石造美術紀行

石造美術の探訪記

滋賀県 大津市北比良 樹下神社・天満宮宝塔

2007-06-22 23:45:08 | 宝塔・多宝塔

滋賀県 大津市北比良 樹下神社・天満宮宝塔

国道161号の西、境内を共有して北に天満宮、南に樹下神社が並んでいる。長い参道を進み社殿の背後、ちょうど両方の社殿裏手の中央の石垣の際に立派な石造宝塔が立っている。08_4 花崗岩製。相輪を欠き、力石か何か用途不明の加工石を代わりに載せてある。基壇はみられず直接地上に置くかれた基礎は西側背面が素面で、残る三方の側面は彫りの深い輪郭と格狭間で飾り、格狭間内にどれもよく似たデザインの三茎蓮を陽刻する。基礎は幅に対する高さの比率がやや大きめである。輪郭は左右が広く、格狭間は花頭部分中央が狭く左右の拡がりに欠ける。しかし側線に硬さはなく肩も下がらない。脚部が少し長く、ハの字に開く。塔身は軸部、饅頭型部、匂欄部、首部を一石で彫成し縁板(框座)はない。軸部はやや下すぼまりの円筒状で三方に鳥居型を薄肉彫に陽刻している。饅頭型に当たる部分曲面から匂欄部、首部へのつながりが実にスムーズで、優れたバランス感覚と高いデザイン性を示している。笠裏には2段の垂木型を刻みだし、笠全体の幅に対する高さの比率が小さく伸びやかな屋根の勾01_8配を見せる。軒は分厚く力がこもった軒反が重厚感を与えている。四注の隅降棟の断面凸状の突帯の中央の出っ張りが明確でないのは意図的な意匠と思われる。露盤は高めに削りだされて笠全体を引き締めている。相輪を欠いて現高約1.7mで元は8尺塔であろうか、規模も大きい。相輪の欠損が惜しまれるが、各部の均衡が絶妙で、素晴らしい出来ばえである。保存状態も良好。石造宝塔の多い湖西にあっても最も美しい宝塔のひとつに上げることができる。無銘のため造立年代は不詳とするほかないが、屋根の勾配が緩く軒の厚い笠の形状、塔身に縁板(框座)が見られない点は古い要素であり、基礎がやや高く輪郭の彫りが深い点は新しい要素である。規模が大きく全体から受ける力強い重厚感と精緻なバランス感覚を考慮し、小生は鎌倉後期、14世紀前半でも早い時期のものと推定したい。なお、田岡香逸氏は鎌倉末期1330年頃の造立と推定されている。

参考

田岡香逸「続近江湖西の石造美術(後)-安曇川町・志賀町・大津市」『民俗文化』146号