パオと高床

あこがれの移動と定住

藤維夫「影から影へ」(「SEED22号」2010/4/25)

2010-05-26 14:09:32 | 雑誌・詩誌・同人誌から
述懐する草原にはなたれて
いつの日か鳥がさわぐ
ただ見ただけにすぎない森のふちに
さらにひろがりつづけ
黄色い孤独な草原はいつも放浪者を見捨てている

日がすぎて
新しい復活のきびしい朝がきて
どこへ行くか
淘汰された文章からわずかに生き残りがあるならば
無為は無為だけのしずかな樹木であるだろう

伐採の跡地で
世代のうつろいから遅れ
苦患の悲しみを嘆くのか
宿命を領して風化する時代にたえていくのか
神を殺したニーチェの幻影のように
影から影へ謀反の旅をつづけることだろう
          藤維夫「影から影へ」(全編)

「SEED」というのは藤維夫さんの個人詩誌である。22号には5編の詩が収められているが、その冒頭の詩。
「述懐する草原」とか「新しい復活」さらに「きびしい朝」、「宿命を領して風化する時代」といった表現にあるように、名詞をしっかりと繋ぎ止めて置き去りにしない。その一方で詩を収束させずに、置き去りにされたものと進みいくものの間を描き出している。その結果、どこかオリジナルな行の行き渡しが感じられるのだ。
何より、言葉の出所の格好よさに魅力を感じた一編。
「無為は無為だけのしずかな樹木であるだろう」や、ラスト二行に引かれた。詩を書く行為自体が「謀反の旅」であるのならば、それは、しかし「影から影への」謀反の旅なのかもしれない。
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