ヒナフキンのスサノオ・大国主ノート

「神話探偵団~スサノオ・大国主を捜そう!」を、「ヒナフキンのスサノオ・大国主ノート」に変更します。雛元昌弘

神話探偵団114 酒とスサノオ・大国主と少彦名

2011-07-26 11:09:17 | 歴史小説
写真は大神神社。毎年11月14日に「酒まつり(醸造安全祈願祭)」が開催され、「この御酒は わが御酒ならず 倭なす 大物主の醸みし御酒 いくひさ いくひさ」の歌にあわせて「うま酒みわの舞」を巫女が舞う

 「この11の物語のうち、①~⑦の賀古郡・印南郡・揖保郡・讃容郡の話は、大帯日子命(後の12代景行天皇)、品太天皇(同15代応神天皇)、息長帯日売命、難波高津宮天皇(同16代仁徳天皇)の時代で、天皇家が登場してからの地名説話です。一方、⑧~⑪はもっと古く、大国主命(葦原志許乎命、大汝命)の時代の地名説話です」
 ヒナちゃんは、長老のゼミの生徒のような答えを用意していた。
 「おかしいわよね。宍禾郡・託賀郡・賀茂郡には大国主時代の説話があるのに、賀古郡・印南郡・揖保郡・讃容郡には天皇時代の地名説話しか残っていない、ということってあるかしら?」
 ヒメは、いつものように質問が鋭い。
 「賀古郡と印南郡の北の賀茂郡下鴨里では大汝命が酒屋を作ったとしていますし、賀茂郡の北の託賀(たか)郡で、宗形大神奥津島比売が大国主との子、阿遅須伎高日古尼(あじすきたかひこね)神(古事記では迦毛之大御神)が生まれたしています。揖保郡には大国主の子の伊勢都比古、讃容郡には大国主の妻や子の玉足日子が登場しますから、大国主の影響力は賀古郡や印南郡、揖保郡や讃容郡にも及んでいたことは間違いありません」
 「そうすると、天皇時代に付けられたとされる地名の多くは、大国主時代からの地名であったということになるわね?」
「基本的な地名は、大国主時代から続いていると思います。もちろん、天皇時代に新たに付けられた地名もあるとは思いますが、もともとの地名説話の多くは、大国主ゆかりの地名だったと思います」
 「賀古郡・印南郡・揖保郡が、大国主時代の地名空白地域ってことはありえないよね」
 「出雲国風土記の地名は、ほとんどがスサノオ・大国主一族にちなんでいます。播磨でも同じだったと思いますよ」
 ヒナちゃんは、地元の出雲には詳しい。
 「ヒナちゃんから播磨国風土記が『日本酒風土記』という評価を頂いたのは、酒好きの私としては大変うれしいんだけど、聞いたこともないんだなあ」
 「そうですよ。地元で酒所というとなんと言っても神戸の灘で、播磨が古くからの酒所なんてことも、あまり言わないですね」
 ヒメと顔を見合わせながら、母親も同じ意見であった。
 「ホームページを見ると、ちらほら、そんな説が紹介されていますよ」
 「確かに、魏志倭人伝には『人性嗜酒(さけをたしなむ)』、弔問客が『歌舞飲酒する』と書かれているけど、出雲国風土記では、確か1カ所、佐香の里が『酒を醸した』ということから地名となった、と出てくるだけだったね」
 長老も地元・出雲のことは詳しい。
 「そうすると、播磨国風土記の酒の記載の多さは特別ということになるわね。同時期の古事記はどうなの?」
 高木が聞きたいことを、ヒメが外すことはない。
 「最初に酒がでてくるのは、須佐之男命が八俣大蛇(やまたのおろち)を酔わせるために、八塩折之酒(やしおおりのさけ)を醸し、酒船に盛って飲ませた、という記述です」
 やっぱり、スサノオが最初であった。ヒナちゃんは、高木と違って、いつも周辺調査が半端ではない。
 「大国主はどうなの?」
 「嫉妬した須勢理毘売と歌を交わした時に、須勢理毘売が大御酒杯を取り、捧げて歌った、というのが最初です。その歌は、『豊御酒、奉らせ』で終わり、盞結(うきゆい)した、乃ち、酒を汲み交わして心が変わらないことを確かめあったと伝えています」
 「おもしろいわね。女性が酒を用意して大国主を誘っているのね」
 「古事記の最初の歌は、有名な『八雲立つ』の歌ですし、2・3番目は大国主が沼河比売へ求婚した時の相聞歌で、4・5番目が大国主と須勢理毘売の相聞歌です」
 「恋歌とお酒がセットでてくるってうれしいね」
 ヒメの中では、次の小説のイメージが膨らんできているようだ。

※文章や図、筆者撮影の写真の転載はご自由に(出典記載希望)。
※日向勤著『スサノオ・大国主の日国―霊の国の古代史』(梓書院)参照
※参考ブログ:邪馬台国探偵団(http://yamataikokutanteidan.seesaa.net/)
       霊の国:スサノオ・大国主命の研究(http://blogs.yahoo.co.jp/hinafkinn/)
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神話探偵団113 播磨国風土記の酒物語

2011-07-13 10:53:25 | 歴史小説
写真は宍粟市一宮町の事代主命を祀る「式内社庭田神社由緒記」
:由緒記では「庭音村(庭酒)」に比定されているが、比治里は山崎町比地の地と考えられる

「最高だなあ。2人の美女からおもてなしを受けながら、日本酒談義に花を咲かせることができるとはね」
カントクは必ず女性を褒めるが、高木も全く同感であった。ヒメはどちらかというと愛くるしい顔立ちであるが、母親の方は正統派の美人として多くの男性を引きつけたに違いなかった。
「今日は皆さん、はるばる播磨の地にお越しいただき、ありがとうございました。樹の母の楓です。樹からみなさんの話はよく聞いていましたので、とても初対面のような気がしません。どうぞ、我が家にいるように、くつろいでお楽しみ下さい」
母親の挨拶を受けて、カントクが音頭をとった。
「本日は、楓様と樹様、見事なお料理をご用意いただき、感謝に堪えません。美しいお二人のご健康と、神話探偵団のますますの迷走・暴走・力走を祈念して、乾杯!」
酒好きというよりもアルコール好きの高木であるが、瀬戸内の魚介類を肴にした「八重垣」の冷酒はよく合っていた。
「ヒナちゃんが酒好きなのは知っていたけど、お酒の研究もしていたんだ」
マルちゃんも高木と同じように感じていたようだ。
「父が神主ですから、子どものころから御神酒(おみき)には親しんでいます。だから、播磨国風土記を読んでいても、お酒が気になるんです」
「地元なのに、全然、そんなことは知りませんでした。説明していただけます?」
ヒメの母に促されて、ヒナちゃんが説明を始めた。
「播磨国風土記から酒に関わるところを抜き出してコピーを用意しましたので、ご覧になって下さい」
コピーには、次のような抜き書きがされていた。

①賀古郡「酒屋村」:大帯日子命が酒殿を作った。
②印南郡含芸(かむき)里(本の名は瓶落):他田熊千、瓶の酒を馬の尻に付け、家地を求めて行き、その瓶がこの村に落ちたので瓶落と曰う。また酒山あり。大帯日子命の御世に、酒の泉湧き出る。
③揖保郡麻打里「佐佐山」:品太天皇の世に、額田部連久等が酒屋を佐佐山に作って(出雲御陰大神を)祭る。宴遊して甚く楽しむ。
④揖保郡枚方里「佐岡」:筑紫の田部・・・常に五月を以て此の岡に集聚(つど)いて酒飲み宴した。
⑤揖保郡石海里「酒井野」:品太天皇の世に、井戸を此の野に開いて酒殿を造り立てた。
⑥揖保郡萩原里「酒田」:息長帯日売命、・・・御井を開いた(墾った)、故、針間井と言う。・・・韓清水と号す。その水、朝に汲めば朝には出ず。爾して、酒殿を造った。・・・神を祭る。少足命(すくなたらし命)坐す。
⑦讃容郡仲川里弥加都岐(みかづき)原:難波高津宮天皇の世に、伯耆の加具漏、因幡の邑由胡二人、大きく驕って節なく、清酒を以て手足を洗った。
⑧宍禾郡比治里庭音村(本の名は庭酒):大神(葦原志許乎命:あしわらのしこを命)の御かれひ(餉:乾飯)枯れて、かむ(黴)が生えた。酒を醸(か)ませて庭酒(にわき)を献って宴した。
⑨宍禾郡御方里伊和村(本の名は神酒(みわ)):大神(葦原志許乎命)、此の村で酒(みわ)を醸(か)んだ。
⑩託賀郡賀眉(かみ)里荒田村:道主日女命・・・盟酒(うけひさけ)を醸(か)もうとして、田7町を作ったところ、7日7夜の間に稲が成熟した。乃ち、酒を醸みて諸神を集え・・・・。
⑪賀茂郡下鴨里「酒屋谷」:大汝命が酒屋を作った。

「播磨国風土記のことは子どもの頃からよく見聞きしていましたけど、お酒の話は初めて聞きました。ヒナちゃんの調査力は樹から聞いていたとおり見事ですね。今日は、新しい世界が広がってきそうな予感がします」
ヒメの母親だけあって、好奇心が旺盛な方かも知れない。
「こう抜き書きしてみると、播磨国風土記の構造が見えてくるなあ」
長老はゼミの学生に対するような口調がどうしても抜けない。

※文章や図、筆者撮影の写真の転載はご自由に(出典記載希望)。
※日向勤著『スサノオ・大国主の日国―霊の国の古代史』(梓書院)参照
※参考ブログ:邪馬台国探偵団(http://yamataikokutanteidan.seesaa.net/)
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神話探偵団112 播磨国風土記は「日本酒風土記」

2011-07-04 10:21:58 | 歴史小説
写真はヤエガキ酒造の『八重垣』(同社ホームページより)

「それじゃ、私は樹(いつき)を手伝ってお食事の用意をしてきます。皆さん、先にお風呂に入ってゆっくりしていて下さいね。お部屋は、女性は奥の部屋、男性はこちらをお使い下さい。お風呂はこの離れから出た母屋の角のところです。縁側から、引き戸で脱衣所に入れます」
 最後に入った高木は、檜の香る湯船に浸かりながら、今日の思いもかけぬ展開をたどっていった。高木の常識的な古代史の世界はどんどんと崩され、スサノオや大国主の一族がいきいきと活躍する世界が姿を現してきた。何も考えずにゆっくりと疲れを癒したいと思うものの、寝付けない時のように、頭は冴えてくる。
 高木が部屋に戻ると、一同は縁側でぼんやりと庭を眺めていた。
「みなさん、珍しくお静かですね?」
「いやあ、今日は収穫が多かったので、考えを整理しているところだよ」
 高木と同じで、カントクも風呂から考え事を続けていたようである。
「スサノオ探偵団が、大国主探偵団になって、急に目の前が開けてきたようね」
 マルちゃんの感想は高木と同じであった。
「改めて現地に来て、みんなと検討してみると、播磨国風土記は面白い。古事記とセットで分析すると、神話時代の歴史が復元できるね」
 慎重な長老が今日は思い切った発言をしている。
「日本神話はこれまで荒唐無稽な創作として見られてきましたが、建国時代の英雄達の語り継がれてきた物語ではないでしょうか。神話に登場する神々は、子孫達によって神として祀られ、その活躍もまた語りつがれたと思います」
 ヒナちゃんも長老の発言に力をえたようだ。
「それにして、播磨国風土記が書かれた時代の地名がそのまま残り、そこに登場するスサノオ・大国主一族が今も神社に祀られ、すごい伝承が残っているのには驚いたなあ」
 カントクの感想は高木と同じであった。
「播磨国風土記が、幕末まで一般の人には知られることがなく、封印されていたということは大きい。そして、現在の地名や神社に祀られている神々、地元に伝わてきた物語が、播磨国風土記の記載と付合するんだからね」
 高木は「天下原」の地名や、地元の人に聞いた大国主の「鯛ジャリ」伝説を思い出した。
「神社の祭神や伝承は、日本書記や古事記に合わせて、江戸時代に大名や好事家、勤王家などによって作り替えられた部分も多くてうっかりと信用できないところもあるんです。しかし、播磨国風土記は幕末まで、1100年あまり、一般の人々の目には触れていません。従って、この地の地名や伝承は、8世紀に播磨国風土記に書かれたものが、そのまま19世紀まで伝わったことになります」
 ヒナちゃんはこれから長老と一緒にすごい仕事をすることになるかもしれない、と高木は思わざるをえなかった。高木のところにアルバイトで来ていたヒナちゃんは、もはや高木の手の届かないところに行ってしまったのかも知れない。

「みなさん、お話が盛り上がっているようですけど、お食事の用意ができました。どうぞ、こちらにおこし下さい」
 ヒメの母の案内で、一同は縁側を伝い、母屋の大広間に案内された。
 離れの庭は裏山と一体となった茶庭風の自然庭園であったが、母屋の庭は池を中心とした池泉庭園であった。
「今宵は夕月。この見事な庭を眺めながら酒を飲めるとは、最高だなあ」
 高木が月を意識するのは1年のうちで中秋の名月ぐらいしかないが、カントクの世代は月が身近かな存在なのかもしれない。
「さあ、瀬戸内海の味覚を味わって下さいね。お酒は、播州産山田錦を仕込んだヤエガキ酒造の『八重垣』を用意しました」
 縁結びの高砂神社に詣った夜に、スサノオが奇稲田姫のために詠んだ「八重垣」を用意したヒメは、いったい誰にメッセージを送っているのだろうか? 高木はヒメのいつもの詞遊びを読み切れなかった。
「それじゃあ、播磨国風土記をさかなに、『八重垣』をいただきながら、スサノオ・大国主で盛り上がりましょうか」
 カントクはさらりと受け流した。
「播磨国風土記は、別名『日本酒風土記』と言っていいほど、お酒の話が多いんです。日本酒のルーツを探りながら、いただきません?」
 またまた、高木はヒナちゃんの事前調査に負けてしまったようである。

※文章や図、筆者撮影の写真の転載はご自由に(出典記載希望)。
※日向勤著『スサノオ・大国主の日国―霊の国の古代史』(梓書院)参照
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