A Rider's Viewpoint

とあるライダーのものの見方

2013年・今年の十冊(後編)

2014-01-17 22:49:30 | 所感
6作目、海堂尊の『ジェネラル・ルージュの凱旋』
2013/7/6付のブログで書いた「本に巡り会う」このなかで書いた『チームバチスタの栄光』のシリーズから本書を挙げたい。
このシリーズでは「苦労せずにページをめくれる読書の快感を久しぶりに味わった」という感想を持ったが、その中でも一番ワクワクしたのが本書。
何故彼が「ジェネラル・ルージュ」と呼ばれるようになったのか、その時に似た状況が発生し彼はまた「ジェネラル・ルージュ」になる。
詳しくは書かないが、このシチュエーションに「惚れた」。
この快感を味わうには、登場人物像を把握している必要があるから、やはりこれは『チームバチスタの栄光』から順に読み進めていって欲しい。
『ジェネラル・ルージュの凱旋』はこのシリーズの3作目。決して遠い道のりではない。

7作目、松原耕二の『ハードトーク』
友人の国会議員・藤堂を、インタビュー中の会話のやりとりで失脚させたインタビュアー・岡村。
彼の妻は「あなたはこれから報いを受けるのよ」という……。
“インタビュー”という行為がこれほどまでに人間の奥底まで迫れるものなのか。
TBS「NEWS23」前キャスターが自らの経験を元にして書いた一作。
巻末近くに描かれる「インタビュアーとしての官能」その境地は素晴らしい。
また、最後に藤堂は岡村を指名してインタビューが行われる。物語を鮮やかに収斂させるこの結末まで目が離せない。


8作目、三浦しおんの『風が強く吹いている』
全く経験のないほぼ素人集団が挑む「箱根駅伝」
最近の箱根駅伝の展開を見ていると素人が混じったチームが勝ち上がるのは不可能であるように思う。
しかし、この作品を読んでいると「こんなこともあるんじゃないのか?」と思ってしまうから不思議だ。
妙なリアリティと魅力的な登場人物達。
あり得ないとは思っても、つい夢を見てしまうこの快感をぜひ君にも。

9作目、 松家仁之の『沈むフランシス』
不思議な小説だった。ストーリーに引き込まれたわけでも、登場自分の人間像に引かれたわけでもない。
ただ淡々と書き連ねられる描写。北海道の自然~雪の静けさや空気の冷たさ、空の色と雲。
それらを読んでいるうちに、まさにその空気感が実際のものとして感じられるような気がした。
僕は僕で自分の故郷の寒い冬、その空気の匂いを思い出した。
この不思議な静けさの理由が知りたくて、同じ作者の前作『火山のふもとで』も読んでみた。
こちらはこちらで、国立図書館の建物のコンペティションを受ける建築家チームと、そこに勤め始めたばかりの青年の思いとほのかな恋が描写されているものだったが、この建築家チームが夏に仕事をする北軽井沢の別荘の描写がまた空気感まで真に迫ってくるようだった。
手元に置いておき、思い立ったときにパラパラと読み替えして見たいと思わせる小説である。

10作目、梨木香歩の『冬虫夏草』
ごく不可思議な話を情緒豊かに味合わせてくれた前作・『家守綺譚』の続編ということで、楽しみにして読んだ。
今回は、前回のような短編集ではなく、主人公の旅を中心として物語が進む。
描かれる自然、時代、風習、等々あわせて、これがまた昔語りのような広く奥深い世界を味あわせてくれるのだ。

今年の十冊という題名からはみ出すが、もう一作。
里見蘭の『ミリオンセラーガール』
そもそもファッション誌の編集者を目指していた主人公が、販売促進部の営業として仕事に目覚めてゆく話。
……と書くとありきたりのようだが、書店経営の裏側、作者を育てながら一緒に企画を練って行く過程、等々、いわゆる「華やかな出版編集」の世界とは違うドロドロした書店営業(笑)の世界が興味深い。
起こってしまったトラブルとその収集。物語としては完結ではあるが、短編ででも続きが知りたくなる佳作。

以上、十冊といいながらシリーズが入っていたり、そもそも選び出したのが十一作だったりしたが、まあそれはいいよね。

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