「サッカー文化フォーラム」夢追い人のブログ

1993年のJリーグ誕生で芽生えた日本の「サッカー文化」。映像・活字等で記録されている歴史を100年先まで繋ぎ伝えます。

巨大マネーに支配されていくのか、全世界のサッカーは(2)

2018年09月13日 19時45分10秒 | サッカー選手応援
前回の書き込みで、欧州主要リーグの各チームが、アラブや中国などの巨大マネーに次々と買収されている状況をお知らせしました。

そして、それらは必ずや、自分たちの野望を実現するために、陰謀を巡らせ不正を犯してでも、という状況を作り出していくことになります。

さる7月に、日本語翻訳版が出版された、アメリカ人ジャーナリスト ケン ベンシンガー著の「レッドカード 汚職のワールドカップ」は、FIFAとその傘下の各大陸サッカー連盟を舞台に繰り広げられた、驚くべき不正の実態、それに使われた気の遠くなるような賄賂の構造を、ハリウッド映画顔負けのタッチで描いてくれています。

この書物については、さる7月15日の書き込み「『なぜ今回のW杯は“ロシア開催”だったのか』の世界と、スタジアムをきれいにして帰る日本人の世界との、あまりにも大きな落差」で、すでにご紹介しました。

そして今回、詳細のストーリーや汚職の実態について、どう描かれているのかをご紹介したかったのです。

英語で書かれたこのノンフィクションドラマを、翻訳版らしからぬ淀みないタッチで読ませてくださった翻訳チームの皆様にも敬意を表して、メンバーをご紹介します。北田絵里子氏、手嶋由美子氏、国弘喜美代氏のお3方、いずれも、複数の翻訳書実績を持つエキスパートの方のようです。皆さまもぜひ、早川書房出版の同書をお読みになって下さい。

読書意欲をそそるように、簡単に、どんな実録ドラマなのかご紹介します。

この本で取り上げられている事件は、すでに2015年に全世界のサッカー界を揺るがした汚職事件で、当時、FIFA副会長だったトリニダード・トバゴ出身のジャック・ワーナーという人をはじめ何人かの関係者が逮捕されるという前代未聞の出来事を、いわば、その真相究明、しかも内偵調査の段階からの長い長い闘いの道のりを描いているものです。

この事件を、執念深く粘り強く追跡し続けたのは決してサッカー大国とは言えないアメリカの税務当局の犯罪捜査チームと、FBI(連邦捜査局)のニューヨーク支局、そして検察当局のニューヨーク局でした。

本書の冒頭にはこう書かれています。
「FIFAとサッカー界を舞台にした汚職の物語は、果てしなく入り組んでいる。あまりにも壮大で、ここで包括的にまとめたり解明したりすることはむずかしい。数十年にわたる詐欺、贈収賄、私的金融取引、免責を含む腐敗の一方で、ひたむきなファンの熱情を追い風に、サッカーは世界的なひろがりを見せる一大スポーツとなり、数十億ドル規模の娯楽に成長した。

本書では、気の遠くなるほどの複雑さと規模で知られるただ一つの刑事事件、これまでだれもが、ーーとりわけ幻滅した世界のサッカーファンたちがーーあきらめていた領域にまで突き進んだその捜査の大筋を、できるだけ幅広くたどっていく。これはまた、この事件を世界最大のスポーツスキャンダルにした、やり手だが堕落しやすく、ひたむきだが軽率、謙虚にして傲慢、忠実にして不実な人々の物語である。」

その、「やり手だが堕落しやすく・・・・・」の主な中心人物とは、ユダヤ系アメリカ人にして、1970年代にニューヨーク州の小さなユースサッカー協会のボランティア事務局から、20数年後には北中米カリブ海サッカー連盟選出のFIFA理事のポストに就くまでに成り上がった、チャック・ブレイザーが一人。

その風貌が「私腹を肥やした」というのは、この人のことを言うのではないかと思うような感じなので、写真をつけておきます。真ん中の人は言わずと知れたブラッター前FIFA会長、右の人はフランツ・ベッケンバウアー氏、そして左側がチャック・ブレイザー



もう一人は、そのチャック・ブレイザーの智恵を借りて、北中米カリブ海サッカー連盟を舞台にあらゆる利権を独占的にあやつり、その政治的立場を利用してFIFAの舞台でも副会長として暗躍して、遂には司直の手に落ちたジャック・ワーナー。先ほど2015年に逮捕されたと紹介した人です。

この人も写真をつけておきます。



この二人以外にも法外なリベートや賄賂を受けていた人物として多くの人の名前が出てきますが、このノンフィクションドラマの主人公はこの二人です。

リベートや賄賂をもらった側がいれば、それを出した側もいるわけで、その主要な相手として、南米大陸から北米大陸にかけてのサッカーイベントを巨大な利権行事に仕立てあげることに成功したブラジルのスポーツマーケティング会社「トラフィック・スポーツ社」の創業者、ジョゼ・アビラという人が登場します。

このように、このドラマ、あくまでノンフィクションドラマですが、その主役が南北アメリカ大陸関係者ということで、アメリカの税務・捜査当局が長い間の内偵の末、摘発できたのかもしれません。

本の中でも触れられていましたが、関係者がヨーロッパ大陸の人間の場合には、それぞれの国の法の壁や、捜査当局間の連携の難しさがあり、こうも大規模な摘発はできなかったようです。

世界を揺るがすような、大スキャンダルを暴くのは、やはりアメリカ、そんな思いを強く抱かせるドラマ、捜査の仕方も「そこまでやるのか」と言った徹底ぶりです。

その代表的なものが、捜査の突破口になると目星をつけた容疑者、ここでは、チャック・ブレイザーですが、彼と司法取引することによって捜査協力を求めるというやり方です。日本の捜査ではなかなかお目にかかれない内容です。

せっかくですから2つほど具体的な場面をご紹介しましょう。

まず、チャック・ブレイザーに税務当局特別捜査官のスティーブ・ベリーマンが、司法取引を持ちかける場面。
【「あなたは何年も所得税を申告していませんね。総額数百万ドルの収入源がある証拠をいくつも見つけています。(中略)総合すると、あなたは税犯罪だけで最長30年の実刑に服すことになります。」

ベリーマンは捜査令状に目を通す時間をブレイザーに与えたのち、最後にこう言った。「力を貸していただきたいんです」そして捜査官ふたりはじっとブレイザーを見つめた。この瞬間こそが重要で、ここ数週間はノリスやヘクター(※検察当局の関係者)を交え、延々と出方を論じ合っていた。

このトランプタワー(※いま何かと話題のこのビルにブレイザーのオフィスがある)での対決は、試合の結果を左右するビッグブレーで、ブレイザーの選ぶ道はいずれかひとつだった。ブレイザーがこの取引に応じれば、いかようにも事件を進展させられる。彼がサッカー界の全容を見せてくれるだろう。(中略)これはとてつもなく大きな賭けだった。

やがてブレイザーが長くゆっくりと息を吐き、ベリーマンは体に熱っぽい緊張が走るのを感じた。
「力を貸しますよ」ブレイザーは言った。】
チャック・ブレイザーに究極の選択を迫る場面てす。映画を観ているようです。

次は、チャック・ブレイザーが、当局からの要請で賄賂を送った側の中心人物ジョゼ・アビラに接触し、彼に彼自身の違法行為を語らせて、それを極秘に録音しアビラ逮捕の動かぬ証拠にしようという作業の場面。これを捜査当局は「提供セッション」と呼んでいます。

【録音装置をこっそり身につけたブレイザーは、ロンドンでアビラと落ち合い、(事前に捜査当局と一緒に考えておいた)作り話を持ち出した。

いつものように挨拶を交わすと、ブレイザーはアビラに60万ドルの支払いについてスペイン語で尋ね、その金を最初はウルグアイの銀行から、つぎはパナマの会社から二度にわたって受けとったことも、録音のために忘れずに言い添えた。

そしてアビラに尋ねた。そのことを覚えているか? ひょっとしてその書類を持っていたりしないか? こんなことを尋ねるのは心苦しいが、FIFAの倫理委員であるガルシアから聞き取り調査を受けていて、逃れるにはその書類を見せる必要があるのだと言った。

ふたりは長年の知り合いで、馬も合った。(中略)ところが、どういうつもりなのか、アビラは支払いをしたことを否定し、そちらの頼みを聞く筋合いはないと言い張った。

ブレイザーがなおも食いさがると、この会話を終えたがっていたアビラは、ブラジルに戻ったら調べてみるとようやく約束した。

これはロンドンでブレイザーがおこなった最後の録音で、ベリーマン(税務当局特別捜査官)が段取りにかかわることのできなかったただひとつの録音だった。

四半世紀近くにわたってサッカー役員に賄賂を支払いつづけてきたアビラは、犯罪への関与をにおわせる発言を避けた。】

追いかける方も逃げる方も、 ギリギリの攻防です。

この攻防の主な舞台は、先に書きましたように、南北アメリカ大陸です。しかし、本の中では、2018年ロシアW杯、2022年カタールW杯開催地決定に関する不可解な動きについても取り上げおり、巨大マネーを繰るカタールの大富豪モハメド・ハマムが登場しています。

今回のテーマ「巨大マネーに支配されていくのか、世界のサッカーは」(1)では、カタール、U AEのマネーが席巻していることをご紹介しました。

その動きを見て黙っていないのが、アラブの盟主を自認するサウジアラビアです。いまやサッカー界の利権とマネーの震源地は、アメリカ大陸から完全に中東にシフトしたと言えます。

中東はすべて AFCすなわちアジアサッカー連盟の構成諸国です。したがって、これからのサッカー界における利権と巨大マネーの構造に、好むと好まざるとにかかわらず、我が日本も巻き込まれかねない時代に入ったと考えなければなりません。

それは、つまるところ、2022年W杯が、なぜカタール開催なのか、と言った釈然としないことが、これからもアジアでは平気で起こることを意味しています。

フェアプレーのフラッグの陰では、一体何が起きているのか、容易に窺い知れないということです。

では、また。










コメント
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