9月に本ブログで紹介した梶谷鼻の沖合に、“大碆(オオバヤ)”という大きな岩礁がある。もちろん、我が地区の人は誰でも知っている場所である。そして、国土地理院の1/25,000地形図にもちゃんと載っている。
「碆」とは海水や樹木によって見え隠れする岩のことだそうで、「ハエ、バエ、ハヤ、バヤ」などと読まれる。まさに、漢字そのものがその「ありよう」を表している。
この大碆は、海水面から10m近い高さがあるようで、満潮時でもほとんどの部分が顔を出している。私は、子供の頃一度だけ舟でこの大碆に連れて行ってもらったことがある。岩礁の一部に大きく割れた箇所があり、そこへ大きな音を立てて波が入り込んでくる様は、子供心に怖いくらいの迫力を感じた記憶がある。今でもしばしば、この大碆に上がっている釣り人を見かけることがある。だから、人の大きさと比べてその広さが遠目でも実感できる。
聞くところによると、ここには大きなカメノテが生息しているらしい。一度採りに行ってみたい。カメノテは、一般に3~4cmの大きさで、正に亀の手(足)に似た形をしており、岩の割れ目に固着群生しているため、道具がないと採れない。初めて見る人は、この形をグロテスクに感じるかもしれないが、茹でるととても美味しく、ビールのつまみなどに最高である。太田和彦さんの『ニッポン居酒屋放浪記・立志篇』に、「松山でカメノテをおびえ喰う」というページがあり、太田さんも初めてみたカメノテにたじろぎ、おそるおそる食べたところ、「や、こりゃうまいな」と書いてある。このカメノテは成長がとても遅いらしく、乱獲は禁物のようだ。ところで、カメノテは貝類と同じ軟体動物かと思っていたが、エビやカニなどと同じ甲殻類・節足動物とのことだ。ふーん、そうだったのか。
“大碆”という名前はシンプルだけれど、地元では「千畳岩」と呼ばれたりもしていた(「千畳敷」とも言っていたかも知れない)。同じような名前の箇所は、和歌山県白浜の千畳敷、木曽駒ヶ岳の千畳敷など、全国にもたくさんあるのではないかと思われる。
この大碆、本当に千畳の広さがあるのだろうか?広い場所や数が多い場合、誇張してよく「千○○」という言い方をするので、そういった類ではなかろうかと以前は思っていた。ところが、この大碆は、最近手に入った1/5,000地形図でみると、70m×40mの広さがある。畳1畳は、江戸間だ、本間だ、京間だと様々あるようだが、ちなみに、我が家の畳を基準に(1畳=1.9×0.95m)この大碆の広さを計算すると、1,550畳になる。団地サイズ(1.7×0.85m)だとほぼ2,000畳だ。すごい!本当に千畳あったのだ。
普通は、子供の頃の記憶の方が大きかったり、あるいは広かったりするものだが、なぜかこの大碆は、子供の頃見た記憶より、今のほうが広く・大きく感じる。そして、堂々としている。まさか、この数十年で隆起して広くなったわけでもあるまいし・・・。
≪つづく≫