月と歩いた。

月の満ち欠けのように、毎日ぼちぼちと歩く私。
明日はもう少し、先へ。

ハプニングは突然に

2013-12-17 | 仕事
今週は取材ウィーク!
月~金までびっしりと取材スケジュールで埋まっている。5日間で14件。
またどんどん自分の中に取材した内容がたまってしまっている。
これを吐き出さない限り、ずーっとしんどい。
でも、吐き出す間もなく詰め込む一方。いつになったら全部吐き切れるのだろうか・・・。
年内にできる限り吐き出して、少しでもいい感じで新年を迎えたいと思っている。

昨日・今日・明日と3日間は、大阪府の行政の冊子の仕事で学校や企業をまわって取材している。
そんなに来る必要ないと思うのだが、どの現場にも関係者がぞろぞろと3、4人。
それに、私(ライター)、Y澤さん(デザイナー兼ディレクター)、K村さん(カメラマン)の「冊子制作班」。
さらに、Mさん率いる5、6名の「DVD制作班」。
最大12名くらいの大所帯で取材先を訪問している。
DVD班は映像撮影なので、なかなか大変そうだ。あまり映像撮影現場とかぶることはないので、珍しくて「へぇー」といろいろ見てしまう。
この班のスタッフはみんな若くて、30代前半くらいだろうか。
ここに限らず自分の周りでは30代がよく活躍しているなぁと思う。なんだか頼もしい。

それに比べて冊子班は、Y澤さんが49歳(男性)、私が42歳、K村さんが37歳かな?(男性)と、やや平均年齢高め。
Y澤さんは、いつも私にいろんな仕事を紹介してくれる本当に優しい人で、先日掲載していたゆるカワ冊子を制作したのもY澤さんの事務所だ。連続でお仕事を一緒にさせていただくことになった。
あの冊子は別の女性のデザイナーさんたちが担当していたが、今回はY澤さんが担当。
がっつり一緒に仕事をするのは初めてなので、とても楽しみだった。

そして、K村さんは、私が一番好きなカメラマンさん。(好きって、写真がね。人柄ももちろんいいのだけど)
いろんなカメラマンと一緒に組んで仕事をするけど、この人の写真が一番好き。
「すごく写真がいいねん」という話をこの間、床床さんにしていた時に、「何が違うの?」と聞かれて、改めてその違いを考えてみた。
すぐに答えは出た。「一緒に取材しているから、その実物も見ているわけだけど、写真を見た時に、実物よりも美しいと思えないとダメやと思うのよ」と。
K村さんの写真は、実物よりずーっとモノやヒトが美しく見える。
以前、住宅設備のカタログの取材で、一般家庭にお邪魔して、コンセントやスイッチ(←普通のではなく、かなりこだわりのあるものだけど、それでもコンセントやスイッチであることに変わりはない)のこだわりや魅力を取材したときにご一緒したことがある。
その時、私は彼がたかがコンセントを、「うわ~!」とこちらが感嘆の声を上げてしまうほど美しく撮っているのを見て、とても感動したのだ。これが真のカメラマンだと。
だから、今回もカメラマンはK村さんだと聞いて、本当に楽しみだった。
それも制作物は人物を取材した冊子で、前回のイラストレーターさんとのコラボのように、今度は憧れのカメラマンさんとの丸々1冊コラボになるわけだ。嬉しくて仕方がない。

実際、2日間取材を一緒にしていて思うのは、とにかく撮影が早いということ。荷物も少ない。
カメラマンによって荷物の量は全然違う。大量にいろんな機材を持ってくる人もいるし、え?それだけ?というくらい少ない人もいる。
K村さんはとても少なくて、パパッと撮る。本当にびっくりするほど早い。
でも、それは決して雑にやっているわけではないのだ。

横で撮影風景を見ていて、手塚治虫のことを思い出していた。
手塚先生はとにかくマンガを描くのが早かったという。その理由について藤子不二雄(A)が『まんが道』の中でこう表現していた。
「手塚先生は自信を持って線を引く」と。
漫画家の描くスピードが早いか遅いかは、自信を持って線を引けるかどうか、だというのだ。
K村さんは自信を持ってシャッターを切る。何度も何度も切る必要がない。だから早いのだろう。そして、出来がいい。

昨日、いろいろ話していた時に、あるカメラマンが大量に撮影した画像をそのまま大量に送りつけてくる、という話になった。
その時、K村さんは「それ、ダメでしょう」と言った。
「自分で選んでないからでしょう?自分でいいものを選択して送らないと!そのカメラマンって仕事してないのと同じですよ!」と。

ふぅ。
ホレそうだった。

コピーも同じで、極端な話、10でも100でも案は生まれるのだ。
それを送るときに、どれを選ぶか。
その「選択」こそが、ある意味一番大事な「仕事」なんだと私も思っている。
「選択」=「自信」であり、その人の「能力」や「センス」を示すものであると言っていいと思う。クリエイターにとったら非常に怖いことなのだ。選択を誤ったら、自分の能力やセンスを否定されることになるのだから。

私が人をもてなすときに料理をたくさん作るのは、自信がないからだ。
4品では気に入るものがないかもしれないけど、9品作っていれば1品くらいはヒットがあるだろう。そう思うからたくさん作るのだ。
趣味の料理はそれでもいいけど、仕事はそれをやっていてはいけない。
絶対相手を満足させるもの、本当にいいものを自分で選ばなくてはならない。
まったく恐ろしい仕事である。

話がそれたが、とにかくそんな力のある、憧れのカメラマンさんとご一緒できて、本当にうれしい。
今回の取材での写真はまだ見せてもらっていない。
冊子が出来上がるまで楽しみに待っていようと思っているのだ。
自分の文章とバシッと合って紙面になる瞬間を心待ちにしている。(その前に書かにゃあならんが!)

と、そういう感じで楽しく始まった取材1日目。
1件目の現地で待ち合わせ、そこで2名取材。
その後、次の現場へ移動。
DVD班はまだ撮影していたので、冊子班だけ先に移動することになった。

「そろそろ出ないと間に合わないので」

今思えば、K村さんが先方に告げたこの言葉にもっとギモンを持てばよかったのだが、その時は「あれ?そうなのかな?」とちょっとひっかかっただけだった。

冊子班はK村さんの車で次の現場へと向かう。
久しぶりにY澤さん、K村さんと3人でのお仕事なので(以前も小さい案件で、あるにはあった)、私も興奮気味。
Y澤さんは私と同じくアル中に足を突っ込んでいるので、この日も10分遅れていた。(集合場所に遅れただけで取材は遅れていない)
「昨日、漫才見ながらシェリー飲んでたら、いつの間にか1本半あけてて、気づいたら意識失ってたんよ。それで遅れちゃってね」なんて、悪びれずに話す。
私も面白くてケラケラ笑う。
きき酒の話とか、この間の冊子の出来がよかったね、とか、車の中でいろいろ話して盛り上がった。
高速に入り、どんどん車は進み、高速をおりてしばらく走ったところで、Y澤さんが「あれ?」と声をあげた。
「Kちゃん、ここどこ?」
「え、○○ですけど・・・」
「違うで!そこはその次に行くところやで。その前に●●やのに!

3人ともサーっと青ざめた。
かれこれもう40分くらいは走っているのだ。
実は、本当の取材場所●●は、1件目の取材場所のすぐ近く。またそこまで戻らなければならないのだった。

「すっかり勘違いしてました。すみません・・・」と言うK村さん。
だけど、もっと罪深いのは私とY澤さんである。二人ともちゃんと次の場所が○○だと把握しておきながら、高速まで乗って40分も走っておいて、全く気づかなかったのだから・・・
大慌てで引き返す大バカ3人組・・・。

「すみません。私、そんな急がなくても近いのになと思っていたはずやのに、なんで気づかなかったんやろ・・・」
「俺も下見に来てて、道知ってるのに、なんで・・・」
「いや、僕も全く勘違いしていて・・・」

3人ともが自分のせいだと謝り倒したが、とにかく誰のせいでも関係ない。急ぐしかない。
そのうちだんだんおかしくなってきて、3人で大笑い。
「3人もいて、なんで誰も気づへんねん!」
「高速のってるのに!」

こんな大失敗もおかしくて、またケラケラ笑いながら車を走らせた。
しかし、ハプニングはこれでは終わらなかったのだ。
ナビに正しい住所を入れようとしたのだが、なぜか登録がない。
K村さんが悪戦苦闘していると、何らかの道がモニターに現れたので、それを見ながら突き進んだ。
次の取材は11時半から。
どう考えても11時半は過ぎる。Y澤さんが担当者に電話を入れて事情を説明。11時40分までには着きます、と。

しかし、そんなに甘くはなかった。
近くに来ているはずなのに、目的地が見つからない。住所もなんだか違う。車でうろうろしているうちに、40分を過ぎた。
そこでもう一度ナビを確かめると、どうやら全く違う場所にたどり着いていることが発覚!
また大慌てで本当の目的地へと車を走らせた。
なぜかナビがバカになっていて、ちっともたどり着かない。
もう本当に手探り状態で、スマホも駆使しながら、ようやく到着したときには、12時をまわっていたのであった・・・

門を入ると、あのムダに多い担当者たちがさらに人数を増やして5名ほどで待っていた。
冷たい風の中、立っていた。
「ひぃ・・・(心の声)

とにかく平謝り。
皆が「いいですよ。大変でしたね」とこわばった顔で言うのが、よけいに怖かった。

そして、とりあえず取材を駆け足で終え、また次の取材先へと移動になった。
それこそが、先ほど間違って行った場所。もう一度そこへ向かった。
お昼を過ぎていたが、取材が押したので食べる時間はない。「どこかコンビニで買って車で食べましょう」ということに。
ただ、3人ともまた遅刻するのが怖いので、「とりあえず現場まで行ってから、その近くのコンビニで買おう」と、グーグー鳴るお腹を押さえながらまた車を走らせた。

それが。
ないのである。
次の現場は山を切り開いた工場地帯のようなところにある学校で・・・。
近くにコンビニどころか民家も何もない。
Y澤さんが「学校やから、購買部とかあるやろ。聞いてみるわ」と言って、真っ先に学校へと入っていった。
よほどお腹がすいていたらしい。
そして、落胆して帰って来た。「購買部ないらしいわ・・・自動販売機だけやって・・・」と。
「果肉の入ったジュースでも買う・・・」とふらふらしながら自動販売機へ向かっていた。

私もお腹ぺこぺこ状態で、そのまま連続3名取材した。
終了したのが6時前。
担当者と別れて、3人で車に乗り込み、ようやく帰ることに。

「もうあかん。何か食べよう」とY澤さん。
私もK村さんも異論はない。
Y澤さんは本当にお腹がすいて死にそうになっていて、「ああ、お腹へりすぎて体が痺れてくる」「ああ、お腹がへりすぎて眼球が痛い・・・」と言っていた。
なんだか子供みたいな人なのだ。マイペースで面白い。

結局、K村さんの事務所に車を置いて、近くの天神橋筋商店街でごはんを食べることになった。
車から降りて歩くと、寒さが身にしみた。
「お腹がすいていると、よけいに寒さが身にしみますね・・・」と私が言うと、Y澤さんが、
「うん・・・。山で遭難してお腹をすかせた人って、辛かっただろうね・・・」と本当に同情のこもった声で言う。
さらにしばらく歩くと、「北海道のさ、ひかりごけ事件ってあったでしょ。人肉食べるやつ・・・。人って究極はああなるんでしょうかね」と真面目に言っている。
・・・どんなお腹すいてるねん!
またそれがおかしくてたまらない私。

そうやって、お好み焼き屋へ入ったのが、7時半。
Y澤さんはお好み焼きが焼けるのは待ちきれないと、山芋短冊やピリ辛こんにゃくなどを先に注文。
「山芋好きなんよー・・・」と言う。
すきっ腹にビールを流し込んだら、私は急に目がはっきり見え始めた。(比喩ではなく)
お腹がへりすぎると、私は目が半分見えなくなるのだ。

ようやく念願の山芋が届いたのだが、あんなに山芋を待ちこがれていたY澤さんが、私たちに「どうぞ」と先に取り分けるのをすすめてくれるのがせつなかった。(なんていい人!)
「いいですよー。先にどうぞ!山芋待ってたじゃないですか!」と私。
律儀なY澤さんだが、さすがに食欲には負けて、山芋に手を伸ばした。「あー、おいしい」と言いながら食べているY澤さんがかわいらしかった。

飢えに飢えて、思考がおかしくなっている私達は、食べきれないような量を注文。
ビールも3杯飲んだ。
途中で、Y澤さんが、私の好きなイラストレーターのさかたさんを電話で呼んでくれた。
おかげで、私は憧れのクリエイターに囲まれて(囲んじゃいないが)お好み焼きを食べることができたのだった。
さかたさんはとってもかわいらしい人。小動物みたいなくりっとした目を向けて、私にいろいろ質問してくれる。

「文章を書くって、感情が入ると思うんですよー。嫌な人を取材したときって、どうするんですか?」
この質問には、ハッとさせられた。
「これまで取材してきて、嫌な人って、いなかったかも・・・」と私。
いたかもしれないが、たぶんほとんどゼロに近いと思う。記憶にはない。
自分で意識したことはなかったが、いつも取材相手には、会う前から良いイメージしかなく、取材後はほんわかすることの方が断然多いのだ。そう話すと、「人が好きなんですねー」と言われた。
横で聞いていたK村さんが「僕はダメなんですよ。初対面の人には絶対構える。心は開かない。でも、開くのも早いんですけど」と言った。さかたさんも同じタイプらしい。
そうか、そうなのか。
私はそのあたりはバカなので、すぐにふわーっと人に心を開いて、すぐにふわーっと人のことを好きになって、裏表も読めないから社交辞令も本気にするし、みんなイイ人!という性善説から入っているから悪い面を見ると大きなショックを受ける。
そういうと、二人が「それがイヤだから、いつも悪いイメージから入るんです。あとはどんどんイメージは上がっていくだけなんですよ」と言うのを聞いて、目からウロコ!!
ひぃー。そういう手があったのか!!
みんな30歳も超えれば、自分なりの処世術を身につけて、自分を守りながら人とうまくやっていっているんだよなぁ。
それに比べて私は、いつまで経っても人を信じて傷ついて、「あー、私にどこか欠落した部分があるからいつもこうなるんだ!私なんて生きていていいのか?この世に必要ない人間なのでは?」と嘆いては、友達に叱咤され、励まされ、「自分を不幸にしない本」のようなシリーズを読んで、また立ち直って。
でも同じことを繰り返す・・・。

やっぱりバカか?

そうか。初対面の人とは「こいつ悪いやつちゃうか?信じたらあかんで!」というスタンスで付き合えばいいのか。
そして、少しずついい面を探っていって好きになって、信頼していく・・・。それが大人なのかもしれない。

私が二人の話を聞いて「ふぇー!」と唸っているところへ、49歳のY澤さんが私のほうを見て言った。
「俺もいっしょ。だから騙されることばっかり」

Y澤さん・・・!

でも、私はそんなY澤さんがとても好き。
じゃあ、まあ、いいのかな、私も無理に変えなくても。
こんな私を好きだと言ってくれる人もいるかもしれないから。

他にもいろいろ映画や文学、仕事の話などをして、とても充実した楽しい時間を過ごした。
さっきまでの飢えが嘘のように、お腹もパンパン。
ちょっと気持ち悪くなりながら家に帰った。

大変だったけど楽しい一日だった。何よりこんな素敵な仲間と仕事ができることに感謝!!