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新国立競技場 国際公約 東京オリンピック招致 安倍首相

2015年08月21日 09時09分14秒 | 新国立競技場
新国立競技場 “国際公約” 検証“屋根なし”は“公約違反”ではない




ザハ氏事務所がJSC批判 「建設費高騰はデザインが原因でない」
2015年7月28日、ザハ・ハディド氏の事務所は、ホームページ上で、「コスト高は東京の資材や人件費高騰によるもので、デザインが原因ではない」との声明を発表した。また、費用がかかりすぎるとされたアーチは230億円ででき、総工費の10%未満だったとしている。
建設費が膨らんだ要因について「完成日が動かせないプロジェクト、建設コストの急上昇、さらに国際的な競争がない環境のなか、少数の候補から建設会社を選定すれば競争原理が働かなくなるとJSC=日本スポーツ振興センターに警告したが聞き入れられなかった。十分な競争原理が働かないなかで、あまりにも早期に建設会社を選定したことが見積もりの過剰な高騰を招くことになった」と建設会社の選定方法に問題があったとの見方を示した。
そして、計画見直しで新しいデザインを選べば、質が悪くなるうえ、建設費も高くなるリスクがあるとし、安倍晋三首相に対し、有効な提案をする準備があると書簡を送ったことも明かした。
ザハ・ハディド氏は、8月にも来日して、自らの言葉で説明する準備を進め、日本で定着している「総工費高騰はデザインのせい」というレッテルをぬぐい去り、総工費を抑えた新案を準備していると伝えられている。

(出典 朝日新聞 NHKニュース 日刊スポーツ 2015年7月28日)


(New National Stadium, Tokyo, Japan Satement by Zaha Hdid Architecs 2015年7月28日 抜粋)
Zaha Hdid Architecs

新国立競技場 首相「計画を白紙に戻す」
 安倍総理大臣は、新国立競技場について、「現在の計画を白紙に戻し、ゼロベースで計画を見直すと決断した」と述べ、計画を見直す方針を表明するとともに、下村文部科学大臣らに新しい計画を速やかに作成するよう指示したことを明らかにした。
安倍総理大臣は「オリンピックは国民皆さんの祭典だ。主役は国民一人一人、そしてアスリートの皆さんだ。だから皆さんに祝福される大会でなければならない。国民の皆さん、またアスリートたちの声に耳を傾け、1か月ほど前から計画を見直すことが出来ないか検討を進めてきた」と述べ、そして、「手続きの問題、国際社会との関係、東京オリンピック・パラリンピック開催までに工事を終えることができるかどうか、またラグビーワールドカップの開催までには間に合わなくなる可能性が高いという課題もあった。本日、オリンピック・パラリンピックの開催までに間違いなく完成することができると確信したので決断した。オリンピック組織委員会の森会長の了解もいただいた」と述べた。
(要約 NHKニュース 2015年7月17日)


新国立、2千億円未満に減額検討 デザイン見直しも
 2020年の東京五輪・パラリンピックの主会場となる新国立競技場の建設問題で、安倍政権は2520億円に膨らんだ総工費を2千億円未満に減額する方向で検討に入った。巨額工費に対する世論の強い批判を受け、計画の大幅な見直しを迫られた。
 政府関係者によると、今のデザインを決めた12年の国際コンペで選考に残った別のデザインを生かした案への変更や、工期を延長し一度に雇うより人件費を抑えることを検討している。
 工期を延長すると、競技場を使うはずだった19年のラグビーワールドカップには完成が間に合わないため、今後、安倍晋三首相が東京五輪・パラリンピック組織委員会会長でラグビー界に影響力のある森喜朗元首相と協議し、見直しを最終決断する見通しだ。
 新国立競技場は2本の巨大アーチで建物を支える特殊な構造で、総工費が当初の約1300億円から2倍近くまで増大していた。

(出典 朝日新聞 2015年7月16日)

高すぎ“新国立”に総理、総工費削減、計画変更検討
 2020年の東京オリンピック・パラリンピックのメイン会場となる「新国立競技場」について、安倍総理大臣が総工費2520億円の削減に向け、計画を見直す検討に入ったことが明らかになった。
 新国立競技場を巡っては、2本の巨大な鋼鉄製の「キールアーチ」などが総工費を押し上げ、当初の予算を900億円以上、上回り、2520億円に上った。関係者によると、今月末にマレーシアでIOC(国際オリンピック委員会)総会が開かれ、この場でメイン会場の建設計画を報告することにしている。政府はこれまで計画の変更はないとしてきましたが、与党などからは巨大な予算に対する批判が上がっていた。このため、安倍総理は総工費を削減するために建設計画を変更する方向で検討に入ったという。今後、オリンピック・パラリンピック組織委員会と調整に入るものとみられる。

(出典 ANNニュース 2015年7月15日)

新国立競技場デザイン決めた安藤忠雄氏会見 「大幅なコストアップの詳細は承知していない」
 総工費が「2520億円」に高騰して、世論から厳しい批判を受けている新国立競技場建設問題について、新競技場のデザインを決めた国際デザイン・コンクールの審査委員長を務めた安藤忠雄氏(73)が経緯について初めて記者会見を行い、「デザインの選定までが仕事でコストの決定議論はしなかった」と述べた。
冒頭に、7月7日に開かれた新国立競技場の計画を公に議論する最後の機会となった「有識者会議」に欠席した理由について「大阪で別の会合があったので欠席した」と釈明した。
 「私たちが頼まれたのはデザイン案の選定まで、実際にはアイデアのコンペなんですね。こんな形でいいなというコンペですから、徹底的なコストの議論にはなっていないと思う。私自身こんなに大きなものは造ったことがない。流線形で斬新なデザインでした。なによりもシンボリックでした。この難しい建築工事を日本ならできると私は思いました」
 また、政府内で総工費2520億円の削減に向け、計画を見直す検討に入ったことについて、「建築家、ザハ・ハディド氏のデザインは外すわけにはいかないと思うが、2520億円は高すぎる。もっと下がらないかと私も聞きたい。徹底的議論して調整して欲しい」と述べた。
 新競技場の総工費が問題になってから、安藤氏が公の場で発言するのは初めてで、JSCによると、安藤氏からJSCに会見の要望があったという。
 安藤氏は、総工費が正式に示された7日の有識者会議を欠席したことから、下村文部科学相から「選んだ理由を堂々と発言してほしい」と指摘されていた。

(2015年7月16日)

新国立競技場 “国際公約” 検証“屋根なし”は“公約違反”ではない
 新国立競技場の建設を巡って、「2520億円」の建設計画を支持する根拠として、“国際公約”という声が関係者から聞こえる。
 2015年7月8日、菅義偉官房長官は記者会見で、新国立競技場の総工費が「2520億円」となったことに関し、現行のデザインについて「変更は我が国の国際的信用を失墜しかねない」と述べ、維持すべきだとの考えを示した。
さらに建設高騰の主な要因となっている「キールアーチ」について「このデザインを国際オリンピック委員会(IOC)総会で世界に発信して、東京が開催を勝ち取った経緯もある」と強調した。こうした意見は、新国立競技場の建設を現行のデザインで建設すべきだと主張する関係者の根拠となっている。
一方、IOC調整委員会のジョン・コーツ委員長は2015年6月末、準備状況を監督するために来日したが、毎日新聞は、単独取材を行い、現行の奇抜なデザインでなければ国際公約違反かを聞いたところ、「(ジョン・コーツ委員長は)けげんそうな表情を浮かべて答えた。『(日本)政府が決めること。変更したいと思えば、すればいい。総工費が増大して負担となることは心配している。IOCが象徴的な施設を求めたものではない』」と伝えている。(毎日新聞特集ワイド:なぜ見直せない「新国立」 2015年7月6日 毎日新聞社説 2015年7月9日)

IOC関係者は、一貫して、新国立競技場の建設計画見直しについて、「否定的」なコメントを出した経緯は一切ない。
 しかし、日本では、安倍首相、下村文科相、森組織委員会会長、日本スポーツ振興センター(JSC)、すべて口を合わせて、“国際公約”を盾に、変更はしないで当初計画通り建設することを主張していた。
  新国立競技場の建設計画変更は、ザハ・ハディド氏デザインを高らかに歌い上げた日本の東京五輪関係者の“顔がつぶれる”ということで、“国際公約”を持ち出したという疑念が拭えない。
 ようするに招致演説で新国立競技場の建設を“約束”した安倍首相の“顔をつぶさない”ということではないかという印象を持つ。

 日本は「2020年東京五輪」を招致するにあたって、新国立競技場について何を“公約”したのか、本当に誘致に成功した「大きな原動力のひとつ」だったのか、検証する。


招致演説で何を訴えたのか?
 2013年9月、アルゼンチンのブエノスアイレスで開かれた国際オリンピック委員会総会、7日は、2020年夏季五輪開催地決定の投票だった。立候補していたのは、スペインのマドリード、トルコのイスタンブール、そして2回目の開催を狙う東京。どこの都市が選ばれてもおかしくない紙一重の激しい“競争”だった。投票の直前まで招致活動が繰り広げられていた。
 投票直前に行われた最後の招致演説は、冒頭に、高円宮妃久子さまが東日本大震災の復興支援にフランス語も交えて感謝の言葉述べられた上で、佐藤真海氏(パラリンピック 走り幅跳び)、太田雄貴氏(フェンシング)など現役アスリート、滝川クリステル氏(フリーアナウンサー)、安倍晋三首相、猪瀬 直樹東京都知事、竹田 恆和氏(招致委員会理事長)、水野 正人(招致委員会副理事長)がスピーチを行った。
 第一回目の投票では、東京が46票、イスタンブールが26票、マドリードが26票、決選投票に進む2位を決める投票で、イスタンブールが勝ち、東京とイスタンブールの間で決選投票が行われた。結果、東京が60票、イスタンブールが36票、2020年夏季五輪開催地は「大差」で東京に決まった。
 事前の予想では、東京は決して優位ではなかった中で、“劇的”な勝利だった。
 
 安倍首相は招致演説で、「他のどんな競技場とも似ていない真新しいスタジアムから、確かな財政措置に至るまで、2020年東京大会は、その確実な実行が確証されたものとなります。」と述べている。
 新国立競技場の建設は、2020年東京オリンピック・パラリンピック招致の“切り札”になっていたと関係者は言うが、招致演説の内容で見る限り、新国立競技場に触れたのは、安倍首相のこの部分だけである。
 投票直前に行われた最後の招致演説は、登壇者の選択やスピーチの内容が素晴らしく、大成功で、各国のIOC委員に“東京”をアピールするのに大いに効果的だったと言われている。
 しかし、この招致演説で、印象的だったのは、新国立競技場ではなかったのではないかと思う。招致演説で印象的だったのは、スポーツを愛する“日本人”だったり、「おもてなし」だったり、パラリンピックの出場者の情熱だったり、東日本大震災からの復興なのではないか。新国立競技場の建設が印象的だったと報道は何もない。想像ではあるが、各国のIOC委員の印象も同様だったのではないか? つまり新国立競技場は、「2020年東京大会」招致の“切り札”でもなんでもなかったのではないか?


安倍首相は知らなかった ザハ・ハディド当初案は“実現不可能”
 2015年8月19日、第三者委員会の第二回会合に提出された資料によると、設計会社JVは、ザハ・ハディド氏のデザインを“忠実に” 再現し、かつ各競技団体の要望を全て盛り込むと、総工費「3535億円」に膨らむという試算結果を、2013年7月30日に、日本スポーツ振興センター(JSC)に報告をしていたことが明らかになった。「本体工事」は「3092億円」、「周辺整備」は「370億円」、「解体費」は「73億円」、試算条件は2013年7月単価、消費税5%である。
ザハ・ハディド案のデザインが採用された時の概算経費、「1300億円」の2倍以上に膨れ上がった額である。

 日本スポーツ振興センター(JSC)からこの報告を受けた文科省は、大幅なコスト削減の指示、日本スポーツ振興センター(JSC)は、8月20日、延べ床面積を29万平方メートルから22万平方メートルに減らすなど「1358~3535億円」の複数の縮小案を報告していた。
 この時点で、文科省や日本スポーツ振興センター(JSC)など関係者は、ザハ・ハディド氏の当初デザイン案は、ほぼ“実現”不可能と認識していたと思われる。しかし、すでに招致ファイルにはザハ・ハディド氏の当初デザイン案が掲載され、新国立競技場の建設をアピールして、東京五輪の招致運動がラストスパートしていた中で、“起動修正”をためらい、本腰で乗り出すことはなかった。
 しかし、事実上“実現不可能”、“粉飾”された建設計画だった。

 一方、文科省は、この事態を把握しながら、安倍首相や下村文科相には報告せず、2013年9月7日、安倍晋三首相は、国際オリンピック委員会(IOC)総会で、ザハ・ハディド氏のデザインによる当初案で招致演説をしていたことが明らかになった。
(朝日新聞 2015年8月21日)
 ザハ・ハディド氏の当初案の“実現可能性”がほとんどないという認識にありながら、当初案で、“国際公約”をしていたとすれば、なんとも“お粗末”で“無責任”な対応と批判されても当然である。

いずれにしても、2015年9月7日には、アルゼンチンのブエノスアイレスで開かれた国際オリンピック委員会IOC総会では、ザハ・ハディド氏のデザイン案の新国立競技場建設計画のままで、安倍総理の招致演説が行われることになる。そして、2020年東京オリンピック・パラリンピック招致に成功した。


「2020年東京大会」の招致ファイルから見る“公約”は“レガシー”(未来への遺産)と“コンパクト”
 一方、東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会が行ってきた招致活動ではどうなっていたのだろうか?
2013年1月7日、東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会は、14項目から成る「TOKYO2020立候補ファイル」を国際オリンピック委員会(IOC)本部(ローザンヌ)へ提出した。
「立候補ファイル」は、“東京”が2020年夏季五輪開催都市に立候補する際の「公約」である。
最初に、「2020年東京大会」開催趣旨について以下のように記述している。
「1964年大会が日本国内及び世界中に力強い感銘を与えてから約50年が経過した。世界の最先端をいくこの都市は、オリンピックに更なる価値をもたらし強化する新たな基盤を世界規模で作り出すことになる。2020年東京大会は、急速に変化する新しい世界に生きる若い世代をスポーツやオリンピックに結び付け、次世代への長期にわたる資産を創造することになる。」
「2020年東京大会」をIOCが推進している“レガシー”(未来への遺産)にするという宣言である。
“レガシー”(未来への遺産)というキーワードは招致ファイルの中に頻繁に登場する。
そして、「都市の中心で開催するコンパクトな大会」も強調している。
「私たちの大会コンセプトは、大都市の中心でかつてないほどコンパクトな大会を開催し、スポーツと感動の中心にアスリートを据えることである。
 2020年東京大会は、成熟し今なお進化を続ける大都市の中心で開催される。東京が掲げるコンパクトな大会により、私たちは過去からの資産を大切にしながら明日に向かって進んでいく都市の姿を世界に伝えていく。
コンパクトをコンセプトとして掲げる2020年東京大会では、アスリートと観客の双方にとっての利便性を考慮し、下記により競技会場やインフラ設備を配置する。」
 「コンパクト」も「2020年東京大会」開催に係る“キーワード”で招致ファイルの中で登場する。「コンパクト」な大会を目指す、「2020年東京大会」を立候補するにあたって“公約”だ。
「2020年東京大会」のキーワードは、「コンパクト」と「レガシー」、このキーワードは、世界に対する“公約”であると共に、国民に対する“公約”である。

 続いて、競技会場やインフラなどの整備についての考え方を次のように記述している。


「物理的レガシー: 東京の新しい中心の再活性化」

(出典 「TOKYO2020立候補ファイル」 2013年1月7日)

 「東京の新しい長期計画と完全に一致して、2020年東京大会は東京に有益な物理的レガシーを残す。
 2020年東京大会は、新設または改修された競技やエンターテイメントのための会場や施設、新たな緑地を地域にとって重要なポジティブなレガシーとして提供する。それらのレガシーには次のものが含まれる。

・ 2020年東京大会に向けて国立霞ヶ丘競技場、海の森水上競技場、夢の島ユース・プラザ・アリーナA及びB、オリンピックアクアティクスセンターなど、11の恒久会場が整備される。
・ 国立代々木競技場、東京体育館、日本武道館など、1964年オリンピック大会時の施設を含む15の主要コミュニティ・スポーツ施設が改修される。」
(中略)
・ 東京圏にある33競技会場のうち28会場、全てのIOCホテル及びIPCホテルが選手村から半径8km圏内に存在する、コンパクトな大会を開催する。
・ 過去の遺産を守りながら未来へのビジョンを示すため、競技会場を、運営・テーマにより2つのゾーンに分ける。一つは1964年東京大会のレガシーが集積するヘリテッジゾーン、もう一つは未来に向けて発展する東京の姿を象徴する東京ベイゾーンである。

 2020年東京大会のオリンピックスタジアムが位置するヘリテッジゾーンは、1964年大会のオリンピック・レガシーを今に語り継ぐ場所である。1964年東京大会のために建設された主要会場を、2020年東京大会で使用することは、次の世代へのオリンピックの新たなレガシーを創造し、継承していく精神を示すこととなる。
オリンピックスタジアムとなるのは、国立霞ヶ丘競技場である。国立霞ヶ丘競技場は、1964年大会のオリンピックスタジアムであり、テストイベントが行われる2019年までに最新鋭の競技場に生まれ変わる予定である。2020年東京大会では、8万人収容のオリンピックスタジアムとして、開・閉会式、陸上競技、サッカー、ラグビーの会場となる。
ヘリテッジゾーンには、同じく1964年大会の会場となった国立代々木競技場、東京体育館及び日本武道館を含め、計7つの競技会場が位置する。」

 東京ベイゾーンは、東京湾の臨海部に位置している。水と緑、生物多様性の拠点として開発される予定の場所であり、東京の未来への発展を力強く感じさせるゾーンである。東京ベイゾーンには、計30の競技が行われる21の競技会場があるほか、IBC/MPCが設置される。そのIBC/MPCは、日本最大の国際会議・展示施設である東京ビッグサイトに置かれる。なお、主要なメディアホテルおよび7つの競技会場がIBC/MPCから徒歩可能な範囲内にあり、東京圏にある全33会場中残りの21会場は半径10km圏内に位置する。」

 ここでも、「コンパクト」、「レガシー」(未来への遺産)のキーワードがしっかり記述されている。
新国立競技場については、「2019年までに最新鋭の競技場に生まれ変わる予定である。2020年東京大会では、8万人収容のオリンピックスタジアムとして、開・閉会式、陸上競技、サッカー、ラグビーの会場となる。」という記述しかない。
 「2020年東京大会」で、IOCや各国に強調したポイントは、「東京圏にある33競技会場のうち28会場、全てのIOCホテル及びIPCホテルが選手村から半径8km圏内に存在する、コンパクトな大会」であり、新国立競技場ではない。
 もっともこの“公約”、「半径8km以内」は、“経費節減”で競技場の新建設を相次いで中止し、既存の施設に振り替えるという計画の見直しで、事実上破たんしているのは承知の通りだ。 明確な“公約違反”であろう。
 建設中止の競技場は、夢の島ユースプラザ・アリーナA(バトミントン)、夢の島ユースプラザ・アリーナB(バスケット)、若洲オリンピックマリーナ(セーリング)、ウォーターポロアリーナ(水球)(新木場・夢の島エリア)の4か所である。
バトミントンは、武蔵野森総合スポーツ施設(東京都調布市)、バスケットはさいたまスーパーアリーナ(さいたま市)、セーリングは江の島ヨットハーバー(藤沢市)、水球は東京辰巳国際水泳場に会場変更することが決まった。
東京ビッグサイト・ホールA (レスリング)と東京ビッグサイト・ホールB (フェンシング・テコンドー)は幕張メッセ(千葉市)となり、幕張メッセでは、レスリングとフェンシング、テコンドーの3つの競技の会場となった。
 また馬術は、障害馬術、馬場馬術、総合馬術は馬事公苑に変更した。
 自転車については、トラックの競技を伊豆に変更する方向検討中である。
 しかし、IOCはこの“見直し”について、「コンパクトな大会を目指す」という趣旨を理解し、基本的に了承しているのである。

 続いて、「会場の概要」では、ザハ・ハディド氏のデザイン(国際デザイン・コンクールで採用された案)の新国立競技場の完成予想図を掲載すると共に、次のように記述している。



(出典 「TOKYO2020立候補ファイル」 2013年1月7日)

「会場の概要」
(出典 「TOKYO2020立候補ファイル」 2013年1月7日)

 「東京は大会のコンセプトである「コンパクト」に沿ってその過去と未来が独特な形で融合され、過去の遺産を守りながら、未来に向かって「未来をつかむ(Discover Tomorrow)」ことができる都市であることを世界に示している。会場は1964年東京大会のレガシーが残るヘリテッジゾーンと、未来の都市開発モデルである東京ベイゾーンという2つのテーマ及び運営ゾーンに位置する。東京圏にある33の競技会場のうち28会場は選手村から半径8km圏内にあり、選手のことを最優先に考えた、極めてコンパクトな配置となっている。
 計画されている37の競技会場のうち15会場(41%)は既存のものであり、その中の2会場は2020年大会のために恒久的な改修が必要となる。既存会場のうち3会場は1964年大会の時に整備されたものであり、当時水泳とバスケットボールの会場だった国立代々木競技場は2020年ではハンドボールの会場に、体操や水球が行われた東京体育館は卓球の会場、日本武道館は1964年と同様2020年も柔道の会場として利用される。
 2020年大会に向けて建設が予定されている競技会場は、総競技会場数のうち22会場(59%)であり、そのうちの11会場は東京のレガシーとして残す計画である。こうした恒久施設のうち、1964年のオリンピックスタジアムであった国立霞ヶ丘競技場は、テストイベントが行われる2019年までの完成を予定しており、2020年大会では開・閉会式、陸上競技、サッカー及びラグビーの会場となる。武蔵野の森総合スポーツ施設は、東京西部の多摩地域に2016年の完成を目指しており、2020年大会では近代五種が行われる予定である。
会場の選定、建設状況及び立地は、東京の中長期計画「2020年の東京」を中心に、社会、開発、持続可能性に関わる東京都の計画に合わせるとともに、2020年東京大会を選手重視のコンパクトな大会にすることを目指す。」



(出典 「TOKYO2020立候補ファイル」 2013年1月7日)

 新国立競技場については、テストイベントが開催される2019年までに完成させることや、収容人数を「8万人」し、「開・閉会式、陸上競技、サッカー、ラグビーの会場」とする以外に記述はない。完成予想図を見れば、“屋根付き”であることは分かるが、“屋根付き”のスタジアムであることをアピールしている形跡は一切ない。屋根付き”かどうかにこだわるのは、専ら“日本”の“事情”なのである。“公約”も何もしていないのである。IOCも、“斬新なデザインで、”“屋根付き”の現行案は“前向きに”評価しながらも、変更するかどうかは、デザインの問題であるとして、主催国が決める案件で、特に問題ではないとしているのである。
 「2020年東京大会」を支持した各国IOC委員にヒアリングをしてみたらどうか? 筆者の予想だが、「新国立競技場を“屋根付き”にするかどうか、開催国で決めれば良い。“屋根なし”にしたところで、“公約違反”でもなんでもない」と全員が答えるだろう。
 
 “国際公約”を理由に、「2520億円」の新国立競技場にこだわる根拠はなにもない。


IOCバッハ会長 “見直し”に理解 「デザインは問題ではない」
 7月18日、国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長は英国セントアンドルーズで「IOCの関心は競技場のデザインではなく、機能的な競技場が準備されるかだ。見直しで最新鋭の競技場が妥当な金額で造られることになると思う」と述べ、見直しに理解を示した。
 バッハ会長が主導して昨年末にまとめた中長期の五輪改革プラン「アジェンダ2020」では、五輪のコスト削減や既存施設の利用を掲げる。
バッハ会長は、横浜国際総合競技場など別施設の利用を否定した上で「新国立競技場を造ることは日本政府が決めたこと。この見直しによるコストカットは、アジェンダ2020に合致する」と話した。

(要約 朝日新聞 2015年7月18日)




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新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(4) 検証新デザイン 維持管理費・長期修繕費 ライフサイクルコストはどうなる?
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新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(6) 陸上競技の“聖地”は無残にも消えた 新国立競技場はサッカーやラグビーの球技専用スタジアムに





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国際メディアサービスシステム研究所 International Media Service System Research Institute(IMSSR)






2015年7月12日
Copyright (C) 2015 IMSSR



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廣谷  徹
Toru Hiroya
国際メディアサービスシステム研究所
代表
International Media Service System Research Institute
(IMSSR)
President
E-mail thiroya@r03.itscom.net  /  imssr@a09.itscom.net
URL http://blog.goo.ne.jp/imssr_media_2015
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