪馬台国を打倒した狗奴国の王朝で、崇神天皇=卑弥弓呼ということは考えられませんか?」
高木は苦し紛れに新たな仮説を考え出した。

資料:日向勤著『スサノオ・大国主の日国―霊の国の古代史』(梓書院)
姉妹編:「邪馬台国探偵団」(http://yamataikokutanteidan.seesaa.net/

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神話探偵団92 播磨の竜山石と讃岐の羽若石の石棺

2010-07-04 21:13:19 | 歴史小説
左が竜山の石切場、右が石の宝殿


「じゃあ、そろそろ出発しましょうか」
ヒメの合図で、一同は伊保山を後にした。石の方殿を上から眺めながら下り、生石神社の拝殿を抜けて、参道下の駐車場で車に乗り込んだ。
「石切場はこの伊保山の南と、その東南に続く竜山の北側にあります。走りながら車の中から見ていただき、高御位山神社に向かいます」
高木の案内、長老の運転で出発した。
伊保山の石切場の横を車は抜ける。古代から竜山石を掘り続けた石切場は100m近く切り立っている。竜山を南から迂回し、竜山の石切場を左手に眺めながら北上した。
「石の宝殿に取り組んだ間壁忠彦・葭子氏は、石の宝殿を製作したのは蘇我氏で、大和へ運ぶつもりであったとしていたけど、大和へ運びだすなら海岸が迫っていたこの石切場で作るね。伊保山の中腹に造ることはありえない」
長老の意見には誰もが納得した。
「播磨国風土記には、印南郡大国里について『息長帯日女(おきながたらしひめ)命、石作連(やざこむらじ)大来(おおく)を率いて、讃岐国の羽若石を求めたまひき。そこから渡りたまいて・・・』と書かれています。亡き仲哀天皇のために、息長帯日女命、後の神功皇后は自ら讃岐国の羽若石を求め、この竜山に運んで石作連に石棺を造らせ、大阪府藤井寺市の仲哀天皇陵まで運んだと考えられます」
ヒナちゃんはよく調べている。
「仲哀天皇の祖母・播磨稲日大郎(ハリマノイナビオオイラツメ)姫はこの地で仲哀天皇の父のヤマトタケル命を産んだとされているのよね。この地にゆかりの深い仲哀天皇は竜山石の石棺に葬られるのが自然じゃない。息長帯日女命は竜山石を使わないで、なぜ、羽若石を使ったのかしら?」
ヒメの『なぜなぜ』が始まった。
「それだけじゃないぞ。仲哀天皇・息長帯日女命の孫の仁徳天皇陵の石棺は、ここの竜山石で造られているんだ。大国主命や火明命にゆかりの深いこの地で石棺を作りながら、なぜ、竜山石を使わなかったのか、確かに理解に苦しむね」
カントクもヒメに同調した。
「播磨の竜山石や讃岐の羽若石、九州の阿蘇石、奈良の二上山など、石棺に使われる石材の多くは柔らかい凝灰岩なんだ。従って、わざわざ讃岐まで出かけて石材を求めた理由というのはよくわからないね」
長老の言うとおりで、天皇家が地元の奈良の二上山の凝灰岩を使わないで、わざわざ竜山石や羽若石、九州の阿蘇石などの石棺を求めるというのは、葛城生まれの高木の郷土意識に反するものであった。
「私の単なる仮説ですが、天皇や各地の王が亡くなった時、母方の一族が石棺を用意した、という可能性はないでしょうか? 例えば、仁徳天皇の母の中日売(なかつひめ)命の母は、尾張連の祖の娘ですから、この地を拠点とした天火明命の子孫になります」
ヒナちゃんはそこまで調べていたのか、高木は完敗であった。
「仲哀天皇の母は讃岐と関係があるの?」
ヒメの質問は止まらない。
「母は山代の大国の淵の娘の弟苅羽田刀弁(オトカリバタトベ)の娘の両道入姫(フタジノイリヒメ)命となっており、讃岐との関わりは不明です。ただ、仲哀天皇は穴門豊浦宮(今の下関市)と筑紫橿日宮(今の福岡市)に居たとされ、大和には一度も入っていないことから、記紀の記載には疑問が残ります」
ヒナちゃんの答えは慎重だ。
「しかし、そもそも、父のヤマトタケルや妻の息長帯日女命=神功皇后の実在性を疑う歴史学者も多いですよね? そうすると、仲哀天皇の実在性もまた怪しいことになるんじゃないでしょうか」
高木は、正統派として、これだけは言っておかなければならない、と思い切って発言した。
「記紀に書かれたヤマトタケルや息長帯日女命、仲哀天皇の記述には疑問な点が多々あるが、そこからヤマトタケル・息長帯日女命・仲哀天皇架空説が成立するかというと、論理的には無理だな」
さんざ架空説と論争してきた長老の答えは手厳しい。
「その人物の記紀の記述に、他の人物の功績や言い伝えが混じっていたり、脇役なのに主役にされたり、実際には天皇や皇后ではないのに天皇や皇后にされたり、系図が書き換えられたり、いろいろと疑問があったとしても、その人物が全くの構成の創作の証明にはならないんだな。むしろ、その人物の記述が他の資料や伝承で裏付けられるかどうか、が問題なんだ」
「小説家の立場から見ると、播磨国風土記に、息長帯日女が石作連を率いて、讃岐国の羽若石を求めてこの地で仲哀天皇の石棺を作った、というような意味不明の創作は難しいわよね」
ヒメが長老をフォローするのは珍しい。
「祖先霊を祀る国において、その子孫が架空の祖先を祀ることは考えられません。記紀に登場する人物が実在の人物かどうか、その1つの判断基準は、その人物が子孫に祀られているかどうか、だと思います」
神社の神主の娘だけあって、ヒナちゃんの基準は明快だ。
「その基準から考えると、崇神天皇がアマテラスの霊を宮中から出し、遠く伊勢神宮に移して、明治まで天皇が参拝していないということは、天皇はアマテラスの子孫ではない、ということになるね」
カントクのいつものこだわりの主張だ。
「ヒナちゃんは、本当は答えを出しているんじゃないの?」
ヒメの嗅覚は格段に鋭い。
「私は、大和に入っていない仲哀天皇こと帯中津日子(タラシナカツヒコ)命は、天皇ではなく、成務天皇の後は、大和にいた香坂(かごさか」王、忍熊(おしくま)王の兄弟が天皇位を継いだと考えています。帯中津日子命はヤマトタケルが豊国の中津で設けた王子で、穴門の豊浦や筑紫の岡田に支配を広げていたのではないでしょうか」
「香坂王、忍熊王って、仲哀天皇の皇子じゃあなかったかしら」
高木が質問しようとしたところを、マルちゃんが先取りした。
「私は香坂王と忍熊王は、成務天皇の皇子で、香坂天皇、忍熊天皇として皇位を継いだ、と考えています。成務天皇の腹違いの兄のヤマトタケルの子の帯中津日子命は、傍系の皇族として豊国の王で終わるところでしたが、その死後、妻の息長帯日女命は、丹波・播磨・摂津・讃岐・豊・長門・筑紫の大国主ゆかりの一族を糾合し、忍熊天皇を打倒して天皇位を奪い、子の応神天皇を擁立して王朝を立てたのではないでしょうか?」
ヒナちゃんの仮説は首尾一貫している。
「日本書紀によれば、応神天皇は71歳で即位し、111歳で死亡している。2倍年として、35・6歳で即位したことになるから、仲哀天皇が死んで35・6年も天皇位が大和で空位であったことはありえないな。その間、大和には香坂・忍熊の両天皇が即位していた、とみるのは妥当じゃないかな」
長老も同じ考えのようだ。
「その説だと、息長帯日女命が讃岐国の羽若石を求めたことが説明できるの?」
ヒメは獲物を離さず、食い下がる。
「帯中津日子命の母は讃岐の王女で、ヤマトタケルの子として讃岐で育ち、豊国の中津にきてこの地の王女の大中津比売と結婚してこの地の王となったとしたら、その石棺を生まれ育った母方の故郷、讃岐に求めた可能性は十分にあると思います」
仮説に次ぐ仮説であるが、高木には他の可能性はすぐには考えられなかった。


資料:日向勤著『スサノオ・大国主の日国―霊の国の古代史』(梓書院)
姉妹編:「邪馬台国探偵団」(http://yamataikokutanteidan.seesaa.net/)

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