イワシの翻訳LOVE

はしくれトランスレータ「イワシ」が、翻訳への愛をつれづれなるままに記します。

マッコリ・イン・トランスレーション ~オモビニを探してソウルフルな旅~ 5

2008年06月24日 22時05分56秒 | 旅行記
韓国には自動販売機が少ない。コンビニも日本ほど多くはない。コンビニは日本のチェーン店のものも、地元のものもあったけど、店の規模が小さいようだ。韓国のコンビニは、日本みたいに「とりあえず生活に必要なものはほぼひととおり揃う」というコンセプトに基づいているのではないような気がする。どちらかと言えば、キオスクに近い。

そして、路上のあちこちに、キオスク(他に呼び方があるのだろうか?)がある。日本では駅で見かけるあのキオスクが、歩道上にたくさんある。下手をすると、日本の自販機と同じくらいたくさんある。品数は、日本の駅のキオスクに比べると、だいぶ少ない。なんというか、キオスクというよりも、むしろ「よろず屋」かもしれない。売っているのは、新聞、雑誌、飲み物、お菓子、煙草、小物など。キオスクの前面が屋台のようになっていて、ホットプレートなどの調理器具が備わっているタイプのもの多い。そこで、プルコギとか、ゲソとか、ソーセージとかの鉄板モノや煮込みモノの作りたてを、オモニやおっさんが調理して売っているのだ。コンビニのおでんみたいなものか。あるいは、果物を切って食べやすくしたものを売っていたりする。メロンとか、スイカとか、パイナップルとか。これがまた美味しい。面白かったのは、ほどんどの店がミネラルウォーターを氷らせて売っていたこと。冷えているのは嬉しいけど、何も氷らせなくてもいいのに...。溶けるまで、飲めない。

僕はキオスクが大好きだ。僕が「買うもの」といえば、飲み物、食べ物、読み物がほとんどだ。そのほとんどのニーズを満たしてくれるのが、キオスクなのだ。読み物がやたらと大きな顔しているところが、読み物好きにはたまらない。最近、雑誌はあまり読まなくなったけど、昔は、片っ端からキオスクの雑誌を買っては読んでいた。今でも、時間とお金があればキオスクで売ってる雑誌全部買って読みたいといつも思う。駅にいくと、キオスクの前でついついうっとりしてしまうのである。

キオスクは、人間の欲望を具現化した小型の宇宙船のようだ。キオスクにあるのは、「人間がいきるために必要なもの」というよりも、「人間がいきるために必要なものをそれなりに満たしたとき、次にほしくなるもの」という気がする。キオスクにあるのは、つまり、ぶっちゃけあってもなくてもいいものかもしれない。しかし、だからこそキオスクには夢が詰まっている。リッチネスがあふれている。あのコンパクトなボディにぎっしりと詰め込まれた商品群。そして、キオスクは速い。値段を完璧に把握している店員が、将棋の多面差しのように、次から次へと客をさばいていく。

ここ韓国では、キオスクは駅だけではなく、路上にあふれている。中にいるのはおっさんもいるけど、ほとんどはおばさん。オモニとか、ハルモニと呼ばれる人たちだ。たくさんのオモニが、まるでお地蔵さんみたいに、道端に鎮座して商売をしている。自販機が少ないのは、コンビニがあまり目立たないのは、このオモニたちが頑張っているからだ。そういうわけで、このキオスクのことを僕は勝手に「オモビニ」と名づけたのだった。

オモビニにもいろいろと特徴というか個性があって、調理した食べ物を前面的にフィーチャーしているものもあれば、食べ物は扱っていないタイプものもある。煙草とか、読み物とか、何かが特別に充実しているパターンもあるし、とにかく、店によってそのパターンが無限なのだ。売っている品自体はどこでも似たりよったりなのなのだけど、その組み合わせの妙があってとても面白く、見ていて飽きない。まるで、形は似ているけどひとつとして同じ模様をしていない貝殻みたいだ。おそらく、隣のキオスクが食べ物系だから、うちは煙草で勝負しようとか、調理するのメンドクサイから雑誌で勝負しようとか(中にテレビを置いてじっと観てるオモニも結構いた、一日中テレビを観てて、お金も稼げるんだから、いい商売かもしれない)。訊いてみたわけじゃないけど、それぞれに思惑があるのだろう。ともかく、すっかりオモビニが気に入った僕は、前をとおりかかるたびに、じろじろと観察してしまった。ビールも買ったし、英字新聞も買った。串モノも買って食べてみた。ちなみに、キオスクのように固定式の店ばかりではなくて、移動式の屋台もたくさんある。屋台では、やはり食べ物が中心だ。キオスクの隣に屋台があって、タッグを組むように商売をしているところもある。

韓国のサラリーマンはたぶん、朝、キオスクで新聞とタバコを買う。昼間、喉が渇いたら飲み物を買う。老いも若きも、キオスクを活用している。チョコレートを買う。ソーセージを立ち食いする。ビールを飲む。隣の屋台で一杯飲む。そんな具合だ。

オモニたちはとても元気で、威勢がいい。品物の値段を聞くと、一生懸命に教えてくれる。食べ物を頼むと、嬉しそうに手渡してくれる。世話焼きな人が多いのだ。キオスクの中にいるオモニはまるでモビルスーツをコックピットから操っている戦士のようにも思える。オモニという韓国のコアな部分が、むき出しになって街にあふれている。オモニという日常が、突然路上に出現する。まるで、寺山修司の実験映画のようだ。そのオモニたちを、個性的なキオスクが貝殻のように覆っているのだった。

喉が渇いたので、オモビニで缶ビールを買い、歩きながら飲んだ(アル中ですな...)。ひたすらに歩を進めていたら、いつしか繁華街から離れ、住宅街に足を踏み入れていた。ここは、どこだろう.......?





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