漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「義ギ」<よい・ただしい>と「儀ギ」「犠ギ」「議ギ」「蟻ギ」「艤ギ」「羲ギ」「礒ギ」「嶬ギ」

2023年10月16日 | 漢字の音符
  増補しました。
 ギ・よい  羊部          

解字 「羊の略体+我(のこぎり状の道具)」の会意形声字。義は羊にノコギリ状の道具を加えた形で、犠牲として神に供えるいけにえの羊を表す。この字でノコギリ(我)は、発音(ガ⇒ギに変化)も表している。
最初は、いけにえの羊の容態(ありさま)を言う
 意味は甲骨文は地名である[甲骨文字辞典]が、金文で「宜」(よろしい)「儀容ギヨウ」(礼儀にかなった姿)や「威儀イギ」(作法にかなった振る舞い)などになった[簡明金文詞典]。
 これは、神に供える「いけにえ」とする羊が立派で大きく(大きい羊=美)、さらに羊の背に飾りの布などを掛け、立派な装いにしたからではないかと思われる。([史記・老子韓非列伝]に「あの天神の祭礼の牛のいけにえ(犠牲)は、きれいな刺繍をほどこした錦を着せられて先祖のお社(おやしろ)に引きだされる」という記述があり、牛と羊の違いはあるものの犠牲となる動物の扱いとして参考になる。
 のちの春秋戦国時代になると、義は儒教の五徳のひとつである「道徳にかなった正しい」「道理にしたがう」意となり、さらにこの意味から転じた「血縁のない者が義でむすぶ親族関係(義父)」や「実物の代わりとみなす(義足)」などの意味が生れた。
 このように意味が展開したため、金文の意味であった「儀容ギヨウ」(礼儀にかなった姿)や「威儀イギ」(作法にかなった振る舞い)などの意味はイ(人)をつけた儀で表されるようになった。
意味 (1)よい(義い)。よろしい。正しい。「正義セイギ」「仁義ジンギ」 (2)のり。みち。人として行なうべき正しい道。道理にしたがう。「信義シンギ」「義挙ギキョ」「義士ギシ」 (3)わけ。意味。「字義ジギ」「意義イギ」 (4)血縁のない者が「義」で結ぶ親族関係。「義父ギフ」 (5)実物の代わり。実物とみなす。「義足ギソク

イメージ 
 展開した意味である「正しい道理・のり」(義・議・蟻)
 金文の意味である「作法やかたちがととのう」(儀・艤)
 神にそなえる「いけにえにする」(犠・羲)
 義の中の我の意味である「ギザギザした」(礒・嶬)
音の変化  ギ:義・議・蟻・儀・艤・犠・羲・礒・嶬

正しい道理・のり
 ギ・はかる  言部
解字 「言(ことば)+義(正しい道理)」の会意形声。話し合いをして正しい道理を見い出すこと。
意味 (1)はかる(議る)。論じ合う。「議論ギロン」「合議ゴウギ」「議会ギカイ」 (2)意見。「建議ケンギ」「私議シギ」 (3)話す。説く。「抗議コウギ
 ギ・あり  虫部
解字 「虫(むし)+義(道理に従う・のり)」の会意形声。道理に従って、のりを守り団体行動で生活をする虫の蟻(あり)。
意味 (1)あり(蟻)。アリ科の昆虫の総称。女王蟻を中心に集団で規律を持って生活する。「蟻集ギシュウ」(蟻が群がるように集まる)「職蟻ショクギ」(働きあり)「蟻塚ありづか」「蟻地獄ありジゴク

作法やかたちがととのう
 ギ・のり  イ部
解字 「イ(ひと)+義(作法やかたちがととのう)」の会意形声。人の行動が作法にかなっていること。
意味 (1)形よくととのった作法。礼法。作法に則った行動。「儀礼ギレイ」「儀式ギシキ」「行儀ギョウギ」 (2)のり(儀)。基準となるもの。手本。「儀典ギテン」「儀法ギホウ」 (3)(天体がのりに従って動くことから)天体観測の器械。「天球儀テンキュウギ」「地球儀チキュウギ
 ギ  舟部
解字 「舟(ふね)+義(かたちが整う)」の会意形声。船の出航の形が整うこと。
意味 ふなよそおい。ふなじたく。船を整備し出航の準備をすること。「艤装ギソウ」(船の完成後、航海に必要な装備を取り付けること)「艤舟ギシュウ」(船での準備をする)

いけにえにする
[犧] ギ・いけにえ  牜部
解字 「牜(牛)+義(いけにえにする)」の会意形声。いけにえにする牛で犠牲を表し、人にも移して使う。旧字はであるが、羲は人が「ぎせい」になる意味の字。
意味 いけにえ(犠)。神前に生きたまま供える羊や牛などの動物。転じて、他人のために身を捨てること。「犠牲ギセイ」「犠打ギダ」(野球で、自分が犠牲になって走者を進める打撃) (2)祭器のひとつ。「犠尊ギソン」(牛や獣の姿の酒だる)
 ギ・キ・(ぎせい)  羊部

解字 金文は「義(羊をいけにえにする)+万(=人。頭を一で強調した人)」で人をいけにえにすること。万は現在、萬マンの略字として数字の「万」を表すが、甲骨・金文では「頭を一で強調した人」の意味で用いられた。字形は篆文から万⇒丂になり他の部分も変形した。現代字は上が羊の略体、下部は「禾戈(禾と戈は連続する)+丂」の羲となった。
 この字について金文を見ていない[説文解字]は、「气(き)也(なり)」とするが、この意味での用法はない。意味は犠牲であり、犠の旧字がとなっているのは牛が犠牲となる意味である。しかし、この字は仮借カシャ(当て字)され伝説上の人物の名などに用いられた。
意味 (1)ぎせい。「羲牲ギセイ」(=犠牲)(2)古代中国の伝説上の人物。「伏羲フクギ」(=羲皇ギコウ。古代中国神話に登場する神または伝説上の帝王。夫婦と目される女媧ジョカと共に蛇身人首の姿で描かれるものがある)「羲和ギカ・ギワ」(伝説上の太陽の使者)「羲陽ギヨウ」(太陽)  
伏羲 フクギと女媧ジョカ(ウィキペディア「伏羲」より)
(3)人名。「王羲之オウギシ」(4世紀前半、東晋の六朝文化を代表する貴族文化人。とくに書に優れ書聖といわれている)

ギザギザした(=我)
 ギ・いそ  石部
解字 「石(いし)+義(義の中の我の意。ギザギザした)」の会意形声。石が角張ったさま。日本では「磯いそ」の意味で使う。
意味 (1)いわお。石が角張ったさま。岩石がつき出るさま。「碕礒キギ」(石の角張って突き出たさま) (2)[国]いそ(礒)。石の多い波打ちぎわ。 (3)姓。「礒崎いそざき」「礒川いそかわ
 ギ・けわしい  山部
解字 「山(やま)+義(義の中の我の意。ギザギザした)」の会意形声。山が角張って高くけわしいさま。
意味 (1)けわしい(嶬しい)。高くけわしいさま。「崎嶬キギ」(高くそびえけわしい)
<紫色は常用漢字>


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 音符「燕エン」<つばめ>と... | トップ | 音符「長チョウ」 <長髪の人... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

漢字の音符」カテゴリの最新記事