月と歩いた。

月の満ち欠けのように、毎日ぼちぼちと歩く私。
明日はもう少し、先へ。

もう一歩上へ

2015-11-23 | 仕事
書くことは、楽しくて苦しい。
苦しくて、楽しい。

毎日がその繰り返しだなぁと思う。

先週の酒蔵取材で、すごくすごくすごーく嫌な目に遭った。
何か相手の「地雷」を踏んでしまったようで、はっきりと嫌われて。
すべてにあげ足をとられ、イヤミを言われ。
私に対してだけでなく、元々そういうところのある人なのだが、相性がとことん悪くて本当に辛かった。
最後には「なんで今日は○○さんじゃないの?(○○さん=もう一人のライターさん)」とまで言われた。
(その人は○○さんと地元が同じなので交流があり、よく知っている)

取材後は、この数年なかったほど、へこんでへこんで・・・
一瞬「逃げたい」という気持ちまで浮かぶほどだった。
それくらい、心が折れた。

あの後、もう1蔵の取材がなかったら、本当に逃げていたかもしれないとも思う。
でも、翌日、別の蔵に取材に行って、終わる頃には前向きな気持ちが生まれつつあった。

私の大好きな大好きなお酒を造る蔵。
清らかな透明感のある、欠点の見つからないお酒。
蔵元さんは、お酒と同じように、誇り高く、凛として、器が大きく、まっすぐに人を見て、信念を持って生きる、そんな人だった。
命をかけてお酒を造っていると。
この人が「うちのお酒には欠点がない」と言うと、自惚れのようには聞こえない。
そう言い切れる酒を、命をかけて造っているから、その言葉が出るのだと納得できた。

いいオーラを浴びて、浴びて、すごい言葉をいっぱい聞いて、心をガンガン震わされて帰路についた。
死にそうになっていたそれまでの自分が生き返っていることに気づいた。

だけど、その日はやっぱり夢にうなされた。
また夜中に大声をあげて、はっきりとセリフまでしゃべって、夫が飛び起きる。
自分でもイヤになるほど心が弱くて。

でも、夫に話を聞いてもらって少し楽になった後、考え方を変えた。
やはり自分が未熟だったのだ、と。

ダラダラと怠惰に過ごした時間がなかったか?
お酒を飲んで時間を無駄に過ごさなかったか?
なんとかなるやろと、要領で片付けていなかったか?

毎日一生懸命働いて働いて、がんばっているつもりだけど、振り返ってみれば、まだできた。
まだ、怠惰があった。
それがこの結果を招いたのだ。

こういうことを書くと、「十分にあなたはがんばっているよ」と言ってくれる人もいるかもしれない。
確かに私はがんばっている。
それは本当だけど、このがんばりでは、この程度の仕事しかできない、ということだ。
「相手が悪かった」と斬り捨ててしまうこともできるけれど、よくよく考えてみたら、私はもっと上をめざしたかった。
「なんで今日は○○さんじゃないの?」なんて、もう絶対に、もう二度と言われたくない。
そういうことを口にする人の人格は疑うが、もし心の中でそう思う人がいたとしたら、同じこと。
「あなたに来てもらえて、取材してもらえてよかった」と、そう言ってもらえるレベルをめざしたいなら、もっとがんばるしかない。

2年経って「業界の中で最も影響力のある雑誌」とまで言われるようになり、読む人も取材される人も、求めるレベルはどんどん上がっている。
それなのに、2年で自然に培った知識と経験、元々の要領だけで文章を書いていていいはずがない。
とにかくこの業界ではまだまだレベルが低すぎるのだ、私は。

あの2軒目の蔵元さんのように、自分の書くものに誇りを持ちたい。
それくらいのことをやってるんだと、裏づけのある自信を持ちたい。
そう思えるようになったら、あの私を嫌った蔵元さんに対しても、感謝の気持ちしかなくなった。
私はお調子者だから、頭を打たないと理解できないことが多いのだ。
たまにこうやって神様がドSになって、私を痛めつける。
そうすると、ようやくわかるのだ。自分に何が足りないのか、今何をしなければならないのか。
本当に良い経験だったと今は思える。

あの人に必ず納得してもらえるものを書かなければならない。
「あんなこと言ったけど、結果的にこの人に取材してもらってよかった」と、そう思ってもらわなければ。

思い出すと辛くて、まだ涙が出ることがあるけど、でも、逃げてはダメだ。
これを乗り越えていいものが書けたら、また1つ成長できると信じている。