トッペイのみんなちがってみんないい

透析しながら考えた事、感じた事。内部障害者として、色々な障害者,マイノリティの人とお互いに情報発信したい。

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遠山啓さん没後30年と水道方式

2009-09-21 23:23:17 | その他
 大学生の時、文化系の僕は、アルバイトに家庭教師、短期間だったが小さな塾の講師をやっていた。算数・数学を分かりやすく、生徒に理解してもらうために、「水道方式」を使っていた。分かりやすい説明で、小学生に、方程式の考え方まで理解させることができた。正比例の学習では、水槽を金網で二つの部分に分け、水を注ぎ込むというモデルをイメージすることで、容易に頭の中にその概念が入っていった。倍数・約数の時は、タイルを使って4角形を作るモデルで説明できた。
 テキストにしたのは、「水道方式」を提唱した数学者の遠山啓先生が監修して、小中学校の先生方が編集した副読本の形をした学年別の本であった。

 今日の朝日新聞の「学ぶ」欄に『遠山啓さん 没後30年 「水道方式」今も現役」という記事をみて、学生時代の事を思い出したのだ。今年は、先生の生誕100年の年でもあるそうだ。「楽しく、わかりやすい授業を追求し続けた」数学者の先生には、テキストを通してお世話になった。また、大学生として、文化系からの数学の考え方への道標として、先生の、色々な著作を新書や文庫で読ませていただいた。数学の基礎にある概念について、多くを学ぶことができた。

 記事では、「水道方式」について、「遠山さんは、タイルの教材をつないだり話したりして視覚的に計算の仕組みを教え、暗算より筆算を重視する」方式と紹介していた。

 記事の中には、今年7月に、中学生と保護者向けに遠山流の数学の授業を再現した「中学生から教えてみよう数学」が日本評論社から出版されたこと(数学の苦手な中学生にはお勧めの本である)と、遠山さんの膨大な著作から精選し、「水道方式」「量の理論」など7つのテーマでまとめた「遠山啓エッセンス」全7巻も4月から順次、同社から刊行されていることが紹介されていた。機会があったら是非読んでみたい。

 なお、以前にある小学校で、教師が「水道方式」で算数を生徒に教えることに、一部の父親が偏向教育を攻撃をした事件が記憶に残っている。どうも、右寄りの考え方をする人には、「水道方式」は不評だったようだ。合理的思考に反発したのかもしれない。その時は、そうした人間がいることが少し恐ろしいと感じたものである。

中学生からの教えてみよう数学―正・負の数から文字と方程式、正比例・反比例、関数まで
榊 忠男
日本評論社

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遠山啓エッセンス〈第1巻〉数学教育の改革
遠山 啓
日本評論社

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読書『僕の妻はエイリアン 「高機能自閉症」との不思議な結婚生活』

2009-09-21 01:01:24 | 障害
僕の妻はエイリアン 「高機能自閉症」との不思議な結婚生活
泉 流星
新潮社

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 高機能自閉症やアスペルガー症候群は、知的障害がないものの、生まれつきの脳の機能障害による発達障害と考えられている。もちろん、個人によって様々なタイプがあり、一つの概念でまとめることは難しい。ただ、社会性の問題(人の気持ちや場の状況を読めず、人とうまく関わることが困難)、コミュニケーションの問題(人と心を通わせ、スムーズに意思疎通することが困難)、こだわりや常動行動の問題(特定の物事に強い執着を示し、常に行動パターンを守った生活を好む)が自閉症の特徴とされている。
 外見からは、「障害」が見えないために、わがままな性格だとか、しつけが悪いなど等の周囲の誤解を招くことが多い。
 技術者のサラリーマンの夫と、大学で言語学を学んだ妻は、結婚当初から、喧嘩が絶えなかった。結婚して妻の尋常ならぬ言動に気付く夫だったが、当初はそれが妻の個性としか理解できなかった。
 妻をエイリアン(異星人)と受け止める地球人の夫も視点から観た夫婦の軌跡が、本書に描かれている。地球人と異星人は、お互いに思考法も感じ方も違う。それぞれが異文化に暮らす。(この概念は、発達障害を理解するうえでは有効かもしれない。お互いに異文化の世界に暮らすのだから、相互の歩み寄りが要求される。異星人は、多数派の地球人の世界に暮らす生きづらさを子供の時から感じているはずだ。だから、自分なりに、周囲に合わせようとする努力や工夫をしてきたが、もともと異世界に生きる者なので、完全に同調することは困難なことである。ただ、その地球人に合わせようとしてきた部分は評価すべきであろう。)
 妻が発達障害と診断されたのは、実に結婚してから8年近く経ってからである。それまでの、夫婦間の葛藤から、妻はアルコール依存症で、肝臓を悪くして危篤状態に陥った。夫は、その時に初めて事の深刻さに気付くのだが、このまま妻が死んでしまえば、楽になるという考えをその時に浮かぶほど、夫婦間の関係は崩壊寸前であった。大人になってから、初めて発達障害の診断を受けた者に対処してくれる医師は少ない。最初に、自閉症ではないかと気が付いたのは妻であり、また、大人の発達障害に対処してくれる医師を探しだしたのも妻である。

 自閉症は、自閉症スペクトラム、あるいは、広汎性発達障害と理解されている。いわば、その程度において連続性のあるものとされている。
 
 異文化衝突から、異文化交流への模索が描かれているが、一つのケースとして参考になる。

 妻の「カイゼン」思考と、夫の困惑と受容の間を揺れ動く微妙な感情を本書から読み取ることが、異文化を生きる者の間の交流のためのヒントとなるだろう。もちろん、「障害」の表われ方は、個人差がある。また、「障害」は改善されることがあっても、治ることはない。

 この本には、後書きで判明する大きな仕掛けがしてあった。

僕の妻はエイリアン―「高機能自閉症」との不思議な結婚生活 (新潮文庫)
泉 流星
新潮社

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