主導権争い激化 “混迷” 2020年東京五輪
小池都知事 森組織委会長 バッハIOC会長
小池都知事 森組織委会長 バッハIOC会長
問われる国際オリンピック委員会(IOC)の姿勢
四者協議は“オープンな形” “リーダーはいない” バッハ会長の“約束”はどこへ?
四者協議は“オープンな形” “リーダーはいない” バッハ会長の“約束”はどこへ?
2016年10月19日、組織委員会を訪れたバッハIOC会長は、記者会見で、経費削減に向けて提案した国・東京都・組織委員会・IOCとの四者協議について、緊密に連携していきたいという考えを示した。
バッハIOC会長は、「四者協議については組織委員会とも合意した。四者協議は技術的な作業部会であり、さまざまな数字や異なる予算を提示して協議していく」と述べた上で、記者団から四者協議の進め方について問われたのに対し、「作業グループは誰が仕切るとか役割分担を考えるグループではない。政治的なグループではない」と4者協議にリーダーはいないと強調した。
さらに、11月1日から3日まで開かれた四者協議の作業部会は、国際オリンピック委員会(IOC)の意向で、全非公開とし、「会合の内容については一切公にしない」という密室の場の会議となった。しかも、会議を完全非公開にすると決めたのは、国際オリンピック委員会(IOC)と組織委員会と相談して決めたとしている。その理由について、協議は事務レベルによるもので、11月末まで継続される見込みで、「最終的な結論となる予定はないため」としている。
これについて、丸川五輪担当者相は「、「今回は中身が最終結論に直結しないので公開しないと聞いており、IOCと組織委員会で決めたことで、私どもは尊重したい」と述べた。四者協議における国の存在感の薄さを象徴する発言だろう。
一方、小池都知事は、「基本的に公開すべきだ」と苦言を呈した。
「4者協議」は10月18日、バッハ会長が小池都知事と会談した際に申し入れた。小池知事はその際、「 「ご提案があった4者の会議は、ぜひ国民や都民に見える形で情報公開を徹底できるのであれば、よろしい提案なのではないかと思う」と、議論の透明性を要請した。
これに対し、バッハIOC会長は、「この会談のようなオープンな形で進めていきたい。われわれとしては、どこでとか、何をとかいうことを決めているのではなく、あくまで先ほど申し上げたフェアの精神でないといけないと考えている」と答えた。
四者協議は、基本的に“公開”するという条件で、バッハIOC会長と小池都知事は開催に合意をしたのではないか。バッハIOC会長も了解をしたはずである。
その2週間後に開かれた作業部会は、早くも非公開、会議の内容も公表しないという方針に変換した。国際オリンピック委員会(IOC)や組織委員会の“密室体質”は、従来からも強く批判をされてきた。政策決定の議論は、結論もさることながら議論の経緯が重要なのはいうまでもない。やっぱりかと、国際オリンピック委員会(IOC)や組織委員会への信頼感を失った。
また会議を非公開にすることは、「IOCと組織委員会で決めたこと」(丸川五輪担当相)としていることも問題だろう。バッハIOC会長は、四者協議は、「誰が仕切るとか役割分担を考えるグループではない」とリーダーのいない四者が平等な会議としていたが、実態は早くも違う。非公開を決めるなら、せめて“四者”で協議して決めるべきだろう。はやくも会議の進めかたで国際オリンピック委員会(IOC)の“力ずく”の姿勢が見え隠れしている。
11月下旬に予定されている四者協議責任者会合は、当然、公開すべきだろう。四者協議は公開するという約束で始まったのである。
オリンピックの肥大化批判が高まる中で、 「アジェンダ2020」で、五輪改革を実現する最初の大会に2020年東京オリンピック・パラリンピックにするという意気込みはどうなるのか、問われているのは国際オリンピック委員会(IOC)である。
主導権争い激化 “混迷”2020年東京オリンピック・パラリンピック 小池都知事 森組織委会長 バッハIOC会長
10月18日、東京都庁で行われた小池都知事とバッハICO会長の会談は、当初は、冒頭のみ報道陣に公開する予定だったが、小池都知事の要請で異例の全面公開となった。殺到した取材陣は合計139人、午後2時過ぎに行われたこともあって、民放の情報番組では生中継で会談の模様を伝えた。
東京五輪開催の“舞台”で繰り広げられる、まさに“小池劇場”の“最大”の見せ場となった。
Tokyo 2020 / Shugo TAKEMI
小池知事がコスト削減説明 バッハIOC会長は理解示す 4者会合開催で合意
会談は東京都庁にバッハ会長が訪れて開かれた。
冒頭、“3兆円”に膨れ上がったとされる開催費用のコスト削減について、小池都知事は「(競技場)の見直しについては80%以上の人たちが賛成をしているという状況にある。都政の調査チームが分析し、3つの競技会場を比較検討した。そのリポートを受け取ったところで、今月中には都としての結論を出したい。オリンピックの会場についてはレガシー(未来への遺産)が十分なのか、コストイフェクティブ(費用対効果)なのか、ワイズスペンディングになっているのか、そして招致する際に掲げた『復興五輪』に資しているかということがポイントになる」と述べた。
これに対し、バッハ会長は「“もったいない”ことはしたくない。IOCとしてはオリンピックを実現可能な大会にしていきたい。それが17億ドル(約1770億円)を(組織委員会に)拠出する理由だ」と語り、小池都知事は親指を挙げて笑顔で答えた。
そして、バッハ会長は、コスト削減を検討する新たな提案として、「東京都、組織委員会、日本政府、IOCの四者で作業部会を立ち上げ、一緒にコスト削減の見直しを行うということだ。こうした分析によってまとめられる結果は必ず“もったいない”ということにはならないと確信している」とした。
これに対して小池都知事は、「来月(11月)にも開けないか」と応じた。
また抜本的な見直しの検討が進められている海の森水上競技場については、会談に中では、長沼ボート場や彩湖の具体的な候補地は出されなかった。
バッハ会長は、「東京が勝ったのは非常に説得力のある持続可能で実行可能な案を提示したからです。東京が開催都市として選ばれた後に競争のルールを変えないことこそ日本にとっても東京にとってもIOCにとっても利益にかなっていると思う」と海の森水上競技場の見直しを牽制し、小池都知事の競技場見直しにクギを刺した。
小池都知事VSバッハIOC会長 “軍配”は?
会談は、当初は、冒頭のみ報道陣に公開する予定だったが、小池都知事の要請で異例の全面公開となった。殺到した取材陣は合計139人、午後2時過ぎに行われたこともあって、民放の情報番組では生中継で会談の模様を伝えた。
11月に開催される4者協議も、小池都知事はオープンにしたいと要請し、バッハ会長もこれを承諾したとされている。
翌朝の朝刊各紙は、「同床異夢」(朝日新聞)、「四者協議 都にクギ」(読売新聞)、「IOC会長 先制パンチ」(毎日新聞)、スポーツ紙では「小池知事タジタジ、IOC会長にクギ刺されまくる」(日刊スポーツ)などの見出しが並んだ。
小池都知事は、都政改革本部が主導して海の森水上競技場など3会場の抜本的な見直しをまとめ、その後、組織委員会やIOCと協議を行うという作戦だったと思える。ところがコーツIOC会長は、経費削減という総論には賛同しながら、具体的な方策については、「四者協議」の設置を提案し、東京都、組織委員会、政府、IOCの四者で競技場の見直し協議を行うことを提案した。「四者協議」の設置は合意され、来月に開催されることになった。国際オリンピック委員会(IOC)からはコーツ副会長が、出席し、IOCの代表を一任されている。コーツ副会長は、元オリンピック選手で国際ボート連盟の“ドン”と言われ、五輪開催地の競技場整備の指導・監督をするIOCの調整委員会の委員長で、大きな権限を握る実力者だ。コーツ副会長は、「シドニー(コーツ氏の地元)では海水でボート・レースをやっているから問題はない。日本人は気にすべきでないしIOCとしても問題ない」とし、海の森水上競技場を暗に支持する発言を繰り返している。
小池都知事の思惑からすれば、「四者協議」は誤算だったに違いない。
小池都知事と組織委員会の対立激化に懸念を深めたバッハIOC会長が業を煮やして混乱の収拾に乗り出して、小池都知事にクギを刺して、組織委員会に“助け船”を出したということだろう。
これまで五輪を巡るさまざま局面で難題を処理してきたコーツIOC会長の巧みな対応は、さすがということだ。
しかし、小池都知事は決して“敗北”はしていいない。
小池都知事の“しかけ”は大成功か
「四者協議」で、都政改革本部が提案した3つ競技場の見直しがたとえうまくいかなくても、“失点”にならないと思える。
海の森水上競技場の見直しでいえば、小池都知事が“仕掛けている”長沼ボート場への変更についても、仮に現状のまま、海の森水上競技場の開催で決着しても、それは、組織委員会や競技団体、IOCが反対したからだと説明ができ、責任を押し付けることができる。
また、海の森水上競技場は、埋め立て地という地盤の条件や自然条件を無視して建設計画が進められていて、もともと極めて難しい整備工事になるのは間違いない。海面を堰き止めて湖のような静かな水面を保つのは至難の業で、風と波対策も難題でうまくいくかどうがわからないし、塩害対応も必要だろう。
つまり、競技場は計画通り建設しても、実際に競技を開催しようとすると不具合が次々と露見して、追加工事や見直しは必須だろう。まだ誰もボート・カヌーを実際に漕いだ選手はいないのである。競技運営も天気まかせで、開催日程通り進められるかどうか、極めてリスクが多い。
その責任は、海の森水上競技場を推進した組織委員会や競技団体がとるべきだろと筆者は考える。海の森水上競技場の整備費、約491億円の中に、なんと約90億円の予備費が計上されている。つまりかなりの追加工事が必要となる難工事になると想定しているからである。この予備費も経費削減で無くそうとしている。
東京都は風や波対策の追加工事の必要になったらその請求書を組織委員会や競技団体送り付けたら如何だろうか?
ボート・カヌー競技の長沼ボート場への誘致に力を入れて取り組んだ宮城県にとっても、たとえ誘致がうまくいかなくても、いつのまにか忘れさられていた「復興五輪」という東京五輪のスローガンを国民に蘇らせることができたのは大いにプラスだろう。これまでほとんど誰も知らなかった長沼ボート場は一躍に全国に名前が知られるようになった。
また、10月19日、バッハIOC会長は、安倍総理との会談で、追加種目の野球・ソフトボールの被災地開催を検討したいと述べ、結果として「復興五輪」は更に前進することになりそうである。
小池都知事が強調した「復興五輪」は、野球・ソフトボールの被災地開催が実現する方向で検討されることになり、形は変わるが小池都知事の“功績”に間違いない。
開催経費削減についても、海の森水上競技場でいえば、小池都知事と都政改革本部が「長沼ボート場」移転案を掲げたことで、あっという間に、整備費用が約491億円から約300億円に、なんと約190億円削減されることになりそうだ。小池都知事が動かなかったら、東京都民は約190億円ムダにしていたところだ。さらに東京都が再試算すると、オリンピック アクアティクスセンターで約170億円、有明アリーナで約30億円、3施設の合わせて、最大で約390億円削減できる見通しとなったとされている。
約390億円は“巨額”だ。これも小池都知事の大きな“功績”、東京都民は“感謝”しなければならないだろう。
これも小池都知事の大きな“功績”、東京都民は“感謝”しなければならないだろう。
結局、「四者協議」で、具体的な見直し案を提出するのは東京都しかと思われる。組織委員会や競技者団体には、経費削減の具体的な対案を提出する能力はないと思われるので“受け身”の姿勢をとらざるを得ない。やはり都政改革本部が見直しの主導権を握っているのだろう。しかし、IOCも絡んできたことで、“混迷”は更に深刻化したことは間違いない。一体、誰がどのように収束させるのだろうか?まったく見通せない状況になった。
「主導権争いの前哨戦 「IOC、ボート・カヌー競技など韓国開催も検討」報道
10月18日、国際オリンピック委員会(IOC)は、海の森水上競技場が建設されない場合には、代替開催地として韓国を検討していると、国内の大会関係者が明らかにした。関係者によると、IOCは海の森水上競技場の整備費が高額であることを憂慮して、2年前にも韓国案を選択肢として組織委員会に示しており、再度持ち出す可能性があるという。
関係者によると、IOC側が想定するのは、2013年世界選手権や2014年仁川アジア大会で使われた韓国中部、忠州(チュウンジ)の弾琴湖国際ボート競技場で、ソウルから約100km離れた場所にある湖のボート場で、国際規格の2千メートルコース8レーンを備える。
IOCは14年12月に承認した中長期改革「五輪アジェンダ2020」で、コスト削減などの観点から例外的に五輪の一部競技を国外で実施することを容認している。交通アクセスなどに課題があるものの、ボート関係者によると「数カ月あれば、五輪を開催できるような能力をもったコース」にできるという。これに対してバッハ会長は、「憶測はうわさにはコメントしない」と述べた。
「韓国開催」の報道は、小池都知事とバッハIOC会長が会談する直前というタイミングで各メディア一斉に行われた。
IOC関係者が小池都知事とバッハ会長の会談の直前を狙ってリークしたとされている。このリークは、小池都知事の海の森水上競技場対応の“独走”に不満を持ち、牽制したと考えるのが自然だろう。小池都知事と組織委員会とのぎくしゃくした関係に不快感を示した国際オリンピック委員会(IOC)が仕掛けたしたという観測もされているが真偽のほどは分からない。ボート・カヌー競技場を検討する経緯の中で、国際オリンピック委員会(IOC)内部で議論の一つになっていたことがあると思える。2013年9月に海の森水上競技場の整備費を東京都が再試算し、1038億円と約15倍に膨れ上がると明らかにした際に、経費の膨張を懸念したIOCより100億円に抑えるようにと注文がついたとされている。
しかし、今のタイミングでこの議論が再浮上としたとは考えにくい。やはり、国内の五輪関係者がバッハIOC会長来日のタイミングを狙ってリークしたと考えるのが自然だろう。
いずれにしてもバッハIOC会長訪日にからんだ一連の主導権争いの前哨戦だったことには間違いない。
「復興五輪」を仕掛けて“主導権”を取り戻した森組織委会長
10月19日、バッハIOC会長は、総理官邸で安倍総理と会談し、東京オリンピック・パラリンピックの複数の種目を東日本大震災の被災地で行う構想を突然、提案した。
会談後、バッハIOC会長は、記者団の質問に答え、「イベントの中のいくつかを被災地でやるアイデアを持っているという話をした」と語り、東京オリンピック・パラリンピックの複数の種目を東日本大震災の被災地で行う構想を安倍総理に提案したことを明らかにした。これに対し安倍総理は、「そのアイデアを歓迎する」と応じたという。
またバッハ会長は 「復興に貢献したい。世界の人たちに、復興はこれだけ進捗していることを示すことができる」とし、大会組織委員会が福島市での開催を検討している追加種目の野球・ソフトボールについては、選択肢の1つとした上で、 「日本のチームが試合をすれば、非常にパワフルなメッセージの発信につながる」と述べた。
野球・ソフトボールの開催地を巡っては、福島県の福島、郡山、いわきの3市が招致している。
前日の小池百合子との会談では、バッハIOC会長は、この話を一切出さなかった。関係者の話を総合すると、バッハIOC会長は、小池都知事と会談したあと、組織委員会を訪れ、森喜朗組織委会長と会談をしている。この会談の中で、森喜朗組織委会長から、野球・ソフトボールの被災地開催を安倍首相の提案するように進言したとされている。バッハIOC会長は、小池都知事の頭を通り越して、安倍首相との会談で、「復興五輪」の推進を高らかに宣言した。
10月20日、都内で開催されたスポーツ・文化・ワールド・フォーラム(World Forum on Sports and Culture) 基調講演で、バッハIOC会長は、「IOCは被災地でいくつかの競技を行うことを検討している。野球とソフトボールを開催するのも一つの選択肢だ」と異例の演説をした。
IOC会長の発言力は極めて影響力があり、通常はここまで踏み込んだ発言はしないとされている。
「復興五輪」については、日本で人気のある野球・ソフトボールの被災地開催の方が歓迎されると思われる。バッハIOC会長発言は、この点をしっかり踏まえたものであった。あまり日本では馴染みのないボート・カヌー競技よりはるかにインパクトがある。小池都知事が力を入れていると思われる長沼ボート場でのボート・カヌー競技開催を“牽制”したと思える。
バッハIOC会長は野球・ソフトボールと具体名を出したが、その一方で、ボート・カヌー競技については何もコメントせず、質問されても何も言及しなかった。
Tokyo 2020 / Shugo TAKEMI
バッハ会長・安部首相会談をセットした森組織委会長
「これは被災地の人々を応援する重要なメッセージになる。この点について昨日森組織委会長の計らいで安倍首相と話をする機会を得た」、バッハIOC会長は、安部首相との会談には森組織委会長の“根回し”があったことを明らかにした。
バッハIOC会長と安倍首相との会談は、もともとの予定にはなく、急遽セッティングされたものだとされている。安倍首相をこの問題に登場させた森組織委会長の政治家として手腕は健在だ。
この会談で、小池都知事が強調した「復興五輪」を、逆手にとって、野球・ソフトボールの開催をバッハIOC会長に発言させることで、小池都知事の動きを封じ込め、2020年東京オリンピック・パラリンピックの主導権を奪い返そうとする森組織委会長のしたたかな戦略がうかがえる。そして海の森水上競技場での開催を守ろうとする反撃が見え隠れする。
カヌー・ボート競技会場を長沼ボート場にした場合、選手村からの距離が遠いので、分村を設置しなければならないという問題が生まれる。
この点についても、森組織委会長は、「選手村は非常に大事だ。世界中の人がそこに集まって一緒に話し合って語り合って未来を考えることができる。そういう意味では、原則的に分村はできるだけ避けてひとつの選手村に選手たちは行動をともにしていただければということだ」と述べた。
これに対しバッハIOC会長は、「もっとも重要なことは選手村がオリンピックの魂であり中心であることだ」と森組織委会長に同調した。
こうした一連の発言で、小池都知事が経費削減と「復興五輪」のシンボルとしていた海の森水上競技場の長沼ボート場移転は、勢いを失ったようである。
「“お父様” “兄弟” “船長” 森組織委会長 バッハIOC会長との親密さを演出
森組織委会長はバッハIOC会長との“親密”な関係をアピールする戦略にも乗り出した。
森組織委会長は「バッハ会長は2020東京大会を主導していただく“船長さん”だ。我々にとっては“お父様”のような立場だ。我々心を一つにしてバッハ会長のもとで同じ船に乗り合わせて進めていくことが我々の大事な使命だと思っていて、本心からバッハ会長を“崇拝”している」とし、「東京2020とバッハIOC会長は“兄弟”だ」と述べた。これに対しバッハIOC会長は「森さんに先ほど“兄弟”という温かい言葉を頂いたので、私は“弟”とよぶべきかな」と答えた。
「経費削減」、「復興五輪」、小池都知事に東京五輪の主導権を奪われかけた森組織委会長は、バッハIOC会長来日を機会に、一気に攻勢に出て巻き返しを図ったといえる。 バッハIOC会長もこれに呼応して、野球・ソフトボールの被災地開催に言及した。
海の森水上競技場を維持しようとする国際オリンピック委員会(IOC)と組織委員会の連携作戦も強烈だ。バッハIOC会長に同行したコーツIOC副会長は、元オリンピックのボート選手、「(コーツ氏の地元)シドニーの私のボートコースは海で、海水がダメというのはおかしい」とした上で、「選手村は一つ」、「レガシーとして残す」と強調した。その上で、「海の森水上競技場でもコストカットの要素はたくさんある。東京都と組織委員会の両方がコストカットに努力している。仮設を増やすことでもっとコストカットが可能だ」とし、明らかに海の森水上競技場擁護の姿勢である。
国際オリンピック委員会(IOC)も森組織委会長との親密さをアピールして組織委員会との連携を強め、小池都知事の“封じ込め”を図ろうとしている。
それにしても総理大臣経験者の老練な政治家、森組織委会長のしたたかな手腕がいかんなく発揮され始めている。
2020年東京オリンピック・パラリンピックを巡る小池都知事、森組織委会長、コーツIOC会長、三つ巴の主導権争いは更に激化した、2020東京オリンピック・パラリンピックはどこへ向かうのだろうか?
“選手村は一つ”、“選手村はオリンピックの魂” の矛盾 どこへ行った五輪改革
“肥大化批判” IOC 存続の危機
国際オリンピック委員会(IOC)もその存在を揺るがす深刻な問題を抱えている。オリンピックの“肥大化”批判である。巨額な開催経費の負担に耐え切れず立候補する開催地がなくなるのではという懸念だ。
2024年夏季五輪では、立候補地は、当初は、パリ、ボストン、ローマ、ブタペスト、ハンブルだった。この内、ボストンは、米国内での候補地競争を勝ち取ったが、市長が財政難を理由に大会運営で赤字が生じた場合、市が全額を補償することに難色を表明、立候補を辞退した。その後、ロサンジェルスが急遽、ピンチヒッターで立候補することになった。ローマは新しく当選した市長が、財政難を理由に立候補撤退を表明、「オリンピックを招致すればローマの債務はさらに増える。招致を進めるのは無責任だ」とした。しかし、組織委員会は活動継続を表明し混乱が続いている。ハンブルグでは招致の是非を問う住民投票が行われ、巨額の開催費用への懸念から反対多数で断念した。
結局、立候補地は4つになった。2008年(北京五輪)の立候補地は10、2012年(ロンドン)は9、2016年(リオデジャネイロ五輪)は7、2020年(東京)は6で、2008年の半分以下に激減した。さらに悲惨なのは、冬季五輪で、2018年(平昌五輪)は3、2022年(北京)は、最終的には北京とアルマトイ(カザフスタン)だけで、実質的に競争にならなかった。しかし、このほかに、ストックホルム(スウェーデン)、クラクフ(ポーランド)、リヴィウ(ウクライナ)、オスロ(ノルウェー)の4か所が立候補を申請したが、いずれも辞退した。
ストックホルムは、1912年夏季五輪を開催し、冬季五輪が開催されれば史上初の夏冬両大会開催地となるはずだった。2014年1月にスウェーデンの与党・穏健党は招致から撤退する方針を発表した。ボブスレーやリュージュの競技施設の建設に多大な費用がかかる上、大会後の用途が少ないことなどを理由に挙げている。
クラクフ は、ポーランド南部に位置する旧首都、開催地に選ばれれば同国初の五輪開催となる。2014年5月に行われた住民投票で、反対票が全体の7割近くを占めたため、招致から撤退した。
リヴィウは、ウクライナ西部の歴史的な文化遺産が数多く残る都市である。開催地に選ばれれば、同国で初の五輪開催となる。しかし、2014年6月に緊迫化すウクライナ情勢で立候補を取りやめると発表した。
ノルウェーは、1952年にオスロオリンピック、1994年にリレハンメルオリンピック開催している。2013年9月に住民投票を行い、支持を得られたことで立候補を表明した。しかしIOCの第1次選考を通過していたにもかかわらず2014年10月、招致から撤退する方針を明らかにした。ノルウェー政府が巨額の開催費などを理由に財政保証を承認しなかったとされている。
開催費用の巨額化で、相次ぐ立候補撤退、このままでは、やがてオリンピック開催を立候補する都市はなくなるとまで言われ始めている、国際オリンピック委員会(IOC)は、オリンピックの存在をかけて改革に取り組む必要に迫られているのである。
「アジェンダ2020」を策定したバッハIOC会長
2013年、リオデジャネイロの国際オリンピック委員会(IOC)総会で、ロゲ前会長と交代したバッハ会長は、オリンピックの肥大化の歯止めや開催費用の削減に取り組み、翌年の2014年の「アジェンダ2020」を策定する。
「アジェンダ2020」は、合計40の提案を掲げた中長期改革である。
そのポイントは以下の通りだ。
* 開催費用を削減して運営の柔軟性を高める
* 既存の施設を最大限活用する
* 一時的(仮設)会場活用を促進する
* 開催都市以外、さらに例外的な場合は開催国以外で競技を行うことを認める
* 開催都市に複数の追加種目を認める
2016年10月20日、都内でバッハIOC会長の来日記念式典が開かれ、東洋の文化、書道を体験してもらうイベントが行われ、バッハIOC会長は、一筆入れて下さいという要請に答え、「五輪精神」の「神」の字に筆を入れて、「五輪精神」の四文字の書を完成させ喝采を浴びた。
その後にスピーチで「オリンピックの運営という観点での『アジェンダ2020』の目標は、経費削減と競技運営の柔軟性を再強化することだ。これは大きな転換点だ」と強調した。
今回バッハIOC会長と共に来日したコーツ副会長も、2000年シドニー五輪で大会運営に加わり、経費削減に辣腕をふるって、大会を成功に結び付けた立役者とされている。
国際オリンピック委員会(IOC)にとっても、肥大化の歯止めや開催費用の削減は、オリンピックの存亡を賭けた至上命題なのだ。持続可能なオリンピック改革ができるかどうか、瀬戸際に追い込まれているのである。
「3兆円」は「モッタイナイ」!
「3兆円」、都政改革本部が試算した2020東京オリンピック・パラリンピックの開催費用だ。オリンピックを取り巻く最大の問題、“肥大化批判”にまったく答えていない。
東京でオリンピックを開催するなら、次の世代を視野にいれた持続可能な“コンパクト”なオリンピックを実現することではないか。「アジェンダ2020」はどこへいったのか。国際オリンピック委員会(IOC)は、2020東京大会を「アジェンダ2020」の下で開催する最初のオリンピックとするとしていたのではないか。「世界一コンパクな大会」はどこへいったのか。開催費用を徹底的削減して、次世代の遺産になるレガシーだけを整備する、今の日本に世界が目を見張る壮大な施設は不要だし、“見栄”もいらない。真の意味で“コンパクト”な大会を目指し、今後のオリンピックの“手本”を率先して示すべきだ。
日本は確実に少子高齢化社会が急速に進展する。その備えを、今、最優先で考えなければならい。
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国際メディアサービスシステム研究所 International Media Service System Research Institute(IMSSR)
2016年11月4日
Copyright (C) 2016 IMSSR
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廣谷 徹
Toru Hiroya
国際メディアサービスシステム研究所
代表
International Media Service System Research Institute
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