一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

女流名人位戦五番勝負を振り返る(前編)

2013-03-14 00:22:13 | 女流棋戦
13日放送の「相棒・BIRTHDAY」は、始めから終わりまで見所満載。今シリーズの最高傑作だった。脚本は古沢(こさわ)良太。古沢良太は寡作ながら、毎回佳品を書く。なお冒頭に現れた謎の少女は、矢内理絵子女流四段にちょっと似ていた。余談ながら、3月13日の誕生日といえば、大山康晴十五世名人。

女流名人位戦予選はリーグ入りの決勝戦が行われているが、今回は前期女流名人位戦五番勝負を振り返ってみる。
里見香奈女流名人に挑戦するのは上田初美女王。昨年12月3日に行われたプレーオフで清水市代女流六段を破って得たもので、清水戦の対戦成績は1勝13敗と惨憺たるものだったから、この勝利は大きかった。
とはいえ里見女流名人と上田女王の対戦成績は上田女王の0勝5敗。上田女王にはたいへん失礼ながら、1番でも入れば上等だと思った。

第1局は1月14日に行われた。戦型は相振り飛車。どちらも指し慣れた形で、後手番の上田は臆することなく、しっかり指す。
67手目▲6六同飛△5五角に、▲5六飛がどうだったか。ここは▲6三銀△同金▲6一角△同玉▲6三飛成と迫りたいところで、里見も当然この変化を掘り下げたはず。そしてその変化も先手が有望だったから、これを里見が見送った意味がよく分からなかった。
ハイライトは92手目。上田が△4九飛成と王手を掛けたのだが、これが逸機。△5六銀と迫るべきだった。感想戦では、上田はこの手が「見えなかった」そうなので、そこを突っ込んでも詮無いが、もしふたりの対戦成績が上田の勝ち越しだったら――。あるいはこれが、アマチュア相手の指導対局だったら、「将棋とはこう指すものです」とばかり、落ち着いた手つきで△5六銀を着手したのではなかろうか。
以下は里見の勝ち。里見相手に勝ち将棋を落としたのは痛い。残り4局で上田が3勝するとは思えず、早くも里見の防衛が濃厚になったのである。

第2局はその6日後の1月20日に行われた。先番上田の居飛車宣言に、後手番里見は阪田流向かい飛車の趣向に出た。
どちらも手順を尽くし、見応えのある攻防が展開される。形勢の針も微妙に揺れ、どちらも決定的な差はつけられない。しかし△3四歩と馬取りに打った手に、▲4五飛がサーカスのような攻防手。数手後△8九飛成に▲7一銀からの殺到も、「終盤は駒の損得より速度」「風邪を引いても後手引くな」を地で行く勝負手で、ここで上田がよくなったらしい。
以下の応酬も見応え十分なのだが、最後に軍配が上がったのは上田だった。
こういうゴチャゴチャした戦いで勝利をもぎ取ったのは大きい。上田は五番勝負の1、2局を終え、「里見さん相手でも互角以上に戦える」と手応えを感じたのではなかろうか。

第3局はその2週間後、2月3日に行われた。先番里見の石田流三間飛車に、上田は左美濃に囲う。里見も銀冠を構築し、じっくりした戦いになった。
71手目▲6二歩の垂らしに、上田が△5二銀と引いた手が不可解。以下▲6一歩成△同銀となり、上田の銀はたった1歩で、一段目まで引かされてしまった。こんな利かされはないだろう。私なら負けても指せないところである。
△5二銀では、女らしく△7六歩と突きだしてみたかった。こうやってケンカするのが、女流将棋ではなかろうか。
92手目△2三歩に、▲3三角成が強手。もちろん寄せの成算があってのことだろうが、私には雑な寄せ方にも見えた。しかしその後の里見の指し回しは見事。
上田は後がなくなり、次の第4局で里見がスッキリ決めると思った。
ところが――。
(つづく)
コメント (4)
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