漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「前ゼン」<まえ・切りそろえる>と「煎セン」「箭セン」「揃える」

2020年11月13日 | 漢字の音符
 ゼン・セン・まえ  刂部

解字 甲骨文は、「あし(止)+凡(中空の器。ここでは、たらい)+行(ゆく)」の形。凡(たらい)に足をつけて洗い清めたのち、出発する(行く)形で、「まえにすすむ」意味を表わす。金文と篆文第一字は「行」を省き、凡⇒舟形(=たらい)になった歬ゼンの形。この字が「前」の原字で「まえ」の意味で使われた。篆文第二字で「歬ゼン+刂(刀)」が出現し、刀を加えた「前」の字ができた。この字は、洗った足の爪を刀で切りそろえる意であるが、従来通り「まえ」の意で使われたため、切りそろえる意は、新たに剪センが作られた。現代字は上部が止⇒䒑に簡略化された「前」になった。この字の月は「舟月ふなづき」であり、舟(盤。たらい)を表わす。凡と舟の類似性については、音符「凡ハン」を参照。
 「前」の意味は、本来の、前にすすむ意から、身体の正面の「前」になる他、時間のあとさき(前後)の「前」の意となる。
意味 (1)すすむ。 (2)(うしろに対する)まえ(前)。「前進ゼンシン」「前衛ゼンエイ」(前方の護衛) (3)(時間的に)まえ(前)。過去。「前例ゼンレイ」「前科ゼンカ」 (4)(順序としての)まえ(前)。「前座ゼンザ」 (5)それ以前にまず。あらかじめ。「前納ゼンノウ」 (6)[国]まえ(前)。①立派な状態。「男前おとこまえ」「腕前うでまえ」②わりあて。「五人前ごにんまえ

イメージ 
 「まえ」
(前・彅)
  爪を切りそろえる意から「切りそろえる」(剪・箭・翦)
  切りそろえる意から「そろえる」(煎・揃)
音の変化  ゼン:前  セン:剪・箭・翦・煎・揃  なぎ:彅

まえ
<国字> なぎ  弓部
解字 「弓(ゆみ)+前(まえ)+刀(かたな)」の会意。弓を持つ源義家(八幡太郎)の前を刀で草を薙ぎ払ったという伝承に基いて出来たといわれる字。秋田県仙北市にある田沢湖地区の草彅姓をもつ旧家に伝わる伝承によると、「源義家がこの地に来られた時、草彅家の先祖が義家(弓の名手)を案内して山道を越えた。先祖はをもつ義家のを歩きで草を薙ぎはらいながら案内して山道を越えることができた。そこで源義家から草という姓を賜った」(NHK日本人のおなまえ2018.3.15放送)
意味 なぎ(彅)。薙ぎ、とも書く。姓に用いられる字。「草彅くさなぎ

切りそろえる
 セン・きる 刀部  
解字 「刀(かたな)+前の旧字(切りそろえる)」の会意形声。前は、もともと刀で端をきりそろえる意だが、前が「まえ」の意で使われたので、刀をつけて元の意味を表した。そのため、この字には刀(刂)が二つある。
意味 (1)きる(剪る)。たつ。はさみや鎌で端をきりそろえる。「剪定センテイ」(植え木の刈り込み)「剪紙センシ」(きり紙)「剪裁センサイ」(①布などを裁ちきる。②文章を手入れする) (2)はさみ。「剪刀セントウ」(はさみ)
 セン・や  竹部
解字 「竹(たけ)+前の旧字(切りそろえる)」の会意形声。長さを切りそろえた竹の矢。
意味 や(箭)。やだけ。しのだけ。「弓箭キュウセン」(弓と矢、転じて武器・武芸一般)「箭羽センウ」(矢の羽)「箭頭セントウ」(やじり)
 セン・きる  羽部
解字 「羽(はね)+前の旧字(きりそろえる)」の会意形声。羽を切りそろえること。矢羽根を作る作業と思われる。転じて、ほろぼす意ともなる。また、剪センに通じ、はさみの意味もある。
意味 (1)きる(翦る)。切りそろえる。「翦落センラク」(髪を切って僧侶になる)「翦裁センサイ」(草木をきりそろえる。文章に手を入れて直す)「翦草除根センソウジョコン」(草をきり根を除く。問題を根本から解決する) (2)ほろぼす。「翦夷センイ」(ほろぼし平らげる)「翦伐センバツ」(討伐する) (3)(剪と通じ)はさみ。「翦刀セントウ

そろえる
 セン・いる  灬部    
解字 「灬(火)+前の旧字(そろえる)」の会意形声。火力の熱を物に均等に当るように熱すること。また、煮つめることを言う。
意味 (1)いる(煎る)。鍋で食品の水気がなくなるまで、まんべんなく熱すること。「煎り豆」「煎り胡麻」「煎餅センベイ」(薄くのばした焼菓子) (2)せんじる(煎じる)。にる。につめる。「煎じ薬せんじぐすり」「煎茶センチャ」(茶葉を湯で煎じる。また、それに使う茶葉)
 セン・そろう・そろえる  扌部
解字 「扌(手)+前の旧字(そろえる)」の会意形声。本来はハサミなどで切りそろえる意であるが、日本では手で物をそろえる、ならべる、整える等の意に使う。
意味 (1)きる。たつ。きりそろえる。 (2)[国]そろう(揃う)。そろえる(揃える)。ならべる。整える。準備ができる。「耳を揃える」(小判の縁(耳)を揃えることから、金額を不足なくとり揃える) (3)[国]そろい(揃い)。「力作揃い」
<紫色は常用漢字>

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※一般の検索サイト(グーグル・ヤフーなど)で、「漢字の音符」と入れてから、調べたい漢字1字を入力して検索すると、その漢字の音符ページが上位で表示されます。


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