鴨着く島

大隅の風土と歴史を紹介していきます

平成5(1993)年と今年

2021-08-17 22:19:19 | おおすみの風景
平成5年と言えば、我が家が大隅半島南部の内陸の町「田代町」(現在は大根占町と合併して錦江町田代)に移住して来た年だ。

その年が明けて大隅半島のこの町に移住しようと決め、3月には田代町役場を訪ねて、移住後の借家などを紹介してもらった。

そして7月になり、上の子どもが夏休みに入るのを待って、当時住んでいた広島市安佐北区三入というところから、4トントラックをレンタルして自分が荷物を、家内たちは自家用車で約600キロほどを、10時間以上かけてやって来たのであった。

この平成5(1993)年という年は天候不順で、南九州では4月頃も気温が上がらず、6月に入った梅雨がなかなか明けずに長引いていた。

この梅雨の長さは今年と似ている。今年の南九州の梅雨入りは例年より3週間も早い5月11日で、梅雨明け宣言が出されたのが7月11日であった。ところが同じ頃に鹿児島の北部では大雨が降っており、梅雨明けどころではなかったのである。(※だから、鹿児島地方気象台は7月11日に「鹿児島県では南部だけが梅雨明けした」と言うべきだった。)

梅雨明け後もどんよりした曇り空の日が多く、真夏の「青天」がほとんどなかったに等しかった。今は暦の上では立秋を過ぎているので「眩しい夏空」とは言えないが、とにかく青空の少ない夏となっている。

東京オリンピックはどうにか無事に終わったが、運が良かったというべきか、7月23から8月8日までの会期中に南海上に見えていた2つの台風は上陸することなく、オリンピック競技には影響を与えなかった。

しかし、オリンピックが終了した2日後から行われている高校野球夏の甲子園大会は、開始の8月10日こそ天気に恵まれたが、翌日からは雨のため順延を重ねて4日遅れとなった。(※再開後の今日も雨のために1試合が途中コールドゲームになっている。)

オリンピックと入れ替わるように日本列島にかかり始めた停滞前線(秋雨前線)は抜ける気配のないまま、今日でもうまるまる1週間、各地に雨を降らせている。特に九州北部には東シナ海からの湿った空気が次々に流れ込み、地形によっては「線状降水帯」の発生を見てとんでもない降水量を記録している。

平成5(1993)年の夏は、これと同じ状態が南九州でも鹿児島に襲い掛かり、当時、時間雨量が初めて100ミリを超えた日もあった。8月1日には姶良地方(現在の姶良市)を襲い(8.1豪雨)、それから5日後には鹿児島市を襲った(8.6水害)。この時にシラス台地ではがけ崩れが頻発し、とくに記憶に残っているのが鹿児島本線の竜ヶ水駅だ。

線路を埋め尽くした土石流のため列車が立ち往生し、傍らを走る国道3号線も不通となり、孤立した乗客乗員は自衛隊の艦船で国分方面に輸送されたのであった。幸い竜ヶ水駅での死者はいなかったが、その一方で、同じ土石流に巻き込まれた近くの三船病院では多数の死者が出ている。

「8.6水害」では鹿児島市内の惨状もひどかった。江戸時代末期に造られたいわゆる「五大石橋」の5つのうち4つまでが崩落したのである。この記念すべき石橋を復元しようという「守る会」と、撤去して新しい橋に造り変えようという当局の間で確執が長く続き、あたかも「烏の鳴かぬ日はあっても、石橋関連の話題の無かった日はない」というほどであった。(※結局、石橋は、無事だった「西田橋」とともにすべて撤去された。ただ西田橋だけは祇園ノ洲公園(石橋公園)に当時のまま移設復元された。)

「8.6水害」後もぐづついた天気は続き、早期米などは6分程度の出来に過ぎず、戦後最悪の不作となった。日本全国でも不作で、緊急に日本の米に近いカリフォルニア米が輸入される事態となった。(※この結果が今でも存在する「ミニマムアクセス」で、一定量のアメリカ米を輸入しなければならなくなったのである。)

さて、田代町に移住した夏は、まだその後にも2回ほど台風の接近で慌てなければならなかったのだが、最後の仕上げの極め付きが9月2日の「台風13号」の直撃だった。この台風は南シナ海から北上して薩摩半島の近くまでやって来た時の気圧が910ミリバール(現在はヘクトパスカル)で、そのままの勢力で山川町から頴娃町のあたりに上陸し、指宿を通過して鹿児島湾を渡り、大隅半島に再上陸したのであった。

旧田代町の庁舎の屋上に設置されていた風力計が70mを記録した後、風力を受ける部分が吹き飛んでしまった、と聞いているので、実際の風力は80mくらいはあったのではないか。多くの住宅の屋根の瓦が飛ばされ、瓦工場の在庫がすぐに切れ、その後も需要に製造が追いつかなかったため、年末になっても相当数の家々にはブルーシートが載せられたままだった。

当時住んでいた大原地区の少し山手から集落を見下ろすと、屋根に被せられた青いシートが木々の間に点在し、まるで難民キャンプのようだと思ったものである。

今年は台風がやや少ない気がするが、それでも12号が発生している。これの前の9号、10号はさしたる勢力を産まずに列島をかすめただけだが、油断は禁物だ。

それにしても今日は結構な雨が降る。これを書いている10時半から1時間の間、南から西にかけて窓や屋根を打つ雨の音の止むことがない。50ミリまではないが3~40ミリはあるだろう。時折り、雷の音も聞こえる。明日も荒れた天気になりそうだ。甲子園の高校野球が気になる。