トッペイのみんなちがってみんないい

透析しながら考えた事、感じた事。内部障害者として、色々な障害者,マイノリティの人とお互いに情報発信したい。

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青少年のための『世界一やさしい精神科の本』

2011-07-02 22:58:36 | 読書
世界一やさしい精神科の本 (14歳の世渡り術)
斎藤 環,山登 敬之
河出書房新社


 僕が育ったまちは、世界一精神病院が多い所といわれていた。しかし、少年時代は、精神疾患に関する治療法も薬も、今ほどは開発されておらず、社会的入院ということもごく普通だったようだ。だから、そんなまちでも、自分の生活圏に患者の存在を感じることもなかった。小学校では、鼓笛隊に入っていたが、ある年、学校の裏山にある精神病院の運動会に演奏することになった。子供なりに、病院の門を入って会場に行くときは、いささか緊張したものであった。しかし、実際に見た運動会では、どの選手や参加者が患者なのかはわからなかった。

 現在は、うつ病に関する社会的認知も深まり、新薬の登場もあり、街の中に精神科、心療内科の外来を見かけるのも珍しいことではない。職場での理解も進んでいるようだ。しかし、すべての精神疾患が社会の理解を受けているわけではない。当事者の声も、なかなか社会には伝わっていかない。ハーモニーの『妄想かるた』のような存在もまだまだ十分には知られていない。

 精神疾患について気になることはたくさんある。医師やスタッフによる治療が、病院の診察室だけのことになっていないか。検査室での研究は、実際に人間が生きていく社会と接点を持っているのか等。

 「14歳の世渡り術」の中の1冊として登場した『世界一やさしい精神科』には、若者を取り巻く現在の行きづらい社会にも目を向けている。本書の前書きで述べられているように、ヒトの「多様性」を認め難い若者社会にも懸念をもっている。個性があるようで、実際は、ある限られた範囲の中での模倣に近い自己主張。その仲間内からはみ出した者に対するマイナスの感情。

 「発達障害」「摂食障害」「ひきこもり」「社会不安障害」「統合失調症」などのついて、やさしく解説した本書は、国民性や文化との関係にも触れるなど、人間の「多様性」を描き出していく。思春期に、この本を読んでみて、精神疾患を通して、人間に対する思いやりの気持ちを育ててほしいものだ。

絵本『ちいさな死神くん』・子どもと死を考えてみる

2011-07-01 22:56:23 | 絵本・児童文学
ちいさな死神くん (講談社の翻訳絵本)
キティ・クローザー
講談社


 普通に生活していると、『死』のついて考えることは少ない。テレビからは、相変わらず時間をもてあそぶだけの放送が垂れ流されている。テレビ関係者が、夜7時台の番組の視聴率が、すべての曲で1ケタになった日にそれを嘆いていたのは、当然の事なのもわかっていないようだ。テレビからは、盛んに節電を視聴者に呼び掛けるが、なんと矛盾したことか。夕方のニュースも、いつからか、デパ地下や格安旅行などをメインに紹介するバラエティ番組化していった。ニュースがそうなのだから、他の番組がどんなものかは言うまでもないことだろう。今や、まじめに考えたり行動することが、馬鹿にされる。節電をまじめにしたいなら、まず、テレビの放送時間を短くすること。隗より始めよ。いつか、教育テレビ(今はEテレ)が放送停止の実験を行った。今度は、すべての局で実行すればよい。

 話が大幅に横道にそれてしまった。子供たちを中心に、テレビの代わりに読書をする絶好の機会が今で、節電にも有効である。心も豊かになれるかもしれない。

 そこで、紹介したいのが、読者に『死』を少しでも考えてほしい本書である。

 西洋では、絵画によく死神が描かれてている。鎌をもった恐ろしい姿をしている。円朝の落語「死神」もそうしたイメージが影響しているのだろうか。

 この絵本に登場する死神は、なんと子供という設定である。彼が人間を死の王国へ導いていくのは、神の決めたことなのだろう。
 どんな人間も、死からは逃れられない。しかし、この死神くんがベッドまで死にゆく人間を迎えに行くときは、その人間はいつも悲しみと死への恐怖などの気持ちに強く支配され、死神くんの思いやりのある行動も目に入らなかった。したがって死神くんは、いつだって、自分の任務に忠実で人間に親切であっても、充足感が得られなかった。

 一人の少女に会うまでは。彼女の死の床に行った時、彼女は悲しむことなく、ひどくうれしそうだった。彼女は、重い病気で、生きている間はずっと苦しみの中にいたのだ。死は、彼女から痛みも悲しみも取り除いていたのだ。死神くんと死の王国へ同行する時も、楽しんでいた。死の王国では、少女は死神くんに遊びを教えてくれた。死神くんにとっては、初めて感じる喜びの感覚であった。しかし、少女はいつまでも死の王国にいることはできなかった。次の世界に行かなくてはならなかったのだ。彼女の去った王国のなんとさびしかったことか。

 でも、この絵本には救いがあった。少女は、天使となって帰ってきたのだ。天国に行ってからのお願いがかなったということ。いつも、死神くんと一緒にいたいという望み。

 死神くんが、死者のもとに行くときは、もう、その人間は嘆くこともなかった。お迎えには、死神くんの隣にいつも少女の天使がいたから、死にゆく人も、天使の笑顔を見ることができたから。