今も、世界のどこかで戦争や争いが起こっている。僕たち人間は、昔から戦争を何度繰り返してきたことか。歴史を振り返った時、そして、現在も続く愚かな行為を見続けた時、もう、希望を持つことする許されないのか。絶望のうちにしか生きることができないのか。
この本は、小さなものだが、大きくなる可能性を秘めた平和への希望を描いた作品である。作者の英国人マイケル・フォアマンは、今までに200冊以上の作品を書いてきたが、一番大切なテーマは、いつも「平和」であったという。訳者は、ノンフィクション作家の柳田邦男氏である。
鉄条網が張り巡らされたこちら側の街は破壊つくされ、廃墟となっていた。それでも、人々は生活をしていた。彼らには、そこが自分の街だから。鉄条網の向こうでは、いつも、兵士が見張っていた。その先には、立派な街並みが見えていた。
少年の遊び場も破壊され、父親とよく登った丘は、鉄条網の向こう側。あの美しい丘にはもう行くことができない。
少年は、ある日、がれきの中に小さな緑の芽を見つけた。がれきを取り除き、日よけを作り、水をやり続けた。彼の秘密の庭。
やがて、緑の木はつるになってどんどん葉を茂らせ、鉄条網の高さまで届くようになった。ブドウの木であった。つるは鉄条網を伝わって。大きな葉の茂みとなった。鳥もやってきた。チョウもやってきた。彼らは、花のタネを運んできた。今では、秘密の庭ではなく、子どもたちの緑の遊園地となった。
しかし、ある日、鉄条網の向こう側から兵士たちがブドウの木を根こそぎ引き抜いてしまった。少年の哀しみ。その年の冬、破壊された家の中で、少年の一家は寒さに耐えていた。
遅い春が来た。少年は、鉄条網の向こうに緑の葉がたくさん出ているのを見つけた。引き抜かれたブドウの木が残したタネから芽が出たのだ。でも、少年には、前のように水やりはできない。
でも、ある日、少年は、少女がバケツで小さな緑の葉たちに水をやっているのに気が付いた。少女は、毎日夕方になると水やりに現れた。兵士たちは、自分たちの土地に木が生えることは気にしていなかった。
そして、少年は、ある日、去年ブドウの木が生い茂ったがれきの中に、小さな緑の葉が再び芽生えているのを見つけた。
鉄条網を挟んで育つ木は、やがて絡みあって、鉄条網はすっかり葉に覆われ見えなくなった。チョウや小鳥たちも戻ってきた。ブドウの木たちは、根っ子を地面にしっかりと深く張り、もう抜かれることもないだろう。
鉄条網を挟んで、両方の子どもたちの緑の遊園地。
きっといつか、鉄条網が消えて、あの美しい丘に再び登れる日が来ることを、少年は信じている。
特定の国や地域を想定していないという。しかし、僕には、パレスチナがイメージされた。かつて、ナチやヨーロッパ諸国に迫害された民族が、今度は、別の民族を迫害している。でも、イスラエルの中にも、平和を目指す人々がいる。希望は捨ててはいけないのだろう。
世界中の紛争が起こっている国の子どもたちが、希望を持てる世界が訪れる事を諦めてはいけない、そんなメッセージを送ってくれる絵本であった。