怪しい中年だったテニスクラブ

いつも半分酔っ払っていながらテニスをするという不健康なテニスクラブの活動日誌

「ぐっちーさん日本経済ここだけの話」山口正洋

2014-11-27 07:52:38 | 
投資銀行家のぐっちーさんは、ちょっと意外(本人もそう言っています)なことに「アエラ」に連載を持っていて、その連載をまとめて本にしたものがこれ。

商社、欧米金融機関そして今は投資銀行とまさに生き馬の目を抜く金融の実務畑を歩いてきた人の日本経済論です。最近ぐっちーさんの議論には結構はまっていて「なぜ日本経済は世界最強と言われるのか」もこのブログにアップしていますし、3人共著の「ヤバい日本経済」もアップしたばかりです。言っていることは当然ながら「ヤバい日本経済」と同じですが、3人の放談という形でないだけにぐっちーさんのピュアな考えがよく出ています。
新聞、テレビ、雑誌の情報なんて「ゴミ」で、プロから見れば「ウソ」としか言えないような情報があふれている。そんなウソを見破る鑑識眼を身に着けることが必要ですが、プロの金融家は往々にして「本当のこと」を人には教えず自分だけ儲けようとする。その意味ではこの本はたまたま「アエラ」に連載を頼まれて、「経済ニュース」の真実がわかるように書いてしまった、ある意味貴重な情報です。
今まで漠然と正しいと信じていたことは「天動説」として次々とひっくり返され、それでもまだ「ほんまでっか」と思う部分があるのですが、目からうろこです。
マーケットについては、上がるとか下がるとかいろいろわかったようなことを言う人が多いのですが、目先の市場予測はほぼ不可能。分かっていたらみんなそうするのでしょうし、そもそも人に言わない。メディアの情報にも騙されてはいけません。大新聞の三大ウソは「円高悪玉論」「財政破綻論」「格差拡大論」とか。
輸出依存度が15%にも満たない資産国家日本にとって円高こそ国是。日本企業の中で海外売り上げが50%を超えている企業は10%しかない。ソニーとかシャープが競争力をなくして苦境に喘いでいるのは円高のせいではなく経営力のなさの表れ。その証拠に円高でも高い利益を出している企業(たとえば電気機械でいえば村田製作所)もある。一部の輸出企業(ほとんど大企業)は潤うかもしれないが、今や原発が止まって資源輸入が膨大になっているので円安はマイナスのほうが大きい。円高で日本経済は崩壊すると言われながら日本経済は実質成長を続けてきた。行き過ぎた部分の調整は必要だったかもしれないが、今の円安水準はこれも行きすぎ?
日本国債は格付けも下がり日本財政は破たんするも天動説。そもそも国債の格付け自体怪しいもので世界最大の貯蓄超過国にして外貨準備も十分、国債は低金利で国内で消化されている。ウオッチすべきは国債市場の金利で、日本は下がっている。今は十分すぎる金融緩和を行っていて、もはやお金の使い道は国債しかない状態です。でもある日突然市中金利が上がって国債が暴落って本当にないんですよね…まあ、日銀がついているか。
ちなみにグッチーさんは白川前日銀総裁を高く評価しています。リーマンショック、東日本大震災、欧州金融危機、これらを乗り切りかつ世界経済をも支えていたのです。日本より海外のほうが高い評価なのは当然か。
だから増税は必要ない、しがらみをぶった切って歳出を減らすことで十分と言われると複雑に利害が絡まった歳出を民主主義の世の中できることがいかに難しいか、財務省を弁護するわけではありませんが、その冷厳な認識から増税が必要となるのでは。増税反対という人は歳出の具体的削減策を示してからいうべきと思います。民主党政権で事業仕分けなどいろいろやってもあの程度がいいところだったのが現実なのです。
中国経済には厳しい目ですけど、では日本企業はどうやって生き残るのか。もはや人口減少、高齢化の国内にとどまっていてはダメ。世界市場に打って出ないと活路は開けない。コモデティ化した商品で消耗戦を繰り返すのではなく、ルイヴィトン、エルメスを目指す即ち高付加価値の商品に賭ければといい。日本のある意味ガラパコス化した日本ブランドのハイテク商品を開発すれば世界が絶対に欲しがるはず。日本ブランドの根底にあるのは「おもてなし」の精神。それが高級ブランドとして通用するのです。
ところで著者はひょんなことから縁もゆかりもなかった岩手県の紫波町の町おこしを手伝っているのですが、「地域再生」「町おこし」を成功させるにはちゃんとお金儲けができることができる事業でないとダメ。地方文化が大切だとか伝統を守るのだといっても金を稼がずにそれが持続可能なものになるのでしょうか。一部の志ある人が無理に無理してやっていてもその人がいなくなればおしまいでは持続可能なものになりません。あるいは最初は税金なりの補助があっても何時迄もというわけにはいきません。他人が稼いだ金に頼っていてはその金の切れ目が縁の切れ目でさようならです。自分たちのやりたいことをやるには自分たちで稼ぐ、そのビジネスモデルを作ることが必要です。経済的合理性の検討こそ一番考えなくてはいけないことだと。
この議論は激しく同意します。地域おこしに限らず福祉とか文化とか崇高な精神で取り組んでいるからと経済的合理性を無視して事業を行い、結局社会の無理解を恨んで潰れていくことがいかに多いか。
章の間には、池上彰さんとか、榊原英資さん、さらには押切もえさん(なんで~?)の対談も入っていて楽しんで読めます。
アベノミクスの評価を考えるときにも参考になると思います。
コメント
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