パオと高床

あこがれの移動と定住

詩誌「饗宴」62号 山内みゆき「未来への確認」、村田譲「思い 手あわせ」

2011-10-25 11:13:11 | 雑誌・詩誌・同人誌から
北海道の詩誌「饗宴」。2011年エッセイ特集と書かれている。エッセイ、読み応えがあるのだが、ここでは詩を紹介。
冒頭の詩、山内みゆきさんの「未来への確認」の一連目が面白かった。

昨年の秋の終わりにひとかけずつ埋めた大蒜は
春になって細い茎に葉をそよがせ並んで育った
ひとかけが一個に増えるとは 効率的
でも 少しずついっぱい
食さなければ冷蔵庫の中身は減らないだろう

大蒜のそよぐ葉と冷蔵庫の中に収まっている大蒜が頭のなかで一緒になって、もちろん広大な大蒜畑ではないのだが、その大蒜の埋まった土と妙に存在感を示す冷蔵庫のボックスが僕の中で像を結んで楽しかった。で、第二連、

イコール(=)を出しなさい
大審問官が迫ってくる
わたしには嘘はありません
走ります 命尽き果てるまで…

えっ?「イコール」?つまり、答えを出しなさいということかもしれない。しかし、この答えは等号で結ばれていなければいけない。「答えを出せと/大審問官は迫ってくる」ではないのだから、等号で折り合う、対象性の世界を要求してきているのだ。詩はそれに対する反発を示さない。むしろ受け入れていく。「未来」への答えを求める「走ります」という行為を示す。「イコール」の右側にある「未来」へ向かって。そこで、第三連以降が書かれる。

川沿いの堤防の道は途切れつつも
昔の祖父の家に繋がる
もう とうきび畑も 橋もない
過去はもう 保存されていない
記憶は感傷に過ぎない

この連がいいなと思うのは、「保存されていない」と書くことで、「保存されてしまう」ことばのよさだ。「感傷に過ぎない」と書くことで感傷を存在させてしまう、否定しきれないことばのよさだ。「とうきび畑」も「橋」もないと書きながら、あったはずの「とうきび畑」と「橋」を存在させ、イメージさせることばのよさだ。「途切れつつ」繋がっている道は、繋がっている。だから、それは未来へも繋がるはずのもので、繋がると信じるもので、

雲は貨物列車のように繋がって
肩には涼しい風

大蒜のおかげで
スタミナはついたかも
          (「未来への確認」全篇)

と、終わる。日々の連続への思いが、この詩を支えている。昨年の大蒜から私の中へ入ってきた大蒜までを繋げている。確認できる未来なんてないのだけれど、日常は未来を前提しているのだ。

村田譲さんの「思い 手あわせ」。
「饗宴」では、「はやぶさ」や「イカロス」といった宇宙に材を採った詩が掲載されていたのだが、今回は村田さんのもう一つの流れ(と勝手に書いたのだが)の詩かな。詩集『渇く夏』の流れに位置する詩なのかなと思った。自身の来歴を人々の生活や過ぎていく時間と重ねあわせていく詩群に入るのかもしれない。

ひらいては
巻きつく初めてと結び
知らなかった手との会話が
伝わる帰ってからの
温もりのその日
零れる笑みは
滴りソファのくぼみへ、と

ためらうように触感を刻む。ここで、第一連が終わり、次の二連は、

沈みこんだ体を支えながら
そして同時に
願う一本の名前を携えようと

連が異なっているので、「ソファのくぼみへ、と」は「沈みこんだ体」とは繋がっているようで、繋がっていない。ただ、読者の頭のなかでは、「ソファのくぼみ」の量感と「沈みこんだ体」の量感が重なる。この連が「わたし」の始まりを告げる連になっているように思う。ここが、「わたし」を誕生させ、同時にそれは、父の墓の前で父を思っている「わたし」を存在させているのだ。今、ここに「わたし」を送り出してくれた父への思いが終連にある。

父の墓の前
チャペルの鐘の響くもとであわせる
わたしの思い 手のひら
、よ
          (村田譲「思い 手あわせ」一部)

読点に呼吸を宿そうとしている。村田さんの詩は朗読への道筋があるのだが、この「、」は、「手のひらよ」ではだめだろうし、「手のひら」という体言止めの終わりでもだめだったのだろう。「わたしの思い」を入れるための呼吸が確かに読みとれる。
もちろん、この詩は全く違った読み方もできるのかもしれない。ただ、僕は父から「わたし」へと命が生みだされ連続していく詩として読んだ。
前後して作者には申し訳ないのだが、
第三連、

触れるすべてを
変える黄金色の光景の波間へ
ひろがる鼻孔には
ちいさな君の称号がソーサーのうえ
とじて握りしめる
貴い味わい

実はこの連が効いている。触覚が視覚と交互に現れ、絡み合っている。

この詩誌では、他に吉村伊紅美さんの連作「魚篇」シリーズが毎号楽しい。また、塩田涼子さんの「転身譚」も興味深い連作だ。また、「林檎屋主人日録」も密かに(?)楽しんでいる。
荒巻義雄さんのエッセイは文句なく堪能。詩集が出るのか。
コメント (2)
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