石造美術紀行

石造美術の探訪記

滋賀県 東近江市五個荘河曲町 河曲神社宝塔

2007-06-08 06:50:19 | 宝塔・多宝塔

滋賀県 東近江市五個荘河曲町 河曲神社宝塔

先に紹介した五個荘日吉町山の脇(廃天王社跡)宝塔から東に1.5kmほどのところ、河曲町集落にある河曲神社の鳥居のすぐ西側、生垣の脇に石造宝塔がある。規模はそれ程大きくないが、よくまとまった美しさを見せ花崗岩の白さが清浄感を与える。02_14 竹垣で囲まれ保護されている。傍らには一石五輪塔が置かれ、案内看板が立ててある。旧五個荘町指定文化財とのことなので合併後の東近江市でも文化財指定されているはずである。基壇はみられず、直接地面に据えられている。基礎はやや背が高く、四面とも輪郭付きで内部に格狭間を入れ、北側の左右束部分に右から元徳三年(1331年)八月/辛未願主、その中間の格狭間内に貞弘□と刻銘があり、文字は比較的大きく肉眼でも確認できる。他の面も含め格狭間内に近江式装飾文様は見られない。輪郭、格狭間ともに彫りは浅めで、格狭間の側線はふくよかで美しいカーブを描くが花頭部分の両肩が下がっている。塔身は円筒状の軸部の上下に突帯を周回させ、その間の四面に上下の長押と左右の方立、中央の定規縁を表した扉型を薄肉突帯で表し、短い饅頭型の上に框座の円盤状の突帯を廻らせる。框座に続く匂欄部を垂直に立ち上げ、さらに一段細くして首部につなげている。笠は首部を笠裏中央の円孔で受け、二重の垂木型を削りだしている。軒は隅に向かって厚みを増しながら強めに反るが、軒自体そんなに厚いものではなく重厚感や豪放感に欠ける。笠は全体として背が高く、屋根の勾配もやや急で、広めにとった頂部には露盤が薄めに削りだされている。隅降棟は断面凸形でやや幅が広く、彫が浅い。隣り合う四柱の降棟突帯は露盤下で連結する。相輪は九輪の八輪までが残り、その先は欠損している。伏鉢が円筒状で、下請花は摩滅気味で単弁が複弁かはっきりしないが浅めで太い九輪部につながっていく。九輪は凹凸のはっきりするタイプである。ただし、この相輪は石材の色が茶色っぽく、風化の程度や質感も笠以下と異なるため、別物と考えられているようである。ただしバランスは悪くない。相輪を含め高さ約150cm、含めずに約115cm。花崗岩製。鎌倉末期の紀年銘を持ち、基礎に近江式装飾文様がないものの、塔身、笠の構造形式は近江でよく見かけるスタイルで、こうした形式化が14世紀前半には整っていたことを示す。時代推定の基準を示すメルクマルとして貴重。

参考:

池内順一郎 『近江の石造遺品』(上) 372ページ、414ページ

五個荘町史編纂委員会 『五個荘町史』 861ページ