イワシの翻訳LOVE

はしくれトランスレータ「イワシ」が、翻訳への愛をつれづれなるままに記します。

しょうがない

2008年12月13日 19時48分25秒 | Weblog
風邪が流行っているらしい。僕は、幸いなことにめったに風邪をひかない。だいたい4年に1回くらいのペース(「○○は風邪をひかない」というのは本当らしい)。走り始めてからは、特に丈夫に(または、○○に)なったようだ。最近、知り合いの何人かが風邪でダウンしたと聞いた。傍にいって看病してあげたいところなのだけど、そうもいかず。おすすめなのは、擂った生姜のお湯割り。最近またまたコーヒーを止めたので、一日中、生姜湯ばっかり飲んでいる。生姜だけのときもあるし、砂糖を入れたり紅茶に混ぜて飲むこともある。胃にも優しいし体も温まるので、とても気に入っている(生姜は皮に風味があるので、皮を向かずにダイレクトに擂って絞って入れるのがコツらしい)。生姜を切らしたくないので、常に手持ちがどのくらい残っているかが気になり、足りなくなりそうになると「しょうがないな~」とつぶやいて買いに行く(実話)。ともかく、風邪をひいたら安静にして、体の声を聞いて、無理をしないことが大切だと思う(食べたいものだけを食べ、眠りたいだけ眠り、ネガティブなことを考えず頭と体を楽にする)。お大事にしてください。

深町眞理子さんの『翻訳者の仕事部屋』を読む。翻訳者が書いたエッセーの類にはついつい手が伸びてしまう。これはかなり前に購入してそのとき軽く目を通していたのだけど(図書館で借りたと思っていたら、持っていた)、そのときは自分もまだ翻訳の仕事をしていたわけではなかったから、正直あまり印象に残っていなかった。ところが、今回読み直してみるととても面白い(年齢的にも、翻訳者としても、この本を面白いと思えるだけ、自分の位相が上がったのだと思いたい)。まず、なによりも言っていることがまっとうだ。「翻訳は日本語の表現力が大切」というのは、昨今では翻訳道を歩んでいる人なら耳にタコができるくらい聞かされていることだと思うのだけど、彼女が言っているのは、その一歩先の話だ。実際、日本語表現力を高めることは容易ではない。深町さんによれば、翻訳者の芸とは、テクニックであり、心がけであり、想像力なのであり、さらに「迅速・丁寧・正確」に加えて、文章に「華」がなければとおっしゃる。

「華」っていうのは、もちろん世阿弥のいうところの華なのであって、決して単に派手でゴテゴテした文章のことではない。つまり、プロとして読ませる文章を書けるかどうかが大切ということ。おしつけがましくなく、それでいて表現や言葉の選び方が的確で、読者を引き込みページをめくらせる。これが難しい。そこそこのレベルの文章なら、翻訳でもやってみようという人なら書けるだろう。だけど、そこから先の世界にいくのは、とてつもなく大変なのだ。深町さんの言説に説得力をもたらしているのは、かくいう彼女の文章がとっても上手であるからだ。作家でも、なかなかここまで書ける人はいないですぞ。文章のリズムや表現の洒脱さを味わうだけでも楽しめる。曰く、書くべき何かを持っている人なら、15歳でも作家になれる。だけど、翻訳者には「どう」書くかが――すなわち、芸が――求められる。そう、僕たちは芸人なのです。落語だってそう。誰だって、多少の訓練を積めば、まねごとめいて一席ぶつことはできるだろう。だけど、真打と呼ばれるようになるまでには、とてつもない努力が必要だ。同じことをしゃべっていても、素人や駆け出しとは何かが決定的に違う。その差は何か。それはラーメンの秘伝のスープにも似て、長年の試行錯誤の上で初めて生まれてくる「まろやかさ」や「コク」みたいなものだから、一朝一夕に見極めることは難しいし、その会得は人生をかけてとりくまなければならないものだ。自分が真打でないのは百も承知とはいえ、到達すべき芸の頂をいつも意識していたいものだ。

で、「華」のある文章を書く力に加えて、翻訳者には原文を読む語学力と、原文の意味するところを理解する専門知識や常識力が求められる。翻訳者は3つの種目を均等に鍛えなくてはならないトライアスリートだというのが持論なのだけど、そのうち1つを極めることだって大変なのに、3つもやらなくてはならないなんて、やっぱり大変だ。だけどまあ、逆に言えばそれだけやりがいがあって面白いのだ。深町さんは、まず翻訳が好きであることが大切だと、これも正論すぎてうんうんと唸るしかないのだけど、やっぱり彼女に言われると心にズドンと響く。はい、好きなんですけど、とっても好きなんですけど、ずっと好きでいつづけるためには、努力も必要ですね。


心離れて つかのまだけ忘れようブロッコリー茹であがるまで

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2 コメント

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参考になりました (kame)
2008-12-14 08:46:23
kameは4日に1度の頻度で風邪をひいているので、生姜のお湯割りの話が参考になりました。深町さんの文章のファンではありませんが、同書でお書きになっていることには確かに啓発されますね。
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今日も (iwashi)
2008-12-14 11:50:38
kameさん、お大事にしてください。僕も「引かない」なんて書いたとたんに引きそうなので気をつけます。今日もお湯割りを飲んでいます(^^)。

深町さんの言葉は、翻訳ハウツーものとは違って、圧倒的な実績を持つ生身の翻訳者の言葉だけに重みがありました。
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