キリマンジャロに登頂した年の5月に、今度はキナバル山へ行った。ほとんどの日本人トレッカーは、海外登山ではまずキナバル山に行って、次にキリマンジャロに挑戦するようだが、私の場合は逆だった。そんなこともあってだろうか、キナバル山はキリマンジャロほど深い印象が残っていない。
キナバル山は、ボルネオ島のマレーシア領内にあり、キナバル自然公園は、2000年ユネスコの世界遺産に登録されたようだ。成田を出発して、香港でトランジットして、コタ・キナバルに夕方到着した。
到着した翌日、バスで市内観光をして、その後パーク・ヘッドクォーター(公園本部)まで行き、入園手続きをして公園内のドミトリーに宿泊した。このドミトリーからは、目指すキナバル山がよく見えた。ドミトリーでの夕食は、なかなか豪華な中華料理で、明日から登山だという雰囲気とは少々違った。
そして、翌日登山ゲートに向かい、大きな荷物を預けてトレッキング開始。シダやランがたくさん生えた熱帯雨林のジャングルの中を歩く。急な斜面が多いが、木材で階段が作られていたり、手すりがあったりと、登山道はよく整備されている。歩き始めからしばらくして、雨が降り始めた。そのため、時々あずま屋で雨宿りを兼ねた休憩をしながら、ゆっくり上る。そんな中で、ひとつ楽しみにしていたのが、食虫植物のウツボカズラを見ることだ。想像していたよりも小ぶりであったが、登山道の脇に生えているのを、現地ガイドが教えてくれた。
徐々に高度を上げていくと、しだいに木々が低くなり、やがて前方に壁のように切り立った大岩盤が現れた。そして、その大岩盤の直下には、本日宿泊のラバンラタ・レストハウス(3,352m)が見えてきた。このレストハウスは、1階がレストランで2階が客室になっており、日本の山小屋のイメージとはかなり違っている。部屋に荷物を置き、少し休憩してから、レストハウスの周りを散歩する。眼前の大岩壁の上の方はガスっている。
翌日夜中3時頃に、ヘッドランプの明かりを頼りに出発する。しばらくは急な坂や階段が続く。そして、赤道直下付近だというのに、やはり寒かった。そのため、ヘッドランプの電池の消耗が早い。何度か休憩しながら少しずつ高度を上げていく。やがて、森林限界を越えたころから、足元は花崗岩の岩盤に変わった。真っ暗だった空が、徐々に明るくなってくる。高山病的な障害はないが、所々に急な斜面があるため、私の足腰はかなり疲労し、キリマンジャロの最後の登りに劣らないほどしんどかった。岩場は一枚岩状で広々としており、ルートはどこだろうと思ったが、ちゃんと登山ルートを示すロープが張られており、迷う心配はなかった。この花崗岩の岩場は、かつての氷河による浸食で岩盤表面が削られているため、表面がつるつるした感じで、滑りやすそうなのだが、意外に滑らない。
やがて、あちこちの屹立した岩場が太陽に赤く染まり始め、下界は雲海で覆われているのが見えてきた。残念ながら、私は日の出までに頂上に立つことはできなかった。どうやら、同じツアーの仲間達より随分遅れ、ほぼビリになったようだ。そして、真正面に何名かの登山者が集まっている岩場が眼に入ったので、そこが最高峰ロウズ・ピークだろうとわかった。こうして、日の出よりやや遅れて頂上に立つことができた。頂上では、ツアーの方たちと揃って記念写真に納まる。
登頂を記念して買ったのが、今回のTシャツである。なんの変哲もない、「これぞプリントTシャツ」といった感じのものだが、これも記念だ。
我々が登った時は、頂上に4,101mの看板があったし、買ったTシャツにもそう書いてあるが、その後1997年に人工衛星を用いて測量が行われたところ、ロウズ・ピークの標高は4,095.2mに改定、正式に承認されたとのことである。聞くところによれば、雨と風によって1年に5cmずつ低くなっているらしい。
頂上で360度の雄大な景色を楽しみ、上ったルートをゆっくりと写真を撮りながら下る。上る時はしんどかったので、景色をゆっくり楽しむことができなかったが、帰路では、ロバの耳の形に切り立ったドンキーイヤーズや尖塔状のキナバルサウスなどを見ながら、足元に注意しながら慎重に下った。下りは、宿泊した小屋で小休止して、一気に登山口まで標高差約2,200mを下りた。
ところで、このキナバル山を往復するマラソンが毎年行われているらしい。標高差約2,200mの世界一過酷な山岳マラソンである。登山口付近に、昨年の優勝者達の名前が看板に書かれていた。
登山を終えてからは、コタ・キナバルの海辺のリゾートホテルに宿泊し、翌日は帰国出発時間までフリータイムだったので、すぐ沖合に浮かぶサピ島へ渡り海水浴を楽しんだ。海はとてもきれいだった。コタ・キナバルの港で買ったのが、もう1枚のTシャツである。この国の有名な人形劇をデザインしたのだろう。このTシャツは、結構気に入っているので、着る機会が多い部類に入る。
≪蛇足≫ 一つの投稿記事に1枚の写真しか載せられないと思っていたのですが、最近、複数枚載せる技があることを知り、今回初めて2枚の写真を載せてみました。