怪しい中年だったテニスクラブ

いつも半分酔っ払っていながらテニスをするという不健康なテニスクラブの活動日誌

「中国大停滞」田中直毅

2017-03-03 07:06:10 | 
現在の世界経済のリスク要因を考えるとトランプ大統領がどこまでやるかとか、フランス大統領選はどうなるとか中東情勢はどうなるかということはあるのですが、この2~3年絶えず挙げられているのが中国経済のバブルがいつ崩壊するのかということ。
上海株価の暴落の時には今にも中国経済は崩壊するようなことを言われていましたが、共産党政権による何でもありの抑え込みが功を奏して今のところ小康状態です。中国国内では西側は絶えず経済失速を言っているけどそんなものは西側のブラフにすぎず、これからも大丈夫と言う意見もあります。
でも外貨準備高は急速に減っていて、トランプ政権に為替操作して元安を誘導していると言われているのは逆に当局は必死に元安を阻止している状況です。
書店に行けばあまたの中国崩壊本が並んでいるのですが、本当のところはどうなんでしょうか。
著者の田中直毅は中国が改革開放政策をとってから、中国の経済学者と交流し、率直な意見交換をしてきている。外側から眺めている中国経済だけではなく、内部で経済学者がどのように中国経済を見ていて、どういう問題意識を持っていて、どうしようとしているかの情報も得ている。それらを政治の流れとともに踏まえて論じているのがこの本です。

それがこの本の論考に深みを与えていて、他の中国経済崩壊論とは一線を架しているのですが、結論としては本の題名にあるように中国経済の前途は楽観できないものとしてとらえています。
そもそも中国経済を論じるにあたっての一番の問題点は統計数字がどれくらい信頼できるかということだと思います。政府が計画目標数字を出せば、それを達成できなければ人事考課に響くとばかりに数字を作ってでも目標を達成させてしまいます。国家統計局長自身が国民所得統計はあてにならないと言い出す始末で、有名な李克強指数①鉄道貨物輸送量②電力消費量③銀行与信残高についても実体経済を判断するには著者は怪しいと思っている。
そのために中国の姿について独自の判断をできるように国際公共政策研究センターは調査をしてインデックス指数化しているのが、それによると2014年初からほぼ一貫して中国経済の状況は悪化しているとか。
では中国の経済学者はどう思っているのか。日本の財務大臣に当たる楼財政部長は講演で次のように課題をとらえている。
2007年を転換点として人口ボーナスが消え、高齢化による負担増と人件費の増が重くのしかかってきている。さらに中国経済全体としては債務過多の状態で債務削減が必要であり、イノベーションをいかに引き出すかが問題。中所得国の罠からの脱却について真剣に考えなくてはいけないのだが与えられた調整期間は5~10年程度しかないと。
自国の経済について非常にシビアな見方です。威勢のいいというか不都合なことは一切無視する政府の公式発表とはだいぶ違います。
中所得国の罠から脱却するためには、農業改革、土地改革、戸籍改革、社会保障改革が必要と言うのだが、現実の中国の体制からは極めて困難な課題です。でも課題は中国内部でもちゃんと認識されているのです。
しかし、共産党独裁体制の維持が第一の中で自由な市場経済、自由な資本取引は相容れないものであり、WTОに加入してグローバル経済に組み込まれて行っても、その根幹ではその理念を共有することができずに異質な体制として足枷となっている。
AIIBが発足するに際しては盛んに注目されたのですが未だにこれといった活動をしているわけでもなく融資審査能力も投資発掘能力も疑問が多い。自国の過剰能力の解消に投資先を考えても、そうそう優良物件があるわけではなく、自国の金融機関が不良債権を積み上げてきた実績を考えると心もとないものです。
いろいろな問題を上からの締め付けで乗り切ろうとしているのでしょうが、部分最適を追求するばかりで問題は水面下でどんどん広がっているように見えます。そんな中国に日本はどう向き合っていけばよいかを最終章で述べていますが、中国経済の大停滞の衝撃波を隔離するためにはまずは財政規律を確立していくこととあるけど、中国のことを抜きにしても、これまた日本の重い課題で簡単には行きません。
現在の中国の政治運動の大義は「腐敗」と「反日」の中で、日本ができることと言うのは大きな制約があるということなのですが、腹を据えた中国社会の民主化との付き合い、そのための戦略が必要と言うのは分かるけど、日本にとって厄介で面倒くさい隣人です。
350ページほどの本ですが読みやすくて中国の内部事情もよくわかりました。やたらと危機感をあおるのとはちょっと違った冷静な目の知性が感じられます。
コメント
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