怪しい中年だったテニスクラブ

いつも半分酔っ払っていながらテニスをするという不健康なテニスクラブの活動日誌

「恋するソマリア」高野秀行

2015-05-16 07:39:14 | 
アフリカの角ソマリアというと、無政府状態でゲリラが跋扈し、海賊の巣窟、故に日本の外務省はソマリア全土を危険地帯のため「退避勧告」としている。
著者は、そんなソマリアを訪れ「謎の独立国家ソマリランド」を上梓。知らぜらる国ソマリアの内情を詳しく紹介。講談社ノンフィクション賞を受賞している。
ソマリアと一言で言っても現在は大まかに言って3つの国に分かれていて、イギリス統治化の影響からか今は独立国家として(と言ってもどこも承認していないのだが)曲がりなりにも民主的な選挙を行い治安も安定している「ソマリランド」と海賊が跋扈している「プントランド」、そしていまだイスラムゲリラや武装勢力が内戦を続けている南部ソマリア(一応ソマリア連邦共和国なる政府はある)がある。著者は「ソマリランド」を中心に氏族社会をうまく組み込んだその統治機構や政治の実際などをレポートしたのだが、実際の庶民の生活にはあまり触れることができず、南部ソマリアには首都モガディショの限られた区域しか(それでも危険なため外国人は屈強なガードマンを雇って行動しなくてはいけなかった)行けなかった。
今回はその後ソマリアへの愛が嵩じてもう一度ソマリアへ行った記録ですが、今回のミッションは普通の人と一緒の食事をして料理をするところも見てみたい、豊かだと言われる南部ソマリアの土地を実際に見てみたいということ。ソマリアのことを報告できる唯一の日本人としての使命感でしょうか。

ちなみにソマリア人は日本にも何人かいて、著者は早稲田の留学生兄妹に言葉を習っていました。ソマリアへの送金も金券ショップ大黒屋(世界的な送金会社ウエスタンユニオンの代理店だそうです)からできるそうです。
ということで勇躍ソマリランドへ向かうのですが、ジブチから陸路首都ハルゲイサへ行くことにしたのだがこれがとんでもない難行苦行。荒れ地の中の道なき道を猛スピードで突っ走る命がけの旅だった。ヘロヘロになっている写真が巻頭に出ています。
ソマリランドでは旧知のホーン・ケーブルTVのワイアップ局長を始めとした面々と再会、
ここから取材活動開始。ハルゲイサ市内では特にボディガードも必要なく自由に動けます。日本にいる時に偶然知った日本車輸出会社の広告を出して流通革命を起こそうと目論んでいましたが、結果は散々。新聞広告を出しても問い合わせのメールひとつなかったとか。如何にいいものでも口コミとかがないと日本と違って新聞広告だけで売れるものではないのでしょう。にしても新聞社もいい加減なのでまともな広告を出すことさえ大変です。
ソマリ人の伝統文化は「詩」で、愛を語るには詩人が重宝され有名なミュージシャンもいるとかで早速インタビューしている。ソマリの音階は日本の和音階と同じだそうで、ソマリ歌謡は妙な懐かしさを感じるとか。
ソマリ人はなかなか家に招くということをしないのだが、今回は家に呼ばれて食事もしている。滅多にお客を呼ばないのだが呼ぶとなると徹底的にもてなすのがしきたりみたいで豪華な食事が次々と出る。でもその場には女子供は同席できないみたい。イスラム圏というのはどうも大変です。
ソマリランドでも、サウジとかカタールの宗教団体が金を出すことによって日々イスラム厳格派が勢力を増してきている。民主的に政権を取ればある日厳格なイスラム教国家になっているかもしれない。そうなるともっと息苦しいでしょうね。
ところで「ハレ」の日の宴会には無事参加できたが、「ケ」の家庭料理にはなかなかたどり着かない。ワイヤップに相談しても「それはすごく難しい」とのこと。いわくソマリ人の男でも台所へは近寄らない。ところがオフィスの管理人一家が敷地の隅で煮炊きしているので家庭料理を教えてもらうことができた。一緒に買い物から付き合いまるで新婚夫婦。煮炊きは七輪で行い、煮込み系が多いみたいだがどれもじんわりと美味しくて、いかにも家庭料理というホッとさせる味とか。でも作り方は量も火加減も適当。まあ、家庭料理ですから。
今回モガディショへ行った時には21年ぶりに公式な政府が誕生したばかりとかで、前回と比べて街は格段と治安が回復していた。市内を出ることなどまったく無理だったのが政府軍の部隊と一緒にだが市外へ出て南部ソマリアを見学することもできた。州知事がジャーナリストを引き連れて装甲車を連ねての半日の行程だったはずだったのだが、なぜかどんどん奥地へ行くことに。南部ソマリアは緑があり、畑もある。川まである。荒れた半砂漠に遊牧民が住む北部と比べると豊かな農地があり農民がいる。だからこそ利権をめぐって内戦が絶えないかもしれないのだが…そんなことに感激しているうちに一行はモガディショに帰ることなくどんどん奥地へ進む。著者は予約していた飛行機に乗り遅れ、さらにはイスラム過激派の待ち伏せ攻撃に遭い、激しい戦闘場面を体感。ジャーナリストとしては望むところなんでしょうが、戦場カメラマンでもなく半日の行程と聞いて何の覚悟もなく参加したのでショックでヘロヘロみたいでした。何とか無事に帰ってきたのですが、それでも著者のソマリア愛は冷めなかったみたいです。
前作は何もかも未知のソマリランドという国を知ることができましたが、この本ではその後日談としてソマリ人の日常生活にも深く触れています。読みやすい文章でサクサク読めました。でもこれからソマリアどうなっていくのでしょう…
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