「すべての社員がイキイキ働くようになる」仕組みと研修を提供する人材育成社です。
「この研修はとても有意義でしたので、資料のデータを部内のメンバーに共有します」、「参考までに、以前この研修を担当していた講師の資料のデータを送付します」
これらは、これまでに私が受講者や研修担当者から言われたことのある言葉です。新型コロナウイルスの影響で、社員研修は従来の対面型からオンライン型へと大きく変わりました。こうした研修で使用するテキストは、事前にPDFにしてパスワードをかけたうえで送付することがあるのですが、時々研修のご担当者から「パスワードはかけないでください。開けないと言ってくる社員がいますので・・・」というようなことを言われるときがあります。
実はこうした依頼をいただく場合、私自身少々戸惑ってしまうことが少なくないのです。それは、冒頭で紹介した例のように、弊社が研修で提供した資料のデータが受講者以外の人にもどんどん拡散されてしまうことは問題だと感じるからです。また、私の前に研修を担当していた講師のデータが、本人の了解を得ずに同業である私へ勝手に送付されてしまうことも非常に問題だと考えるからです。
それでは、どうしてこのようなことが起きてしまうのでしょうか?いずれのケースにおいても、コンテンツの重要性を認識していないことが原因のため、ご本人は全く悪気なく堂々とこういった発言をされているのだと思います。
しかし、問題意識がないこと自体が問題だとも言えるわけで、これは解決が非常に難しい問題だと思っています。なぜならば、この問題がコンプライアンスにかかる個々人の意識に大きく依存してしまっているからなのではないかと考えるからです。
コンプライアンスは、法令順守というだけでなく社会人としての常識、倫理観、道徳観、さらに社内の各規則や規定、業務手順、マニュアルなど社員として守らなければならないことのすべてを含んでいます。コンプライアンスについては階層別研修などで取り入れている企業もありますが、意識を徹底することはなかなか簡単なことではないようです。
現に、同じ会社の社員であっても担当者の考え方によって対応が大きく変わってしまうことはよくあることです。たとえば前任者のときにはパスワードをかけて資料を提供していたものが、担当者から変わった瞬間に、パスワードをかけることがいきなり禁じられたということもありました。
もちろん、PDFに閲覧用のパスワードを予め設定したかと言って、これらの問題が解決できるわけではありませんが、意図しない第三者に閲覧されてしまうことを少しでも防ぐことを期待する視点からは、「敷居を上げる」効果があるように感じています。
様々な資料をデータとして簡単にやりとりできるようになった今、こうした議論はまだしばらく続くようにも思いますが、本人に断ることをせずにコンテンツを流用したり送付したりしないということが、早く一般的なコンセンサスとして広く共有されるようになることを願っています。