ヒナフキンのスサノオ・大国主ノート

「神話探偵団~スサノオ・大国主を捜そう!」を、「ヒナフキンのスサノオ・大国主ノート」に変更します。雛元昌弘

神話探偵団118 黄泉がえり宗教にもとづく稲作

2011-09-26 19:11:51 | 歴史小説
写真は兵庫県宍粟市と佐用市、岡山県美作市の境にある日名倉山の宍粟市側の麓にある日名倉神社

「播磨国風土記に出てくるのは、『鹿や猪、鳥などの狩り』の話、『猪を放って飼った』話、肉を『鱠(なます)や羹(あつもの)料理』にして食べたという話と、見逃せないのは、『鹿の腹を割いて、稲をその血に種いた』『宍の血で田を作る』という記載があることです」
 ヒナちゃんは珍しく、いつものようにカントクの問いかけには答えなかった。代わりに自分の説を述べ始めた。
「確かに、鹿の血に種を播いたり、猪の血で田んぼを作る、という話は奇妙だな」
 カントクの、面白い話への頭の切り替えは早い。
「大国主の妻の玉津日女(たまつひめ)が鹿の血に種を播いたところ、一夜で苗が生えたので植えたところ、大国主は『おまえはなぜ五月夜(さよ)に植えたのか』と言って去ってしまったので五月夜(さよ)郡と名づけた。その神を賛用都比売命と名づけた、と書かれています。鹿の血に種を播いたため、玉津日女は大国主にフラれているんです」
「鹿の血に種を播いて育てた苗を植えたので、玉津日女の下から逃げ出した大国主って、とんでもない男よね」
 ヒメがいつものように反応する前に、母上がかんできた。
「宍の血で田を作った、という方の話はどうなの?」
 ヒメもいつものように質問せずにはおれない。
「こちらの話は、丹津(につ)日子神が川を雲潤(うるみ)の里に引こう太水神(おおみずのかみ)に言ったところ、『宍の血で田をつくるから河の水はいらない』と断った、というんです」
「面白いわね。播磨では、稲をつくる時に、鹿や猪の血を使った、というのね」
 ヒメは次の推理小説に使えそうなネタがあると、必ず「面白い」と乗ってくる。
「私は、この地方では『黄泉がえり』の宗教が行われていた、と考えています」
 ヒナちゃんは高木にはない、全く別のアンテナを持っている。
「黄泉がえりって、草剛君の映画があったわよね」
 ヒメの母上がまぜっかえす。
「映画と同じように、死者が蘇る(黄泉がえる)と考えられていた時代があったんです。古事記では、イザナギが殺した子のカグツチの血や死体から多くの神が生まれ、スサノオが殺したオオゲツヒメの死体から、稲や粟、麦、小豆、大豆などの穀物が生え、蚕が生まれた、とされています」
「そういえば、アマテラスも死んで岩屋に葬られたあと、黄泉がえった、ということになっているわね」
「それは、岩屋の中で、死んだアマテラスから次の女王への『霊継ぎ』の儀式が行われ、アマテラスにそっくりの姫が岩屋からでてきたという史実から、天の岩屋の黄泉がえりの伝説が生まれたと思います」
「私って、こういう恐い話が大好きなのよ」
 ヒメの母上の反応は、まさにヒメそのものである。推理小説家のヒメの血は、この母親から受け継いでいることは確実だ。
「稲作が伝わったとき、黄泉がえりの宗教のもとにあった播磨の人たちは、鹿や猪の血を種や稲にかけることで、豊作を祈願した、ということなのね」
 小説家のヒメは、質問が具体的だ。
「水利工事を行おう、という丹津日子神の提案を太水神が蹴ったというのは、新しい稲作技術を古い宗教で受け付けなかった、ということだと思います」
「大国主が玉津日女のもとから去ったのも、同じように、宗教や稲作技術上の争いがあった、ということなのね」
 ヒメの考えるテンポは、いつも高木より数歩、先に進んでいる。


※文章や図、筆者撮影の写真の転載はご自由に(出典記載希望)。
※日向勤著『スサノオ・大国主の日国―霊の国の古代史』(梓書院)参照
※参考ブログ:邪馬台国探偵団(http://yamataikokutanteidan.seesaa.net/)
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神話探偵団117 播磨国風土記は肉食系、出雲国風土記は魚食系

2011-09-18 06:02:02 | 歴史小説
写真は綾部山より見た家島群島
:鹿が追われて泳いで渡ったという「揖保郡伊刀島」の比定地

「私は子どもの頃から出雲国風土記に親しんできましたから、播磨国風土記の違いが目に付くんです。酒もそうですが、もう1つは狩りと肉食です」
 ヒナちゃんが、話題を変えてきた。
「酒の次ぎに肉とは、ヒナちゃん、やるね。また、レジュメのコピーがでてくるのかな?」
 カントクの大好きな話題に入ってきた。
「あたり、です。お酒と食事の邪魔にならないほどの簡単なメモを作りましたので、皆さん、お目通し下さい」
 メモには次のような抜き書きが打ち出されていた。

<播磨国風土記の狩りと肉食>
①賀古郡:(大神=大国主か大帯日子命:景行天皇)狩した
②飾磨郡英馬野:品太天皇(注:応神天皇)、この野に狩した
③揖保郡伊刀島:品太天皇・・・狩したまう。・・・牝鹿、この阜を過ぎて海に入り、伊刀島に泳ぎ渡った
④揖保郡槻折山:品太天皇、この山に狩したまう。槻弓をもって走る猪を射た・・・
⑤讃容郡:(大神の)妹玉津日女命、生ける鹿を捕って臥せ、その腹を割いて、稲をその血に種いた。よりて、一夜の間に苗が生えたので、取って植えさせた
⑥讃容郡町田:(賛用都比売)鹿を放した山を、鹿庭山と号す
⑦讃容郡柏原里:大神、出雲国より来た時に、・・・筌(うえ:竹で編んだ魚を捕る道具)をこの川に置いた・・・魚は入らず、鹿が入った。これを取って鱠(なます)に作って、食べた
⑧宍禾郡:伊和大神・・・巡行した時に、大きな鹿が舌を出して・・・
⑨神崎郡勢賀:品太天皇、この川内に狩したが、猪鹿が多かった・・
⑩託賀郡大羅野(おおあみの):老夫と老女、羅(あみ)を袁布(おふ)の中山に張り禽鳥(とり)を捕っていると
⑪託賀郡比也山:品太天皇、この山に狩した時、1つの鹿が前に立った
⑫託賀郡伊夜丘:品太天皇の狩犬と猪とこの岡に走り上った。天皇これを見て「射よ」と言った。
⑬託賀郡阿富山:あふこを以て、宍を荷った
⑭託賀郡目前田:天皇の狩犬、猪のために目を打ち害(さ)かれた
⑮託賀郡阿多加野:品太天皇、この野に狩したが、1つの猪、矢を負いてあたきした
⑯賀毛郡:品太天皇・・・勅(みことのり)して射つよう命じた時、1矢を発って2つの鳥に命中した・・・羹(あつもの:肉・野菜の吸物)を煮た処は煮坂という
⑰賀毛郡鹿咋(ししくい)山:品太天皇、狩に行った時、白い鹿が自分の舌を咋(く)って・・・
⑱賀毛郡猪飼野:難波高津宮御宇天皇(注:仁徳天皇)の世に、日向の肥人、朝戸君・・・此の処を賜って、猪を放って飼った
⑲賀毛郡雲潤(うるみ)里:大水神・・・「吾は宍の血を以て佃(田を作る)る。故、河の水を欲しない」と辞して言った

「お酒もそうだったけど、こうやって並べてみると、播磨国風土記は肉食系よね」
草食系と言われてきた高木としては、ヒメは肉食系、と思わずにはおれなかった。
「出雲国風土記はどうなの?」
 ヒメの母上の好奇心に満ちた目を見ていると、ヒメの質問魔は母親ゆずりなのかもしれない。
「出雲国風土記は優等生の堅苦しい公式報告文書のようで、生活や遊びの情報が少なく、そもそも狩や肉を食べる話なんかが出てきません。あえて言うなら、魚食系なのかも知れませんが」
 ひょっとしたら、ヒナちゃんは「魚食系女子?」と考えると、釣り大好き人間の高木はうれしくなってしまった。
「確かにね。八束水臣津野命の国引き神話で、新羅の三崎を、『童女の胸鋤所取らして、大魚のきだ衝(つ)き別けて はたすすき穂振り別けて・・・国来々々(くにこくにこ)と引いた』という有名な話がでてくるなあ」
 長老が認めるとなると、これは面白い。
「それって、どういう意味なのか?」
 ヒメの母上の質問は当然だ。
「『きだ』は魚のえら、『はたすすき』は肉ですから、『童女の胸のような鋤を手にとって、大魚のえらを突くように土地を突き刺し、大魚の肉を切り分けるように』国引きを行い、島根半島を引いてきた、という壮大な神話です」
 ヒナちゃんの説明はわかりやすい。
「なるほど、ヒナちゃん、出雲族は海人(あまと)系、天皇家は山人(やまと)系と言いたいのかな?」
 カントクのカンは飲むほどに冴えてくる。



筆者:お待たせしました。やっと、古代史に取り組めるようになりました。

※文章や図、筆者撮影の写真の転載はご自由に(出典記載希望)。
※日向勤著『スサノオ・大国主の日国―霊の国の古代史』(梓書院)参照
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