月と歩いた。

月の満ち欠けのように、毎日ぼちぼちと歩く私。
明日はもう少し、先へ。

にんまり

2013-12-19 | 仕事
昔あった「街のでんき屋さん」。
今は都会では量販店に押されて姿を消してしまった。
それでも、お年寄りをターゲットにしている「街のでんき屋さん」もある。
値段とは関係なく、身内のように丁寧に設置してくれて、メンテナンスもしてくれ、ついでに電球をとりかえるとか、ちょっとした日曜大工をしてくれるとか、お買い物をして来てくれるとか。
そういうサービスで差別化し、生き残っているのだ。

先日、取材した中に、「でんき屋」さんではなく「ガス屋さん」なのだが、同じようなサービスで頑張っている人がいた。
給湯器を替えるだけでなく、水道の蛇口を見たり、窓ガラスを拭いてあげたり、時にはお得意先のおばあちゃんの入院先へお見舞いに行ったり・・・。
そういう街のガス屋さん。

あー、こういう人ならわかるわぁ・・・と思うような、めちゃくちゃいい人で。
素朴で、シャイで、ひたむきで。
年齢35歳。
私の質問にも、一生懸命考えて、いろいろ話してくれる。
時には顔を真っ赤にして照れたり、顔をくしゃくしゃにして笑ったり。
なんとも好感のもてる人物だった。

たくさんしゃべってくれて、私も楽しい気持ちになった。
狭い部屋だったので、カメラマンもすぐに退出し、他の人もいなくて二人きりだったので、リラックスして話せたようだ。
私もやりやすかった。
いい感じで取材終了!

「じゃあ、これでまとめさせてもらいますね」と言ったら、かなりしゃべったはずなのに「え?もう終わり?」というような表情。
なんだか戸惑っているのがわかったので、まだしゃべり足りなかったのかなと思い、
「あ、まだ何か話したいことありますか?いいですよー。あったらお聞きしますので、おっしゃってくださいねー」と笑いかけると、彼はこう言った。

「・・・いや・・・なんか・・・ずっと、きれいなお姉さんやなぁと思ってて・・・」

・・・!!!

キョロキョロ(してないけど)

わ、わたしのことっスか!?
ひょえー!
視力悪いんっスか?
自分で言うのもなんですが、のっぺりした顔でっせ。
起きてるのに「寝てる?」って言われるくらい目は小さいし、口は2センチくらいしか開かないくらい小さいし、街中で一番探しにくい、紛れ込んだらわからないような凹凸のない顔でっせ。
っていうか、その前にもうオバハン!そう、オバハンですわ
「おねえさん」って・・・!
あー、何?この響き・・・おねーさんって・・・!

・・・という高低差ありすぎの心の動揺を押さえ、
「いやいやいやいやぁーーーー、全然そんなーーーー、いやいやいやいやーーーー」
と実際も動揺を隠せない私。

・・・しばし沈黙。

「あ、じゃあ、終わりましょうか。ありがとうございました!」
もう舞い上がって、そう言うしかなかった。
「・・・はい、ありがとうございました・・・」

ドアを開けると、Y澤さんや他のスタッフがみんな取材が終わるのを待っていた。
「お待たせしましたー」
「お疲れさまでしたー」

そして、取材対象者に「ありがとうございましたー」と皆で頭を下げて、外へ出た。
車に乗った。
Y澤さんとK村さんが何か話している。

きれいなお姉さんって言ったよね、あの人・・・
え?そんなこと言われたの、何年ぶり?
いやいやいや・・・社交辞令でしょ、そんなねぇ・・・
うーん、でも・・・あの人、そんなこと冗談で言えるタイプじゃないよね・・・
か、かおりっ!!
あんた、まだイケるんちゃう?!
いやいやいや・・・
あーっ!!もうっ!!私ってば!何を舞いあがっとんねん!
いやいやいや・・・
でも、なんかうれしいよなぁ・・・
Y澤さんとK村さんに言っちゃう?言っちゃう?
いやいやいや・・・何を寝言、いうとんねん!って思われるよねぇ・・・
うふふふ・・・まあいいや、なんかうれし・・・

車の中、Y澤さんとK村さんの後ろの席で、私はずーっとにんまりしていたのだった。
運転していたK村さんはもしかしたら、バックミラーに映る私のにんまり顔を見て、不思議に思っていたかもしれない。

結局、「きれい」とか「かわいい」とか、褒め言葉には弱いのよね~
女って・・・!

だんまり

2013-12-19 | 仕事
取材で一番困るのは、「しゃべってくれない人」だ。

そして、この「しゃべってくれない人」にも3タイプある。

1・話したいけど、うまく話せない
2・心を閉ざしていて、本音を語ってくれない
3・何も考えていないから話すことがない

1の攻略法は簡単だ。
というか、ライターなら誰でもそうだが、こういう人からもうまく情報を引き出して記事にするというのが仕事なわけで。
相手に話す気持ちはあるのだから、そこは何とでもなる。

2は、やや高度。
ガードが固くてなかなか心を開いてくれない人というのはいる。そこをどう突破するか。
相手がものすごく嫌な人間で、わざと意地悪で心を開かないというなら別だが、そんな人は滅多にいないので、こちらがフランクかつ誠実に接していれば、突破口は必ず見つかる。
難しいけれど、これを突破するのが快感だったりもする。ライターの醍醐味と言ってもいいだろう。

やっかいなのは、3である。
「無」からは何も生まれない。「無」なのだからこちらがどう対応しても出てこない。

先日、久しぶりにこの3のタイプ・・・それも強烈なヤツ、を取材した。

例のY澤さんとK村さんとの取材の2日目のことだ。
某企業を訪れ、そこの若手社員(男性)を取材させてもらった。
ある職業訓練校みたいなところを出身の人で(この冊子はその学校の宣伝だ)、学校時代の話やその学校を選んだきっかけ、また勤めてからのやりがいなどを聞くというもの。

愛想は悪くないし、見た目はかわいらしい男の子、という感じ。すれているとか、チャラいとかでもない。
むしろ、第一印象は感じがよかった。
ただ、取材が始まると印象は一変する。

とにかく何もしゃべらず、だんまりなのだ。

「学校でどんなことを学んだんですか?」
「・・・旋盤・・・」
「楽しかったこと、辛かったことなど、何か印象深いエピソードをお願いします」
「・・・」
「何でもいいんですよー、授業の事だけじゃなくてお友達とのこととかでも」
「・・・」
「先生はどんな先生でした?」
「・・・」
「優しいとか、厳しいとか」
「・・・やさしい」
「何か褒められた思い出とかありますか?あ、叱られたとかでもいいですよ」
「・・・」

「入社のきっかけを教えてください」
「・・・特に・・・」
「会社の雰囲気はどうでした?」
「・・・いい」
「今やっているお仕事内容を具体的に教えてください」
「・・・検査」
「えーと、検査っていうのは?」
「・・・」
「金属加工のお仕事ですよね?その製品の検査っていうことですか?」
「・・・はい」
「上司や先輩社員の方で尊敬できる方っていますか?」
「・・・特に・・・」
「え?特にいないんですか?でもいろいろ最初は教わったんですよね?」
「・・・はい」
「じゃあ、先輩すごいなーとか、そういうのないですか?」
「・・・ないです」
「・・・ないですか・・・」
「あまり見てないので・・・」
「あ、一緒の部署でもあまり接することはないってことですかね?お話はあまりされないんですか?」
「話します」
「あ、お話はよくする?・・・でも、仕事はあまり見ていないからわからない、と?」
「・・・はい」
「今の目標や将来の夢を教えてください」
「・・・」
「夢っていうと大げさですから、身近な目標でもいいんですよー」
「・・・」
「・・・ない?」
「・・・ない」

なんじゃ、こりゃ!!

上記、インタビューのほんの一部を再生。
私の質問、100くらい。ちゃんとした答え、1つもなし!!

念のため録音はしているんだけど、聴いたらたぶんほとんど私の声しか入っていないと思う。
大学を中退して職業訓練校に行って就職したという前情報があったので、何かやりたいことが見つかってその道を選んだのかと思っていたら、なんということはない。
誘導尋問で聞き出した話を総合すると(総合するほどのものでもないが)、大学がつまらなくなって辞めて、ふらふらしていたら母親が「こんなのあるから行けば?」と学校を勧めてきて、なんとなく行って、なんとなく勤めて、今も何の目的もなくなんとなく仕事をやっている、ということだった。

途中で何度も何度も心が折れそうになった。
私のライター人生で培った全ての技術を費やして、あの手この手で話を聞き出そうとするのだけど、そのたびにダンマリ。
途中で何度か、「あれ?もしかしてこの人、私を困らせるためにわざとやってるの?」と疑いの心が生まれてしまうほど、それはそれはひどいインタビューだった。

「ない」「いい」「楽しい」「旋盤」
これくらいしか言葉のレパートリーがないのである。

その間、私がどんな顔で、どんな感じで話しているのかと言えば、普段の私を知っている人には考えられないくらい優しいのだ。
こんな対応でもずーっと笑顔。
「あれ?ないですかぁ?」なんて、楽しそうにしてみたり、
「ここは頑張って考えてみましょうか!」「何かあると思いますよ!頑張って!」と励ましてみたり、
それでやっぱりダンマリでも、
ニコッと笑顔で「ちょっと難しかったですよねー、大丈夫ですよ!」と何が大丈夫なのかわからないけどそういってみたり。
あとはやっぱりひたすら誘導尋問で。

そうして、地獄のようなダンマリ・インタビューが終わった。

仕事場での撮影の時、他の取材対象者の時はリラックスして撮影を見ていたのだが、今回は違う。
「次、仕事場の撮影です」となったら、メモを持って真っ先に現場へ行った。
こうなったら周りの人の話を聞くしかないのだ。
彼が「特に尊敬することはない」と言っていた先輩社員をつかまえて、早速インタビュー。
すると、素晴らしい人で、彼のこともたくさん良いところを語ってくれた。
「そんな彼はあんたのこと、何も尊敬してないんっスよ!」と言いたかったが、ぐっとこらえた。

撮影も無事に終わり、車に乗り込んだ私たち。
はぁ・・・と大きなため息が出た。
「・・・ひどかった・・・」
私が言うと、K村さんが「ひどすぎるでしょう!もうめっちゃイライラしましたよ!」と憤っている。
「無口な子やったね、お疲れさん」と優しいY澤さん。
すると、K村さんが「何も考えてないだけですよ!ヘラヘラしやがって!」と。
そして私に「ああいう時、腹立たないんですか?」と聞いてきた。

腹が立つ?!
その言葉を聞いて、ああ、そうか。そうだよな。腹が立ってもいいようなことだよな、と気づいた。
「・・・いや、腹は立たないですねー。心は何度も折れそうになりましたけど」と言うと、
「ほんまですか!!さすがですねぇ・・・もうずっとイライラしてましたよ!」とまた憤っていた。

いや、自分でも不思議な気がした。
普段の私というのは、ちょっとしたことでもイライラするし、短気。そのことは誰よりも自覚している。
でも、本当にイライラすることも、腹が立つこともないのだ。
ただ心が折れそうになるのと、とにかく必死なことだけで。

K村さんの言葉を聞いて、なんでイライラしないのかなと分析してみたら(分析好き!)、これは「仕事」だからなのだった。
取材対象者がどんな人であれ、私はこの人のことを書かなければならないのである。
そのためには情報をできるだけたくさん集めなくてはならない。
私がイライラしても怒っても、情報は集まらない。集まらなければ投げ出してもいい仕事かといえば、もちろんそんなことはなく、なんとかいい記事にしなくてはならないのだ。
だから、怒っている余裕などなく、ただあの手この手で何とか1つでも言葉を引き出したいと、それだけなのだった。
Y澤さんの事務所、クライアントの行政が2箇所、それを受けている民間、学校側、企業側・・・。彼一人の取材記事のために、何十人という人々が関わっていることを私は知っている。
「あの人、何も話してくれないから記事は書けません」とは絶対に言えないのだ。
何が何でも私には書くという義務がある。逃げ道はない。
それをわかっているから、怒ることもなく、必死になっていた。
そして、残念ながら、今回ばかりはただの1つも言葉を引き出すことができなかった。

でも、書けるのだ。
言葉はなかったけれど、「情報」は集められたからだ。
手前味噌だが、今回はキャリアがものを言うなぁと思った。
相手から何も出ないとわかれば、誘導尋問と周囲の声を集めること。もうこれしかないということを長年のキャリアで知っていたのだ。

誘導尋問↓
「先輩社員は優しく教えてくれましたか?」
「はい」
「じゃあ、仕事も覚えやすかったですよね?」
「はい」

これが記事ではこうなる。

「私が入社した時、先輩が優しく丁寧に教えてくれたので、仕事も早く覚えることができました」

うそは一つも入っていない。
本当はこんな手段は使いたくないが、今回は仕方がなかった。残念だけど。
この記事はこのような誘導尋問によって作られることになる・・・


ハプニングは突然に

2013-12-17 | 仕事
今週は取材ウィーク!
月~金までびっしりと取材スケジュールで埋まっている。5日間で14件。
またどんどん自分の中に取材した内容がたまってしまっている。
これを吐き出さない限り、ずーっとしんどい。
でも、吐き出す間もなく詰め込む一方。いつになったら全部吐き切れるのだろうか・・・。
年内にできる限り吐き出して、少しでもいい感じで新年を迎えたいと思っている。

昨日・今日・明日と3日間は、大阪府の行政の冊子の仕事で学校や企業をまわって取材している。
そんなに来る必要ないと思うのだが、どの現場にも関係者がぞろぞろと3、4人。
それに、私(ライター)、Y澤さん(デザイナー兼ディレクター)、K村さん(カメラマン)の「冊子制作班」。
さらに、Mさん率いる5、6名の「DVD制作班」。
最大12名くらいの大所帯で取材先を訪問している。
DVD班は映像撮影なので、なかなか大変そうだ。あまり映像撮影現場とかぶることはないので、珍しくて「へぇー」といろいろ見てしまう。
この班のスタッフはみんな若くて、30代前半くらいだろうか。
ここに限らず自分の周りでは30代がよく活躍しているなぁと思う。なんだか頼もしい。

それに比べて冊子班は、Y澤さんが49歳(男性)、私が42歳、K村さんが37歳かな?(男性)と、やや平均年齢高め。
Y澤さんは、いつも私にいろんな仕事を紹介してくれる本当に優しい人で、先日掲載していたゆるカワ冊子を制作したのもY澤さんの事務所だ。連続でお仕事を一緒にさせていただくことになった。
あの冊子は別の女性のデザイナーさんたちが担当していたが、今回はY澤さんが担当。
がっつり一緒に仕事をするのは初めてなので、とても楽しみだった。

そして、K村さんは、私が一番好きなカメラマンさん。(好きって、写真がね。人柄ももちろんいいのだけど)
いろんなカメラマンと一緒に組んで仕事をするけど、この人の写真が一番好き。
「すごく写真がいいねん」という話をこの間、床床さんにしていた時に、「何が違うの?」と聞かれて、改めてその違いを考えてみた。
すぐに答えは出た。「一緒に取材しているから、その実物も見ているわけだけど、写真を見た時に、実物よりも美しいと思えないとダメやと思うのよ」と。
K村さんの写真は、実物よりずーっとモノやヒトが美しく見える。
以前、住宅設備のカタログの取材で、一般家庭にお邪魔して、コンセントやスイッチ(←普通のではなく、かなりこだわりのあるものだけど、それでもコンセントやスイッチであることに変わりはない)のこだわりや魅力を取材したときにご一緒したことがある。
その時、私は彼がたかがコンセントを、「うわ~!」とこちらが感嘆の声を上げてしまうほど美しく撮っているのを見て、とても感動したのだ。これが真のカメラマンだと。
だから、今回もカメラマンはK村さんだと聞いて、本当に楽しみだった。
それも制作物は人物を取材した冊子で、前回のイラストレーターさんとのコラボのように、今度は憧れのカメラマンさんとの丸々1冊コラボになるわけだ。嬉しくて仕方がない。

実際、2日間取材を一緒にしていて思うのは、とにかく撮影が早いということ。荷物も少ない。
カメラマンによって荷物の量は全然違う。大量にいろんな機材を持ってくる人もいるし、え?それだけ?というくらい少ない人もいる。
K村さんはとても少なくて、パパッと撮る。本当にびっくりするほど早い。
でも、それは決して雑にやっているわけではないのだ。

横で撮影風景を見ていて、手塚治虫のことを思い出していた。
手塚先生はとにかくマンガを描くのが早かったという。その理由について藤子不二雄(A)が『まんが道』の中でこう表現していた。
「手塚先生は自信を持って線を引く」と。
漫画家の描くスピードが早いか遅いかは、自信を持って線を引けるかどうか、だというのだ。
K村さんは自信を持ってシャッターを切る。何度も何度も切る必要がない。だから早いのだろう。そして、出来がいい。

昨日、いろいろ話していた時に、あるカメラマンが大量に撮影した画像をそのまま大量に送りつけてくる、という話になった。
その時、K村さんは「それ、ダメでしょう」と言った。
「自分で選んでないからでしょう?自分でいいものを選択して送らないと!そのカメラマンって仕事してないのと同じですよ!」と。

ふぅ。
ホレそうだった。

コピーも同じで、極端な話、10でも100でも案は生まれるのだ。
それを送るときに、どれを選ぶか。
その「選択」こそが、ある意味一番大事な「仕事」なんだと私も思っている。
「選択」=「自信」であり、その人の「能力」や「センス」を示すものであると言っていいと思う。クリエイターにとったら非常に怖いことなのだ。選択を誤ったら、自分の能力やセンスを否定されることになるのだから。

私が人をもてなすときに料理をたくさん作るのは、自信がないからだ。
4品では気に入るものがないかもしれないけど、9品作っていれば1品くらいはヒットがあるだろう。そう思うからたくさん作るのだ。
趣味の料理はそれでもいいけど、仕事はそれをやっていてはいけない。
絶対相手を満足させるもの、本当にいいものを自分で選ばなくてはならない。
まったく恐ろしい仕事である。

話がそれたが、とにかくそんな力のある、憧れのカメラマンさんとご一緒できて、本当にうれしい。
今回の取材での写真はまだ見せてもらっていない。
冊子が出来上がるまで楽しみに待っていようと思っているのだ。
自分の文章とバシッと合って紙面になる瞬間を心待ちにしている。(その前に書かにゃあならんが!)

と、そういう感じで楽しく始まった取材1日目。
1件目の現地で待ち合わせ、そこで2名取材。
その後、次の現場へ移動。
DVD班はまだ撮影していたので、冊子班だけ先に移動することになった。

「そろそろ出ないと間に合わないので」

今思えば、K村さんが先方に告げたこの言葉にもっとギモンを持てばよかったのだが、その時は「あれ?そうなのかな?」とちょっとひっかかっただけだった。

冊子班はK村さんの車で次の現場へと向かう。
久しぶりにY澤さん、K村さんと3人でのお仕事なので(以前も小さい案件で、あるにはあった)、私も興奮気味。
Y澤さんは私と同じくアル中に足を突っ込んでいるので、この日も10分遅れていた。(集合場所に遅れただけで取材は遅れていない)
「昨日、漫才見ながらシェリー飲んでたら、いつの間にか1本半あけてて、気づいたら意識失ってたんよ。それで遅れちゃってね」なんて、悪びれずに話す。
私も面白くてケラケラ笑う。
きき酒の話とか、この間の冊子の出来がよかったね、とか、車の中でいろいろ話して盛り上がった。
高速に入り、どんどん車は進み、高速をおりてしばらく走ったところで、Y澤さんが「あれ?」と声をあげた。
「Kちゃん、ここどこ?」
「え、○○ですけど・・・」
「違うで!そこはその次に行くところやで。その前に●●やのに!

3人ともサーっと青ざめた。
かれこれもう40分くらいは走っているのだ。
実は、本当の取材場所●●は、1件目の取材場所のすぐ近く。またそこまで戻らなければならないのだった。

「すっかり勘違いしてました。すみません・・・」と言うK村さん。
だけど、もっと罪深いのは私とY澤さんである。二人ともちゃんと次の場所が○○だと把握しておきながら、高速まで乗って40分も走っておいて、全く気づかなかったのだから・・・
大慌てで引き返す大バカ3人組・・・。

「すみません。私、そんな急がなくても近いのになと思っていたはずやのに、なんで気づかなかったんやろ・・・」
「俺も下見に来てて、道知ってるのに、なんで・・・」
「いや、僕も全く勘違いしていて・・・」

3人ともが自分のせいだと謝り倒したが、とにかく誰のせいでも関係ない。急ぐしかない。
そのうちだんだんおかしくなってきて、3人で大笑い。
「3人もいて、なんで誰も気づへんねん!」
「高速のってるのに!」

こんな大失敗もおかしくて、またケラケラ笑いながら車を走らせた。
しかし、ハプニングはこれでは終わらなかったのだ。
ナビに正しい住所を入れようとしたのだが、なぜか登録がない。
K村さんが悪戦苦闘していると、何らかの道がモニターに現れたので、それを見ながら突き進んだ。
次の取材は11時半から。
どう考えても11時半は過ぎる。Y澤さんが担当者に電話を入れて事情を説明。11時40分までには着きます、と。

しかし、そんなに甘くはなかった。
近くに来ているはずなのに、目的地が見つからない。住所もなんだか違う。車でうろうろしているうちに、40分を過ぎた。
そこでもう一度ナビを確かめると、どうやら全く違う場所にたどり着いていることが発覚!
また大慌てで本当の目的地へと車を走らせた。
なぜかナビがバカになっていて、ちっともたどり着かない。
もう本当に手探り状態で、スマホも駆使しながら、ようやく到着したときには、12時をまわっていたのであった・・・

門を入ると、あのムダに多い担当者たちがさらに人数を増やして5名ほどで待っていた。
冷たい風の中、立っていた。
「ひぃ・・・(心の声)

とにかく平謝り。
皆が「いいですよ。大変でしたね」とこわばった顔で言うのが、よけいに怖かった。

そして、とりあえず取材を駆け足で終え、また次の取材先へと移動になった。
それこそが、先ほど間違って行った場所。もう一度そこへ向かった。
お昼を過ぎていたが、取材が押したので食べる時間はない。「どこかコンビニで買って車で食べましょう」ということに。
ただ、3人ともまた遅刻するのが怖いので、「とりあえず現場まで行ってから、その近くのコンビニで買おう」と、グーグー鳴るお腹を押さえながらまた車を走らせた。

それが。
ないのである。
次の現場は山を切り開いた工場地帯のようなところにある学校で・・・。
近くにコンビニどころか民家も何もない。
Y澤さんが「学校やから、購買部とかあるやろ。聞いてみるわ」と言って、真っ先に学校へと入っていった。
よほどお腹がすいていたらしい。
そして、落胆して帰って来た。「購買部ないらしいわ・・・自動販売機だけやって・・・」と。
「果肉の入ったジュースでも買う・・・」とふらふらしながら自動販売機へ向かっていた。

私もお腹ぺこぺこ状態で、そのまま連続3名取材した。
終了したのが6時前。
担当者と別れて、3人で車に乗り込み、ようやく帰ることに。

「もうあかん。何か食べよう」とY澤さん。
私もK村さんも異論はない。
Y澤さんは本当にお腹がすいて死にそうになっていて、「ああ、お腹へりすぎて体が痺れてくる」「ああ、お腹がへりすぎて眼球が痛い・・・」と言っていた。
なんだか子供みたいな人なのだ。マイペースで面白い。

結局、K村さんの事務所に車を置いて、近くの天神橋筋商店街でごはんを食べることになった。
車から降りて歩くと、寒さが身にしみた。
「お腹がすいていると、よけいに寒さが身にしみますね・・・」と私が言うと、Y澤さんが、
「うん・・・。山で遭難してお腹をすかせた人って、辛かっただろうね・・・」と本当に同情のこもった声で言う。
さらにしばらく歩くと、「北海道のさ、ひかりごけ事件ってあったでしょ。人肉食べるやつ・・・。人って究極はああなるんでしょうかね」と真面目に言っている。
・・・どんなお腹すいてるねん!
またそれがおかしくてたまらない私。

そうやって、お好み焼き屋へ入ったのが、7時半。
Y澤さんはお好み焼きが焼けるのは待ちきれないと、山芋短冊やピリ辛こんにゃくなどを先に注文。
「山芋好きなんよー・・・」と言う。
すきっ腹にビールを流し込んだら、私は急に目がはっきり見え始めた。(比喩ではなく)
お腹がへりすぎると、私は目が半分見えなくなるのだ。

ようやく念願の山芋が届いたのだが、あんなに山芋を待ちこがれていたY澤さんが、私たちに「どうぞ」と先に取り分けるのをすすめてくれるのがせつなかった。(なんていい人!)
「いいですよー。先にどうぞ!山芋待ってたじゃないですか!」と私。
律儀なY澤さんだが、さすがに食欲には負けて、山芋に手を伸ばした。「あー、おいしい」と言いながら食べているY澤さんがかわいらしかった。

飢えに飢えて、思考がおかしくなっている私達は、食べきれないような量を注文。
ビールも3杯飲んだ。
途中で、Y澤さんが、私の好きなイラストレーターのさかたさんを電話で呼んでくれた。
おかげで、私は憧れのクリエイターに囲まれて(囲んじゃいないが)お好み焼きを食べることができたのだった。
さかたさんはとってもかわいらしい人。小動物みたいなくりっとした目を向けて、私にいろいろ質問してくれる。

「文章を書くって、感情が入ると思うんですよー。嫌な人を取材したときって、どうするんですか?」
この質問には、ハッとさせられた。
「これまで取材してきて、嫌な人って、いなかったかも・・・」と私。
いたかもしれないが、たぶんほとんどゼロに近いと思う。記憶にはない。
自分で意識したことはなかったが、いつも取材相手には、会う前から良いイメージしかなく、取材後はほんわかすることの方が断然多いのだ。そう話すと、「人が好きなんですねー」と言われた。
横で聞いていたK村さんが「僕はダメなんですよ。初対面の人には絶対構える。心は開かない。でも、開くのも早いんですけど」と言った。さかたさんも同じタイプらしい。
そうか、そうなのか。
私はそのあたりはバカなので、すぐにふわーっと人に心を開いて、すぐにふわーっと人のことを好きになって、裏表も読めないから社交辞令も本気にするし、みんなイイ人!という性善説から入っているから悪い面を見ると大きなショックを受ける。
そういうと、二人が「それがイヤだから、いつも悪いイメージから入るんです。あとはどんどんイメージは上がっていくだけなんですよ」と言うのを聞いて、目からウロコ!!
ひぃー。そういう手があったのか!!
みんな30歳も超えれば、自分なりの処世術を身につけて、自分を守りながら人とうまくやっていっているんだよなぁ。
それに比べて私は、いつまで経っても人を信じて傷ついて、「あー、私にどこか欠落した部分があるからいつもこうなるんだ!私なんて生きていていいのか?この世に必要ない人間なのでは?」と嘆いては、友達に叱咤され、励まされ、「自分を不幸にしない本」のようなシリーズを読んで、また立ち直って。
でも同じことを繰り返す・・・。

やっぱりバカか?

そうか。初対面の人とは「こいつ悪いやつちゃうか?信じたらあかんで!」というスタンスで付き合えばいいのか。
そして、少しずついい面を探っていって好きになって、信頼していく・・・。それが大人なのかもしれない。

私が二人の話を聞いて「ふぇー!」と唸っているところへ、49歳のY澤さんが私のほうを見て言った。
「俺もいっしょ。だから騙されることばっかり」

Y澤さん・・・!

でも、私はそんなY澤さんがとても好き。
じゃあ、まあ、いいのかな、私も無理に変えなくても。
こんな私を好きだと言ってくれる人もいるかもしれないから。

他にもいろいろ映画や文学、仕事の話などをして、とても充実した楽しい時間を過ごした。
さっきまでの飢えが嘘のように、お腹もパンパン。
ちょっと気持ち悪くなりながら家に帰った。

大変だったけど楽しい一日だった。何よりこんな素敵な仲間と仕事ができることに感謝!!

卑屈な気持ち

2013-12-12 | 想い
たまに人に「忙しそう」と言われるが、それがなぜなのかよくわからなかった。
(もちろん、本当に忙しい時はあるが)

考えてみると、フリーでやっているので、仕事の内容をいろいろ書くからなんだと思う。
普通に会社勤めをしている人が、今日はこんな仕事をした、今週はこんな仕事をする・・・等は書かない。
でも、もし内容を書き込んだら、その内容がわからない者にとってはなんだかすごい量の仕事をこなしているように見えるんじゃないだろうか。
でも実際は、労働時間で考えれば普通のOLさん程度(ちょっぴり残業あり)で、きちんと詰め込んでやれば、1日8時間労働くらいだろう。なんということもない。私が忙しそうにしている時でも、夫は私の1.5倍は働いている。

内容も、取材だとか出張だとか、何千文字書くとか、よくわからない世界のことなので、なんだかすごいことをしているように感じるのだろうな。

あとは、業種がクリエイター寄りということもあるだろう。
何もないところから生み出さなければならないので、作業をコツコツとこなせば終わる仕事ではない。
たった数行が何十分もかかることもあるし、3日経ってようやくいいキャッチが浮かぶこともある(3日間ずっとそれだけに没頭しているわけではないが、たった20文字が3日後に生まれることもあるということ)
つまりは時間が読めない仕事であり、時間をかけようと思えば、延々と続けられる作業なのだ。
だから、無理やり詰めれば時間を空けられるけれど、その勇気がないこともある。
明日遊びに行ったら間に合わなくなるんじゃないか?とか、そういう不安があって、原稿をたくさん抱えている時は人と会いにくい。気持ちの問題だ。

この秋を振り返ると、確かに忙しかった。
特に9月10月。
だから、今年はあまり友達に会わなかったなぁと思う。

夏は非常事態だった。
夏前に、あやがアメリカに行くと聞き、それまでに会えるだけ会おうということになって、「非常事態だから」と言いながら、ふみこと3人で10日に1度くらい会っていた。
こんなに3人で連続で顔を合わせたのは、中学以来だったと思う。
ランチ、芦屋花火、ビアガーデン、二条椿、姫路城、日本酒の会、ランチ・・・。

最後のランチは、旅立つ数日前。
駅で別れるとき、抱き合ってわんわん泣くのかと思っていたら、「じゃあ・・・」とあやが普通に去っていこうとした。
「え?そんな感じ?」となったら、「辛くなるから」と。
ふみこはそういう対応がすぐにわかる人だから(大人なのだ)、さりげなくそれに応えて。
だから私もそれに倣って。
だけど、一瞬、3人の気持ちがパッとぶつかって、皆が涙をこらえたのがわかった。
そして、そのまま手を振って別れた。

大人やなぁ・・・と思った。
二人とも私と違ってこういうところがカッコいいのだ。自分の弱いところを見せない。我慢強い。みっともないことを嫌う。
絶対にホームを泣きながら走って電車を追いかけて転んだりしない。
ぐっとこらえて一人で丘の上に走っていって、木に登って、去っていく列車を黙って見詰めている(キャンディ・キャンディ)タイプだ。
でも、そんな二人のおかげで、私もみっともなく泣かずに済んだ。

秋は80ページの追い込み。
これを書いている時は、永久に終わらないような気持ちにもなった。
でも、終わった。
10月に久しぶりにいわさきっちと会って。
11月にようやくあんこちゃんとnamiusaさんと3人の女子会が実現して。
春から会っていなかった中野と京都に美味しいものを食べに行って、つい先日かどやと会ってワインを飲んで。
昨日は床床さんとランチをした。
この半月はやや仕事の谷間で、少しゆっくりできた。
年内に忘年会の予定も2、3、無理やりねじ込んでいる。

そうこうしているうちに、今年も残すところ、あと20日を切った。
明日は念願の酒蔵取材!
そして、来週は月~金まで14本取材が入っている。
とにかく今は自分にできることを精一杯やるしかない。

ただ、いろいろ考えると落ち込むことが多い。
卑屈な気持ちになることも多い。
何の役にも立たない、足を引っ張るだけのプライドなんて捨ててしまえばいいのに、それさえできないし。
もっと勉強しないとなぁ・・・。壁は高い。
すっかり差をつけられて、置いていかれている。

最近、自信を喪失している。
でも、考えても何をしても、人から励まされても、ここに書いてみても、自信は取り戻せないものだとわかった。
結果を出すしかないんだと思う。
明日、その結果が出せれば気持ちも浮上しそうな気がする。
ほんま、卑屈な自分はイヤやなぁ、早く取り戻したい。

ゆる~く、可愛い冊子ができた!

2013-12-09 | 仕事
東北から帰ってきてから少し仕事が落ち着いていた。
いつ始まるのか具体的でない案件がいくつかあって、気持ちはそわそわするけれど、とりあえず追われるわけでもなく・・・という日々。

でも、ようやく動き出した。
職人さんの冊子の仕事の打合せで、一気に取材が入った。
さらに、もう1つ、某企業の創業者の本の仕事もスタートすることに。
おかげで、16日~20日まで6日間終日取材。
ただ、来週行くはずだった広島方面の酒蔵取材が変更になり、滋賀県日帰り取材になってしまった。
今、酒蔵さんはどこも造りの真っ最中で、小さな蔵は取材に対応する余裕がないのだ。
こういうドタキャンは想定内。
それに、代わりに決まった滋賀の酒蔵は、私の大好きな「不老泉」というお酒を造っているところ!
この仕事が始まったときに「いつか行けたらいいなぁ」と思っていたのでとても嬉しい。
今度はいい取材ができるよう、しっかり前準備をしていこうと思っている。楽しみだ。

今月中に20件くらいは取材がある。今決まっているだけで18件。
作る冊子は、32ページと60ページ。
数字だけ見るとギョッとするが、1月いっぱいの納期なので意外に余裕があるのだ。
最初は全部年内と聞いていて焦っていたが・・・。

この2冊もそうだけど、この秋は「丸々1冊」という案件が多かった。
こういう仕事は後々に自分の「作品」となるのでありがたい。
もうすぐ例の奈良の80ページ冊子も刷り上がってくるが、その前に26ページの就活生向け冊子が出来上がった!



私は、このイラストを描かれるデザイナー・さかたさんの大ファンで、「いつかコラボしたいですね」と話していたのだ。
それが実現してとにかく嬉しい!!
この「ゆる~い」感じのタッチ、自由な発想、見ているだけで幸せになる。
先日も制作に関わったメンバーとこの冊子を見ていて、
「私、このキャラが好きなんですよー」
「僕はこれ!」
「これもめっちゃ可愛くないですか?」
と大盛り上がり。
みんな思わず顔がにやけてきちゃって、イラスト見ながらニコニコしていて、それを見ていたら胸がきゅんとした。
さかたさん、いいお仕事されてるなぁ・・・と思って。
みんなをこんな笑顔にするなんて、素敵だー。
彼女とお仕事できて本当によかった!
そして、この冊子に関わったみんなが「すごくいいものができました!」と声をそろえて自信を持って言ってくれる。
それが何より嬉しい。

中身は、ランキングの解説ページとコラムで成り立っている。
ちなみに、この左下のおかっぱストレートの女の子・・・。あれ・・・?どこかで見たような・・・?
「私?!」


いや、最初はそんなつもりで描かれたわけじゃなかったらしいのだが、私が「これ、私になんか似てませんか?」と言ったので、さかたさんがキャラを私風に設定してくれた。
お酒とお料理が好き・・・と書かれているのを見て、大感激!!



↑私のコラムもある。中小企業について、就活のキホンなどなど・・・
結構、文章のボリュームもあって、こんな見開きが5ページ。
中身は真面目だけど、ゆるいイラストで緩和されていて、読みやすくなっている。
内容も役立つ情報ばかり!

私がいつも言う「読んでもらえないと意味がない!」ということを、制作メンバーみんなが思っていて、まずは「手に取ってもらえるようなものを」という気持ちから、わかりやすく、ゆるーい感じのものになった。
ホント、自己満足に終わらず、たくさんの就活生の役に立つといいなぁと思う

あの奈良の冊子や他のパンフなども同時並行での作業で、打ち合わせから印刷まで1ヶ月というタイトなスケジュールだったが、クライアントさんがめちゃくちゃキレ者なのと、ディレクター兼デザイナーさんの段取りがよかったのとで、ストレスがまったくなかった。
「できる人」と一緒に仕事をすると、自分がどんどん引っ張られていくのがわかる。
久しぶりにチームで動けて孤独から解放され、楽しいお仕事だった。
これからかかる冊子も、こんなふうに満足できる仕上がりになるといいなぁ。
(60ページのほうはまた丸投げで、ディレクターもいないので、やや不安・・・)

しかし、気づけばもう12月も中旬にさしかかった。
この時期、毎年気がかりなのが「年賀状」「おせち」「大掃除」。
いつやるのか?(今でしょ!と言いたいが、今はまだできない)
おせちの材料やお酒、お年始の挨拶のお菓子なども買わなければならないし、年末の主婦は大忙しだ。
毎年、計画的にやろうと思っているが、いつも29日を過ぎてから大慌て!
今年も仕事がびっしりだから、きっとそうなるんだろうなぁ・・・。