辻仁成の作品は、すばる文學賞を受賞した「ピアニシモ」しか読んだことがありません。
その作品も、なんだか軽く、時代性は感じたけれど、胸にしみてきませんでした。
それで、私の中では、out of 眼中でした。(ごめんなさい)
ところが、ところが、ひょんなことから、彼のblogを時々読み始め、息子さんとの関係。
パリの様子。
日本に帰国した時の、彼の第二の故郷の話。
そして何より、お料理の腕。
それを読んでいるうちに、いつしか「辻仁成blog」ファンになってしまいました。
「ピアニシモ」で感じた、あの感じとは違う、人生を生きる、誠実に生きる、彼の姿が浮き上がってきます。
彼は高校生の息子さんを、きちんと育てながら、彼と時には喧嘩して、でも生活者として、地に足をつけて生きています。
時々東京に来るのは、出稼ぎ。
高校生の息子さんと、彼は生きていかなくていけないのですから。
でも日々の彼の生きることへの姿勢。
息子さんと向き合う姿勢には、胸を打たれることがあります。
そしてさすが、文章がお上手。
だから、ぐいぐい読ませます。
今は、高校生の息子から「音楽家になりたい」と、突如、進路変更を言い渡され、葛藤、葛藤、葛藤。
親って、こんなもの。
子どもよりずっと長く生きてきて、困難さを背負いながら、子育てをしてきた。
そんな親のことなど、子どもは、想像すらできないものらしいです。
すごく、切ない。
彼はすぐにパリに帰りたい。でもこのコロナで、ましてやパリはまたもやのロックダウン。飛行機の飛ぶ本数も少なくなっているらしいです。
「パパは、自分で空を飛んででも、すぐに、パリに行きたい」と。離れている距離の遠さが、読んでいて悲しいです。
昨晩は、そんな彼の父親としての苦悩に共感しながら、彼の「マグロの漬け丼」の作り方をメモして、作ってみました。
彼のより、お野菜をたくさんにしました。水菜と小葱に、マグロがすっかり隠れてしまっています。
でも、簡単で美味しい。
「期待しない生き方というのは、自分で自分の道を切り開くという決意でもある。」
息子さんとの葛藤を、考え考え考え続け、この言葉に到達します。
すごく、胸に滲みました。
父親である辻さんが、離婚して母親を失った、中学生になったばかりの息子の喪失感を埋めるように、毎日、毎日、パリで作り続けた、100個以上になるお弁当。
手作りのお弁当が、彼の喪失感、悲しみを少しは癒してくれるのではと、思いながら。
その話、いつか、丁寧に、息子さんにしてあげてください。
彼がどんな思いで、ずっと一人で、異国で息子さんを育ててきたか、その思いを率直に話してあげてください。
男って、そういう大切な部分、「当然、わかっているだろう」と思って、端折っちゃうから。
お説教じゃなくて、辻さんの、息子さんへの思いを語ってあげてください。
どう生きていくか。
このコロナの時代。大人だって戸惑っているのですから、子どもにとっては、展望すら持てない。
進路のことに言及して、お説教するのではなく、二人のこれまで生きてきた信頼関係。どれほど息子を大切に思い、育ててきたかを語り合ってください。
祈っています。・・・って、「リアル辻仁成」には、お会いしたこともないですが。
そんな気持ちにさせられる、blogです。
まずは、辻仁成の近作、読まなくちゃ。