石造美術紀行

石造美術の探訪記

滋賀県 湖南市(旧甲賀郡甲西町)岩根 常永寺五輪塔

2007-02-07 00:49:54 | 五輪塔

滋賀県 湖南市(旧甲賀郡甲西町)岩根 常永寺五輪塔

旧甲西町岩根は北東部を中心に開発が進んでいるが、南西部は山裾に広がる農村のDscf7827 のどかさを残している。常永寺は旧来からの集落部分の東寄りにある。山門を入ると右手、境内東の庭池のほとりに立派な五輪塔があるのがすぐわかる。元は左手の墓地にあったのを移建したという(※1)。2重の切石基壇上に立ち、反花座はない。花崗岩製で塔高188cm。上段の切石基壇は、長短4つの切石からなり、平板な長い切石の広い面を上下にして約30cm弱間隔で平行に並べ、上を跨ぐように五輪塔の地輪を据え、前後の隙間を短い切石でふさぐ形に並べて地輪下には空間が設けられる構造で、北側地輪下の中央付近に接する切石上面に5cm程の半円形の穴が穿たれており、地輪下のスペースへの埋納(火葬骨を落とし込んだ?)を意図した基壇構造であることがわかる(右写真参照)。こうした例はしばしば目にする。五輪塔本体は各部に四門種子をやや小さい文字で陰刻する。空輪は西側背面が1/4ほど縦に欠けていDscf7825 る以外遺存状態は良好。地輪は若干背が高めながら、下部が上端より少し広いため安定感がある。西側背面の「ア」種子の左右に「康永4年(1345年)乙酉二月七日/一結衆敬白」の刻銘があるという(※2)が肉眼ではハッキリ読みきれない。水輪の曲線は美しく、重心はやや上にあるが裾窄まりの印象は受けない。火輪は軒厚く隅の反転はほどほどで力強さはあまり感じない。空風輪のくびれがやや目に付き、空輪宝珠形先端の突起が尖りぎみであるが、曲線はスムーズ。各部のバランスもよく、整美な印象の実に好感が持てる五輪塔である。各部の特徴は南北朝時代前期の傾向をよく表し、塔自体の美しさや良好な遺存状態に加え、紀年銘があることは貴重。市指定文化財で案内看板が傍らに立つ。松の木や銅像に接していて、ちょっと窮屈そうに見える。下段切石基壇の左右に大きめの花立をコンクリートで固定してあるのは、鑑賞する上で視界が遮られるし、基壇も含めた全体構造を保護するという観点からもあまり好ましいとは言えないが、信仰の対象である以上致し方ない。

参考

※1 池内順一郎『近江の石造遺品』(下)409~410ページ及び368ページの図

※2 川勝政太郎 新装版『日本石造美術辞典』 122ページ


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