一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

大和証券杯女流最強戦決勝戦を見に行く(後編)

2013-03-19 00:43:48 | 女流棋戦
しかしほどなくすると、前方のスクリーンで、指し手が再開された。時間切れかと思われたそれは、何かのタイムラグだったらしく、要するに「セーフ」だったようだ。まあネット将棋だからこうしたトラブルはつきものとはいえ、味が悪いことは確かだ。
両者秒読みだから指し手がポンポン進む。▲3三歩△同桂▲同桂成。ところが今度は中井広恵女流六段が次の手を指さず?時間切れになった。
ここは誰がどう見ても△3三同玉の一手。そこを時間切れはあり得ないから、これも何かのトラブルだろう。解説の森内俊之名人も、
「ここで投了することはないと思います」
と断言する。と、会場内に微苦笑が起こった。
ほどなくして関係者から、回線が切れたことによる中断と発表された。現在復旧作業の最中だという。スクリーンからも、盤面が消えてしまった。
対局者は25階で対局しているそうだが、緊張の糸は切れていないか。否、対局者はこの時間を活用して、フルに読みを入れているのだろう。もっとも横のFuj氏は、この中断は先手が有利だ、と不服そうだ。
さて△3三同玉は絶対として、その次の手は何か。私は▲8七桂を考える。△5五飛▲同飛△同銀▲5四飛はどうか。
そんなことをFuj氏に言うと、それだと▲8七桂が遊び駒になる、と一笑に付された。なおも彼の講釈が続くが、面倒なので相手にしない。
約5分の中断のあと、対局が再開された…らしい。というのは、前方のスクリーンに何も映っていないからだ。そこで関係者氏が口頭で指し手を伝える。何とも古典的な伝達手段になってしまった。
上田初美女王の指し手は▲7一角成。さすがに▲8七桂はなかったか。
しかしまだスクリーンは黙ったままだ。私はスマホで指し手を確認すると、一手進んでいた。現地で大盤解説を聞いているのに、外部からの情報のほうが早いとは皮肉だ。
ここでようやくスクリーンの盤面も復旧する。
「野球でも何でも、こういう中断で流れが変わることはあるんですよ」
と、森内名人。
上田▲6七桂。飛車銀両取りだが、森内名人が首を傾げる。中井はそれを尻目に△3六歩。▲同銀に△4六銀と猛烈な追い込みだ。
中井、飛車を取って△5八飛の王手。上田、▲3八歩。中井は△5四桂から△4六金と、シャニムニ攻める。数手後、あれほど堅かった先手玉が、竜一枚の守りになってしまった。しかし先手玉が「スッキリして」(森内名人)、綾がなくなった意味もある。
中井△1九竜に、上田▲1八金。中井は△3七歩と竜頭に叩く。ここは△3七金、がFuj氏の主張だったが、どれが最善手か分からない。
しかし▲5八竜△2九竜に、▲2六桂と詰めろ逃れに打った手が好手。これで大勢が決したようだ。
最後は、遊び気味だった▲9六角を鮮やかに捨て、▲3四桂に中井が投了。ここに上田の女流最強戦初優勝が決まった。
ふたりの対戦でこの戦型は初、先手が勝ったのも初、上田の同棋戦優勝も初と、「初ものづくし」(聞き手・矢内理絵子女流四段)の終局だった。
しばらく経って対局者が入場し、ここでようやく、生の対局者を見ることができた。
上田女王はスッキリして、実にいい表情。いまや風格さえ感じられる。
中井女流六段を拝見するのは今年2度目。いつもは朗らかな笑顔だが、激戦の直後だからか、さすがに疲労の色が濃かった。しかしマニアには、そこが堪らないのである。
大盤での感想戦になり、森内名人が、「△5九飛成のところあたりを…」と言うと、駒操作のふたりがパッパッ戻す。矢内女流四段が、「(PCみたいに)すぐに戻るんですね…」と感心しながらつぶやく。ドッと湧く会場内。
ふたりの率直な感想が述べられる。
中井女流六段は、△5九飛成を悔やんだ。
また上田女王は、序盤からうまく指していたのに、終盤に追い上げられて、イヤな気持ちがしたそうだ。このあたりを矢内女流四段は、「上田さん以外の女流棋士だったら、負けていた」と言った。
余談ながら中断の局面、中井女流六段は、▲7一角成で▲8七桂を気にしていたようだ。そのあとの変化は私の読みとは違ったが、Fuj氏も若干、私を見直したのではなかろうか。
時刻は午後3時を過ぎ、ここで表彰式になった。谷川浩司日本将棋連盟会長が、賞状を授与。さらに賞金や優勝カップが渡された。LPSAの1dayトーナメントで何度も見た光景だが、やはり感動的である。
その上田女王が喜びの言葉を述べる。だいぶ場慣れしており、そのスピーチはなめらかだ。棋戦主催者・大和証券への謝意、女流棋士としていま自分がなすべきことをとうとうと述べた。「女王」の大タイトルを2期保持しながら「棋戦初優勝」を強調するあたり、主催者への配慮が感じられた。最後に観客から、大きな拍手。
解説会は生の迫力が感じられ、自宅でPCを見るより、はるかに将棋に没入できる。やはりライブはおもしろいと思った。
このあとは下の17階で、森内名人、矢内女流四段らの指導対局がある。対局者は、大和証券の顧客で、一定の条件をクリアした方々らしい。ただし井道千尋女流初段のみ、私たち一般客から選ばれる。
前方左の演台で、綺麗な司会者がクジを引く。幸運な対局者は5人だ。何人か不在者が出たが、4人まで決まってしまった。
5人目…またも不在。「皆さん助かりましたネ」と司会者が言う。しかし今度こそラストチャンスだろう。彼女が引く。「ハチジュウ…」。私の番号は「88」だ。
「ロク!」
ズコッ!! かわいい男の子が、跳ねながら最後のカードを持って行った。
Fuj氏は「87」。入場が数十秒早かったら、どちらかが井道女流初段に指導を受けられたかもしれないが、まあ、私たちより彼が対局を受けたほうがいい。
森内名人らの指導対局は見学可能。しかし見てもしょうがないので、私はFuj氏とともに、大和証券本店を後にした。
コメント (2)
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