昨日は天気も良く、暑くも寒くも無い絶好の外出日和だった。気分転換に様子見に釣り場までドライブしてみた。残念ながら何時もの釣り場の漁港は相変わらずバリケードがあり業業関係者以外出入り禁止であった。どの様な条件で解放するのか全く分からない。少し足を伸ばして(車でもこう言うのか?)たまに行く別の漁港に行ってみた。無料の駐車場が整備され綺麗なトイレもありこじんまりした漁港だ。多分進入禁止だと思っていたが解放されていた。堤防が入り組んで釣りポイントは多く、何度か来たところである。
天気が良いせいか結構釣り人が来ていた。このところあまり他人と喋っていないので片っ端から声を掛けた。最初は投げ竿を置き竿にしてのんびり椅子に座っていた老夫婦である。「どうですか、何か釣れました?」と声を掛ける。釣り場は常套句があり話しかけるのは簡単である。顔も見ないでダメだよと返事する人は孤独を愉しんでいる人なので長話は無用だ。しかし殆どの場合、よく聞いてくれましたとばかり今日はダメだけどこの辺では何が釣れるとか説明を始める。多くは自慢話が少し混じるがそれも愛嬌である。「今日はダメだ。シャコは掛ったけど。」「へえシャコも釣れるんですか。」と返すとどの季節は何々とかどんどん話が弾む。旦那さんの自慢話に奧さんも嬉しそうな顔をしてこちらを見上げる。次は初老の人だ。タコを釣る仕掛けに蟹を縛り付けている。「良いですねタコですか」と聞くと「結構堤防の際やテトラの間で釣れるんですよ。」とこれも嬉しそうに答える。「タコなら価値がありますねえ、一度釣ってみたいと思っているんですよ。」と言うと「腕じゃなくて運だね、場所も探らないと。」から始まって漁業権や禁漁の問題、最近の釣り人はマナーが頗る良くてゴミなど決して残さない、サーファーより良いと思うけどと言う。「確かに釣り人は常連が多くてゴミを残すと次自分が来た時そのゴミに出くわすことになりますからねえ、バーべキューとか来る人の方がマナー悪いと思いますが。」「そうだねえ次来ることは無いと思っている連中はそうかも知れない。」と話しが続く。そこに若いお姉ちゃんがやってきて「こんなの釣れました。」と見せに来た。30cm近いムラソイである。堤防の上からテトラの間に糸を垂らす所謂穴釣りである。近くに居た若いあんちゃんもやって来て、「根魚は珍しいですよ。しかも美味しい高級魚じゃないですか。」と調子に乗せる。「穴釣りは得意なんですよ、結構釣りましたよ。」という。可愛らしい若い娘さんだったが一人で来るのは余程釣りが好きなんだろう。娘さんに「餌は何ですか」と聞くと「サバの切り身ですとタッパを開けて見せてくれた。昨日の夜準備して冷凍庫に入れていたと言う。傍にタコ用の仕掛けをつけたリール竿を立てていたので「タコもやるんですか」と聞くと「釣り上げたことは無いんだけどこの前掛ったのに上げられなくて残念だったので今日はリベンジです。タコはモタモタしていると近くの岩にへばり付いて上がりませんからね。」とこれも嬉しそうに話す。その内初老のオジサンがタコを諦めて投網を投げ出した。「力が要るから大変でしょう。」と言うと「なあにコツですよ。高さのある堤防から下に投げるのはそう難しくはないですよ。川などで水平に投げるのはきついですけどね。でも後何年投げられるか分かりませんけど。」若いあんちゃんも近くにやって来て、「あの娘は釣りが上手ですよ。自信がないと一人では来ませんからねえ。」と言って自分の経験やら近場の釣り情報やら毒のある魚の注意点など語り出す。相当釣りや魚に精しい。くるくるパーマの能天気そうな若者だが知識は半端ない。互いにあまり迷惑が掛からないように少し空間を空けて喋るようには気をつけた。何やかやで堤防の上で1時間半くらい色んな人と雑談したら何だか気分がスッキリした。
帰り際堤防の上を見ると何かが沢山落ちている。勿論コロナウィルスの死骸ではない。自粛生活自宅軟禁状態で喉の奥につかえていた言葉の残骸だ。一気に吐き出したのでスッキリしたのだろう。人影も疎らな堤防で3密もないだろうが、人間は多少は喋らないと何かが溜ってしまうようである。本当はこの季節特有の心地よい潮風がそういう気分にさせたのだろうが。これで次は自分の出番だという心の準備はできた。今夏は初めてのタコ釣に挑戦してみる。