一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

大和証券杯女流最強戦決勝戦を見に行く(前編)

2013-03-18 00:14:02 | 女流棋戦
第6回大和証券杯女流最強戦の決勝戦は、上田初美女王と中井広恵女流六段の組み合わせになった。決勝戦は大和証券本店で行われるが、「女流棋士ファンランキング」の第1位が登場とあっては、観戦に行かない手はないと思った。
ネットで申し込みをすると、運よく当選。現地で応援できることになった。
17日(日)、自宅でNHK杯将棋トーナメントの決勝戦を見たあと、最寄駅から山手線に乗る。大和証券本店は、JR東京駅から徒歩1分の「グラントウキョウノースタワー」にある。そこの18階が解説会場である。
丸の内北口に出るが、そのビルが見当たらない。怪訝に思い道路の案内板を見たら、ビルは八重洲口だった。住所は「丸の内」、ビル名が「ノースタワー」なので、「丸の内北口」と勝手に思い込んでいたのだ。
地下道を渡り八重洲北口に出てうろうろしていると、「Ohsawaさん」と声を掛けられた。Fuj氏だった。ここでFuj氏に会うとは何たる奇偶か。彼と同席になったら、横でボソボソ話しかけられてうるさくなるのだろうが、これも運命だと思って諦めるしかない。
エレベーターで17階まで昇りフロアに出ると、上りエスカレーターの横で、社員の方々がうやうやしく頭を下げる。さすが大和証券、教育が行き届いている。
18階に上がり、カウンターで受付を済ませ、入館証を借りる。何か券を配っていたのでもらうと、井道千尋女流初段との指導対局の抽選券だった。この決勝戦のあと、イベントとして行われるらしい。私の番号は「88」だった。
解説会場に入ると、すでに多くの人が着席していた。その数200人前後か。
手前の壁には大判のトーナメント表が掲げられている。前方正面には大盤、その左右に大型スクリーンが設えられている。正面の席はほぼ埋まっていた。次善の席は、「イメージ的」には向かって左側で、私はそちらに向かった。
その最後列に、石橋幸緒女流四段の姿があった。きょうは代表理事の仕事で来ているのだろう。準決勝の上田女王戦に勝っていれば、この決勝戦では対局者の立場として来ていたわけで、ここが勝負の世界の厳しさである。
私は前から4列目の席に座る。しかしその瞬間、すごくイヤな予感がした。この位置からでは大盤がかなり見えにくく、まあそれはいいのだが、ここからでは聞き手の女流棋士のお顔が見えないのではないか?
私の左にはFuj氏が座った。私は前日に指した植山悦行七段との指導対局の一場面を見せる。どうも、私まで将棋オタクに思われるがやむを得ない。
午後12時40分、いよいよ開演。まずは谷川浩司日本将棋連盟会長の挨拶である。
「きょうはNHK杯を観るのを中断して、こちらに来られた方も多いのではないでしょうか…」
すべてを見終えてから余裕で来た私は、恵まれているのだろう。
谷川会長の挨拶は流暢で、すっかり板についている感じだった。続いて大和証券関係者の挨拶。さらに本日解説の森内俊之名人、聞き手の矢内理絵子女流四段が紹介された。矢内女流四段はさっきまでテレビで鑑賞していたから、ハッキリと既視感がある。リアルやうたんは、いちだんと綺麗だった。
上田×中井の対戦成績は中井の4勝3敗。そのすべてが上田の四間飛車穴熊に、中井の左美濃だったらしい。驚くべきは先後の成績で、矢内女流四段が息を飲みながら言うには、後手番の7戦全勝とのこと。ということは、本局は振り駒勝負か。
しかし対局前に、対局者の挨拶はないようだった。これはちょっと味気ない。
対局開始の1時を待ち、スクリーンに盤面が映しだされる。もう対局は始まっていて、上田の先手で、3手目▲5六歩が指されたところだった。
森内名人は大盤の向かって右、矢内女流四段は向かって左に位置する。やはり恐れていた事態になった。私の位置からでは、彼女の後頭部しか見えない。ここは矢内女流四段を鑑賞しながら将棋も堪能するのがスジであって、それが叶わないとなれば、解説会場に来た意味もない。森内名人の顔を見てもしょうがない。
もっとも左のFuj氏は純粋に将棋を楽しみに来ているので、前のスクリーンが見えれば何の不満もないのだろう。つくづく幸せな男だ。
戦型は上田の5筋位取り中飛車に、中井の△6三銀型舟囲いとなった。中井は先日の女流名人位戦予選で室田伊緒女流初段と対局したが、そのときも▲室田女流初段の中飛車に、同じ囲いを用いている。本局はそのときの経験を活かそうというものであろう。
森内名人が矢内女流四段に、対局者の棋風を聞く。いわく、上田は「終盤が強い」、中井は「序盤が巧い」とのことだった。
今度は矢内女流四段が森内名人に、最近の女流将棋を聞く。いわく、昔の女流棋士は、得意戦法に磨きをかけるタイプが多く、棋譜を見れば、誰が指しているか分かった。しかし最近では、最新形を深く研究している女流棋士が多く、盤面を見ただけでは、男性タイトル戦と違いが分からない、とのことだった。
さすがに森内名人、マジメな顔で女流棋士を持ち上げるのであった。
上田は▲4五歩と突き△3三銀と追い返し、数手後▲4六銀左と構える。素人目には上田好調に見える。しかし苦しい場面で好手をひねり出すのも強者だ。
中井△8五歩。森内名人の解説では、次に△8六歩▲同歩△6五桂▲8八角△8七歩▲6六角△7九飛成の狙いがある。
それを受けて私は▲5九飛とつぶやく。と、矢内女流四段も▲5九飛を提案し、森内名人にホメられていた。私はちょっと鼻が高い。
Fuj氏は▲5六飛を示す。果たして指し手は▲5六飛。森内名人も絶賛し、結果的にFuj氏のほうが、鼻が高くなった。
上田53手目、金底に▲7九歩と打ち、会場がどよめいた。大山康晴十五世名人を思わせる先受けの歩だ。
矢内「気持ちが伝わってくる気がしますね。負けないぞっていう感じの…」
森内「そうですね」
それがおざなりのニュアンスがあったので、場内が苦笑いに包まれた。
中井は秒読みに入った。秒読みはピコンピコン鳴る。私はPCから聞いたことはないのだが、対局者からするとイヤな音(に聞こえる)らしい。
上田、3五の地点で角銀交換の駒得に成功した。これはハッキリ先手優勢になった。しかし上田も秒読みに入る。ネット上の将棋では、対面将棋にはないクリックミスがある。勝負は文字通り、下駄を履くまで分からないのだ。
上田、▲9六角。と、スクリーンに「Delay」の文字が映る。
「切れた!!」
とFuj氏が叫ぶ。
時間切れ!? 上田の指し手が間に合わなかったのだろうか!?
(つづく)
コメント (3)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする