パオと高床

あこがれの移動と定住

アガサ・クリスティー『メソポタミアの殺人』石田善彦訳(早川書房)

2010-11-27 09:54:47 | 海外・小説
推理小説が読みたくなって、それも探偵もので犯人捜しの本格派の王道をいく推理小説が読みたくなって手にした有名すぎる一冊。あっというまの満足いく本だった。ポアロもいいな。って、今ごろ言うなとファンには怒られそう。
クリスティーの展開のリズムがいい。ダレて弛緩するところがない。そして、しゃれた言葉や描写が出てくる。殺人事件であるのに、陰惨さがない。どこか品性があるのだ。また、人物それぞれに性格描写が効いていて、各人の心理の分析に至るときに説得力があるのだ。さらに、今回の舞台メソポタミアの風景が、行ったことはないのだが、思い浮かべられる。謎やトリックも大切なのだが、小説は、その奥行きがしっかりしていないとダメなんだなと思うことができた。
今のイラクの情勢とかを考えても、この発掘現場の時代がかった感じは、ノスタルジックな感じがして、もちろんこれが平和だとは思わないが、いい気分に浸ることができるのだ。

解説で春日直樹は書いている。
「クリスティーの作品には、国や時代を超える何かがある。同時代のファンやクリスティー自身さえ気づかなかったような、ミステリアスな力が宿っている」と。そして、一冊手にとって見るとよいと誘いながら、
「ワールドカップの興奮、テロ事件の衝撃、大国のエゴイズムへの憤り、その渦中にあえて彼女の一冊を開いてみるとよい。平静な自分、ふだんの自分がきっと戻ってくる。それが現代にクリスティーをミステリイとして読むことの意味である。」と結んでいる。
そうかもしれない。そんな時間を持てたかもしれない。そんな気がした。
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