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一冊の本をめぐって、終戦記念日

2010-08-15 21:46:35 | 絵本・児童文学


小さい仏さまの峠 (戦争があった日のはなし 第 1集7)
菊地 正
太平出版社

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 8月は、戦争の記憶を忘れないために、戦争と平和を考えるための月でもあります。
 しかし、当時、戦争を体験した人の数は、年と共に減っていきます。また、その中には、戦争体験を語ることが難しい人も存在します。
 平和に生きるために、次の世代、戦争を知らない世代に、当時の記憶を語り継いでいく最後のチャンスかも知れません。
 特に、子ども達に、本という形で、当時の当事者としての歴史を伝えていって欲しいと望んでいます。フィクションの形だけでなく、子ども達に分かりやすいように、史実に基づいた創作作品も多くが残されることを希望しています。

 私達の世代から、今の若者の世代まで、小中高校での歴史教育では、社会科の授業では、時間的に近現代史まで教えられることがほとんどなかったのではないでしょうか。そのために、多くの学習者には、自分で積極的に学ぶことがない限り、近現代史の体系的な知識が欠落してしまっているようです。その空白に、小林やすのり氏の漫画や、「新しい歴史教科書をつくる会」の人々に考えが刷り込まれてしまった若者が少なくないようです。今までの、学校での歴史教育を「自虐的」なものと決め付けた考え方が、知識の欠落部分に、誤ったジグゾーパズルのピースのようにはめこまれてしまいました。「自虐的」でない「他虐的」史観というものが。

 私達が、学生だったころは、未来は、日本の戦争責任をしっかり認識した若者により、アジア諸国との関係も、世の中ももっと良くなるものだと信じていました。しかし、今となってみると、現実は、若者の保守化、ネット右翼に見られるような、かつてに戦争責任を否定する勢力の増大という、危険な兆候が表れています。

 国家のファシズム、国のファシズムは、決して唐突にそれ自体で出現することはないでしょう。それを支える「町のファシズム」「村のファシズム」、また、「学校のファシズム」の存在が大前提となります。身近な所にある存在がです。今、世の中には、そうした存在が、少しずつ繁殖しているような気配さえあります。

 しかし、日本各地に草の根レベルまで増え続けている「9条の会」などの、活動もあります。
 最近のニュースでは、小泉政権以降の歴史認識の歪みが正された次のような報道もありました。また、ネット右翼としての在特会の活動に警察の手が入りました。ネット右翼といっても、実際には、ごく普通に見える人が構成員だという紙屋高雪氏の、ライトオピニオン誌でのレポートもありました。「町のファシズム」「村のファシズム」「学園のファシズム」というものなのでしょう。

歴博、旧日本軍関与の記述復活へ 沖縄戦「集団自決」展示で(共同通信) - goo ニュース 

 さて、私達が暮らしている身近な地元に戦争体験も、風化の恐れが強くなっています。
 八王子でも、終戦間際の昭和20年8月2日の八王子空襲、7月8日に米軍の機銃掃射で亡くなった疎開児童神尾明治君(10歳)と母親の悲劇を伝える「ランドセル地蔵」、8月5日の「いのはなトンネル列車銃撃事件」の記憶も、注意しないと段々と風化していってしまいそうです。

 八王子空襲については、全国的に空襲の記録を残す運動が展開された時期に、八王子でも市民による記録の編纂、文集の発行が行われました。最初の文集は、今も、本棚の中にあります。
 ランドセル地蔵に関しては、児童文学者の古世古和子さんにより、紹介と創作がなされ、現在でも、児童文学書は入手可能だと思います。

 当時の国鉄では「湯の花トンネル」、地元では「猪の鼻トンネル」と呼ばれたトンネルで、喘ぐようにトンネル東側入口に向かっていた満員の新宿発長野行419列車に対して、米軍戦闘機(P51)2機あるいは3機による激しい銃撃が行われ、52名以上が死亡、133名が重軽傷を負った「日本最大の列車銃撃」を題材にして描かれたのが、「小さい仏さまの峠」です。作者の菊池正氏は、地元八王子に伝わる昔話を収集し、子ども達に語り伝える活動をされた方です。小さな仏さまというのは、事件の起こったトンネル近くの小仏峠に安置してある仏さまのことです。東京から疎開してきた泣き虫の小さな女の子チコちゃんの目を通して「いのはなトンネル」の惨劇が語られています。3人組の男の子をはじめ、地元の人々、徴兵検査を落ちた早稲田大学の学生等といった登場人物と共に、当時の様子を描いています。また、菊池さんらしく、地元の伝承も作中に生かされています。
 ただし、この本は、出版社の太平出版社とともに、今では、品切れ状態となっています。大切な地元の記憶を伝えるためにも、復刊とか、何らかの方法で残っていって欲しいと思っています。
 
 先日は、NHKテレビで日韓の若者たちの討論会の様子が放送されました。その中で、日本の若い女性が、戦争をした国は、どこも加害国であり、被害国であると発言していました。しかし、日本人のコメンテーターから、韓国に対しては、今年100年目になる日韓併合の時から、日本は、一貫して加害国の立場であったと指摘されていました。その後、戦争に関する両国の教育をめぐっての討論の時に、日本人男性が、当時は、帝国主義の時代で、日本が韓国にとった態度を正当化するような意見が出されていました。※皮肉にも、同じNHKで放送されている司馬遼太郎の「坂の上の雲」の考え方に近いものです。作者の司馬氏は、この作品の映像化を拒否していました。その遺言ともいうべき意思に反して放映された訳です。司馬氏自身、その作品がミリタリー化に利用される懸念を抱いていたようです。

 歴史に真正面から対峙する必要があります。子どもたちにも、戦争の記憶を風化させることなく伝えていかなくてはなりません。もちろん、大人達も忘れてはならない記憶でもあります。