A Rider's Viewpoint

とあるライダーのものの見方

1,000作を紡いだ男に敬意を表して

2009-05-31 10:26:22 | 所感
 新しいDVDを買った。
 『星新一 ショートショート DVD-BOX』である。NHKで放送されていたのを何回か見た。

 中学生の頃、親父が読んでいた小説新潮を拝借して読んだのが星新一との最初の出会いだった。本当は大人の読むエロ小説が目的だったのだが、たまたま読んだ星新一のショートショートに魅了されてしまった。思えばそれがSFとの出会いでもあった。

 初めて読んだショートショートは、大人の香りがして、洒落ていて、そしてどこか悲しかった。
 翌日から“新潮社”と“星新一”をキーワードにして、図書館や本屋を探す日々が始まった。新潮文庫のシリーズは、中学生の小遣いでも何とか手が届いて嬉しかった。
 星新一を皮切りにして、小松左京、筒井康隆等のSFにのめり込んでゆく自分がいた。
 小松左京も筒井康隆も素晴らしい。特に筒井康隆の『時をかける少女』が、あのNHK少年ドラマシリーズで夢中になってみた『タイムトラベラー』の原作とは知らなかった。

 それはともかく、僕は、星新一の軽妙で洒脱で、そして少しばかりの毒を含んだショートショートが大好きだった。
 大人になり、星新一が亡くなり、『星新一 一〇〇一話をつくった人』なるルポルタージュも読んだ。いろいろな背景や当時の日本SF界の裏話や、ご本人の苦悩の様子もかいま見た。
 しかし、それらの付帯情報は作品自体の輝きに何ら影響を及ぼすものではなかった。

 今回、このDVDを買い、ショートショートの文字以外での表現に触れた訳だが、星新一が描いた世界は「映像」という新たな表現を得て、より一層光り輝いているように思える。
 この作品、僕は朝日新聞の小さな広告でその発売を知ったのだが、あまりメジャーな反応ではなかったようだ。そんなに有名ではなかったのだろうか?

 ……いや、世間の評判なんかどうでもいい。
 僕は星新一が好きだ。彼のショートショートは素晴らしい。
 まだDVDの1枚目を観ただけに過ぎない感想ではあるが、2枚目以降も楽しみにしている。

 これは全く個人的なラブコールである。僕は今休日の午前中に冷たいビールを飲みながら、DVDを観、そしてこの文章をいささか酔っぱらいながら書いている。
 真夜中に書いたラブレターを翌日朝に読み返して恥ずかしくなるように、僕のこの書き殴りの文章も、あるいは(酒が)醒めたあとで後悔するのかもしれない。

 でも、まあ、いいさ。

 新しい作品を読むことができない悲しさと、今までの作品に対する感謝の意を込めた作者に対する追悼と、僕の少年時代への憧憬と、今、こんな作品を味わうことができた喜びと、今日の雨上がりの青い空を添えて、作者に対する敬意を、謹んで表明させていただきたいと思う。